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2023年 全米ボックスオフィス考察⑤〜映画ビジネスの最適化はもう始まっている〜

4回にわたって「2022年 全米ボックスオフィス考察」をお届けしてきましたが、最後にそれを踏まえて2023年の全米ボックスオフィスがどうなっていくのかを考えてみたいと思います。

2022年 全米ボックスオフィス考察①〜コロナ前後で興行収入はどう変化したのか?〜」で示したデータのとおり、いま映画館での「公開本数」が大幅に減っています。コロナが直撃した2020年が前年比50%の456本、2022年はそこから若干増の492本となっています。コロナ前2019年(910本)対比でまだ54%と、公開本数はなかなか増えていかないのが現状です。

2023年、この公開本数が劇的に増えるかどうかは現時点では未知数です。公開本数の大半は10館以下での限定公開が占めるため、オフィシャルに発表されている断片的な情報からその数をうかがい知ることが出来ません。

4,000館以上の大規模公開作品は全部で22本

そこで本稿では、Internet Movie Database(IMDb)に掲載されている2023年公開予定のラインナップから、4,000館以上での拡大公開が期待される作品をピックアップしてみます。

2023年に4,000館以上での公開が見込まれる作品

おなじみMCU作品からクリストファー・ノーラン監督新作、ソニーの人気ゲーム映画化など多岐にわたるジャンルの作品が全部で22本あります。昨年の4,000館以上公開作品が21本ありましたので、ほぼ同等の水準で大規模公開作品が市場にリリースされそうです。

ただし、配給会社別に見てみると、バランスにやや偏りがあるようです。22本のうち、最多の8本を占めるのがディズニー配給の作品です。3本のMCU作品と2本のアニメ、さらにインディ・ジョーンズ最新作と、さすがのラインナップを揃えてきました。次いで6本を送り込むのがワーナー・ブラザース。こちらも3本のDC作品をはじめとした期待作ばかりです。

というわけで、マーベル&DC作品を持つディズニーとワーナーが合わせて14本(全体の63%)を占めるというややアンバランスな力関係となっています。実はこの2社、双方とも2023年が創立100周年というアニバーサリーイヤー。ラインナップが強力なのも当然ですね。

残るメジャー3社は、ユニバーサルが3本、パラマウントが2本、ソニーが2本と、本数では先行する2社に大きく差をつけられてしまいましたが、大ヒットを狙える作品がそろっています。

4億ドル超の特大ヒットとなる可能性が高いのは?

さて、昨年は『トップガン マーヴェリック』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』など4本もの興収4億ドル超の特大ヒット作品が生まれましたが、2023年はどうでしょうか。

上記のリストを見る限り、現時点でのポテンシャルで4億ドル超が約束されている作品は見当たりませんが、もっとも可能性が高いのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』でしょう。

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ興収

このMCU人気シリーズは、2014年の第1作が総興収3億3700万ドル、2017年の第2作が3億8980万ドルを稼ぎ出しています。前2作に引き続きジェームズ・ガン監督がメガホンをとり、シリーズ完結を謳って公開する話題作ですから、さらに数字を伸ばして4億ドルの大台に乗ってくる可能性はあります。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』での“確変”後、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が1作目から176%増の大ヒットとなったように、MCUの支持基盤が着実に増えているのは心強いデータです。しかし一方で、わずか45日後にディズニープラスで配信がはじまることによる賞味期限の短さとの戦いを強いられることになるでしょう。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』の興収の行方には要注目です。

下剋上を狙うライオンズゲート

「ハンガー・ゲーム」シリーズ興収

メジャー5社以外で唯一この大規模公開に参戦するライオンズゲート配給の『The Hunger Games: The Ballad of Songbirds and Snakes』にも期待がかかります。オスカー女優ジェニファー・ローレンスが主演した人気シリーズの前日譚にあたる物語ですが、2012年の第1作および2013年の第2作はともに4億ドル超の特大ヒットとなっています。4年続けて新作を公開したこともあり、3作目〜4作目には数字を落としてしまいましたが、8年ぶりとなる新作とあってもう一度大きなムーブメントを起こすポテンシャルを秘めています。

また、ライオンズゲートにはもう1本、期待のシリーズ最新作があります。『ジョン・ウィック』第4弾です。これまでのシリーズは最大規模での公開が第3作の3,850館でしたが、もしかすると初めて4,000館以上の拡大公開があるかもしれません。何しろ、作品を重ねるごとに興収を増やし続けている稀有なシリーズです。メジャー打倒を狙う配給会社が大勝負に出るかもしれません。

ライオンズゲートの躍進は頼もしい限りですが、これは裏を返せば、こうした拡大公開の超大作を次々にリリースしていく体力がなければ、映画館ビジネスでの成長は望めない、ということでもあります。ライオンズゲートでは、この勝負作2本以外にも大小合わせて8本の作品がスタンバイしていますが、それらの作品が安定した収益をあげることができないようでは、今後の見通しは厳しいと言わざるをえないでしょう。

3,000館規模の公開作品も充実

しつこく繰り返しますが、超大作だけがヒットする構造では映画館ビジネスは先細りしてしまいます。具体的に言えば、いま一時的に数字を落としている2,000〜3,000館規模の作品がしっかりと集客することで、映画興行の明るい未来が見えてきます。

その3,000館規模での公開作品ですが、2023年もなかなかに充実したラインナップです。昨年はこの規模で公開された作品が34本ありましたが、2023年は現時点で39本の公開が見込まれます。その一部を下記の表にまとめてみました。

2023年に3,000館規模での公開が見込まれる作品

前述『ジョン・ウィック4』を筆頭に、『エクスペンダブルズ』『インシディアス』『イコライザー』、そして『ゴーストバスターズ/アフターライフ』続編らがスタンバイしています。

ほか、往年の人気ホラー映画を蘇らせる『The Exorcist』、探偵エルキュール・ポアロが活躍するシリーズの最新作『A Haunting in Venice』など、相変わらず続編やリメイク企画が多いですが、オリジナル企画も負けてはいません。

マーゴット・ロビーとライアン・ゴズリングがバービー人形の世界を再現する『バービー』や、薬物を摂取して凶暴化した熊の恐怖を描く『Cocaine Bear』、アダム・ドライバーが主演するSF映画『65』、ニコラス・ケイジがドラキュラ伯爵を演じる『Renfield』など、一風変わった異色作も大ヒットを狙います。

前述の通り、2022年はこの規模の公開作品が最も興行的に苦戦しました。ある意味、4,000館以上の公開作品よりも、3,000館規模での公開作品がどれだけの興行収入をあげられるかの方が、今後を占う上で重要な指標と言えます。

2023年の全米市場はどうなるのか?

現時点の情報だけでは2023年の全米映画市場がどの程度のパフォーマンスになるのかは予測できません。そこで、本稿の総括として、「このくらいの数字になるといいな」な希望的観測もふくめた目処となるKPIを列挙しておきます。

◼ 年間興収:90億ドル
コロナ前の2018年が2000年代最大となる118億ドルでした。2020年に21億ドルという底値を打った後、2021年に44.8億ドル、2022年に73.6億ドルと順調に売上を回復させています。ということで、目指すは90億ドルです。昨年以上のパフォーマンスで前年比122%を実現してほしいものです。

◼ 公開本数:600本
コロナ前の2019年が910本、2022年が492本でした。製作現場はいまだ少なからずコロナの影響下にあるはずなので、いきなりコロナ前の水準に戻るとは考えにくいのですが、何とか600本の大台を目指してほしいと願います。

◼ 1億ドル超作品数:20本
ヒット作の目安となる興収1億ドルを突破する作品が年間何本生まれるかは、市場の活気を測るひとつの指標です。2022年は13本の1億ドル超作品が生まれましたが、2019年の29本と比べるとまだまだ物足りない数字です。

◼ 限定公開作品の最大館アベレージ:10万ドル超
大ヒット作がポンポン飛び出すだけでは、市場が正常化したとは言えません。文化面を担う限定公開作品もまた正しく認められてこそ、健全な市場の復活と言えます。その意味で、いま苦戦を強いられている限定公開作品の中から、コロナ以降初となる館アベレージ10万ドルを超える特大ヒットが生まれることに期待したいと思います。

2022年の全米市場を深く分析するほどに、映画ビジネスの激変を思い知らされます。ただ、それは決して悪いことばかりではなく、世の中のニーズにしたがって市場が最適なかたちにトランスフォームする過程でもあります。

変化していくビジネス構造によっては、作品の企画が通りづらくなったり、映画館での公開がままならなかったりすることがあるかもしれません。しかしながら、映画の誕生から120年超、その熟成された文化が急に途絶えるなどということは決してありません。文化がさらなる進化を遂げる過程を、しっかりと見守りたいと思います。


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