映画『シック•オブ•マイセルフ』感想

※多少のネタバレを含みます。

 クリストファーボルグリ監督作品、『シック•オブ•マイセルフ』を一言で表すならばポリコレ時代のファイトクラブといった印象でした。ファイトクラブのように日常に対する不満や怒りの発散を外部に放出することができず、薬という内向きの方向性へと発散させていく自己破滅的な部分が現代という時代との親和性を感じました。しかしどちらも、自己の現状に対する不満を破滅的に解消していこうとする勢いを描いている点は共通点なのではないでしょうか。

 作風全体としては、ヨーロッパ系の監督らしい雰囲気(ハネケとかオストルンドみたいな)がある作品で、日常に潜む気まずさの演出が秀逸で好きです。周囲の人物の目線を極端に気にしてしまう自意識過剰な人々。顔のクローズアップのカットを通した目線の合わせ方は特に秀逸でした。

 作品の中での隠されたテーマとして優れていると感じたのは家族の問題です。主人公のシグネは父親との関係が悪い事がシグネの脳内妄想の中で示唆されるのですが、これが作品全体に深みをもたらしている事は間違い無いと思います。家族の関係は主要なテーマでないのですが、主人公の人格や行動が家庭環境という映画内の時間軸の外側の要素から伸びてきている事で、主人公のキャラクターに対する説得力が一層増していると感じました。

今作品は完成度が高く、現代のポリコレ界の権力はどこにあるのかという問題などなど数多くのテーマを取り扱っています。承認欲求モンスターのように主人公を一面的に描いている事は全く無い作品です。

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