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児童福祉①/児童福祉法の全体像

今回は、児童福祉法(のごく概要)について取り上げます。
学校としても、生徒の虐待が窺われる場合等には児童相談所と適切な連携が求められるほか、生徒が児童福祉法に基づく社会的養護のもとにある場合もありますので、制度の概要を把握しておくことは有意義と思われます。
といいつつ、今回は制度の全体を概観するにとどめ、児童相談所や児童虐待をめぐる問題は別の回で取り上げることにします。

社会的養護については、子ども家庭庁のウェブサイトの冒頭にある「資料集 社会的養育の推進にむけて」に非常に詳細な内容がまとまっていますので、併せてご参照ください。


はじめに

児童福祉法の位置づけ

児童福祉法は、後ほど見るとおり、児童福祉に関する実に様々な内容を含んだ総合法規としての性格を有しています。
一方で、各種の児童福祉立法が児童福祉法とは別に制定されてきているほか(児童虐待防止法など)、隣接分野の総合法規(障害者総合支援法、子ども・子育て支援法など)とも関わりがある等、児童福祉法だけで児童福祉が完結しているわけでもありません。児童福祉全体について膨大な体系が形成されている中、児童福祉法はその根幹に位置する法律ということができます。
※ 児童福祉関連法の全体像については、伊奈川秀和『<概観>社会福祉法(第2版)』(信山社、2020)の第8章などを参照。同書147頁以下には児童福祉法のコンパクトな概観もあり。また、石井=中村共編『子どもの福祉・医療・権利擁護 相談支援ハンドブック』(新日本法規、2023)には、児童福祉法に限らず子ども関係の各種制度がまとめられており、貴重。

一般法と特別法という文脈では、社会福祉の一般法としての社会福祉法も重要です。
社会福祉法は、社会福祉に関する事業を第一種と第二種に区別し、第一種社会福祉事業の設置主体は原則として国・自治体・社会福祉法人とし、その他の者には事前許可を義務付けている一方(60条)、第二種社会福祉事業については設置主体の制限はなく、事後届出で足りることになっています(68条の2等)。ただし、特別法としての福祉各法(児童福祉法もその1つ)がこれと異なる規制を課す場合もある点に留意が必要です(第二種の保育所について児童福祉法35条4項が知事の認可を必要としている等。前掲・伊奈川30頁以下)。

社会福祉法2条 (略)
2 次に掲げる事業を第一種社会福祉事業とする。

 (略)
 児童福祉法に規定する乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設又は児童自立支援施設を経営する事業
三以降 (略)
3 次に掲げる事業を第二種社会福祉事業とする。
 (略)
 児童福祉法に規定する障害児通所支援事業、障害児相談支援事業、児童自立生活援助事業、放課後児童健全育成事業、子育て短期支援事業、乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業、地域子育て支援拠点事業、一時預かり事業、小規模住居型児童養育事業、小規模保育事業、病児保育事業、子育て援助活動支援事業、親子再統合支援事業、社会的養護自立支援拠点事業、意見表明等支援事業、妊産婦等生活援助事業、子育て世帯訪問支援事業、児童育成支援拠点事業又は親子関係形成支援事業、同法に規定する助産施設、保育所、児童厚生施設、児童家庭支援センター又は里親支援センターを経営する事業及び児童の福祉の増進について相談に応ずる事業
二の二以降 (略)

児童福祉法の目次

児童福祉法には実に様々な内容が規定されており、法律自体もかなり長いので、その全体像を把握するのも一苦労です。このことは、以下に掲げる児童福祉法の目次をご覧いただくとよく分かるかと思います。

第一章 総則(1条~)
 第一節 国及び地方公共団体の責務
 第二節 定義
 第三節 児童福祉審議会等
 第四節 実施機関
 第五節 児童福祉司
 第六節 児童委員
 第七節 保育士
第二章 福祉の保障(19条~)
 第一節 療育の指導、小児慢性特定疾病医療費の支給等
  第一款 療育の指導
  第二款 小児慢性特定疾病医療費の支給
  第三款 療育の給付
  第四款 雑則
 第二節 居宅生活の支援
  第一款 障害児通所給付費、特例障害児通所給付費及び高額障害児通所
      給付費の支給
  第二款 指定障害児通所支援事業者
  第三款 業務管理体制の整備等
  第四款 肢体不自由児通所医療費の支給
  第五款 障害児通所支援及び障害福祉サービスの措置
  第六款 子育て支援事業
 第三節 助産施設、母子生活支援施設及び保育所への入所等
 第四節 障害児入所給付費、高額障害児入所給付費及び特定入所障害児食
     費等給付費並びに障害児入所医療費の支給
  第一款 障害児入所給付費、高額障害児入所給付費及び特定入所障害児
      食費等給付費の支給
  第二款 指定障害児入所施設等
  第三款 業務管理体制の整備等
  第四款 障害児入所医療費の支給
  第五款 障害児入所給付費、高額障害児入所給付費及び特定入所障害児
      食費等給付費並びに障害児入所医療費の支給の特例
 第五節 障害児相談支援給付費及び特例障害児相談支援給付費の支給
  第一款 障害児相談支援給付費及び特例障害児相談支援給付費の支給
  第二款 指定障害児相談支援事業者
  第三款 業務管理体制の整備等
 第六節 要保護児童の保護措置等
 第七節 被措置児童等虐待の防止等
 第八節 情報公表対象支援の利用に資する情報の報告及び公表
 第九節 障害児福祉計画
 第十節 雑則

第三章 事業、養育里親及び養子縁組里親並びに施設(34条の3~)
第四章 費用(49条の2~)
第五章 国民健康保険団体連合会の児童福祉法関係業務(56条の5の2~)
第六章 審査請求(56条の5の5~)
第七章 雑則(56条の6~)
第八章 罰則(60条~)

このうち、中核になるのは第二章です。第二章において、実施されるべき児童福祉サービスや措置の内容が定められており、このようなサービスや措置のそれぞれに関する細目(実施主体や施設の要件など)が、第二章やその他の章で定められているという構造になっています。

各種の支援・措置

支援・措置①:概要

児童福祉法第二章で登場する児童福祉に関する支援・措置は、概ね以下のとおりです。

【第一節 療育の指導、小児慢性特定疾病医療費の支給等】
身体障害児や要療養児に対する保健所の療育指導(19条)
小児慢性特定疾病医療費の支給:同疾病の認定を受けた児童等が指定医療機関で所定の医療を受けた際の、医療費の助成(19条の2)
都道府県による小児慢性特定疾病等自立支援事業(19条の22)
結核の児童に対する都道府県の療育給付(20条)

【第二節 居宅生活の支援】
障害児通所給付費等の支給:指定事業者から児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援を受けた際の利用料の助成(21条の5の3, 4、6条の2の2)や、指定事業者から肢体不自由児通所医療を受けた際の医療費の助成(21条の5の29)
上記支給を受けられない場合の現物給付(21条の6)
市町村による子育て支援事業の実施(21条の9)

※子育て支援事業とは、放課後児童健全育成事業、子育て短期支援事業、乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業、地域子育て支援拠点事業、一時預かり事業、病児保育事業、子育て援助活動支援事業、子育て世帯訪問支援事業児童育成支援拠点事業及び親子関係形成支援事業その他施行規則で定める事業をいいます(21条の9、6条の3)。また、太字にしたものは「家庭支援事業」と総称されます(21条の18)。

【第三節 助産施設、母子生活支援施設及び保育所への入所等】
・都道府県等による助産施設における助産の提供
(22条)
・都道府県等による母子生活支援施設における保護
(23条)
・都道府県等による妊産婦等生活援助事業の実施
(23条の2、6条の3-18項)
市町村による保育の実施:認定こども園又は家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業若しくは事業所内保育事業による必要な保育の確保(24条)

第四節 障害児入所給付費…の支給
障害児入所給付費等の支給:指定の障害児入所施設・障害児入所施設(7条1, 2項)に入所した際の費用等の助成(24条の2-24条の8)

【第五節 障害児相談支援給付費及び特例障害児相談支援給付費の支給】
・障害児相談支援給付費の支給
:障害児通所給付費等の申請を行った際に障害児支援利用計画案の提出を求められた保護者が、指定事業者から障害児支援利用援助(6条の2の2第7項)を受けた際の費用の助成/障害児通所給付費等を受けている児童の保護者が、指定事業者から継続障害児支援利用援助(同8項)を受けた際の費用の助成(24条の26)
特例障害児相談支援給付費の支給(24条の27)

【第六節 要保護児童の保護措置等】
【第七節 被措置児童等虐待の防止等】
 →別の回で取扱予定

【第八節 情報公表対象支援の利用に資する情報の報告及び公表】
こちらの情報検索システムに関する規定(33条の18)

【第九節 障害児福祉計画】【第十節 雑則】(略)

支援・措置の内容に着目すると、概ね次の9パターンに分類できます。

(独)福祉医療機構のWAMNET「児童福祉制度の概要」より

支援・措置②:事業

前節でいくつかの○○事業に言及しましたが、児童福祉法上の事業を改めて整理すると、障害児通所支援事業、障害児相談支援事業(以上、6条の2の2)、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)、放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)、子育て短期支援事業、乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん)、養育支援訪問事業、地域子育て支援拠点事業、一時預かり事業、小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)、家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業、病児保育事業、子育て援助活動支援事業(ファミリーサポートセンター)、親子再統合支援事業、社会的養護自立支援拠点事業、意見表明等支援事業、妊産婦等生活援助事業、子育て世帯訪問支援事業、児童育成支援拠点事業、親子関係形成支援事業(以上、6条の3)があります。

このうち、児童自立生活援助事業、小規模住居型児童養育事業、親子再統合支援事業、社会的養護自立支援拠点事業、意見表明等支援事業が前節で登場しなかったのは、いずれも「別の回で取扱予定」とした第6節、第7節に関係する事業であるためです。

親子再統合支援事業、社会的養護自立支援拠点事業、意見表明等支援事業、妊産婦等生活援助事業、子育て世帯訪問支援事業、児童育成支援拠点事業、親子関係形成支援事業は、いずれも2022年6月成立・2024年4月施行の改正児童福祉法で新設された事業です(同改正については次回扱う予定)。

第三章の前半では、これらの事業の1つ1つについて、民間事業者が事業を開始するにあたって必要となる届出や満たすべき基準等の事業に関する細目が定められています(具体的な内容のほとんどは児童福祉法施行規則に委任されています)。

支援・措置③:施設

児童福祉法上の児童福祉施設には、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター及び里親支援センター(7条1項)があります。それぞれの施設の趣旨は、36条から44条の3に規定されています。

児童福祉施設の設備及び運営については、条例で基準が定められることになっています(45条1項。東京都の例)。
その他、児童福祉施設の長と親権の関係に関する重要な規定がありますが(47条)、これについては別の回で取り扱います。

前節で見た各事業の中にも、施設において実施されるものがありますが、これと児童福祉施設は別物である点に留意が必要です。
「児童福祉施設」ではない社会的養護に関する施設としては、自立援助ホーム(児童自立生活援助事業)やファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)、一時保護所(詳細は別の回)等があります。
また、「シェルター」と呼ばれる施設もありますが、これには一時保護所の別棟として運用されているもの、児童自立生活援助事業に基づくもの、婦人保護法を根拠とするもの、更生保護法を根拠とするもの(自立準備ホーム)、生活困窮者自立支援法を根拠とするもの、民間の自主的取組により運営されているもの等、様々な形態があるようです。
各種施設の実情については、子ども家庭庁のウェブサイトのほか、小川恭子=坂本健編『実践に活かす社会的養護II』(ミネルヴァ書房、2023)等が参考になります。

ちなみに、いわゆる「認可外保育園」は、以下のとおり、家庭的保育事業等又は保育所の業務を行う施設であって、対応する認可を受けていないものを指します。

第五十九条の二 第六条の三第九項から第十二項までに規定する業務【注:家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業】又は第三十九条第一項に規定する業務【注:保育所業務】を目的とする施設(少数の乳児又は幼児を対象とするものその他の内閣府令で定めるものを除く。)であつて第三十四条の十五第二項【注:家庭的保育事業等の認可】若しくは第三十五条第四項の認可【注:児童福祉施設の設置認可】又は認定こども園法第十七条第一項の認可【注:幼保連携型認定こども園の設置認可】を受けていないもの(略)については、その施設の設置者は、その事業の開始の日(略)から一月以内に、次に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない。(略)
以降 (略) 

支援・措置④:里親

第三条の二 国及び地方公共団体は、児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう、児童の保護者を支援しなければならない。ただし、児童及びその保護者の心身の状況、これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案し、児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあつては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう、児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあつては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう、必要な措置を講じなければならない。

里親も、社会的養護の重要な担い手です。
平成28年児童福祉法改正で3条の2が新設され、家庭養育優先の原則が示されました(同改正については、吉田真理「児童虐待の発生予防から自立支援までの一連の対策の更なる強化等」時の法令2013号13頁)。
これを受けて、2017年に取りまとめられた「新しい社会的養育ビジョン」では、里親委託率の向上に向けた取組が謳われています。この取り組みは、現在でも引き続き実施されています(こちらの資料の191頁)。

特に就学前の子どもは、家庭養育原則を実現するため、原則として施設への新規措置入所を停止する。このため、遅くとも平成 32 年度までに全国で行われるフォスタリング機関事業の整備を確実に完了する。
具体的には、実親支援や養子縁組の利用促進を進めた上で、愛着形成等子ど もの発達ニーズから考え、乳幼児期を最優先にしつつ、フォスタリング機関の整備 と合わせ、全年齢層にわたって代替養育としての里親委託率(代替養育を受けている子どものうち里親委託されている子どもの割合)の向上に向けた取組を今から開始する。これにより、愛着形成に最も重要な時期である3歳未満については概ね5年以内に、それ以外の就学前の子どもについては概ね7年以内に里親委託率75%以上を実現し、学童期以降は概ね10 年以内を目途に里親委託率 50%以上を実現する(平成 27 年度末の里親委託率(全年齢)17.5%)。

新たな社会的養育の在り方に関する検討会「新しい社会的養育ビジョン」3-4頁

おわりに

令和4年改正についても取り上げるつもりでしたが、長くなってしまったので一度ここで切り上げます。

前回に続いてまたもや言い訳めいた記載で恐縮ですが、児童福祉・社会的養護の分野では、第一線で活躍されている素晴らしい弁護士の先生方が全国各地に多数おられます。児童福祉法についても、当然ながらそういった先生方の方がはるかに優れた知見をお持ちであり、私などは足元にも及びません。今回は、児童福祉の専門家ではなくても、学校に関わる上で知っておくべき知識という観点から、児童福祉法の概観を試みましたが、もし記載内容に誤りなどありましたら、お手数ですがコメント等でお知らせいただけますと幸甚です。


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