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Photo by
fresnel
虐殺された人々の遺骨と宇宙誕生の秘密との出会い(映画『光のノスタルジア』を観て)
解説文を鑑賞前に見た限りでは、
てっきり「宇宙の秘密に迫る天文学のハナシ」かと思っていた、
チリのドキュメンタリー作家、パトリシオ・グスマン監督の『光のノスタルジア』。
哲学的といってもよいような深いテーマを扱った力強いドキュメンタリー映画でした
舞台は、チリのアタカマ砂漠。
この砂漠は天体観測に最適で、世界中から宇宙の謎に迫る天文学者が集まってくる、という話と、
この砂漠にはかつてチリ独裁政権が収容所を作り、たくさんの人々がそこで拷問を受けて虐殺され、その多くはいまだに遺骨が見つかっていない、という現代史の話が組み合わされる。
「宇宙の遠くを見るテクノロジーが世界中の協力で進んでいるのに、なぜ私たちの夫や息子の死体を探すことが、こんなにも絶望的に見捨てられているのかしら?」
という痛烈な問いを重ねながら、
砂漠で今日も虐殺遺体の発掘にいそしむボランティアの女性たち。
映画の最後では、天文学者がそんな彼女たちを天文台に招待し、
殺された家族の死体を探し続ける過酷な仕事をしている彼女らが、そのときだけ、少女に返ったようにハイテク望遠鏡を覗いて興奮した笑顔を見せてくれます、泣けますね。
「殺された人々の骸骨も宇宙誕生のビックバンの際に発生した物質(カルシウム)でできている」というナレーションが印象的に響く、鎮魂の映画です。
残酷な現代史の暗黒面をえぐり出しつつ、決して絶望に陥らないグスマン監督の視線にこのたびも共感致しました。
※ついでながら、「1970年代から80年代にかけて、チリでどのような恐ろしいことが起きていたのか」を知りたい方は、たとえば以下の本などが参考になります。グスマン監督自身もこの時代に海外に追放されていた「被害者」ですが、そのことを過度に恨み節にしていない冷静さ、本当に尊敬します。