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寓話 癒しの言葉を探した愚か者の話

※ある一人の友人に捧ぐ、奇跡の言葉を探す愚か者の話。

一つ、愚か者の話をいたしましょう。

その昔、"癒しの言葉"を探す愚か者がありました。
ただ一つ、それを口にするだけで誰かの心を楽にできるような、奇跡のような言葉を。
けれど、そんなものはこの世のどこにも、あるはずがありません。
それでも愚か者は、そんな言葉がこの世のどこかにあると信じてやまなかったのです。

愚か者は旅をしました。
行く先々で、いくつもの悲しみと出会い、幾千の言葉を吐き出しました。
けれど愚か者の言葉はみな、幻のように絶望の体をすり抜けて落ちていくばかりでした。
その度に愚か者もまた、傷つきました。己の無力を嘆きました。
嘆きながらも、愚か者は諦めませんでした。
愚かでしたから、ただ真っ直ぐに奇跡の言葉を求めて止みませんでした。

そうして長い長い旅路を経た、ある時。
愚か者は己の後ろを振り返り、ようやっと気づいたのです。
歩んできた旅路と、積み上がった誰かの傷と、己の痛み。それらの上に散らばるのが、幾千の祈りであるということに。

祈りは、愚か者の吐き出した言葉でした。
絶え間なく、癒せるかもわからないまま、それでも癒したい一心で吐き出した言葉たちでした。
多くの祈りは無力にも朽ちて、ただ毒にも薬にもならない、惨めな有様でしたけれど、いくつかの祈りは小さな花を咲かせていました。

「ああ、そういうことか」

愚か者は天を仰ぎました。
人の無力さと、小ささが、胸を絞めつけるようでした。

祈りの道と、小さな花は愚か者に教えたのです。奇跡の言葉の不在と、ただ諦めることなく吐き続ける言葉だけが、万に一つの奇跡を為しえることを。

愚か者は、いいえ、人は、ただ癒しを願い、言葉を吐くよりないのです。
想いをのせ、気持ちをのせて、届くかもわからないままに、ただ数ある言葉を吐き出すより、ないのです。そうして数ある言葉の中の一握りだけが、奇跡的に人を癒すことがある。それだけの、それだけのことなのです。

愚か者は寂し気に微笑いました。
そうして彼は、口を開きました。
また、誰かのため、その口から祈りを吐き出すために。

どうかこの言葉が、あなたの癒しとなりますように。

そんな想いを込めて、彼は今日も、この世のどこかで言葉を吐くのです。


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