【vol.17】第Ⅳ段階 イエナ・特認校の導入(2018年3月26日~2019年2月13日)
◆第Ⅳ段階の概要
今回は、2018年3月26日から2019年2月13日までの約11か月の期間を扱います。(期間の区切りについては【vol.13】で説明しています。)
第Ⅳ段階の重要な変化は、学校再編が「既定路線」であり「進めなければいけないもの」とされたことです。その根拠として「主体的・対話的な深い学び」が教育理念として挙げられ、「そのような教育を行うためには、一定の集団規模の生徒数が絶対条件だ」という論理が主張されていきます。
さらに、第Ⅳ段階では新たな施策も打ち出されます。その1つが「『関係人口』創出事業」であり、この事業の導入によって第Ⅲ段階で持ち込まれた「学校と地域は関係ない」という論理が具現化されていきます。また、第Ⅳ段階では「学校と地域は関係ない」という論理が、学校再編を推進するためだけに用いられた論理であるということもこの段階でわかります。
そして、第Ⅳ段階の終盤では、多様な学習環境の確保を目的とした「イエナプラン教育校」と不登校児童生徒の対応を目的とした「特認校」の設置という新しい計画も策定されていきます。
◆第Ⅳ段階の分析資料一覧
本段階の分析に用いた資料の一覧は、次の表の通りです。
◆行政の論理 ①人口減少
まずは、行政側の資料から、各論点に関わる論理を時系列順に抽出します。
(A)は、第Ⅳ段階で新たに導入された「関係人口」創出事業の概要説明の記述です。この事業は、福山市企画政策部地域活性化担当課が主となる取り組みであり、分析資料も「地域活性化担当」が作成したものです。ここで導入された「関係人口」創出事業では、人口減少に対して「新たな切り口で地域づくりを提案・実施できる外部人材と福山市立大学が連携した地域活性化策に取り組む(A)」ものだとしています。この説明から、市はこれまで地域で行われてきた取り組みではなく、あくまで「新しい切り口」として地域活性化に取り組むという姿勢であることがわかります。さらに、地域住民ではなく「外部人材」を用いるということも分かります。
ここで問題となるのは、行政の人口減少に対する考え方です。そもそも市は、人口減少については市教委ではなく別部署が考えるとしており、このことから学校教育と人口減少は関係ないとしています。さらに、「地域説明会」における(B,C,D)の発言からは、既存の地域コミュニティでは人口減少に対応できないという市の考えもみられます。つまり、地域では少子化・人口減少を止めることができず、今後も人口が増えることが見込めないため、「『関係人口』創出事業」という新しい取り組みが必要だという考え方です。このような取り組みをしようとする行政の考え方の根底には、第Ⅲ段階で記述した市長の「学校がなくても地域を活性化することはできる。(問題は、)地域に子育てする魅力があるかどうか」という考えや「学校と地域は別である」という考えがあると推察できます。
◆行政の論理 ②学校と地域の関係
第Ⅲ段階で明確にされた「学校と地域は別で考える」という市長の論理を、第Ⅳ段階では市教委が頻繁に明言するようになっていることがわかります。(B,D,E)の発言からは、「学校と地域は別だ」という論理がもともと市長の考えであること、そしてそれが市教委に導入されたものだということが推察できます。このように、市教委が説明会の際に「市長」という言葉を何度も用いていることからは、学校再編の問題は「市長」が前面に立って実施していくものであるという行政の姿勢も窺えます。
この「学校と地域は別だ」という論理のもと、市教委は「地域づくりは別部署が行う」ということを示しました(F,J)。あくまで市教委は教育のことを考える部署であり、教育の観点から学校再編を行いますが、そのあとの地域づくりは市長部局が別に行うという考え方です。そして、この「別部署の行う地域づくり」というものが、先述の「『関係人口』創出事業」でした。つまり、学校再編後の地域づくりについては、コミュニティスクールの導入は視野にあるものの(G)、市教委とは別の部署が「『関係人口』創出事業」という形で実施するため、人口の少ない地域の学校はなくしても良いだろうという考え方です。
先述の通り、「『関係人口』創出事業」は「福山市企画政策部地域活性化担当課」が主として実施する事業です。(A)は2018年3月の「人事異動に関する市長の記者会見」での市長の発言ですが、ここで市長は「地域活性化担当部長」の設置目的を「学校再編後の地域振興に向けた総合調整を行うため」と説明しています。そして市長の発言通り、この事業は内海学区や山野学区等の学校再編対象学区で実施するという形で進められました。このことから、『関係人口』創出事業は明らかに「学校再編を前提としているもの」だといえます。それは、2018年9月の「山野住民と市教委との話し合い」や10月の「(仮称)千年小中一貫校の整備に係る保護者との意見交換会」での、「学校と地域は切り離し、地域活性化は別部署が行う(D,F)」という市の説明からもわかります。
ところが、2018年5月16日(行政の論理 ①人口減少 (A)の発言参照)に実施された「関係人口」創出事業についての住民説明会では、市側から「学校再編後の地域振興」ということは説明されていません。もちろん住民は、3月の市長の人事異動に関する記者会見がこの「関係人口」創出事業についてのものだということも知りません。このように「関係人口」創出事業は、行政の意図する「学校再編後の地域振興」ということは住民に説明されないまま導入されました。そして、その後事業が進む過程においても、学校再編ありきの事業だということは住民に説明されていません。
それでも住民は、行政のこれまでの姿勢から「『関係人口』創出事業」は「学校再編を前提にしているものだ」と危ぶみます。2019年1月24日の「地域活性化部長との話し合い」の場では、「この事業は学校再編を前提としているものなのではないか(K)」と行政に尋ねました。ここでも、地域活性化部長は「『関係人口』創出事業は、学校再編を前提とはしていない(K)」と住民に強く答えています。
また市教委は、再編した後にできる学校では「地域と協働した学校づくりを行う」という考えを示しています(G)。この考えは、「学校と地域は関係がある」という前提があるからこそ出てくる考えです。つまり市教委は、「学校と地域は関係がある」ということは当然わかっているものの、学校再編をするにあたっては関係を無いものとみなし、それを住民に強要していることがわかります。このことから、市教委が学校再編を住民に説明する際に用いる前提と、再編後の学校づくりを説明する際に用いる前提が矛盾していることがわかります。
「②学校と地域」の分析から、第Ⅳ段階では「地域活性化担当部長」の設置によって市長の「学校と地域は別だ」という考えが具現化され、「学校再編は既定路線」という市の考えが住民には知らされないまま施策が進められたことがわかりました。このような市の考えは、次の第Ⅴ段階でさらにはっきりしていきます。
◆行政の論理 ③教育理念
第Ⅲ段階で教育理念として挙げられていた「課題発見力・解決力・忍耐力・コミュニケーション能力」などは、第Ⅳ段階では主張されていません。その代わり、第Ⅳ段階では「切磋琢磨」「競争」「ぶつかり合い」などの言葉が頻繁に教育理念として挙げられています(A,C)。
また、2018年10月18日での「説明会・意見交換会」では、市教委の説明の中に「主体的・対話的で深い学び」という言葉が出てきます(B)。この「主体的・対話的で深い学び」という言葉は、2017年度に告示された「新学習指導要領」の中で「生きる力」を身に付けさせるための授業改善の視点として掲げられた、いわゆる「アクティブ・ラーニング」を表す言葉です。そのため、この「主体的・対話的な深い学び」は、決して「切磋琢磨」や「競争」という意味を含むものではありません。しかし、「④学校再編の理由」と併せてみると、市教委は「競争」や「ぶつかり合い」と、「主体的・対話的な深い学び」を結びつけて住民に説明しています。
このように市教委は第Ⅳ段階で新たに文科省の新学習指導要領の言葉を自らの教育理念として説明しているということからは、行政の進める学校再編が第Ⅰ・Ⅱ段階で説明されていた教育理念の実現のためではないことを表しているといえます。教育のための学校再編ではないということは、この後の分析や第Ⅴ段階以降で明確になっていきます。
そして何より、第Ⅳ段階の最後には「主体的に学ぶ力の育成」や「子ども主体の学び」の実現の一環として「イエナプラン教育」が導入されます(D)。イエナプラン教育校の創設に関する説明の際には、「知識を活用し、協働して新たな価値を生み出せる」ことが教育理念として挙げられました(E)。この「イエナプラン教育校」の設置と教育理念としての意味は、次回(第Ⅴ段階)で確認します。
◆行政の論理 ④学校再編の理由
第Ⅲ段階で学校再編の理由として挙げられた「教員の確保」については、第Ⅳ段階でも述べられています(D,J)。また、同じく第Ⅲ段階で挙げられた「財政の効率的な利用」という理由も述べられています(D,K)。しかし、第Ⅳ段階では同時に「財政問題は学校再編の理由として挙げていない」とも主張していることが(C)の発言からわかります。このような主張は、2018年12月3日の「意見交換会」の(M)の発言にもみられますが、この意見交換会では同時に「現存の学校を全て建て替えた場合の方が約25億円多く経費が必要(K)」という具体的な数値の提示もされています。このように、市教委の説明の中には学校再編と財政問題を結び付けるような発言もあり、矛盾が生じています。
市教委の発言が矛盾している理由は指摘できません。しかし、市教委が「財政問題」や「公共施設の削減」と「学校再編」の結びつきを次第に否定するようになった理由として、「特認校」と「イエナプラン教育校」の開校計画の策定が考えられます。つまり、これまでの「財政の効率的な使用のための学校再編」「公共施設の適正化のための学校再編」という市教委の説明と新しい学校の設置は矛盾してしまうため、学校再編と「財政問題、公共施設の削減」の関連を否定する必要があったのではないかと推察できます。
ここで、教育的観点の理由を整理します。第Ⅰ段階から理由として挙げられている「子どもの教育のため」ということは、第Ⅳ段階でも述べられています(C,E,F,L)。特に2018年10月18日の「意見交換会」では、「学校再編の第一の目的は、子どもの教育のため(E)」を強調した言い方がされています。
しかし第Ⅳ段階では、これまで述べられていた「目指すべき子どもの教育」の内容に変化がありました。これまで理由として挙げられていた「小中一貫教育の推進のため」という理由は第Ⅳ段階では全く言われなくなり、代わりに(G,I)のように「主体的・対話的で深い学びを目指す授業づくりのため」という理由が新たに述べられています。繰り返しになりますが、この「主体的・対話的な深い学び」という言葉は新学習指導要領で使われている言葉であり、市教委はそれを流用しているにもかかわらず、あたかも「福山市の学校再編の理由」であるかのように住民に説明しています。このことから、そもそもこの学校再編の目的が、計画の策定当初に述べられていた「小中一貫教育の推進のため」ではなく、別のものに切り替わったといえます。
また、これまでも挙げられていた「児童生徒数の減少」という理由は、本段階でも同様に述べられていますが(B)、さらに第Ⅳ段階では「複式学級の解消」が強調されました(A,H)。特に、2018年9月13日では、「複式学級の解消のために、この計画を出している。(A)」という発言がされています。さらに、第Ⅳ段階では、「子どもの数(B)」「一定の集団規模(G,I)」のように「生徒数」を主張し、「主体的・対話的な深い学び」の実現には「一定の集団規模」が必要だと説明しました。しかし、新学習指導要領における「主体的・対話的な深い学び」とはアクティブ・ラーニングを指すものであり、「一定の集団規模」が必ずしも必要であるとはいえません。それでも市教委は、両者を結び付けることにより、学校再編の必要性を訴えています。このような説明の仕方は、第Ⅴ段階以降においてもみられます。
◆行政の論理 ⑤行政の役割
第Ⅲ段階に引き続き、第Ⅳ段階でも「施設管理において、効率的に財政を使うという視点が必要(A)」というように学校再編と財政問題の関係が示されています。しかし、第Ⅳ段階の終盤にかけては、学校再編と財政問題・効率化との関係性は薄れていくことがわかります。そして、市行政から「特認校」や「イエナプラン教育校」の開校計画が打ち出されることにより、その関係は完全に矛盾したものになります。
また、第Ⅳ段階でも「学校再編によって集団を確保した望ましい教育環境を整えることが行政の役割」という論理が主張されていることが、(C)の発言からわかります。しかし、2018年9月13日の「市教委と山野住民との話し合い」では、「小規模特認校として地域に学校を残してほしい。」という住民の要望に対し、市教委は「小規模特認校は全体として考えるものの、再編対象の全ての学校を残すことはできない」と回答しました。つまり、「すべての学校を残すことはできないため、小規模特認校は『個別的』にではなく『全市的』に考える」という考えです。このような市教委の発言からは、「学校再編は福山市全体のものであり、個々の地域を特別扱いすることはできない」という姿勢が読み取れます。
このような「全体」「全市的」といった言葉は、2019年2月13日の「教育委員会会議」でも繰り返し発言されています(D,E)。このような「すべて」という意味の言葉の頻用は、繰り返しですが「特例や個別は認めない」ということです。つまり、市教委は「市教委が良いと思った教育を、すべての学校で行うことが行政の役割だ」という考えを持っていることがわかります。
ところが同じ教育委員会会議の中では、「集団になじむことのできない子どもたちのための教育環境の確保」と「多様な学びの確保」ということが市の役割として新たに述べられました。そしてこれは、広瀬学区に「特認校」、常石学区に「イエナプラン教育校」を開校するという形で具現化されます。注意すべきことは、広瀬学区も常石学区も学校再編の対象学区であることです。そのため、この新しい学校設立の取り組みは、学校再編の対象である地域に新たに学校を設置するという動きであり、これまでの市教委の取り組みや姿勢とは異なるものだといえます。そして、この取り組みは、明らかに「全市的」な取り組みではなく、「個別的」な取り組みであるといえます。それぞれの学校の設置経緯は、別項で確認します。
◆行政の論理 ⑥決定のあり方
第Ⅲ段階では、終盤に市教委の「合意を待たずに進める」という姿勢が見られましたが、第Ⅳ段階ではさらにその姿勢が強硬化していることがわかります。市教委は(C,E)の発言により「住民の不安を解消する」ということを住民に示していますが、同時に「市教委の考えを理解してください(A)」「いつまでもこの状況を長引かせたくない(D)」という発言もみられます。つまり、市教委には「住民の不安を解消するので、まずは学校再編を飲んでほしい」という一方的な姿勢であることがわかります。
さらに「住民の100%の合意はない、最終的に苦渋の選択をしてもらう(B)」という発言もみられることから、計画の策定時の第Ⅰ・Ⅱ段階で見られた「合意形成をする、市の一存では進めない」という市の姿勢は全くなくなり、市教委の強硬姿勢が露呈しているといえます。市教委の強硬的な学校再編の推進の様子から、学校再編は「決まったこと」であり、住民に「理解してもらう」という形の“合意形成”を目指そうとする姿勢が明らかになりました。このことが、かえって住民の不安を大きくすることになります。
◆住民の論理 ①人口減少
次に、住民側の資料から、各観点に関わる論理を時系列順に抽出します。
第Ⅳ段階では、行政が「数が足りないから学校再編する必要がある」と主張しているのに対して、住民は「少子化に合わせて学校再編をするべきではない」という論理を示していることが(a,b)の発言からわかります。この論理は住民の「人口減少するのを止めたい(c)」という考えから生じていると考えられます。つまり、学校再編による若い世代の流出、ひいては地域の衰退を懸念し、少子化を止めるためには地域の学校を残すべきだと主張しています。この論理は、第Ⅰ段階から一貫して主張されています。
◆住民の論理 ②学校と地域の関係
「①人口減少」でみられた「学校再編はさらなる少子化や地域の衰退を招く」という住民の論理が、ここでもみられます。それは、「統廃合すれば地域は廃れる(a)」、「地域コミュニティの衰退を招くことが深く懸念される(f)」などという発言に示されています。さらに、第Ⅳ段階では生徒数を理由に学校再編を進めようとする行政に対して、「子どもの数に合わせて学校を閉じられたら、地域はもたない(e)」という意見も出されました。
このように住民が主張するのは、前提に「地域と学校は切り離せない(e)」という論理があるからです。つまり、「学校と地域には関係があるために、学校がなくなれば地域は衰退する」という論理です。行政が「学校と地域は別だ」と主張することに対しても、同じ論理から「学校があれば地域の活性化を、別々に分けて考えなくてはならないというところが、どうしてもよく分からない(h)」「学校の存続と地域の活性化・衰退は別のことだと言うのは考えられない。無関係だとは考えられない(i)」という意見がみられました。
さらに、第Ⅳ段階では行政の独断で山野学区に「『関係人口』創出事業」が導入されました。この事業は「行政の論理」で示したように、学校再編を前提にしたものだといえます。住民は、はじめはこの事業を受け入れ、実際に進めていました。しかし、次第にこの事業は学校再編後の地域振興を目的としたものであることがわかると、「学校統廃合が前提でこの事業が進んでいくなら手を引かせていただきたい(k)」として、最終的に事業から手を引くことになりました。
◆住民の論理 ③教育理念
再編対象学区の住民は「地域にある小規模校を必要とする子どもたちもいる」ということを市教委に主張しています(a)。これは、第Ⅲ段階以前の「地域の良好な環境で子どもが育っている、小規模校であっても立派な子どもが育つ」という論理を引き継いでいるといえます。
ところが、常石学区のツネイシホールディングス株式会社から出された「提案書」では、「主体的に基礎学力を技術革新や価値創造につなげられる教育(b)」が教育理念として挙げられています。そしてこれは、第Ⅳ段階における市教委の挙げている「教育理念」と同様の内容であるといえます。このことから、市教委と常石学区は「提案書」の提出以前から繋がりがあったのではないかと推察することができます。
◆住民の論理 ④学校再編の理由
これまでの主張と同様に市教委の説明する学校再編の理由に対して「なぜ小規模校ではいけないのか(c)」「工夫すれば、少人数でも出来る(d)」と反論する意見がみられます。さらに、「小規模校では逆に教育効果を上げている特徴的な取り組みが行われている所が多いと把握している(f)」「複式学級がいけないとか、学校規模が小さいからいけないとかいうのは逆(i)」だというように、小規模校の方が優れていると主張する意見もあります。
また、「①人口減少」「②学校と地域の関係」でみられた「地域に学校が必要だ」という論理だけでなく、ここでは「学校教育にとって地域は必要だ」という論理が示されました。それは「豊かな自然に囲まれ、地域の方々とも近い学校は残すべきだ(b)」という発言に示されています。
さらに、第Ⅲ段階で行政が財政的な問題を理由に学校再編をすると説明したことに対し、「財政的な話もするようになり、説明が変わってきた(e)」「お金がないことを学校再編・統廃合の推進を持ち出すあたりで、統廃合を進めるという結論が市には先にあるという疑念を市民に持たせる(g)」という意見が出されました。このように行政が教育以外のことを学校再編の理由に挙げていることに対しては、「統廃合されたくないのが子どもの本音、この本音を大人の事業でないがしろにしてはいけない(a)」として非難している様子がみられます。また、そもそも学校再編は子どものためなのかということを考えるべきですが、そのように考えない行政に対し、「何故『子どもにとって』考えたら再編ということになるのか(x)」という疑問の声も上がりました。
◆住民の論理 ⑤行政の役割
行政の役割では、住民は一貫して「地域に学校を残すべきだ」と主張しています。特に、山野学区では「少人数の教育をおいてほしい(a)」という考えから、「小中一貫の特認校にして(b)」ほしいという意見が出されました。内海でも「小規模校を残してほしい、地域に1校は残したい(c)」という主張がされています。つまり、いずれの学区においても住民の中には小規模校の教育を望んでいる人もいるため、小規模校にも行けるよう地域に学校を残すべきだと主張していることがわかります。
◆住民の論理 ⑥決定のあり方
住民はこれまでの行政の態度について「いくら反対しても意見を言っても教育委員会に受け止めてもらったと思えない(b)」、「私たちが一生懸命抗議しても、福山市はこうと決めたら住民の合意も基準もないと言われたように、全てを無視してでも小中一貫校を作るのか。(c)」と強く非難しています。そして、「子どもや保護者の思いを聞かずに、一方的に進めるのは慎重にしてもらいたい(a)」として、学校再編を進める上では住民との合意形成を図るべきだと訴えています。
◆「特認校」の開校経緯
ここで、第Ⅳ段階で策定された「特認校」と「イエナプラン教育校」の開校経緯について確認します。まずは、「特認校」の開校までの流れを見ていきます。
市教委は、第Ⅲ段階以降における学校再編の説明会や住民との意見交換会を通じ、山野小中学校や内海小中学校等の再編対象校には、不登校の子が通っているということを認識していました。第Ⅳ段階において住民は、「不登校児童生徒への学習環境確保」という観点からも「地域に小規模特認校を残すべきだ」という要望を市教委に出しています。
しかし2018年9月13日の「市教委と山野の住民との話し合い」において、市教委は「全体としては考えるものの、特例として小規模特認校を設置することは認めない(A)」という姿勢や、「大きな集団で学ぶことがしんどい子どもは、再編後に学習環境を確保する(B)」という姿勢を示しています。そして、2018年12月3日の「公開質問状1に対する意見交換会」では、「計画を撤回することは考えていない(C)」ということを明言しました。
しかし、2019年2月13日の「第13回福山市教育委員会会議」において、「集団の中で学ぶことが難しい子どもの教育環境の確保」を目的として、再編対象地域であった広瀬学区に「特認校」を設置することが決定されます(D)。この「特認校」の設置は、第1要件の対象学区である広瀬学区に学校が設置されるものであり、地域に学校が残るという点で2015年8月に策定された「適正化計画(第1要件)」の内容が変更されたといえます。つまり、広瀬学区においては計画を撤回したということができ、(C)の発言とこの市教委の言動は矛盾しているといえます。
また「第13回福山市教育委員会会議」の中で、「地域(=広瀬学区)には、非公開という形で2回ほど『特認校』について説明している」という市教委側の説明がありました。しかし、「広瀬学区に『特認校』を設置することで、山野学区の住民の反対が考えられる」という意見に対しては、市教委側は「山野地域への説明は、これから行う」と回答しています。つまり、広瀬学区では2019年2月13日の時点で説明会が2回開かれているのに対し、隣接学区の山野学区には1度も説明がされないまま「特認校」の開校が決定されたということです。このような市教委のやり方から、明らかに広瀬学区と山野学区との間に地域選別がなされているといえます。
◆「イエナプラン教育校」の開校経緯
次に、「イエナプラン教育校」の開校までの流れを見ていきます。
イエナプラン教育は、2018年8月7日に行われた「福山市教育フォーラム」において県教育長がその教育を紹介したことがきっかけで話が展開しました。同年、県教育委員会は、2018年6月に文部科学省が「テクノロジーによる個別最適化された学習」「異年齢・異学年集団による協働学習」などの新しい学校や学びの姿を示したことを踏まえ、県内公立小学校におけるイエナプラン教育の導入を検討することを示しました。
そして2018年11月には、県教委と希望する市区町村の教育長がオランダへ視察に向かい、実際にイエナプラン教育が行われている学校を見学しています。この視察に、福山市教育長も参加しました。このオランダ視察の様子は、2019年5月30日に放送された「NHKスペシャル シリーズ 子どもの“声なき声” 第2回 “不登校”44万人の衝撃」で放送されました。
その後、2018年12月に「(仮称)千年小中一貫教育校の整備計画」の再編対象だった常石学区において、住民組織から「決議書(A)」、地元企業から「提案書(B)」が相次いで市教委に提出されました。この「決議書」「提案書」では、「産官学民が連携し、新しい教育であるイエナプラン教育を導入した学校を常石学区で作る」ということが提案されています。これらの地域住民の提案を受けて、市教委は2019年2月13日に正式に「イエナプラン教育校」を設置することを決定します。
このような経緯を確認すると、一見「イエナプラン教育校」の設置は住民が要望し、それを市教委が受け入れる形で決まったようにみえます。しかし、住民の提案書が出されてからの2ヶ月で、新しい学校の開設を市教委で決定するのは現実的に難しいと考えられます。ゆえに、常石学区の住民や地域企業からの決議書や提案書が出された時にはすでに、常石学区で「イエナプラン教育校」を設置することが決まっていたのではないかと推察できます。
さらに、この「イエナプラン教育校」の設置についても、常石学区以外の「(仮称)千年小中一貫教育校の整備計画」の再編対象学区の住民には説明されないまま決定されました。加えてさらに、市教委はこれまで内海・内浦学区で出されてきた「要望書」について、一貫して受け入れない姿勢を示してきたのに対し、今度の常石学区から提出された「提案書」に対しては受け入れ、実現するという姿勢を見せています。このような市教委の「イエナプラン教育校」の開校に関する動きをみても、地域選別を行っていることが明確に示されています。
◆行政の論理と住民の論理のずれ
ここで第Ⅳ段階における、行政の論理と住民の論理のずれを、①から⑥までの主題ごとに整理します。
はじめに、「①人口減少」と「②学校と地域の関係」における論理の違いを見ていきます。第Ⅳ段階では、市行政全体で「学校と地域は別問題」だという考えのもと政策が進められています。「①人口減少」においては、「移住対策など、これまで行われていた住民の取り組みでは人口増加は見込めない」とする行政の姿勢がみられ、行政の独断によって「『関係人口』創出事業」が導入されました。しかし、「②学校と地域の関係」の分析により、あくまでこの事業は学校再編後の地域づくりのために導入されたものであり、結局は学校再編を進めたいがために行われたものであると推察できました。
さらにこの段階では、学校再編後の新しい学校について市教委が説明しています。その中では、新たな学校において「地域と協働した学校づくり」を行うという姿勢もみられました。つまり、新たな学校では学校と地域は関係しているため、協働して教育を行おうとしているのです。このことから、これまで住民に向けて説明されてきた「学校と地域は別だ」という論理は、学校再編を進めるためだけに使われてきたものだと考えられます。
それに対して住民は、これまでの地域の取り組みによって人口が増えているということを示し、行政は住民の取り組みを妨げるべきではないと主張しました。そして、「学校再編は地域の過疎化を促進させる」というこれまでの論理を一貫して主張し、生徒数が足りないことを理由に学校再編を進める行政に対し、「人口減少に合わせた学校再編はすべきでない」と反対しています。また、行政が頻りに説明する「学校と地域は別だ」とする論理に対しては、「学校によって地域は成り立ち、さらに学校も地域があることによって成り立つ」という考えのもと、学校と地域を分けて考えることは理解できないとしました。
次に、「③教育理念」と「④学校再編の理由」における論理の違いを見ていきます。「③教育理念」について、第Ⅳ段階で市教委は、⑴「競争、ぶつかり合いのある教育」、⑵「主体的・対話的な深い学び」の実現の2つの理念を挙げています。そして「④学校再編の理由」では、これらの理念を実現するためには、児童生徒の数が不可欠だとして学校再編の必要性を強調しました。つまり、市の考えるより良い教育には子どもの数の確保が絶対条件であるため、再編する必要があるとしたのです。ここに、行政は「数」の過不足だけで学校再編の必要性や教育の良し悪しを判断しているということが露呈しています。
これに対して住民は、「集団になじむことのできない子どもにとっては、小規模校での教育環境が必要だ」と主張し、小規模校の役割を強調しました。また、行政が新学習指導要領の文言を使って学校再編の必要性を訴えていることに対しては、「小規模校でも主体的・対話的な深い学びは実現できる」と反論し、行政の説明する学校再編の理由に正当性はないとしています。さらに、第Ⅲ段階以降、行政が「④学校再編の理由」において、財政問題や公共施設の削減についての話を持ち出していることに対しては、「学校再編はすでに決定しているのではないか」「本当に子どものためなのか」という意見も出されました。
「⑤行政の役割」については、行政は「市が良いと思った教育を、すべての学校で行うことが行政の役割だ」という論理を持っていることがわかりました。そしてこの論理は、「地域による個別的な対応は認めない」とする姿勢を示しているとも考えられました。しかし、第Ⅳ段階の終盤に「特認校」と「イエナプラン教育校」を開校する計画を策定したことによって、この姿勢そのものに矛盾が生じていくことになります。
これに対して住民は、「子どもたちの学習環境を確保するために、地域に学校を残すことが行政の役割だ」と主張しています。さらに、「①人口減少」の分析で見られたように、「行政は地域の活動に目を向け、それを妨げることをするべきではない」ということも主張しました。また、「『関係人口』創出事業」については、この事業は学校再編後の地域振興を目的としたものだということが次第にわかると、住民は事業から手を引くことになりました。
最後に「⑥決定のあり方」について確認します。行政は、これまで学校再編の実施について住民との合意形成を図るということを説明してきましたが、第Ⅳ段階では合意形成が無視され、説明を行うことで住民に理解してもらうという姿勢に変化しました。この姿勢は、特に「住民の100%の合意はない、最終的に苦渋の選択をしてもらう」という発言に表れています。このような姿勢からは、「行政の決めたことは絶対であり、住民は従うべきだ」という論理までも推察できます。
このように、行政はあたかも学校再編が決まったことであるとしているのに対し、住民は「反対意見を出しても無視されるだけだ」「合意がなくとも行政は再編を強行するのだろう」と反応しました。このような住民の反応からは、これまで以上に行政の在り方に対して不信感を持っていることが読み取れます。さらに、第Ⅳ段階では明らかに合意形成を無視して再編を進めようとする行政の在り方が露呈しましたが、それに対して住民は、「行政が一方的に再編を決定すべきでない」としてこれまで以上に強く非難する様子もみられました。
◆おわりに
最後に本段階を総括し、6つの観点の関連性を考えます。
初めに「⑤行政の役割」の論理から、第Ⅳ段階では市教委が「全市的」や「すべて」という言葉を頻用したことがわかりました。ここから、市教委は「市が良いと思った教育を、すべての学校で行うことが行政の役割だ」という考えを持っているということ、そして「特定の地域の個々の特例扱いは認めない」という姿勢であるということがわかります。ここでの「市の良いと考える教育」は、「③教育理念」の分析から「切磋琢磨、競争、ぶつかり合いがある教育」であると推察できます。そして「このような教育をすべての学校で実施させることが行政の役割だ」という前提によって、「一定の集団規模」を確保することが「絶対条件」となり、学校再編は決定項だとして推進していきました。
この「一定の集団規模」の確保というような数の論理は、「④学校再編の理由」でも導かれています。第Ⅳ段階では、これまで挙げられていた「小中一貫教育推進のため」という理由は全く無くなり、代わりに「子どもの数」という理由が挙げられました。その根拠としては、「主体的・対話的な深い学び」の授業実現のためということが説明されています。しかし、文科省のいう「主体的・対話的な深い学び」はアクティブ・ラーニングのことであり、競争やぶつかり合いのある教育とは異なります。さらに、「主体的・対話的な深い学び」には必ずしも「一定の集団規模」は必要ありません。このようなことを踏まえると、市教委の説明に正当性はなく、学校再編の目的までもが錯綜しているといえます。
このように、数の論理によって再編が進められているということは、「⑥決定のあり方」の分析によってもわかりました。第Ⅳ段階では、第Ⅰ・Ⅱ段階で見られた「住民と合意形成する」ということは全くなくなり、代わりに「住民に説明して理解してもらう」という姿勢が表れています。特に「住民の100%の合意はない、最終的に苦渋の選択をしてもらう」という発言からは、「行政の決めたことに対して、住民は従うべきである」という市教委の強い姿勢を読み取ることができます。このように第Ⅳ段階において、市教委がこれまで以上に強硬的になっている様子からも、学校再編は「既定路線」であり「進めなければならないものだ」とする市の前提が浮き彫りになりました。
学校再編を決定項とによって、市行政の「①人口減少」に対する取り組みや「②学校と地域」に対する考え方にも変化が生じています。「①人口減少」の分析では、行政が「これまでの地域の取り組みでは人口増加は見込めない」と考えるようになり、「地域活性化担当課」が担当する外部人材を導入した新しい取り組みを行っていくことになりました。そして、「②学校と地域」の分析により、この「『関係人口』創出事業」は「学校再編後の地域づくり事業」の一環として市行政が導入したものだとわかりました。しかも市教委は、再編後には「地域と協働した学校づくり」を行うとしています。このことから、これまで住民に説明してきた「学校と地域は別で考える」という論理は、あくまで「学校再編」を進めるためだけに使われた論理であるといえます。
最後に、第Ⅳ段階の終わりに市教委は「特認校」と「イエナプラン教育校」の開校を打ち出しました。「特認校」の設置の目的は、「集団になじむことの難しい子どもたちのための教育環境の確保」であると説明されましたが、もともと山野小学校や内海小学校などの小規模校には、集団での学習が難しい子どもたちが学区外から通っていました。にもかかわらず、この段階で「特認校」の設置という話が市教委から出されていることからは、市教委がこの段階になって初めて小規模校の役割を認識したということが推察できます。しかしその上で市教委は、小規模校を残すのではなく新たに「特認校」を設置するという形で現状に対応することを決めました。この市教委の対応は、「学校再編は決まったことであるため、どんな状況でもやらなくてはならない」という市教委の姿勢を表しているといえます。
そして「イエナプラン教育校」の設置については、「子ども主体の学びの推進」が目的であるという説明がされました。「イエナプラン教育校」の設置は、住民組織や地域企業の提案によって策定されたものだとされましたが、時系列を追っていくと、もともとは県や市が実施しようとしていたものなのではないかということが推察できました。つまり、「イエナプラン教育校」の設置は「特認校」の設置のように地域の状況に応じて行われたものではなく、県教育委員会の動きに対応して市教委が行ったものだということが考えられます。それは、住民に対して「イエナプラン教育校」の設置目的がきちんと市教委から説明されないまま、開校が決定されていることからも推察できるものです。そもそも「子ども主体の学び」は、工夫すれば小規模校でも実現することができます。それにもかかわらず、小規模校を統廃合して新しく「イエナプラン教育校」を設置する理由はどこにあるのでしょうか。
また、これまで市教委は「学校再編」の目的の一つとして、「公共施設の削減」「財政問題」ということを挙げ、第Ⅳ段階でもその関連性を説明してきました。しかし、これら2校の開校はそれに反するものであり、市教委の発言と計画策定に矛盾が生じています。また、第Ⅳ段階では「全市的」「すべての教室」という言葉が頻繁に市教委の説明の中に出てきましたが、「特認校」や「イエナプラン教育校」は明らかに「個別的」な取り組みであり、この点においても市教委の動きが矛盾しているといえます。そして繰り返しになりますが、これら2校の開校については、学校再編対象の地域住民には十分な説明のないまま決定されました。
こうして第Ⅳ段階では、学校再編が決定項とされていることが明らかになりました。また市の学校再編の真の目的は、「教育のため」や「財政的問題のため」でもなく何か別の目的があるのではないかということも推察できました。さらに、行政が“円滑”に学校再編を進めるために、合意形成を無視して再編を進めようとする姿勢から、第Ⅳ段階は「学校再編を実行する段階」だといえます。その表れとして、学校再編ありきの地域づくり事業が立ち上がり、また学校再編の理由や教育理念で文科省の新学習指導要領の文言を流用したりする様子が見られました。さらに第Ⅳ段階の最後では、「特認校の開校」や「イエナプラン教育の導入」など、これまでにはなかった市教委の新たな政策が打ち出されました。第Ⅴ段階では、この新たな施策を進めていく中でさらなる行政の矛盾が生じていきます。
次回は、「第Ⅴ段階-イエナ・特認校の推進による「選択と集中へ」(2019年2月13日~2020年2月27日)」の分析を行っていきます。
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