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現代に疲れた私はロシアの古い怪奇小説の世界に逃げることにした#2

研究所で出迎えてくれたロシア人所長は、かたく僕の手を握ってくれた。

所長「いやはや、わざわざ21世紀の日本からようこそ!それにしても君のような極東アジアの方が、我らロシアの古典SF小説『生き返らせないでくれ』の世界の中に入り込んできてくれるとは嬉しいよ!」

僕「なにせ、僕が住んでいる21世紀のロシアはひどいことになってますんでね。小説の中に逃げてきました」

所長「21世紀のロシア?ほう、その時代はどうなっているのかな?さぞや、今よりも唯物論科学が進んでいることだろうね!」

僕「ええ、史的弁証法もマッサオな皮肉な科学史をね、、、あ、いや、なんでもないです。で、この部屋が、例の実験の部屋ですか?」

所長「そう!我らロシアの科学技術の結晶で、ついに、我々は死者を蘇らせることに成功したんだ!降霊術だとか、シャーマンだとか、あんなものの力を借りることは、もうないんだ。科学的技術によって、死者を蘇らせることができるんだよ。どうかね、未来のアジアの方。たとえば、あんたの時代にも、蘇生させたい死者はたくさんいるだろう?」

僕「んー。早世したアイドルとか未完の遺作を残してる作家とか。。。あ、でもどちらかというと、スターリンとかレーニンとかを生き返らせて、いろいろ裁判にかけてやりたいと思うことが多いですかね

所長「え?誰?」

僕「あ、なんでもないです。ところで、この機械はなんですか?」

所長「これは、死者を蘇らせる実験のさらに進化版だ。この中に人間を入れるとね、肉体を消滅させ、意識だけを抽出して、永遠に保存しておくことができるんだよ。これは後世のためのたいへんな博物館になると思わんかね?今の時代に生きている人を、未来の人々への見せ物として、永久に機械の中で保存できるんだ」

僕「やだなあ。。。どうしてこう、ロシアやソビエトのSFはブラックなほうへ発想がいくんだろう。。。こんな機械の中で永久に意識だけを残したいなんて被験者、志願があるわけないでしょう?」

所長「何を言っとる?なぜ君をこの研究所に案内したと思っておるのかね。いやあ、同時代ではなかなかよい被験体が見つからなくてねえ。未来から迷い込んだアジア人?それなら行方不明になっても誰にも気づかれはしないよね。さあ守衛さんたち!このアジア人を捕まえて機械に放り込んでくれ!」

僕「え?ま、まって、やめろ!永遠の命なんていらない!やめてくれ!こ、こ、殺してくれー!!

上記でパロディにした、ブリューソフの『生き返らせないでくれ』というブラックユーモアSF小説は、日本語訳は創元推理文庫の『ロシア・ソビエトSF傑作集(上)』に掲載されています。過去の人物を現代に蘇らせる科学技術を手に入れたロシアの科学研究所の暴走の物語、、、黒いです。暗澹たるオチです。でも、こういうテイスト、大好き。

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