香水はいつ誕生したのか
日本人からすると、現代的なおしゃれアイテムという印象があるかもしれない、「香水」ですが、世界的には非常に古くから使われてきました。
今回は、そんな香水の歴史について紐解いていきましょう。
原初の香り それはけむり
香料が最初に発見されたのは、一説によると紀元前3000年ごろのメソポタミアであると言われています。当時は宗教的儀式に、花・果実・樹脂を焚いて、その香りを利用していたようです。つまり、原初の香りは煙だったといえます。
香りと煙の結びつきは、現代に残る単語からも感じられます。
英語で香水は「Perfume」、フランス語では「Parfum」と言います。
これらの単語は、ラテン語の「Per Funum」、日本語訳すると「煙を通して」という意味が語源となっています。
「香水」の意味が、「煙を通して」という意味なのは、人間が楽しむようになった原初の香りが煙を通していたことに由来しているのです。
14世紀 中世ヨーロッパで香水の誕生
お香のように焚いて楽しむ香りではなく、現代のようにシュッと振りかけて使う香水が誕生したのは中世ヨーロッパだと言われています。
その名も「ハンガリーウォーター」。
当時から今に至るまで、香水の主成分はアルコールです。揮発しやすいアルコールが香りをふわっと香らせてくれるのです。アルコール80~90%に対して、香料10~20%といった構成が基本的な香水のイメージです。
現代まで続くアルコールベースの香水の起源であるハンガリーウォーターは、ローズマリーをアルコールと共に蒸留した蒸留酒です。不思議なことに、発祥地は不明、とされています。
え?どう見てもハンガリーでしょ?と思いますよね・・。しかしハンガリー王妃がこの香水の誕生に関わったという証拠は発見されておらず、商品の箔付けのために考え出されたネーミングらしいのです。
そう、ハンガリーウォーターは、最初の現代的なアルコールベースの香水であるとともに、はじめてマーケティング的観点からネーミングされた香水であるともいえるかもしれません。
16世紀 フランス グラースで香りが産業化
南仏グラースは、いまでも世界的な香水の一大産地でして、香りの都として知られています。
歴史を辿ると、中世の時代、グラースでは、なめし革製造業が盛んでした。しかし、当時の革製品は動物っぽい嫌な臭いがしており、それが悩みの種でした。
革製品特有の臭いを何とかして消したい。
その際に考案されたのが、ラベンダーやマートル、ジャスミン、ローズで香りをつけた水の中に革製品を漬け込む、という方法でした。ここから、革産業が盛んだったグラースでは、同時に香り産業も発展していくことになったのです。
19世紀 合成香料の誕生とChanel No5
合成香料が誕生するまで、グラースでいくら香り産業が栄えようとも、香りを楽しむという文化は貴族のものでした。一般大衆が、ローズの香りを身体に振りかけて楽しむなんて、想像もできない贅沢だったわけです。それほど、天然香料からつくられる香水は希少で高価だったのです。
しかし、化学産業の発達とともに香りは完全に新しい時代へと突入します。
天然の香りを分析し、人間が良い香りと感じるものにはどんな化学的な特徴があるのか。似た構造を持つ香料は化学反応でどうしたらつくれるのか。そういったことが段々と解き明かされ、非常によい香りのする合成香料が開発されるようになりました。
そしてようやく、庶民が香りを楽しむことができるようになったのです。
香水が庶民も楽しめる存在へと広がったことをよく示しているのが、1921年5月5日に発売されたシャネルNo5でしょう。マリリンモンローが、「寝るときにはシャネルNo5を身に着けているわ」と答えたのは、1954年。
え?1921年?そんな昔からある香水だったの!?と驚かれた人もいるかもしれません。
販売初期こそ富裕層狙いだったシャネルNo5は、1930年代半ばから、ターゲット顧客層を中流階級へと広げました。1939年に第二次世界大戦がはじまったことからわかるように、この時代は戦争の時代です。
シャネルは香水の小瓶を軍の駐屯地の売店で販売することとし、兵士が故国に残してきた恋人のために贈る物、としてのブランディングを確立し圧倒的な地位を築き上げました。
貴族だけが楽しめるものだった香水は、19世紀の合成香料の発明と20世紀の資本主義の波に乗って、ついに兵士も買えるものへと姿を変えたのです。
さて、ここまで古代から中世、そして現代にいたるまでの香りの歴史を振り返ってきました。せっかく、香りを気軽に手に入れられる現代ですので、ぜひいろんな香りを楽しんで頂けたらと思っています。
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