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【数学】ド・モアブルの定理の逆関係と高次方程式

 $${ (\cos θ+i\sin θ)^n=\cos nθ+i\sin nθ }$$

 これは数 C でお馴染みド・モアブルの定理である。複素数平面における最重要定理であることもさることながら、教科書や参考書に載っている以上に広い応用性を秘めている。
 分かりやすいところではベクトルや二次曲線の回転、複雑な漸化式なんかも作れちゃうし、指数対数と融合すればかの有名なオイラーの等式を導き出すことさえできる。
 そんなド・モアブルの定理だが、その応用の幅をぐんと広げてくれる使い方があるのをご存知だろうか?

 $${ (\cos φ+i\sin φ)^n=\cos θ+i\sin θ }$$
 を満たすとき、
 $${ φ=\frac{θ+2kπ}{n} }$$
 $${(0≦k \verb|<| n) }$$
 が成り立つ。(言うまでも無いが k と n は自然数)

 僕はこれを、ド・モアブル定理の逆関係と呼称している。

 では、数学の世界においては何事も「公式や定理を覚える」ことよりも「それを理解してどのようにして使うか」の方が遥かに重要なので、早速面白い使用例を持ってきた。

 $${ x^6-9x^5+33x^4-63x^3+63x^2-27x+3=0 }$$ を解け。

 …いきなり 6 次方程式を見せられて日和ってる読者も多いと思うが、いったん落ち着いてほしい。もう少し考えたいという同志はここで記事を閉じてもよい。

 …いきなり 6 次方程式を見せられて日和ってる読者も多いと思うが、いったん落ち着いてほしい。

 ❇️ Hint ❇️
 どうしても解法が思いつかないようであれば、この式を $${x^2-3x+3}$$ で割ってみな。何か気づくことがあるから。

 Hint という名のナーマギリ女神を使うと、以下のように変形できる。

 $${ x(x-3)(x^2-3x+3)^2+3=0 }$$
 $${ (x^2-3x+3)^3-3(x^2-3x+3)^2+3=0 }$$

 3 がいっぱい‼︎ やったね‼︎
 もうここまで来たら、$${ t=x^2-3x+3 }$$ と置いちまおう。
 $${ t^3-3t^2+3=0 }$$

 次数を 6 から 3 に減らすことができた。一般的な数学得意な高校生でも流石にカルダノの公式は知らん人の方が多いと思うので、簡単に説明する。

カルダノの公式

 $${ X_1= ^3\sqrt{-q+\sqrt{p^3+q^2}} + ^3\sqrt{-q-\sqrt{p^3+q^2}} }$$
 $${ X_2= ω•^3\sqrt{-q+\sqrt{p^3+q^2}} + ω^2•^3\sqrt{-q-\sqrt{p^3+q^2}} }$$
 $${ X_3= ω^2•^3\sqrt{-q+\sqrt{p^3+q^2}} + ω•^3\sqrt{-q-\sqrt{p^3+q^2}} }$$

 ただし、$${ ω=\frac{-1±\sqrt{3}i}{2} }$$ のいずれか一方とする。

 これが俗にカルダノの公式と言われている 3 次方程式の解の公式である。
 この公式を使うには 2 次の項を消去する必要がある。
 $${ x^3+ax^2+bx+c=0 }$$ について、$${ x=X-\frac{a}{3} }$$ と置くだけで消すことができる。要するにただの平行移動だ。何も特別なことはしていない。
 X で置換した方程式を以下のように表し、さっきの公式に突っ込むだけである。
 $${ X^3+3pX+2q=0 }$$

 $${ t^3-3t^2+3=0 }$$ について全く同じことをやると、
 $${ t = T-1 }$$ , $${ T^3-3T+1=0 }$$ より、$${ p=-1 , q=\frac{1}{2} }$$ であるから、
 $${ t=1+^3\sqrt{\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}}+^3\sqrt{\frac{-1-\sqrt{3}i}{2}} }$$
 ???

 困惑した同志諸君。もう怖く無い。
 ここに来てド・モアブルの定理の逆関係を使うことができるのだから。

 複素数の極形式を扱うときは、偏角を $${ 0≦θ<2π }$$ と表すよりも $${ -π<θ≦π }$$ と表す方が都合が良い。
 $${\cos(-θ)=\cosθ}$$ , $${\sin(-θ)=-\sinθ}$$ より、共役を非常に分かりやすく表現できることが分かる。

 $${ \frac{-1±\sqrt{3}i}{2} = \cos (\frac{2π}{3})±i\sin (\frac{2π}{3}) }$$

 ここで、ド・モアブルの逆関係より、
 $${ (\cos φ+i\sin φ)^3=\cos \frac{2π}{3}+i\sin \frac{2π}{3} }$$ であるから、
 $${ 3φ≡\frac{2π}{3} }$$ , $${ φ=\frac{2π}{9},-\frac{4π}{9},\frac{8π}{9} }$$ となり、
 $${ t=2\cos \frac{2π}{9}+1 , 2\cos \frac{4π}{9}+1 , 2\cos \frac{8π}{9}+1 }$$ である。

 実はこの操作には 3 次方程式を解く上で非常に重要な 2 つの要素を含んでいる。
 2 次方程式では平方根なので単に ± とすればよかったところ、3 次方程式ではまず 1 つの立方根を取ってから更に $${± \frac{2π}{3} }$$ ずつ回転させる必要がある。この $${± \frac{2π}{3} }$$ というのは、1 の虚立方根 $${ ω=\frac{-1±\sqrt{3}i}{2} }$$ の偏角を表している。
 また、カルダノの公式において立方根の内部が虚数となるとき、最終的に共役複素数の和となって虚部が対消滅し、3 つの実数解を持つことが分かる。三角関数を用いると実数解であることが分かりやすいのだが、冪根を用いた通常の表記で表そうとしてもうまくできないことが判明している。この事実に直面したことで、人類は複素数という存在を明確に認識することとなったのである。

 さて、最終的には 3 つの t に対して平方完成を用いて対応する x の 2 次式を解くことによって 6 次式の解を得ることになる。実数解 4 つ、虚数解 2 つである。

 $${ x=\frac{3±\sqrt{8\cos \frac{2π}{9}+1}}{2}}$$
, $${ x=\frac{3±\sqrt{8\cos \frac{4π}{9}+1}}{2}}$$
, $${ x=\frac{3±\sqrt{8\cos \frac{8π}{9}+1}}{2}}$$

 おつかれさんした〜!

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