よりよく生きる その4
相変わらず日々悶々として過ごしていた私に転機が訪れたのは、課長職に就いてから二年ほど後のことでした。
その当時私の勤めていた工場は、工場=子会社となっていて、従来社長は本社から派遣されていた方々が就いていましたが、その年に初めて工場出身のいわゆるプロパーの方が社長に就任しました。
それまでの社長以上に工場内部のことをわかっていた新社長は、内部のメンバーで自発的に風土改革をしていこうと、いわゆる風土改革プロジェクトを発足させました。
何か変えないといけない、変わらないといけないと思いつつ何の行動にも移せていなかった私は、迷いつつも思い切って風土改革プロジェクトメンバーに立候補しました。
そう背中を押す、何か直感めいたものがあったのだと思います。
そして、この決断がその後自分の人生に大きな変化をもたらすことになります。
プロジェクトメンバーで最初に取り組んだのが、社内の風通しを良くすることでした。
特に上下間の風通しの悪さが問題だと捉えていた私たちは、アサーティブ研修を導入することを決めました。
とは言え数千人規模の社員のいる工場の大半に相当する人数に対し、外部から講師を呼び研修を実施するのは費用的に無理な話しでした。
そこで我々が取った作戦は、我々自らが講師となりアサーティブを全社的に広げることでした。
そのために、メンバーの一人であった社内教育担当者の手配によりアサーティブ研修のトレーナー養成の二日間の研修を受けることになりました。
その研修の中でも、その当時の自分を苦しめていたある思考パターンに気づくこととなります。
研修の中で、全員が模擬的に研修のファシリテーションを実施して、それに対して相互にフィードバックし合うというエクササイズがありました。
その際、トレーナーの方からは「まずは、相手の良かったところだけを指摘してください」との指示がありました。
そして、私がある人のファシリテーションへのフィードバックをすることになったときです。
私は、こう言いました。
「〇〇さんの進行は、◇◇なところが良かったと思います。ただ…」
トレーナーの方は、私の発言を遮るようにピシャリと言いました。
「“ただ”は要りません!!」
その瞬間私ははっとしました。
「あー、自分はそもそも相手のダメなところを指摘し、否定する気満々だったのだな」
と、気づいてしまったのです。
恥ずかしながらその当時の私は、ある意味相手を否定することで、もっと言えば相手を貶めることで自分の優秀さを証明しようとしていた節があります。
それも、今振り返ってみればであり、この出来事がない限りは気づいてもいなかったと思います。
一方、本来その当時の私であれば、そんな風にトレーナーの方から強めの口調でピシャリと言われて「そんな言い方しなくても…」と反発する気持ちが湧いていてもおかしくなかったのです。
それでもそんな気持ちは全く湧いてこなくて、ただ自分の無意識の思考のクセに気づいてしまい、恥ずかしいような、情けないような気持ちになりつつ、このままではまずいなぁと思ったのです。
アサーティブ研修は、それから会社を辞めるまでの6年ほどの間に延べ数百名の方に伝えることになります。
この研修を講師として続けることが自分の幅を広げることにもつながっていったのですが、そのことはどこかで追々書いてみたいと思います。
そして、コーチングとの再びの出会いも、このプロジェクトに参画したことがきっかけでした。