見出し画像

息子たちの未来が憂鬱になった。石井光太さんの『誰が国語力を殺すのか』を読んで。

子どもが生まれてから、ぼんやりとした恐怖のようなものがあって、それは、「この子は、人を殺したり、人を傷つけたりする犯罪者になったりしないだろうか」というものなのです。

6ヶ月に満たない息子を抱いて寝かしつけをし、寝たと思ってベッドに置いたら目をぱっちりと開け出して……なんてことを繰り返していく中で、常に頭の片隅になる恐怖なんです。

いや、そんなのまともに育てれば、大丈夫だろう。

と思うかもしれませんが、『まとも』って何よ。どうやるのよ。と思ってしまうんです。だって、どんな親だって、子どもがが犯罪を犯すように育っててはないはずなのに、その中にはさまざまな犯罪があって、犯罪を犯す人がいるわけですから。

たしか作家の川上未映子さんも、『きみは赤ちゃん』のなかで、同じようなことを書いてらっしゃいました。そこ、すごく共感するわけです。

で、そんな中、石井光太さんの『ルポ 誰が国語力を殺すのか』な訳です。本書は、石井さんかさまざまな少年犯罪などを追ってきた中で、蓄積されてきた危機意識から端を発しています。

社会でうまく生きている人たちは、彼らがなぜブラックボックスに入り込んで、長い期間に何をしていたのかがわからない。だから、『自己責任』と言う言葉によって切り捨てる。それが世の中の分断を大きなものにしていき、同じように言葉を持てないものたちが生まれ、新たな社会問題にからめとられていく。
こう考えたとき、私には、近年高まっている日本の国力の低下を嘆く声が、国語力の脆弱さと深く関わっているように思えてならないのだ。「失われた30年」とも呼ばれる時代の中で蔓延していた日本の病理ーコミュ障、孤立、炎上、ヘイト、陰謀論など現在を象徴する社会課題は、国語力の弱さなしには説明しえない。

ルポ 誰が国語力を殺すのか p25

社会のブラックボックスというのは、いままで石井さんが取材をされてきたネットカフェ難民やホームレス、最底辺風俗嬢の方々がいる場所で、その方達に共通しているのが、いろいろな事情によって、想像し、考え、表現するための言葉を奪われいるという点だそうです。

犯罪を犯してしまう、うまく社会の中で生きていくことができないことの原因の一端が、言葉の力だとすると、息子や息子と同世代の子どもたちは、大丈夫なのだろうか、と思えてくるのです。まだ、「ふヘぇ〜」とか「グゥぅぅ」とか「まうまうまうまう」とか言えない、我が子を見ながら……

しかも!

言葉の力というのは、学校の国語の中で培われるはずのものなのに、『ルポ 誰が国語力を殺すのか』を読んでいると、学校も機能不全に陥っているようにも思えてきます。

本書に出てくる小学校長のコメントです。

なんとなくの思いですが、現在の教育のあり方は、子供たちが社会で生きていくために必要な国語力を与えるのに適した仕組みになっているのでしょうか。例えば今さかんに言われている読解力をつけるようみたいな話は、教科書の文章を正確に読ませることのほうに重点が置かれていて、そうした力を養わせることが二の次にされているように思うのですが。私は国語が果たす役割を、もう一度きちんと見積もり段階に来ていると真剣に考えています。

ルポ 誰が国語力を殺すのか p21
 

ぼくも、キッズシナリオという形で、小学校や中学校への出前授業をしています。キッズシナリオ自体は、2010年くらいから始めた活動ですが、その時の問題意識も、実は同じようなところになります。

シナリオの場合は、さまざまな登場人物の立場になって考え、セリフやト書を書きます。シナリオを書くことを通して、想像力、表現力を磨けるのではないかと思い、キッズシナリオを始めました。

現在まで、のべ6000人くらいの小中学生にキッズシナリオを実施してきましたが、確かに、年々、子どもたちのシナリオから面白味のようなものが、少なくなっているように感じていました。
その原因として、こちらのカリキュラムが安定したことによって、皮肉にも、子どもたちの発想をうまく引き出せなくなったのかな、と思っていました。ですが、それ以外にも、原因があるのかもしれません。それは、子どもたちを取り巻く環境と、国語力なのかもしれません。

だからこそ、石井さん『ルポ 誰が国語力を殺すのか』を読んで、憂鬱になってしまいました。そして、読み進めながら、だったらシナリオに何ができるのか、を改めて問い直してみようとも思いました。息子も含め、子どもたちのためにも。

本書の中でも、国語力再生の取り組みが書かれており、そこに、家庭でも、教育の現場でも、自分たちの手でできるヒントが示されています。
演劇的なアプローチについても書いてありました。演劇的なアプローチは、イギリスでもそうですが、一定の効果を発揮すると考えられます。
次回は、この点についても、『ルポ 誰が国語力を殺すのか』をもとに、整理していけたらと思っています。



いいなと思ったら応援しよう!

あらいかずき/シナリオ・センター
シナリオ・センターは『日本中の人にシナリオをかいてもらいたい』と1970年にシナリオ講座を開始。子ども向けキッズシナリオも展開中。アシスト、お願いします!! https://www.scenario.co.jp/project/kids_assist/index.html