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よりよく生きる その12

流れに乗っかっているうちにコーチングを本格的に勉強することになった私にとり、それを実践する場があったことは幸運だったと思います。

今から思えばダメダメマネジャーだった私は、どこか自分を変えねばと思っていたこともあり、コーチングの学びを愚直に実践しようとしていました。

最初はもちろん傾聴です。

正しくあることにこだわりがあり、自分の中の明確な正しさの基準を持っていた私は、そもそも人の話しを聴くことが苦手でした。

なぜならば、人の話しを聞いていると、ついつい「違う!」と思ってしまうからです。

問題解決思考でもある私にとっては、部下の話しが最も聴くに値しないものでした。

そもそも、前提として部下の話しを聞くのは、自分が正解を導き出すための情報収集が目的となっていたのです。

人は、話すスピードよりも頭の中で考えるスピードの方が速いと言われています。

なので、部下の話しを10聞く前に自分の頭の中では正誤判定をし、相手の言うことが間違っていたら正しい答えを与えねばと思考が回り始めるのです。

こんな姿勢で話しを聞いても、相手が自分に話しをしたいと思うわけがないし、信頼などしてもらえないというのも今になってみてわかること。

その当時の私は本当にまったくわかっていませんでした。

そして、傾聴の練習としてまず最初にやったのが“黙って聴く”、いや最初の最初は“黙って聞く(注1)”だったと思います。

はっきり言って苦痛でした…。

聞くに堪えないことを聞き続けるのが。

それでも、頑張ってその苦行を続けていくことで、ある日大きな大きな気づきを得ることになります。

あるとき、自分のチームに一人の部下が異動してくることになりました。

その際の私の感情は、「えー、あいつかー。困ったなあ」でした。

なぜならば、私の中でその人に対する印象があまりよろしくなかったからです。

それは、何かと不平、不満、愚痴の類いを発している人だとの印象を持っていたからです。

そういうのを毎日聞かされる羽目になるのかと思うと、正直憂鬱な気持ちになりました。

そして、異動してきた初日のこと。

その当時コーチングのトレーニングの一環として定期的に部下との面談を持つことをやっていた私は、初日にその人との面談の機会を設けました。

そこでの私の目標は、相手の話しを遮らずに最後まで聞くことの一点。

以前のこういうしくじりもあり、初日で失敗しないようにとの意識もたぶんにあったように思います。

そして実際の面談がどうだったかと言うと、やはり最初は不平、不満、愚痴のオンパレード。

いい加減「いや、そんなこと言ってもしょうがないじゃん。もっと前向きにやれること考えようよ!」と言いたくなるところを「練習、練習!」と唱え、「そうなんだあ」とひたすら聞いていました。

すると、ひとしきり不平、不満、愚痴の類いを吐き出した後、徐々に風向きが変わってきました。

その人の口から前向きで、建設的な意見が出てくるようになったのです。

「こういうところがダメだから、自分はこう思うし、こうしていきたい」

そのようなことを言い始めたのです。

それまで、どちらかと言えば「口先で文句ばかり言って何もしないやつ」くらいの評価だったその人に対する印象が、その瞬間に変わりました。

「なんだ、ちゃんと考えてるんじゃん!」と。

一瞬でその人に対する認識が書き換えられてしまいました。

それは、自分の先入観に満ちたものの考え方に気づいた瞬間でもありました。

そして、その出来事により、“聴く”ということに意味が見出せるようになりました。

それまで単なる苦行でしかなかった行為が、相手の本質を知るための行為という意味づけに変わったのです。

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注1:この記事では意図的に“聞く”と“聴く”を使い分けています。”聞く”は極論すると相手の言っていることを音として拾っている状態、“聴く”は、相手の言っていることの内容を理解しようとする能動的な行為を含むとの意味合いとして使い分けています。

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ちしき
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