時代・場所・人物。説明せずに伝える方法を映画『Back to the future』から盗む
シナリオ・センターの新井です。
久々に、シナリオについて、少しはためになるであろうことを書ければと思います。
先日、映画『Back to the future』が放送されてました。観た方も多いのではないでしょうか。
偶然にも、先月、某ゲーム制作会社のディレクター職とライター職の方向けの研修で、『Back to the future』の分析を課題にしました。
そこであらためて気づいた『Back to the future』の『起』の秀逸さについて、書いてみたいと思います。
『起』が長くなってしまう……
『起』で、設定の説明が多くなってしまう……
『起』がテンポよく進まない……
なんて方には、すごいヒントがある映画だと思います。
そもそも『起』の機能とは……
起承転結には、すべて機能があります。果たすべき機能からずれていると、まぁ大体おもしろくならないわけです。(かといって、機能を果たせば面白くなるかというと、そこはまた別の話だから要注意ですよね)
で、『起』の機能の一つに、
天地人を表す。というのがあります。
天:時代
地:舞台となる場所
人:人物
なので、『起』では、観客に伝えるべき項目が多いわけです。ここが伝わらないと、観客は物語についていけませんから。なので、説明的になりがちです。そして、説明はつまらない、わけです。
そんななか、『Back to the future』は、『起』がめちゃくちゃ秀逸です。
①天:時代 の表現
『Back to the future』は、タイムスリップものなので、どの時代のお話なのか、というのが重要になります。
では、どうやって表現しているのかというと、ラジオから流れてくるトヨタ製の車の話でそれとなく、説明しています。
②地:舞台の表現
『Back to the future』は、これまたタイムスリップものなので、時代と共に、舞台となる土地もとても大切になります。
舞台となる街がどんな街なのか、それを主人公がスケボーに乗って、学校まで移動するという映像の中で、すべて説明しています。
観客には、街の主要な建物の様子や、雰囲気が、このシーンでしっかり伝わります。
③人:人物の紹介
人物紹介も秀逸です。
まず主人公の登場シーンは、スケートボードを蹴る足のみが映されます。続いて、大きなギターアンプに電源を入れる後ろ姿を映し……という感じで、なかなか主人公を紹介しません。
むしろ、そうすることで、観客に観たい!と思わせます。まさに、「主人公は、のれんを分けてさっと出す」のお手本の様な始まりです。
学校に着いた主人公が、学校でどの様な立ち位置なのか、どのような存在として見られていて、本人はどう思っているのか、学校のライブ出演のオーディションという形で、表現されます。ここも、説明的ではありません。
次に、そのほかの主要人物の紹介がされます。
主人公が家に帰ると、父親がビフに因縁をつけられています。小馬鹿にさえ、されています。二人のキャラクターと、関係性がここで表現されています。
次のシーンでは、家族構成と家族の関係性、そして家族の社会的な地位含めて、映像的に表現しています。
登場人物たちに、何をさせながら紹介すると、キャラクター含め、社会的背景まで表現できるのか、考察する大きなヒントになるのではないでしょうか。
ざっと、ここまでが『Back to the future』の起の部分になります。で、『Back to the future』の真骨頂は、タイムスリップをした後にあります。というのも、タイムスリップした主人公は、
天:いつの時代の
地:どんな場所に
人:どんな人がいるところに
いってしまったのかを、主人公の行動と共に、観客に伝える必要があります。
なので、『Back to the future』は、1回の作品の中に、ある意味『起』が2回登場するのです。しかも、その登場のさせ方がまたうまくて、それはタイムスリップ前のシーンと、シンクロする様につくられています。
もっというと、主要人物は、タイムスリップ前の『起』でみんな登場します。なので観客は、この人誰?とならずに、この人が、若き日のお父さんなのね、お母さんなのね、というのが、一発でわかります。
そのため、2度目の『起』に、一切無駄がありません。テンポよく観れます。
詳しくは、実際にご覧になっていただくのが一番ですが、研修用に分析したら、改めて、ものすごく計算されているなぁ、と思いました。
特に、冒頭にも書いたように、『起』が説明的になってしまって苦手だ……という人には、本当におすすめの映画です。
ということで、少しは役に立ったでしょうか?役に立ちそうだったら、スキしてもらえると、あらいが、赤子を抱きながら分析した甲斐を、一人噛み締めます。
以上、シナリオ・センターのあらいでした。