第14回「Scarlett」

割引あり

少し昔話をする。
「みんな感動ポルノが好きなの。24時間テレビとか、BGTだってそうじゃない」
そういうことを平気で言う女の子がいた。
彼女はちゃんとした住所が無くて、色んなところを転々としていた。
去年は石川、今年の春には仙台にいて、夏に池袋、秋には三重、愛媛。そして冬にまた池袋に戻ってきていた。
全国に春を届ける仕事だった。

出会ったのはゲーセンだ。
クレーンゲームに2、30クレくらい突っ込んで全然取れないで頑張ってるのを横目にタバコを吸っていたら目があって「お兄さん、500円貸すから取ってよ」少しふてくされたような顔をしていた。
取れなくても恨みっこなしね、そう言って半分も吸ってないマルボロを灰皿に投げ入れ、一発目でぬいぐるみを取ったのがきっかけだった。
彼女の名前は、ここでは「」としておく。
Rは、お世辞にも万人受けするような完璧な美人ってわけじゃなかった。でも、喜怒哀楽がはっきりしていて、そこは人に好かれるだろうなとも感じさせた。あとまぁ、服の上からも分かるくらい胸は大きかった。見た目にほとんど無精者のボクとは違って、ネイルだったり、エクステだったり、見た目にすごく気を使ってる子だった。
しゃべりが上手だった。
相手から投げてきたボールを受け止めて、こっちに投げ返す時にはちゃんと取りやすい所に投げ返す、そういう基本的な対人能力が高い子だった。
グチっぽいことや不平不満はほとんど言わず、面白いこと、楽しいこと、勉強になること、時たま政治とかの話をした。
お互いの仕事の話になっても「そういうの作ってる人、初めて見た」と驚かれた。ボクも水の仕事をしている人は当時初めてだった。
何人かの知り合いはご存知だと思うが、ボクは本質的には対人恐怖症で喋るのが苦手だ。人間不信で、絶対に踏み込まれたくない場所に触られると辺り構わずキレ散らかす。だから嫌われたくないし、ネガティブな印象を持たれないように必死に取り繕ってるだけだ。
テキストで嘘を八百個ほど覆い被せてでないと自分のことが語れないし、時にはまるきりのフィクションを書く。
そういう人間だからRみたいな子との会話は新鮮だったし、楽しかった。
自分もちゃんと普通のボールが投げられるんだよ、と気づかせて貰った。
つねに160km/hのボールでキャッチボールするようなバカはいない。
けれど投げるボールが遅すぎても面白くない。
Rの投げるボールは、緩急があってもどれも受け止めやすくて、それでいてこっちが少し強いボールを投げても受け止めてくれた。
今の自分の喋りとか、対人方法は彼女の影響を少なからず受けている。
キャッチボールの名手とは、相手に気持ちの良いボールを投げさせる能力が高い人のことだ。野球のキャッチャーが「女房役」などと言われるのもこれが理由なのかもしれない。

そんなRにある時言われた。
「赤坂くんはこっちに来ちゃダメだよ」
「きっとキミは抜け出せなくなる」
暗にそういうニュアンスを含ませた言葉だった。
その言い回しが彼女にしては珍しくて、踏み込もうとしたけれど、踏み出せなかった。
そこには境界線があった。
当時から、ボクの文章はまだギリギリお日様の光が届く場所にあった。
インディーズ、同人、ゴーストライティング。人に見られない、名前の出ないテキスト仕事は、ビルとビルの間に差すほんの僅かな陽の光だけれど。
だけど、自分はそれすら当たらない所にいるんだ、と。Rはボクとの間に明確な線を引いてきた。
一度だけ、彼女と寝た時に言われた言葉だった。
彼女は明日食うご飯のために自分の体を売る人だ。
公にバレたくないから、税務署には収入ほぼゼロで申告しているし、貯金通帳にはほとんどお金を入れない。ちゃんとした住所もなければ、地元みたいな場所も無いと言っていた気がする。性病、感染症の恐怖に常に晒されているし、化粧の繰り返しと内外の体のメンテナンスで心も体も削られていた。
お金のやり取りもない、恋愛感情とかでもない、友情ともまた違う何か。お金を払ってでも彼女を抱きたい男がゴマンといる中で金銭の介在しない、ボクと彼女なりのキャッチボールの一つがそれだった。

季節が変わって、池袋からRがいなくなった。
彼女とはそれきりだ。こっちから連絡もしていないし、向こうからメールや電話もない。今何をしているのかも知らない。
彼女が池袋から姿を消したのは一度や二度ではない。季節風に乗って飛ぶ渡り鳥なのだから、きっと別の所で仕事をしているのだと理解していた。
季節が2、3度変われば池袋に戻ってきて、またゲーセンでタイムクライシスをやったり、夜中のマックやファミレスに呼び出されてはマンガやゲームの話をするのだろうと思っていた。
だから、今度もまた季節替わりにふらっと池袋に戻ってくるだろうと思ったのだけれど……結局、その後再び出会うことはなかった。
また会いたいか、と言われたら、ちょっと答えに悩む。
ゲーセンで出会った人たちと言うのは、結局どちらかの水域が変わってしまったのなら、きっと会わない方が良い、とは思う。たまたま同じ場所で、同じような水が合ったから泳いでただけなのだから。

……っていうネタを思いついたんで、誰かマンガとかCG集とか作らないですかね? やってみたいって言う絵描きさんとか漫画家さん、編集さんいたら、声かけてください。もう少しいろいろ膨らませて本とかにしたら面白そうな気がします。

最近エロゲの話おおくね?

すいません、書き溜めてるネタはいくつかあるんだけれど、仕上がるものがエロゲばかりでして。
まぁ、そんなこっちの事情はおいといて。
今日の話はねこねこソフトさんの「Scarlett」の話だ。
……正直言って良い?
ボク、ねこねこさんの作品で「朱-Aka-」の次に好きな作品がこれ。三位が「銀色」。
ある意味で、本作は一番ねこねこらしくない作品でありながら、もっともねこねこの色の強い作品だなと個人的には感じる。
なにより「やりたいことを、やりたいだけやって、辞める」そんな主人公の一人である「別当・和泉九郎・スカーレット」の在り方はプレイした当時の自分にとっても親近感が湧いたし、今の自分も彼の行動スタイルに影響を受けている。

ねこねこさんの作風と言えば「日常」が常にある。
何気ない学生生活、ドタバタコメディ、柔らかい恋愛感情だったり、シリアスな離別、そういう普通の人の、普通の日常。
作品内の時代が変わり、舞台が変わり、それでもそこにある「日常」を常にメインテーマにおいてきたわけだ。
では「日常」と「非日常」の境目とはどこにあるのだろうか。
そこに対してある意味わかりやすく究極の結論的な形で回答しようとした作品だろう。
物語は、もうひとりの主人公「大野明人」が沖縄の米軍基地のフェンス、日常の向こう側を超えた所から動き出す。
現実の話に引き戻すようで申し訳ないが、ボクが慣れ親しんだ横須賀にも米軍の基地がある。
そのフェンスは、やはり高くて、トゲトゲとしていて、それでいて、その気になれば超えられる形をしている。どこかで書いた気もするが……ボクも幼少期、そのフェンスを一度だけ超えたことがある。ちょっとした冒険だった。あとでひどい雷が落ちたのは明確に記憶しているが……まぁ、一般人が踏み超えてしまったら、殺されても文句が言えない一線だ。

Shoot away, gloomy sky

本作のテイストはこれまでのねこねこソフトさんの作品と比較し、かなりハードボイルド色の強い……言ってしまえば007をより2000年代らしい、今風に仕上げた作品、と言えば良いだろう。
物語序盤から銃、兵器、衛星技術などのガジェットが飛び出す。
しかし007のような暴力的な解決がメインにはない。
より政治的、経済的なやり取りによる決着は、シナリオ的にもかなり熱い展開である。「殺したほうが放っておくよりもはるかに厄介」と称される諜報家たちが繰り広げる情報戦が本作の主なテイストなのだが、時には小国が一つ二つ平気で吹き飛びかねない事態にまで発展し、ヒロインに至ってはガンプラと同じレベルで自家用のヘリコプターを操ったり、海上自衛隊を動かしたり重要ネットワークへハッキングを仕掛けたりとなかなかに爆発力が高い。エンタメとしては、しっかりと007と比肩出来る。
細かい所で言うと、路駐の違反ステッカーを「青ナンバーに切符切るほうが悪い」と無視を決め込んだり、完全に私的でステルス戦闘機を持ち出したりと境界線を超えた先の人たちは、やることの規模が何もかもマジでデカイ。
それでいて、普通に学校に通ったり、休日にはジオンだ連邦だとガンプラ片手に力説したりと、話の規模の落差が(すごく良い意味で)凄いんですわ。

と、ここまでの話で気になった人はこんな記事を読んでいる場合じゃない。中古ショップでPC版が500~1500円、PS2版でも3000円くらいで買えるから、買っとき。PC版もWin10で普通に動くから。

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