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『パラノーマルアクティビティ』のラストに文句を言う人が見逃している「スピルバーグの難しさ」問題【フェイクドキュメンタリーを止めるな!】

フェイクドキュメンタリー系のホラー映画が大好きという側面もある私、

このマガジンでも色々なその手の映画のレビューをこれまで書いてきましたが、

今回は『パラノーマルアクティビティ』について、ぜひ、言わせてもらいたいことがある、ので、言わせてください!

いや、この映画を

背景情報なしで、しかも、自宅でスマホの画面などで視聴した人たちの意見は、

そりゃ、わかりますよ。

「フェイクドキュメンタリーホラー映画の傑作だというから見たけど、意外と普通だった」「地味だった」「俳優の演技にノレなかった」云々って言いたいのでしょう?そりゃあこれをスマホの画面で見てしまったらね、、、

それに、そもそも、そういうことを言う人たちは、

この映画が破格の超低予算で作られたにも関わらず、かのスピルバーグの目にとまり、絶賛されたことで全世界公開にまで話が進んだという、一種のアメリカンドリーム溢れる背景で出てきた奇跡的な作品であるということを恐らく知らない!

そういう、

「制作事情に関する背景知識があるのとないのとで、評価が変わってしまう映画というのは、本当の意味でよい映画作品なのか?」という哲学的な議論は、ここではいったん措くとして、、、

私はこの映画をリアルタイムで映画館で見た者なわけですが、

「こういう学生映画のような低予算、地味な撮影方法の作品が、全世界公開になって莫大な名声を得られるなんて、やっぱりアメリカ映画ってすげえな」とヤキモチのような気持ちで見た。

そんな目で見る以上、むしろ低予算が感じられるところ、地味なところに、つくづく好感を持ててしまうような見方になったわけですよ。

そしてそういう「低予算でどれだけ効果的に観客を怖がらせられるか」という「怖さの費用対効果」(w)ばかりが気になると、『パラノーマルアクティビティ』、実によくできてると思うた。

なにせ初視聴時の私、主演二人の縁起のぎこちなさすらも、もしかしたらわざと「ぎこちない演技」をさせることで観客の不安感を高めようとする計算なのでは、と疑ってしまったくらいなのです!(まあつまりこの映画、見ているうちに、この二人の主人公に対して観客がある種の不信感を持つように作られてるんですよね、、、)。

だがしかし!

私がこの映画についてもっとも語りたい論点は、実は、ここからです!

↓↓↓

あのラストですよね?

はい、わかってます!

あのラストが「ありなのか?」ってことですよね?ハイ

実は、先ほども名前が出たスピルバーグ監督、

この映画を全世界公開にもっていくにあたり、

唯一、撮り直しを指示したのが、

くだんのラストシーンだったと言われています。

この話を信じるならば、劇場公開時のラストシーンは、スピルバーグの指示だった可能性がある。それがつまり、問題になったオチ。

※ここからはさすがにネタバレなしでは語れないので、以下、ラストシーンのネタバレをさせていただきます。ネタバレを避けたい方は退避ください!

では、

ネタバレ5秒前!

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では劇場公開版の、問題のラストシーンについて語りましょう!

まあ、本当にネタバレを最小限に切り詰めて簡潔に話せば、

この映画は主人公カップルの寝室に据え置きにされた固定カメラからの映像である、という点が特徴なのですが、

ラスト、登場人物の一人が、いきなりカメラ目線になって、凄まじい形相でカメラに飛びかかってきて、そこでカメラが倒れて画面が切れて、終わるのですな。

オオマジメな話をするならば、こんなことは普通、フェイクドキュメンタリー系映画では絶対に、やってほしくないこと。

登場人物が今まで意識してなかったはずのカメラをいきなり意識して、確実に「観客」を驚かすようなタイミングと構図でカメラに向かってくるなんて。

せっかくの「フェイク」のための仕掛けも、こんなことをラストでやられたら、すべて、ぶち壊しでありんす。

これはだめだろう!

、、、普通は、ね。

本来ならフェイクドキュメンタリーの枠をぶち壊しにするこのような演出には厳しく文句を言う筈の私だが、

『パラノーマルアクティビティ』については、意外や意外、本来はアウトなはずのこの「設定枠ぶち壊し」なオチが、むしろふさわしい気がしています。

なぜ私はそう感じたのか。

単純に、私がこの『パラノーマルアクティビティ』を映画館で見たからであるw

そして、

リアルタイムで映画館視聴した時、あとのラストシーンで、まさに劇場中から「おううう!」と全員が恐怖のあまりいっせいに声を上げた、、、そして劇場が明るくなった途端、「ふうーっ、びっくりしたー、アハハハハ」と楽しげな笑い声が映画館中に溢れたからである。

そのあと、映画館を去る人々は口々に、

「あんなオチはない」「ただのオドカシだ」「設定ぶち壊しだ」と文句を言っていたが、

どちらかといえばみんなニコニコと、「してやられた」感で気持ちよく文句を言っていたのが印象的でした。なんとも面白い現象でした。

そんな映画館での体験をした私は、『パラノーマルアクティビティ』の大胆なオチを評価いたします。あれは低予算地味演出映画の最後に、いきなり最後だけ雰囲気を変えて観客をビビらせるための「ぶった斬りオチ&逃げ切り」大作戦だった。

そしてあのオチを見た時、映画館で見も知らぬ大勢の人たちと同じタイミングで悲鳴をあげてしまった自分を発見した時の言いようのない「うまくやられた気持ち良い感覚」が狙いのすべてでしょう。

つまり、『パラノーマルアクティビティ』は、そもそもが、まるで一発芸人のネタのように鮮度が大事なホラー映画、

「無名の監督が低予算で作った映画なんだって?どんなもんなのかなあ?」と好奇心メインで映画館に集まった観客を「キャッ」と驚かせるために賭けていた映画とも言える。

これを、ある程度、有名になってしまった後で、明るい自室でスマホの小画面で見た人が「有名作なわりにはイマイチ」と感じてしまうのは当然かもしれん。難しいことを言うようですが、どうか『パラノーマルアクティビティ』は、まだクチコミ情報も流れてきていない状態で映画館に集まった観客のつもりで、真っ白な心持ちで向き合ってほしい!

そして、かような「突然のドッキリオチ」を指示したのが、どうやらスピルバーグだった、という情報も、私にはなんだか信憑性がある。

そもそも、スピルバーグ監督という人は、「映画館で見ている観客」をガッツリ想定して映画を作り込む人だということが、どうも忘れられがちだと思う。『ジュラシックパーク』も、『プライベートライアン』も、クチコミ情報すらまだあまり出ていない公開初日段階で映画館に来た人に、「初見ビックリ」をしてもらう効果を徹底的に狙ってるw。『ジュラシックパーク』や『プライベートライアン』をスマホの小さい画面で見て「有名作だけど私にはイマイチだった」と言っている方は大きな損をしてる、、ぜひ、映画館でリバイバル上映がかかった時に大画面と大音響で見てほしい!

『パラノーマルアクティビティ』も実はそうで、あれは公開初日段階に、「無名監督が超低予算で作った映画?ふん、どんなもんだかお手なみ拝見と行こうじゃないか」と上から目線で集まった観客を想定している作品と思います。そしてそんな観客を、いささかアラワザで「ぎゃふん」と言わせたあのラストシーンが、スピルバーグのアドバイスになるものだったとしたら、なんだか私にはとてもよくわかるオハナシと思えるのです。

※最後に、、、私自身がスティーブン・スピルバーグという監督のことが大好きなので、この機会に申し上げますが、スピルバーグ監督作品というのは概してなかなか単純ではない!上述した『パラノーマルアクティビティ』の他にも、いろんなところで、「物語の筋としてはおかしい飛躍」「自分で設けたはずの設定を突然無視」「たまに物理法則の無視w」すらも、迫力ある構図を確保するために平気でやってくる大胆不敵な人なのです。『ジュラシックパーク』なんて、見ている間はあんなにスリリングで楽しいのに、見終わった後によくよく頭の中で検証すると、あれほど登場人物の動きの前後関係とか、あるべき距離移動やらあるべき時間経過やらがいろいろ無視され物理学が捻じ曲げられてる映画もないw。「映画館に来てくれた人が映画館でいる間に『おおっ』と驚いて、その気持ちで帰ってくれればそれでよいので、後になってから『前後関係がおかしい』とか『時間経過がおかしい』とかネットに書き込まれてくる意見はほっとけ」と割り切ってる人ということで、スピルバーグは一周まわったアバンギャルドなのかもしれない、、、実は批評するのがとても難しい監督だったりするのです。

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