見出し画像

【vol.23】「適正化計画(第1要件)」に関する行政の論理

◆はじめに

 これまで確認してきたように、2021年10月28日に山野学区の学校再編が「決定」されたことにより、福山市では、「適正化計画(第1要件)」で策定された再編計画が完遂されたといえます。改めて再編の経緯を確認すると、「イエナプラン教育校」や「特認校」の設置など新たな取り組みも見られましたが、結局は「適正化計画(第1要件)」で書かれていたことが実行されただけに過ぎないということがわかりました。つまり、これまで挙げてきたこの福山市の学校再編の問題点、および再編から生じたことは「適正化計画(第1要件)」に端を発し、そしてすべて「適正化計画(第1要件)」の中にみられるものだということができます。

 そのため、今回は改めて「適正化計画(第1要件)」が策定された経緯を整理し、「適正化計画(第1要件)」は何が問題であったかについて検討します。

 特に、学校再編が推進されていくなかでは、市長(2017.8.28)や市教委(2019.5.11)では2015年6月に策定された「基本方針」は「行政だけで決めたものではない」「住民からいただいた」方針であるという発言がみられました。この発言は真実なのか、本当に「基本方針」は行政だけで決めたものではなく、住民の意思が含まれているものなのかということも併せて検討します。

◆「基本方針」が策定されるまでの経緯

 まず、「適正化計画(第1要件)」が策定された形式的な経緯を確認します。2012年に「学校ビジョンⅣ」が策定され、福山市で「小中一貫教育の創造」が目指されました。そして小中一貫教育に向けた取り組みを始めるにあたり、市教委は諮問機関として2012年6月5日に「福山市小中一貫教育推進懇話会」を組織します。その後、2014年1月29日に小中一貫教育を推進するにあたり望ましい学校教育のあり方を検討するという目的で、同じく諮問機関として「福山市学校教育環境検討委員会」が組織されました。この検討委は同年10月に委員会の答申として「望ましい学校教育のあり方について(答申)」をまとめます。この「答申」の中では、「望ましい学校規模」と「望ましい学級規模」が提示されました。

 「答申」の策定から8か月後、市教委はこの2つの諮問機関の意見を受けて、2015年6月に「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」を策定します。この「基本方針」は、①「福山市における小中一貫教育の推進」と、②「教育環境の整備」の2つの観点における市の方針をまとめたものです。特に、②「教育環境の整備」においては、学校規模と学校配置を適正化するという方針が出されました。さらに「基本方針」の中では、「答申」で決められた望ましい学校規模・学級規模を踏まえ、市内の各学校の生徒数や学級数をもとに学校再編の必要性が高い順に「第1要件」「第2要件」「第3要件」という区分が設けられ、それぞれの要件に対する方針として「学校規模と学校配置の適正化への取組方針」が定められました。

 「基本方針」が出された2か月後、2015年8月に市教委から「福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件)」が出されます。この「適正化計画(第1要件)」では、「基本方針」で設けられた「第1要件」に該当するとされる、市内9小中学校の具体的な学校再編計画が定められました。次項では、「答申」「基本方針」「適正化計画(第1要件)」の3つの行政文書における行政の論理を順に確認します。その際、「基本方針」は本文と別表を分けて分析しています。

◆「基本方針」策定以前の学校再編に対する行政の見解

 2012年6月に組織された「福山市小中一貫教育推進懇話会」では、福山市で小中一貫教育を推進していくための方針やその教育内容等についての話し合いが行われました。第1回の懇話会での冒頭の教育長の挨拶の中では、小中一貫教育を進めるにあたり、将来的には小中一貫教育について規模の適正化も考えていきたいという発言があったものの、それ以外で学校再編が話題となることはありませんでした。もっとも、全体を通してこの懇話会は、学校だけでなく「家庭や地域が一体となって取り組んでいくことが小中一貫教育の理念」であるとされており、特に地域と学校のつながりをつくることが必要だということが何度も強調されています。そのため、この懇話会で学校再編の話が上がることはなく、もちろん小中一貫教育と学校再編が同時に検討されるということもありませんでした。

 「福山市学校教育環境検討委員会」は、2014年1月に「小中一貫教育を推進する上で、望ましい学校教育環境のあり方について検討するため」 に組織されました。この教育環境検討委では、小中一貫懇話会から進んで「児童数の減少による小規模化はデメリットも多いため、適正規模に近づける必要がある」「授業の質の確保を図る上で、複式学級は解消していく方が望ましい」など、統廃合に関わる意見が出されました。しかし、その一方で「学校規模が違えばそれに合った教育方法があり、学校規模が適正かどうかを考えたことはない」「一人ひとりが居場所を感じて、活躍できるということが必要であり、規模の大小ではないのではないか」という意見も出されていました。
 このように、この委員会では学校再編が必要だという意見とそうでないという意見の両論が出されたものの、どちらかが結論だとされることはありませんでした。そして、全8回における委員会での意見を受け、最終的に教育環境検討委は学校再編について「教育効果を高めるためには(中略)子どもの数を確保する必要がある。子どもの数が減る中で、学校間の統合についても触れておく必要があり、具体については、市の方でしっかり検討してもらいたい。」というまとめを示しています。

 そして、同委員会が作成した「望ましい学校教育のあり方について(答申)」(2014年10月)では、望ましい学校規模・学級規模が提示されることになります。この規模基準は、教育環境検討委の意見のほかに教員を対象に実施されたアンケートの結果も加味され決定されました。
 このように「答申」で適正基準が決められたことによって、学校再編を促すような記述もされるようになります。具体的には、「答申」の中の「小中一貫教育を推進する上で、(中略)今後、学校統合も検討していくことが必要である。」 という記述です。その根拠としては「小中一貫教育を推進する上では、一体型小中一貫教育校が望ましい」 からだとされました。ただし、教育環境検討委はここでも学校再編について「検討していく必要がある」という書き方をしており、再編を推進しようとしているのではありません。この「答申」の中には、「望ましい学校規模の実現に向けては課題もあると思われることから、国や県への法制面の改善等の要望と併せ、慎重に検討することを要望することとした。」 ということが併記されていることに注意しなければなりません。

◆「基本方針」における学校再編に対する行政の見解

 教育環境検討委の「答申」を受けて、市教委は2015年6月に「基本方針」を策定します。この「基本方針」では、「答申」の中で設定された望ましい学校規模・学級規模を「適正規模の基準」として位置づけています。さらに、小中学校の生徒数、学級数が「適正規模の基準に適合しなくなった場合は、学校の統合を検討」 するということが記されました。その根拠として①「小中一貫教育を推進する上では、施設一体型小中一貫教育校が望ましい」 ということ、そして②「小中一貫教育の取組において、一定の学校規模を確保することで、子どもたちの多様な人間関係を通した学びの充実が図られ、その効果を十分に発揮することができ」 るということが示されています。そして①の理由は、「(小中学生が)移動時間を要することなく、日常的な交流を効率的に行うことができ」るからだと説明されました。

 ただし、②の「小中一貫教育の取組は一定の集団規模の確保によって、その効果を十分に発揮できる」という根拠は、小中一貫懇話会や教育環境検討委では一切議論されておらず、教育環境検討委がまとめた「答申」においても記されていないものです。このことから、一定の集団規模の確保によって小中一貫教育の効果が高まるという論理は、小中一貫懇話会や教育環境検討委から出されたものではなく、「基本方針」において市教委が独自に示した論理であると推察できます。そして、この論理は「小中一貫教育を実施するには、再編が必要だ」という市教委の考えが表れています。このように「基本方針」では、市行政が意図的に一定の集団規模と小中一貫教育を結び付けて論じているといえますが、両者がどのように関連しているかは説明されず、結び付けて論じることの根拠も示されませんでした。

 それでも「基本方針」では、適正規模の基準に適合しなくなった場合、学校再編を検討するとしています。ここで注意すべきことは、あくまで「基本方針」の地の文では、学校再編は「検討する」にとどめられているということです。この「検討する」という言葉は、学校再編は決められたものではなく、「学校再編を実施するかどうかを話し合う必要がある」ということを意味しているといえます。この点、「答申」における学校再編の実施についての考え方と同じだと考えられます。

 しかし、「基本方針」の中で別表として記載された「学校規模と学校配置の適正化への取組方針」では、本文とはまるで異なる学校再編への取り組み方針が示されました。 

◆別表「学校規模と学校配置の適正化への取組方針」における学校再編に対する行政の見解

画像2

【福山市教育委員会「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」12頁、2015年6月】

 この別表では、「要件」というものが定められました。この「要件」については、小中一貫懇話会や教育環境検討委、そして「答申」では一切話題に挙がっておらず、さらにはこの「基本方針」の本文にも記載されていないものです。つまり、この「要件」は別表においてはじめて示されたものであり、それはこれまでの懇話会や委員会に基づいたものではなく、市教委が独自に設定したものだということができます。

 そして「第1要件」に該当する学校への取り組みとして、「2020年度(平成32年度)末までに近隣の学校と統合する方向で、速やかに協議に入ります。」と記載されました。ここで注意したいのは、学校再編を「検討する」ではなく、「協議する」と書かれていることです。後の「適正化計画(第1要件)」の内容から判断するに、ここでの「協議」という言葉は、明らかに学校再編の実施は決定しており、その決定したことをどのように進めるのかを協議するということだと考えられます。つまり、ここでの「要件」とは「統廃合をしなければならない」という行政にとっての「要件」だといえます。
 また、この「協議する」という言葉も、「答申」以前では使われておらず、この「基本方針」の本文にもない表現です。つまり、別表として示された「学校規模と学校配置の適正化への取組方針」は、明らかに行政だけの判断で決められたものであり、ここに市行政の恣意性が表れています。

◆「適正化計画(第1要件)」における学校再編に対する行政の見解

 「基本方針」に基づき、学校規模と学校配置の適正化を進めるために策定されたのが2015年8月の「適正化計画(第1要件)」です。この「適正化計画(第1要件)」では、先に「基本方針」で「別表」として示された「学校規模と学校配置の適正化への取組方針」のうち、「第1要件」にあたるとされた市内9小中学校の具体的な学校再編計画が立てられました。

 「基本方針」では、学校再編実施の目的として「小中一貫教育の効果を高めるため」ということが示されていました。この「適正化計画(第1要件)」は「基本方針」に基づいて作られたものであるため、本来であればこの「適正化計画(第1要件)」にも学校再編の目的として「小中一貫教育の推進」が書かれているはずです。しかし、「適正化計画(第1要件)」に書かれている学校再編の目的は、「『福山に愛着と誇りを持ち、変化の激しい社会をたくましく生きる子ども』を育成するため」であり、小中一貫教育の推進については全く書かれていません。
 また、この「適正化計画(第1要件)」で計画された学校再編は小小統合と中中統合だけであり、ここでの学校再編は小中一貫教育には結び付かないものです。つまり「適正化計画(第1要件)」は、「基本方針」の内容のうち、①「福山市における小中一貫教育の推進」は全く反映されず、②「教育環境の整備」のみだけが反映されたものだといえます。このことから「適正化計画(第1要件)」は「基本方針」に基づいたものではないといえます。
 そして、「適正化計画(第1要件)」は2015年当時の人口推計値だけを判断基準にして立てられたものであり、いわば効率化のために人口の少ない地域の学校をなくそうとする計画であるとも考えられます。

 また、「適正化計画(第1要件)」では、学校再編の実施について「今後は、本基本方針に基づき、小中一貫教育の推進と学校規模・学校配置の適正化に取り組みます。」 「再編による適正化を進める方向で速やかに地域との協議に入ります。」 という書かれ方がされました。ここでは「基本方針」での「検討する」という記述ではなく、「再編に取り組む」「協議する」という一段と再編に踏み込んだ表現がみられます。このような「学校再編は決定されている」とする記述は、繰り返しになるが「基本方針」以前の懇話会や委員会、「答申」「基本方針」の本文では全く書かれておらず、「基本方針」の別表だけで書かれているものでした。つまり、この「適正化計画(第1要件)」は明らかにこれまでの議論に基づいたものではなく、「学校再編は実施するものだ」という市行政の意思だけが反映されたものだといえます。

 さらに、「適正化計画(第1要件)」では「適正化に向けた取組の進め方」として「ア 地域説明会の開催」「イ 開校準備委員会の設置」「ウ 市民への情報提供」の3点が挙げられていますが、ここで注目すべきことは、地域ごとの案件に対する検討や住民との合意形成にあたるものが再編の進め方の中に含まれていないということです。このことからも「適正化計画(第1要件)」は、数が少ないというだけで学校を再編をするという市行政の意向が示されたものであり、その過程において市民と合意形成を図るということは一切回避されているといえます。

 あわせて注目すべきことは、学校再編の実施について「地域との協議に入る」という書かれ方がされていることです。この「適正化計画(第1要件)」では、行政が住民と協議するとしている内容が「適正に向けた取組に進め方」(4頁)の中の「イ 開校準備委員会の設置」に書かれています。その内容は次のとおりです。

【福山市教育委員会「福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件)」4頁、2016年8月24日】
イ 開校準備委員会の設置 
適正化計画に基づき、取組を進めるにあたっては、通学路、教材・教具、制服、事前交流の持ち方、教育活動やPTA活動、それぞれの学校の歴史や伝統、特徴ある取組の継承など、新しい学校づくりを円滑に進めるための諸課題について協議するため、再編後の学区となる地域ごとに、各学校の保護者や学校関係者、地域の代表者などを構成メンバーとする開校準備委員会を設置します。 

 この内容をみると、市行政は再編後の新しい学校の開校に関わることのみを住民と協議するとしており、学校再編の是非や再編の組み合わせについては協議の内容に含まれていません。学校再編の是非について住民と協議することを避け、それは行政が判断するという姿勢が表れています。

◆3つの行政文書の論理の変遷

 これまで見てきたように、行政は「適正化計画(第1要件)」を策定する過程で行政文書の表現を変え、意図的に行政の意向を反映する計画に書き変えたことがわかりました。本項では、行政が「適正化計画(第1要件)」の策定までにどのように論理を変遷させてきたかを改めて確認します。その際、「学校再編の理由」「基準の設定」「学校再編に対する姿勢」の3つの観点に分けて整理しました。

画像2

【「適正化計画(第1要件)」までの学校再編に対する行政の姿勢の変遷】*執筆者作成

⑴学校再編の理由
 はじめに、「学校再編の理由」について整理します。2014年10月に教育環境委がまとめた「答申」では、「教育効果を高めるため」「小中一貫教育を進めるため」という理由が書かれました。つまり教育環境委は、「小中一貫教育のあり方を考える中で」学校再編を検討するとまとめています。
 その後、2015年6月の「基本方針」では、「小中一貫教育の効果を十分に発揮できる教育環境づくりのため」という理由が書かれました。そして先述のとおり、ここでは一定の集団規模を確保することで、小中一貫教育の効果が高まるとされていました。つまり、「基本方針」では、小中一貫教育と一定の集団規模を結び付けることによって学校再編の必要性が説明されていました。

 しかし、2015年8月の「適正化計画(第1要件)」では、「より良い教育環境の整備のため」、そして「学校教育の質の充実を図るため」ということが理由として説明されています。繰り返しになるが、ここには「小中一貫教育のため」ということが一切記載されていません。ここで「小中一貫教育のため」という理由が説明されなくなったのは、「適正化計画(第1要件)」が「基本方針」の「別表」だけを具現化した計画だからだと推察できます。

 このように再編理由の変遷を整理すると、「適正化計画(第1要件)」で行政が意図的に「小中一貫教育のため」という理由を書かなかったと推察できます。そして、「小中一貫教育のため」という理由を外したのは、市行政の「人口の少ない地域の学校を再編する」という意向を実現するためだからではないでしょうか。つまり、「小中一貫教育のため」という理由であれば、人口の少ない地域であっても小学校と中学校を統合することで生徒数を確保することができ、小中一貫教育校を作ることで地域に学校を残すことができます。このような過程で人口の少ない地域に学校が残ることを避けるために、行政は「適正化計画(第1要件)」から「小中一貫教育のため」という理由を外したのでしょう。ここに、行政の恣意的な態度が表れています。

⑵基準の設定
 次に、「基準の設定」について整理します。2014年1月に設置された教育環境検討委は、「教育効果を高めるための望ましい」学校規模・学級規模を設定し、それを同年8月の「答申」に示しました。あくまで「答申」では「望ましい」とされただけであり、そうでない学校規模・学級規模についての言及はありません。
 ところが2015年6月の「基本方針」では、行政によって「答申」での「望ましい学校規模・学級規模」が「適正規模の基準」として提示されました。そして、その基準にそぐわない学校については「学校再編を検討する」と示されています。つまり、教育環境検討委によって「望ましい」とされた規模が、「基本方針」では行政によって「適正規模の基準」となり、学校再編の実施基準にされたといえます。

 さらに「基本方針」の「別表」、そして2015年8月の「適正化計画(第1要件)」では、「学校規模と学校配置の適正化への取組方針」の中で「要件」が設定されました。この「要件」は、「答申」での「望ましい」基準や「基本方針」で「適正規模の基準」として示されたものとは全く異なるものであり、学校再編をするために設定された「要件」であるといえます。
 そして「第1要件」については、学校再編を速やかに「協議する」とされました。このことからも、この「要件」の設定は明らかに「学校再編をしなくてはいけない要件」だといえます。以降の行政の強硬な再編の推進を鑑みても、行政はこの要件を「学校再編をしてもよい要件」だとして設定したともいえるでしょう。このように、行政は教育環境検討委で論じられた「望ましい学校規模・学級規模」を「基本方針」では「適正規模の基準」として掲載し、さらに「別表」や「適正化計画(第1要件)」ではそれまでとは異なる独自の「要件」を設定することによって、「円滑」に再編が進められるようにしたと考えられます。

⑶学校再編に対する姿勢
 最後に「学校再編に対する姿勢」について整理します。これまで見てきたように、2014年10月の「答申」では教育環境検討委によって「学校再編を検討する必要がある」ということがまとめられました。そして、2015年6月の「基本方針」においても、行政は「学校の統合を検討する」という姿勢が示されています。
 しかし、「基本方針」の「別表」では、学校再編について「速やかに協議に入る」という書かれ方がされています。そして、2015年8月の「適正化計画(第1要件)」でも、「再編による適正化を進める方向で速やかに地域との協議に入ります」という記述がされました。このように、行政は「適正化計画(第1要件)」の策定までの過程で学校再編に対する姿勢を徐々に強固なものにしており、恣意的に学校再編に踏み込む姿勢を記したといえるでしょう。

◆「適正化計画(第1要件)」は何が問題なのか

 最後に「適正化計画(第1要件)」の問題点を整理します。これまで見てきたように、この「適正化計画(第1要件)」は、小中一貫懇話会や教育環境検討委、「答申」に基づいたものではなく、さらに「基本方針」の本文とも異なる論理で書かれています。そしてこの計画は「基本方針」の「別表」で設定された「要件」をもとに立てられていることから、「適正化計画(第1要件)」は「基本方針」の「別表」を具現化したものだといえます。そのため、この「適正化計画(第1要件)」には、小中一貫教育の推進ということが一切書かれていないのだと推察できました。

 このように「別表」や「適正化計画(第1要件)」は、行政の意向が色濃く反映されています。また「要件」の設定や「適正化計画」の策定過程においては、学校再編そのものについて住民と合意形成を図るというプロセスが省かれており、意図的に住民との協議が避けられているといえるでしょう。そして、このような行政の恣意的な姿勢は、「基本方針」「適正化計画(第1要件)」と順に策定されていく過程で、行政が文書を書き加えたり、書き変えたりする形で示されました。このように、行政が「基本方針」」や「適正化計画(第1要件)」の策定過程で文書を改ざんすることで、住民との話し合いをすることなく学校再編を進められるようにしたと考えられます。

 また、「基本方針」や「適正化計画(第1要件)」は、小中一貫懇話会や教育環境委、そして「答申」に基づいて策定されたと記されています。これまで見てきたように、「基本方針」や「適正化計画(第1要件)」は行政が文書を書き変えることによって、自らの意向を強く反映してきました。にもかかわらず、懇話会や委員会が組織や「答申」のまとめという過程を経ることによって、まるでその後の方針や計画が行政だけで作ったものではないようにみえます。ここに、「基本方針」の「別表」や「適正化計画(第1要件)」の大きな問題点が考えられます。つまり、行政が意図的に「基本方針」や「適正化計画(第1要件)」を改ざんしているのにもかかわらず、それらが懇話会や委員会に基づいた文書だとされたために、「再編は文書に書かれていることであるため、しなければならない」という仕組みが作られてたということです。

 さらに、「別表」によって示された「要件」により、数が足りないということだけで行政が再編を決定できるという仕組みも作られました。そして、それは「適正化計画(第1要件)」によって具現化されました。これにより、学校再編の是非を考える際に「数」以外の別の要素が考慮されることがなくなりました。つまり、行政は数に基づいた「要件」を設定することによって、再編の是非に関する住民との話し合いを回避したといえます。
 さらに、そのような「要件」や学校再編のプロセスが「基本方針」や「適正化計画(第1要件)」という行政文書に記載されルール化されたことによっても、再編をするか否かについての判断には住民との話し合いは必要なく、行政だけの判断で決定できるという行政の論理を形成されたといえます。これは「適正化計画(第1要件)」に書かれた「適正化に向けた取組の進め方」において、住民との協議や各地域の状況に対する検討ということが書かれていないことからもわかります。

 このように、「適正化計画(第1要件)」は「住民との話し合いを避け、行政の意向だけを反映して統廃合を進めよう」とする文書であるといえます。さらに、これは小中一貫懇話会や教育環境検討委、そして「答申」を通して決められたかのように見えますが、実状は「基本方針」の「別表」で示された「学校規模と学校配置の適正化への取組方針」だけに基づいたものだということもわかりました。そして、この「別表」で設けられた「要件」を用いて「適正化計画(第1要件)」を策定したことによって、行政の意向が住民との合意形成をせずに通るという仕組みを生み出したのです。その結果、住民との合意形成に基づかない学校再編を行政だけで「決定」するという、通常の行政では不可能な施策が推し進められました。
 繰り返しになりますが、この「適正化計画(第1要件)」は、「都合よく、住民の反対を回避しながら統廃合を進めよう」とする文書であり、それが実情に反して懇話会や委員会に基づいて決定されているという点において最も大きな問題があるといえます。

 次回は、福山市の学校再編全体を通した住民の論理について改めて整理してみます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?