二人の物語

プロローグ
 午前中で一学期の中間テストが終わり、テスト期間中は休止されていた部活動が今日から再開されました。でも、一部の熱心な部を除いて多くの部は活動を休んでいました。
 そのため、普段の日でも放課後になると人の気配がなくなる特別教室棟は、いつにも増して静まり返っていました。
 私が通っている中学校の特別教室棟は四階建てで屋上には小さな塔屋があります。屋上へ出るために設けられている塔屋の中には三畳間ほどの部屋があるのですが、塔屋へと向かう階段の登り口には、『立入禁止』と書かれたプレートが掛けられた細い鎖が張ってあるため、その場所を訪れる生徒はいません。
 特別教室棟の塔屋について教えてくれたのは、私が所属している文芸部の部長である優美先輩でした。そしていま、私と優美先輩はその塔屋の中に潜んでいるのです。
 塔屋の中にある部屋には蛍光灯が取り付けられていますが、明かり取り用の窓もあります。西に向いているこの窓のおかげで、塔屋の中は十分に明るくて蛍光灯を点ける必要はありませんでした。ただ、塔屋の部屋は狭くて、小さな声でも階段の下まで反響してしまうので、私と優美先輩は互いの吐息が感じられるほど顔を寄せ合って話さなければなりませんでした。
 「麻乃さん、本当にいいのね?」
 優美先輩に耳元で囁かれると、私の胸は早鐘のように鳴り始めました。
 「はい… 優美先輩… 私がずっと胸に秘めていた願いですから…」
 私の気持ちはとっくに決まっていましたが、あらためて口にすると身体が震えだしました。
 震える私の肩に優しく手をかけてくれた優美先輩が、私の目を見つめながら静かに肯きました。
 「麻乃さん、大丈夫よ。私だって緊張しているのだから」
 肯いた優美先輩の三つ編みの髪が私の腕に触れて、夏用の白いセーラー服を纏っている先輩の体から甘酸っぱい香りが漂ってきました。
 
 ノートに書かれている物語の冒頭を朗読していた麻乃の声が止まると、優美と麻乃は互いの目を見つめ合った。

一、
 四月になって新年度が始まると、舞鶴優美(まいづる ゆみ)は中学三年生になった。
 身長は平均的ながら、中学三年生としては身の細い優美は、少し長めの髪を三つ編みにしている。卵形の柔らかな輪郭に切れ長の澄んだ目を持つ優美は典型的な美少女で、人目には清楚な印象に映る。その容姿に相まって性格も落ち着いており、学業の成績も良い優等生だった。
 優美は二年生の二学期から文芸部の部長を務めていた。新学期の始業式の日は部活動が行われなかったが、優美は放課後になると図書室へ本を借りに行き、帰り際に図書室の隣にある文芸部の部室に立ち寄った。翌日から始まる部活動の準備として年間の活動計画を復習っておこうと思ったのだが、優美はいつしか当初の目的を忘れて借りたばかりの本を読み耽っていた。
 六畳間程度の広さを持つ文芸部の部室で優美が読書に没頭していると、突然部室の扉が数回ノックされて勢いよく開かれた。扉が開く音と共に読書を中断した優美が部室の入り口へ顔を向けると、扉の外には見知らぬ少女が立っていた。
 前髪を切りそろえた髪型の見知らぬ少女は、少し緊張した面持ちで部室の中に足を踏み入れてきた。少女は部室に入ったところで足を止めると、部室の中をぐるりと見回してから何も言わずに部室の奥に座っている優美の方へと歩を進めてきた。
 優美は少女が穿いている膝丈のスカートから伸びている白い脚に目を引かれながら、この子は誰なのかしら、何の用事があって部室を訪れてきたのかしらと考えていた。
 「文芸部の部室って、ここでいいんでしょうか?」
 優美の前に立った少女が発した声には独特の艶があり、木管楽器の音色を思わせる色気があった。
 「ええ、文芸部の部室はここです。でも、今日の活動はありませんよ」
 目的の場所を見つけられて安堵したのか、少女の顔に浮かんでいた緊張が少し解けたように見えた。
 「あの、文芸部の方ですか? 実は私、文芸部に入部を希望していて、今日は入部届を持ってきたんです」
 少女は声のトーンをやや高めて部室を訪れた目的を告げると、手にしていた一枚の紙を優美に向けて差し出した。
 「そうだったのですね。文芸部への入部を希望してくれてありがとうございます。初めまして、私は文芸部の部長を務めている舞鶴です」
 少女の来意がわかって優美は椅子から立ちあがった。前髪を切りそろえた少女は優美より少しだけ背が低かったが、真新しい紺色のセーラー服を纏った体つきは細く見えた。優美は入部届を受けとると、手渡された入部届に記載されている項目をチェックしようとしてふと疑問を覚えた。
 「入部ということは、新入生ですよね?」
 入学式は明日の日曜日に行われる予定になっていたので、今年度の新入生はまだ登校していないはずだった。
 「いえ、私は、今年から編入した二年生なんです」
 受けとった入部届をあらためて見ると、確かに学年の欄には二年生と書かれていた。

 優美が通っている私立の女子中学校は、とある女子大学の系列校で卒業生のほぼ全員が同系列の女子高校へと進学する。エスカレーター式の進学はできないため入試は行われるのだが、実質的に中高一貫の教育をしているため授業のカリキュラム進行は公立中学校より早かった。そのために、授業についていけなくなってしまった生徒が公立の中学に移っていくケースも珍しくなかった。
 種々の理由によって生徒数が減ってしまった学年では中途編入生の募集が行われた。しかし、公立校より進んでいる授業に対応できる生徒が求められるため、編入試験の難度は入学試験より高くなっていた。
 難しいと噂されている編入試験をクリアしてきたのなら相当に優秀なのだろうと思い、優美はあらためて目の前の少女に目を向けた。眉毛より少し上で切りそろえられた前髪と、うなじを隠すくらいの長さで切りそろえられた後ろ髪はつややかで黒さが際立っていた。優美はその髪を見ながら、漆黒とはこのような黒さを表す言葉なのだろうと思った。やや丸みを帯びている輪郭上にバランスよく配置されている大きめの瞳も、何もかも飲み込んでしまいそうな黒さを湛えていた。
 「『きぬばた まの』です。よろしくお願いします」
 自分の名を告げながら深々と頭を下げる少女を前にして優美はもう一度入部届に目を向けた。名前欄に書かれている絹機麻乃の文字を見つめていると、優美はなぜか心が騒めくのを感じた。
 「…とても良い名前ね」
 自然にこぼれた優美の言葉を聞くと、黒髪の少女の双眸がたわんでとても魅力的な笑顔になった。
 「ありがとうございます。でも、自分で言うのはおかしいですけど、絹機ってちょっと変わった名字ですよね?」
 部室を訪ねてきた当初の緊張した顔つきは既になく、少女は屈託のない笑顔を浮かべていた。その笑顔につられて優美も笑みを浮かべそうになったが、少女の問いには真剣に答えた方が良いと思った。優美は表情を正して麻乃の名前から思い浮かんだことを話し始めた。
 「絹機さんの名前を聞いて『ぬばたま』という言葉を思い浮かべたの。『ぬばたま』は黒や髪にかかる枕詞だから、あなたの名前の中に現れるその言葉があなたの黒髪とその瞳を表しているように思えたの。それでとても良い名前だと思わず口にしてしまったのだけれど、あなたの名前に『ぬばたま』が入っているのは偶然なのかしら?」
 優美の話を聞いた麻乃は目を丸くして、柔らかそうな頬を見る間に赤く染めていった。
 「初めて会った方からそのことに触れられたのは初めてです… 驚いてしまいました。実は、私って生まれたときから髪の毛が多く生えていて、目は黒い部分が大きかったみたいなんです。それがまたどちらも真っ黒だったみたいで… それでお母さんが、黒にかかる『ぬばたま』が名前の中に入るように麻乃と名付けたんだそうです」
 一気に話す麻乃の声は、その高低するトーンと相まってまるでグリッサンドで奏でられるクラリネットの音色を聞いているようだった。優美は麻乃の声音を心地よく感じながら、心が浮き立つのを覚えて言葉を継いだ。
 「絹機の名字も珍しいわ。とても趣深さを感じさせる名字ね。七夕の伝説を思い起こすわ」
 「お父さんもそんな話をしていました。お父さんも自分の苗字からは七夕を連想するみたいで、とても気に入っているようです。だから昔から、もし結婚できて女の子が産まれたら、七夕にちなんで『織姫』って付けようと思っていたそうなんです。私が生まれたときも真っ先にその名前を付けようとしたみたいなんですけど、お母さんに反対されたみたいです。織姫って名前はすてきですけど、そんな名前を付けられたらいろいろとプレッシャーを感じてしまいそうですよね。だから、私は麻乃でよかったと思ってます。あ、でも、お母さんも絹機の名字は気にいっているみたいです。まさかこの名字を目当てにお父さんと結婚したわけじゃないとは思いますけど…」
 優美は楽しそうに話している麻乃を見つめながら、この子の容姿ならば、たとえ織姫の名前であっても違和感は覚えないかも知れないと思った。
 「あの、先輩の下のお名前も聞いて良いですか?」
 優美の視線を気にしているのか、少し喋り過ぎてしまったと反省しているのかはわからなかったが、麻乃は自分の話しを一旦止めると、顔をうつむかせて上目遣いで尋ねてきた。

 「私の名前は優美です。舞鶴優美です。名前ばかりはきれいなので、以前は地味な容姿には過ぎる名前だと思って重荷を感じていたのだけれど、今では気にいっている名前です。私の名前は父が決めたそうです。父親が娘に付ける名前は、何かしらの希望が込められているように思えるわね… 女の子の場合は将来名字が変わる可能性が高いのに」
 居住まいを正して答えた優美に顔を向けた麻乃は、胸の前で手を組んで神々しい者に見とれているような目つきをしていた。優美はその視線に熱気を感じて胸が高鳴るのを覚えた。
 「いえ、僭越ですけど、先輩にピッタリな名前だと思います。だって、舞鶴先輩ってとても大人っぽい感じがしますし、お名前のとおりの優美な雰囲気が伝わってきます… それに、先輩が地味な容姿だなんて、そんなこと、きっとだれも思っていないですよ…」
 お世辞だとは思ったが、麻乃の言葉は優美の胸に素直に響いて、その賛辞は自然に受け入れられた。
 「ありがとう。今でこそ自分の名前を好きになれたのだけれど、優美という名前にはプレッシャーを感じて父を恨めしく思ったこともあったわ。優美だけなら普通の名前でも、名字と組み合わせるとできすぎのように思えたから… 自分の名前が好きになれたのは、名前負けしないように努力すれば良いと思えるようになってからだったわ。でもね、私の父も自分の名前には葛藤を持っていたみたいなの。父の名前は祖父が付けたそうで、万の亀の男と書いて万亀男(まきお)というの。苗字に鶴が入っているから名前には亀を入れて、より縁起の良い名前にしようとしたのね。祖父の気持ちはわかるのだけれど、子供の頃の父は名前が原因でずいぶんとからかわれていたみたい。何でも、略して鶴亀くんとか、ひどいのになると怪奇亀男なんて言われていたみたいで。だから、子供ができたら、男の子であっても女の子であっても、きれいな名前を付けようと思っていたみたいなの」
 優美は、自分がこれほど饒舌になるのは珍しいと自覚しながら、話を続けたくなってしまうのは目の前にいる少女のせいなのかも知れないと思った。
 「先輩のお話、面白いです」
 いつの間にか優美の心は、目の前で満面の笑みを浮かべている絹機麻乃という少女に惹きつけられていた。

二、
 入学式が終わるとすぐに学年別の実力テストが実施された。年度の初めに行われるこのテストを含めて、年間に行われる大きなテストは全教科の結果を合算した点数と学年順位が張り出される決まりになっている。試験結果が発表される場所は普通教室棟と特別教室棟を結んでいる連絡棟の壁と決められていた。
 学年別実力テストが終わった数日後に結果が発表されると、優美は連絡棟を訪れて自分の順位がいつも同様に学年三位だったのを確認した。優美は成績優秀な生徒ではあったが、同じ学年には毎回ほぼ満点を取る生徒が二人いるため三位以上になるのは難しかった。一応ながら自分のテストの結果に満足した優美は、先日文芸部に入部してきた絹機麻乃の成績が気になって二年生の結果表に目を向けてみた。麻乃の名前を見いだすのはたやすかった。彼女の名前は一位の所に記されており点数も全教科満点だった。
 (絹機さん、やっぱりとても優秀なのね… 学年一位で、しかも全教科満点だなんて…)
 普段交わしている会話の端々からも麻乃の頭の良さは感じられたが、彼女は優美が思っていた以上に優秀な生徒だった。
 
 四月の下旬、文芸部では新たに入部した一年生の歓迎会が行われた。このときに行われた新部員の自己紹介では、二年生ながら編入生の麻乃も自己紹介を行った。
 昨年度まで都内のマンションに住んでいた麻乃が引っ越してきた理由は、麻乃の親が優美の住んでいる町に家を買ったためだった。
 麻乃は都内に住んでいたときも私立中学校に通っていたと明かした。その学校の名前は優美も良く知っている学校で、麻乃の優秀さをあらためて認識させられた。
 家族で引っ越してきた麻乃の家は町の南側にあるようで、その辺りは数年前まで雑木林が広がっていた場所だった。
 中学生になってからは足を向けたことがなかったが、そこは優美にとって思い出深い場所だった。そのために、麻乃の家の場所を知った優美の心は再び騒めいた。
 (あの雑木林が住宅地になって、絹機さんが越してきたのね…)
 数日後の日曜日、優美は好奇心に駆られて絹機家が越してきた新興住宅地を訪れてみた。かつて雑木林だったその場所は一部を残してほとんどの木が切り倒されており、造成された土地は一件あたりの敷地が広くとられていた。建っている家々はまだ新しく、中にはまだ建設中の家や家屋の建っていない土地もあった。
 絹機の表札が掲げられている麻乃の家は住宅地の一番奥まった場所にあり、わずかに残された雑木林を背にして建っていた。絹機家の裏に広がる木々の先に送電線を支える高い鉄塔があるのを見て優美の胸は激しく高鳴り始めた。
 辺りの様相は一変していたが、優美はその場所に見覚えがあった。優美は鉄塔を見ながら、麻乃と初めて出会ったときに感じた心の騒めきを思い出していた。

三、
 文芸部の活動内容は毎年ある程度固定化されており、五月の連休後には自作の短編小説を発表する予定になっていた。
部長に選ばれるだけあって優美は文章を書くのが好きだった。特に、物語を書いているときはひときわ夢中になった。優美は、一二年生のときは何れも五月連休の時間を多く割いて物語の執筆に明け暮れた。しかし今年は、自分で小説を書くよりも、麻乃がどのような短編小説を書いてくるのかが気になって物語を執筆する優美の手は止まりがちだった。
 連休が明けて各部員から提出された作品は、先ず顧問の教師が目を通し、簡単な添削をされてから部長の優美に渡される手はずになっていた。優美は二重のチェックを兼ねて部員の作品を読む役目を担っていた。
 優美は顧問の教師から原稿用紙の束を預かると、真っ先に麻乃が書いた物語に目を通した。
 麻乃の書いてきた短編小説は、二人の女子中学生が友情と仄かな恋情の間で心を揺らす物語だった。
 主人公の少女は吹奏楽部に所属しており、同じ部の同性の後輩に好意を抱くのだが、その好意は主人公にとって複雑な感情だった。自分の気持ちが理解できずに心をかき乱された主人公は、己の意に反して後輩に辛く当たってしまう。しかし後輩は先輩の心情を察しており、物語の最後は、後輩からかけられた言葉によって、主人公の少女が自分の本当の気持ちに気づくという内容だった。
 主人公の少女は物語の中で、後輩が口を付けた楽器のマウスピースや後輩が脱いだ制服の上着の残り香に心を惑わされる。また、特訓と称して演奏ミスをした後輩の腿を手のひらで叩く場面もあった。背徳的にも扇情的にも感じられるそのような場面の描写には書き手の熱が感じられた。優美は麻乃の書いた物語を読みながら、身体が火照るのを抑えられなかった。
 文芸部の中で行われた小説の発表会においても、ひときわ感想が盛り上がったのは麻乃の書いた小説だった。優美が案じていたとおり、部員の何人かは麻乃の書いた物語はエッチだとはやしたてた。しかし、顧問の教師が、テーマには多少問題はあるが主人公の心情がよく書けていると誉めると、その後は麻乃が書いた物語を茶化す者はいなくなった。実際ながら、優美が書いた作品を除けば、麻乃が書いた物語は読む者が引き込まれる作品に仕上がっていた。
 麻乃は自分の物語の品評が行われているとき、どのような感想や指摘に対しても臆することなく堂々と自分の意見を述べていた。優美はそんな麻乃に潔さを感じた。優美の心の中では絹機麻乃の存在が日々大きくなっていった。

 小説の発表会から数日を経た日の放課後、優美は部活動が終わると活動日誌を書くために一人で部室に残っていた。日誌を書き終えて優美が帰り支度を始めたとき、先程部員と共に部室を後にした麻乃が部室に戻ってきた。
 「あら、忘れ物かしら?」
 扉をそっと開いて部室に入ってきた麻乃に問いかけると、彼女は入り口を入ったところで足を止めて優美に真っ直ぐな視線を向けてきた。麻乃は答えを待つ優美を見つめながら、右手を胸に当てると息を整えるように小さな息を吐いた。
 「舞鶴先輩、この前の、私の書いた小説のことなんですけど… できれば、先輩の… 舞鶴先輩の感想をもっと聞いてみたいんです…」
 麻乃の表情から彼女が思い詰めているのを察した優美は、帰ろうとして手にしていた学生鞄をテーブルの上に置き直した。そして、テーブルを挟んだ向かいの椅子に座るように麻乃を促してから、自分も先程まで座っていた椅子に腰を下ろした。
 テーブルの反対側で返答を待っている麻乃の顔を見つめていた優美は、彼女はどのような感想を求めて私の所へ来たのだろうと考えた。麻乃があらためて感想を求めてきたのは、先日の発表会では読みとってもらえなかった箇所があるからなのだろうと察したが、それが何かはわからなかった。
 麻乃の書いた小説の内容を思い出していた優美は、彼女の小説を初めて読んだときに淫らな感情を抱いてしまったのをふと思いだした。優美の頭の中に、もしかしたらと思い当たる点が浮かんだが、それに言及するにはまだピースがそろっていなかった。
 足りない要素を得るために麻乃の意図を探ってみようと思った優美は、わざと淡白な感想を述べて麻乃の反応を窺ってみることにした。
 「先日の発表会で先生がいっていたとおり、麻乃さんの書いたお話は登場自分の心情がよく書かれているところが良かったと思うわ」
 素っ気ない優美の言葉を聞くと、麻乃はあからさまに落胆した表情になって目を伏せた。だが、わずかな沈黙の後にまた顔を持ち上げると、いっそう真摯な顔つきになって再び問いかけてきた。
 「あの… 中学生の女の子が書く内容としてはどうだったでしょうか… 変な… 変わった内容だって思わなかったですか?」
 優美は、やはり麻乃はあの小説の中の性的な箇所に触れて欲しいのだろうかと考えた。しかし、かわいらしい容姿を前にして彼女の優秀さや真面目さを考えると、彼女が性に関する答えを求めているとは確信を持てなかった。
 どのように答えれば良いのかを迷っているうちに、優美は胸の鼓動が早まって身体が熱を帯びていくのを感じた。
 逡巡した末に、優美はようやく心の中に渦巻いていた考えをまとめたが、それでも最初の一言を発するにはかなり緊張を強いられた。優美は騒めく心を静めようとして、麻乃の顔を一拍ほど見つめてから静かに口を開いた。
 「絹機さんは、普段どのような本を読んでいるのかしら?」
 意図を探ろうとして質問に質問を返してしまったのは気が引けたが、優美は以前から麻乃がどのような読書環境に育まれてきたのかを知りたかった。
 求めていた返答をもらえずに逆に優美の問いを受ける形になった麻乃だが、嫌な顔も見せずに真剣な顔つきを保ったままで考え込んでいた。優美はそんな彼女をじっと見つめながら返ってくる答えに期待していた。また、彼女の答えが自分の願望に近いものであって欲しいとも願った。
 数秒間の沈黙を経て麻乃は視線を優美に向けた。彼女の頬が赤く染まっていた。
 「舞鶴先輩は… 『O嬢の物語』を知っていますか?」
 緊張した様子を見せながらも、しっかりとした口調で話し始めた麻乃の言葉を聞いて、優美はやはり自分が思っていたとおり、麻乃も性的な事柄に強い関心を持っているのだと確信した。優美の鼓動は更に早まり耳朶が熱くなるのを感じた。
 「ええ、その本なら読んだことがあるわ。その物語を翻訳した人の本が好きなので興味を持ったのだけれど…」
 優美の胸には期待が膨らんでいたが、できるだけの平静さを装って答えると、こわばりぎみだった麻乃の表情が少しだけ和らいだ。
 「私が『O嬢の物語』を読んだきっかけも同じです… 私もその話を訳している人の本が好きなので読んでみようと思ったんです。先輩、それなら… もしかしたら、先輩はマルキ・ド・サドの本とかも読んでるんですか?」
 問いかけに優美がしっかり肯くのを見た麻乃は、「ふうっ」と小さく息を吐いてから堰が切られたように話し始めた。
 「私も『O嬢の物語』の他に、サドの『悪徳の栄え』と『ソドムの百二十日』を読んだのですけど、私には難しくて… わからない言葉や時代背景を調べながら何度か読み返しました。それでも、完全に理解できているわけではないです… でも、あのような物語って、わからない部分が多くても… 何か惹きつけられるんです…」
 この少女に惹かれてしまうのは、興味や嗜好が自分と似通っているからなのだろうかと優美は思った。そして、麻乃が性的な事柄に向ける関心の強さはいったいどれほどのものなのだろうか、それは自分が胸に秘めている思いと同じくらいなのだろうかと考えると胸の奥に熱いものが込み上げてきたが、今はまだ乱れる心を麻乃に悟られてはいけないと思って平静な装いを続けた。
 「私も絹機さんと同じよ。読んではいても理解しているとはいいがたいわ… そもそも、あのような物語の内容を理解するには、私たちはまだ幼いし、経験も足りないと思うの」
 麻乃は真面目な顔つきで優美の言葉にゆっくりと肯いた後、一転してその双眸と口角を緩やかに湾曲させた。その笑顔を見て優美は心が激しくときめいた。
 「私、舞鶴先輩と出会えてよかったです… もっと、先輩といろんなお話をしてみたいです…」
 優美は、自分を見つめている麻乃の黒い瞳の中に強い好奇心が宿っているのを確信した。
 潤んだ黒い瞳、赤く染まった頬、笑みを浮かべる口元、それらの全てが麻乃の魅力を蠱惑的に高めていた。いつしか優美は下腹部に熱い疼きを覚えていた。
 この日の会話を契機として優美と麻乃の距離は縮まった。この後の彼女たちは、二人だけでいるときには「麻乃さん」「優美先輩」と、お互いを名前で呼び合うようになっていた。
 
 麻乃との仲が親密さを増していくのはうれしかったが、優美が麻乃に向ける思いには複雑な感情が入り交じるようになっていった。
 性的な文学について話して以来、麻乃が持ちかけてくる話題には性の要素が含まれたものが多くなった。麻乃が性に対して強い関心を抱いているのがわかると優美はうれしくなったが、性の話題を持ち出してくるときの彼女は優美の心を探っている感じがした。見方を少し変えれば、優美を挑発しているようにも、誘っているようにもとらえることができて、その度に優美は心を乱された。
 中学三年生になった今まで、優美は家族の前ではもちろん、知人や友人の前でも自らは性的な話題を口にしなかった。クラスメイトが性に関する話題で盛り上がっていても、話を振られれば相槌を打つか冷静な受け答えをするのみで、話の輪に積極的に加わろうとはしなかった。
 しかし、優美が性的な話題に対してそのような態度をとるのは訳があった。それは、胸に秘めている思いを誰にも知られたくないからだった。
優美は、ずいぶんと前から心の奥底に歪んだ性癖を抱えていた。

四、
 歪んだ性癖の兆しが初めて現れたのは優美が小学四年生のときだった。下校中に突然の夕立に遭って身体がずぶ濡れになってしまった優美は、帰宅すると真っ直ぐ浴室へ行って濡れた服を脱いでシャワーを浴びた。しかし雨に濡れて体が冷えていたせいで、シャワーを浴びている途中で尿意をもよおしてしまった。
 そのままお風呂場でしてしまおうかとも思ったのだが、幼い頃から真面目だった優美は浴室で放尿をするのをためらった。迷っているうちに尿意は限界に達してしまい、優美はあわてて浴室を出ると、体を軽く拭いて裸のままトイレへ向かった。
 古い日本家屋をリフォームした優美の家は浴室とトイレが離れていた。そのため、脱衣場を出た優美は二つの和室を横切って、庭に面した廊下の奥にあるトイレにかけ込んだ。昔の日本家屋を彷彿とさせる場所にあるが、内部は洋式に改装されているトイレの便器に腰を下ろした優美は、生理的欲求を遂げると一息ついた。そうして心が落ち着いてくると、優美はお風呂場からトイレまで裸で家の中を歩いてきたのが急に恥ずかしくなった。
 優美は両親と三人暮らしで父も母も働いているため、この日の日中も家の中には誰もいなかった。しかし、普段は服を着て過ごしている場所を一糸纏わぬ姿で歩いてきたのだと思うと、優美の身体は羞恥心から熱くなって小さな胸が激しく脈を打った。
 目線を下に向けて自分の体を見下ろし、何も着ていないのをあらためて自覚した優美は、この姿で浴室まで戻るのだと思うと、トイレに来るときは感じなかった不安を覚えて身体が震えだした。それでも、家の中には誰もいないのだからと自分に言い聞かせて、そっとトイレの扉を開いた。
 トイレの扉の先に延びている庭に面した廊下には、サッシのガラスを透過した陽射しが落ちていた。廊下の窓の外を見上げてみると、先程まで雨を降らせていた黒い雲が切れて青い空がのぞいていた。
 明るくなっていた廊下に足を踏み出したとき、優美の胸の鼓動は、心臓が壊れてしまうのではないかと思うほど早まっていた。
 廊下は母屋と離れに挟まれた中庭に面していた。舞鶴家の敷地は石積みの塀に囲まれているため敷地の外側から家の中を覗くことはできないが、屋外に近い場所で裸になっているのだと思うと、優美の胸の中は恥ずかしさと不安でいっぱいになった。
 しかしその一方では、ガラス越しに見える広い中庭や空へ目を向けると、不思議な開放感が感じられた。
 お風呂場に戻るにはトイレに来たときと同じ経路をたどって二つの和室を横切るのが一番早かったが、優美が選んだ帰路は廊下の方だった。
 廊下と中庭を区切っているアルミサッシに嵌められているのは透明なガラスなので、中庭に面した廊下を歩いていると、まるで裸で屋外を歩いているように思えた。恥ずかしいのに、不安なのに、全裸で廊下を歩きながら優美の心は高鳴っていた。
 ようやくお風呂場に戻った優美は、緊張で震えていた膝の力が抜けて脱衣場の床に座り込んでしまった。恥ずかしいことをしてしまった、いけないことをしてしまったという罪悪感と、何かを成し遂げたときの達成感が優美の心の中で混ざり合いながら渦を巻いていた。
 家の中を裸で歩いたときに感じた奇妙な高揚感と開放感は優美を虜にした。優美はその日以来、家の中に誰もいないときを見計らってこっそりと裸になるようになった。また、持ち前の好奇心と探究心から、その行為がなぜ不思議な興奮をもたらしてくれるのかを調べてみようと思った。
 小学三年生の頃から仄かに点り始めていた性への好奇心から、興奮の源はエッチなことに関係があるのかもしれないと閃いた優美は、性に関する情報を辞書や本の中に求めた。やがて優美は少しずつ性の理を覚えていったが、なかなか求める答えにはたどりつかなかった。
 小学五年生になった年の秋だった。優美は学校で盗み聞いた男子の話から、郊外にある雑木林の中に成人向けの本がたくさん捨てられているのを知った。エッチな本の中に、自分の求めている答えがあるかも知れないと思った優美は、好奇心と探究心に駆られて休日の早朝に、人目を忍んで一人で雑木林へ行ってみた。
 町の南にある雑木林に足を踏み入れた優美は、積もっていた落ち葉の踏み跡をたどって奥まで行ってみた。すると雑木林の奥には木が疎らになっている場所があった。木々の枝が重なる先に送電線の高い鉄塔が見えるその場所には、男子達が言っていたとおり成人向けと思われる雑誌が一面に捨てられていた。
 最初に目についた本の表紙には、体をしならせたポーズをとっている下着姿の女性が写っていた。優美は震える手でその本の表紙を捲ろうとしたが、雨に打たれてから乾いた本はページが貼り付いており、中を見ることはできなかった。他の本を見ようとして辺りを見回すと、紙が波打っていないことから、まだ捨てられて間もないと思われる本があった。誰かが来ないだろうかと不安に駆られながらも、優美は比較的新しく見えたその本を手にとって開いてみた。
 その場所に捨てられていた多くの雑誌よりはるかに厚く、表紙に『性愛・変態の研究【絵画・写真集】』と書かれていた本は、様々な性行為を写真と絵で説明している本だった。セックスの体位やセックス以外の性行為、更には男女の自慰や様々な変態行為まで、文字でしか知らなかった性行為の写真や絵を初めて見た優美はその本に引き込まれていった。そしてページを捲っていくうちに現れた写真を見たとき、優美は全身が熱を帯びて、苦しくなるほど胸の鼓動が早まったのだった。
 『露出狂』の見出しと共に載せられていたのは、どこかの路上で着ているコートの前を大きく広げている男性の写真だった。男性はコートの下に何も着ておらず、その男性と遭遇して驚いているセーラー服を着た女子学生らしき人物の後ろ姿と共に写っていた。男性の性器は黒く塗りつぶされていたが、その位置や形から性器は通常の状態ではないと察せられた。これが勃起という状態なのかしらと思いながら見た写真の下には、『 露出狂:自分の性器や裸体を異性に見せつけて興奮する変態。裸体のみに止まらず、自慰を見せつける者もいる。主に男性が多い』と説明されていた。
 男性の痴態を見たのは初めてながら、優美はその写真に目を奪われた。そのような異常者に遭遇したら怖いだろうとは思いながらも、なぜか裸体を見せつけている男性の心情の方が気になった。心の奥底から何かが沸き出でてくるのを感じながらページを捲った優美は、次に現れた写真を見ると全身が激しく震えだした。
 『露出狂』の裏側のページには『露出症』と題された写真と説明が載っていた。そこに写っていたのは、塀に挟まれた細い路地裏で全裸になっている女性の姿だった。女性は靴と靴下の他は何も身に着けておらず、着ていたと思われる衣服は無造作に足元に落ちていた。女性の両手はそれぞれ自分の胸と股間に当てられていたが、その部分を隠そうとして覆っているわけではないようだった。うつろな目をして口を半開きにしている表情を見て、優美はその女性が何をしているのか理解した。優美は自分の身体を大きな衝撃が貫いていくのを感じた。写真の説明には、『露出症:屋外や公共の場所で人知れず性器や裸体を晒すことで興奮する異常者。裸になるだけでは満足できず(あるいは裸になった興奮から)、その場で自慰を行う者もいる。男女共に見られる変態』と書かれていた。
 優美はその本を家に持ち帰りたい衝動に駆られたが、本は厚くて持ち帰れそうになかった。優美は、しかたなく『露出狂』と『露出症』の項目が裏表に載っている一ページだけを切りとって持ち帰った。
 その日の夜、優美は野外で裸になって自慰に耽っている女性の写真を見ながら初めてオナニーをした。そのときに得られた淡いエクスタシーの中で、優美は自分の求めてきた答えに出会えたと直感していた。
 オナニーを覚えた優美は、その行為に耽溺していく一方で、自分の心と体はおかしいのではないかと思い悩むようになった。切りとって持ち帰った成人向け雑誌のページには、露出症は異常者であり変態だとも書かれていた。それらの単語がどのような人物に用いられるのかを既に知っていた優美は、私は変態なのかも知れないと思う度に胸が潰れてしまいそうな罪悪感を覚えた。このままではいけないと思った優美は何度もオナニーを止めようとしたが、意識するほど自分の心と身体が制御できなくなっていった。
 やがて優美は、いけないことをしていると思うほど興奮と快感が高まるようになっていった。家の廊下を路地裏に見立てて雑木林から持ち帰った『露出症』の写真を模してオナニーをするようになり、オナニーをしている最中に頭の中で廊下と屋外の路地が重なると、優美は激しい興奮を覚えた。淫らな行為を繰り返すうちに、絶頂を迎えるときに感じる快感の度合いも高まっていった。
 小学六年生になった頃は、下校して家に着いた途端玄関で裸になり、身体の奥から湧き出して止まない露出の願望を鎮めるために飽くまでオナニーを繰り返す程になっていた。
 淫らな行為を続けながらも、道徳心と性的な欲求の間で悩み続けていた優美の心に転機が訪れたのは小学校の卒業式だった。校長先生から卒業証書を受けとって壇上から降りようとした優美は、体育館に居並んでいる卒業生を見下ろしながら(私はこの中で一番いやらしい子なのかもしれない)とふと思ったのだった。
 周囲からは品行方正で真面目な優等生だと思われていたのに、本当の私は露出行為を夢見て淫らなオナニーに明け暮れるいやらしい小学生だったのだと思うと、優美の身体は強く火照った。この人達に本当の自分を曝け出したらどうなるのかしらと想像すると、多くの人の前だというのに股間から熱いものが溢れ出てくるのを感じた。卒業式を終えた日の夜、自分は露出症、あるいは露出狂の変態なのだと、優美は完全に自認したのだった。
 中学生になった優美は、迷うことなく性的な知識の収集とオナニーに明け暮れるようになった。また、真面目な優等生として見られている自分と、淫らな欲望を抑えきれない自分とのギャップが大きくなるほど興奮と快感も大きくなるのを知った。
 ある日、いつものように家の廊下で裸になってオナニーをしていたとき、優美は「私は露出症の変態です」と口にしてみた。自分の口から漏れ出た淫らな言葉を聞いて、優美の心と身体に再び激しい衝撃が襲いかかってきた。それは、かつて女性の露出写真を見たときに感じた衝撃と同類のものだった。
 「変態です」と繰り返しながら得た今までとは別次元の絶頂感の中で、優美の心の中には変態という言葉を肯定的に受け入れる気持ちが芽生えた。
 そのような経緯を得て自己の変態性癖を肯定できるようになっていった優美は、性的な行動をエスカレートさせていった。玄関の扉を少しだけ開いて外を見ながらオナニーをしたり、中庭に面した廊下で窓を開いたままオナニーをしたりするようになり、中学二年生になって夏が訪れると、真夜中になるのを待ってから自分の部屋に面する奥側の小さな庭に裸で出てみた。初めて生まれたままの姿で屋外に立った優美は、全身で屋外の空気を感じただけで絶頂に達してしまった。
 裸で屋外に出る悦びを覚えた優美が、白昼の中庭で全裸オナニーをするようになるまであまり時間はかからなかった。
 二学期になって文芸部の部長を務めるようになると、優美はその立場を利用して学校内でも露出行為を始めた。初めはトイレの個室の中で裸になってみる程度だったが、次第に部室の中や滅多に人が訪れないと知った特別教室棟の塔屋でも露出行為を楽しむようになっていった。この頃になると、優美は『私は変態なのだからもっといやらしいことをしなくてはいけない』と思いながら露出をするようになっていた。自分を貶めて枷を課することで淫らな興奮と甘美な快楽が増すのを知ったからだった。
 優美は自分のたどってきた道を思い出しながら、麻乃も自分と同じような道を歩んできたのだろうかと思うと、彼女との関係が深まった先に訪れるかも知れない未来に期待が膨らんで、苦しいほど胸が高鳴るのだった。

四、
 ある週末、優美は部活動を終えると一緒に部室に残っていた麻乃にパラフィン紙に包まれた薄い文庫本を差し出した。
 「『イマージュ』ですか…」
 全体に黄ばみを帯びて古さを感じさせる文庫本を受けとった麻乃の手を見ながら、その本を知っているかしらと優美が尋ねると彼女は首を横に振った。
 「古い本ではあるのだけれど、とても読みやすいのでぜひ読んでみてほしいの。それに、この物語は序文を『O嬢の物語』の作者が書いているのよ」
 それを聞くと、真意を推し量るように優美の顔色を窺っていた麻乃の頬に赤みが差して、彼女の関心が一気に高まったのがわかった。
 「ありがとうございます。 お借りします!」
 麻乃はいつもの彼女らしい天真爛漫な表情に戻ると、優美から手渡された文庫本を胸の前で大事そうに抱えた。その様子を見ながら、その本を読んで彼女はどのような感想を持つのだろうかと想像した優美も、耳元が熱くなるのを感じて頬を赤らめた。
 休日をまたいだ月曜日の放課後。優美が期待に胸を膨らませながら部室へ行くと、部室の前には既に麻乃が来ており、人を待っているような仕草で廊下に佇んでいた。周囲を見渡しながらそわそわとしていた麻乃は、優美の姿を見るなりすぐに駆け寄ってきた。彼女は優美の目の前まで来ると何かを言おうとして口を少しだけ開いたが、すぐにその顔を逸らしてしまった。
 「先輩… 部活動が終わったら、二人きりでお話しさせてください…」
 いつもの快活な様子とは違って、顔を優美から背けて目を合わせようとせずに話す麻乃の姿は優美に目に新鮮に映った。優美は貸した本が期待の効果を上げたのだと確信した。
 「私も同じことを考えていたわ。今日は麻乃さんと二人きりでお話ししたいことがあるの」
 昂ぶる感情を抑えながら優美が静かに答えると、麻乃は顔をうつむかせたままで小さく肯いた。麻乃の肩が小刻みに震えているのを見て自分の膝頭も震えているのに気づいた優美は、部活動の終わる時間が待ち遠しくなった

 優美と麻乃の仲が良いのは他の部員からも知られているので、部活動を終えた後に二人だけが部室に残っても訝る者はいなかった。
 部室の中で二人きりになった優美と麻乃は、一つの机を挟んで向かい合わせに座った。優美が麻乃に視線を向けると彼女は気まずそうな表情を浮かべて目を伏せた。優美は、彼女の心中にはどのような感情が渦巻いているのだろうかと思いながら、先週末に貸した『イマージュ』の感想を聞かせて欲しいと切り出した。
 『イマージュ』の物語についての会話がなされるのは暗黙の了解だった。感想を聞かせて欲しいと言われて小さく肯いた麻乃は、鞄の中から借りていた『イマージュ』の文庫本を取り出すと顔を伏せたままで机の上に置いた。このとき、優美は麻乃の指先が震えているのを見過ごさなかった。わずかな沈黙が二人の間を流れたが、やがて麻乃はおずおずと顔を持ち上げると、上目遣いで優美を見ながらゆっくりと話し始めた。
 「優美先輩の言ったとおり、とても読みやすい本でした… でも、だからこそ、内容はとても刺激的でした… 『O嬢の物語』の作者が書いた序文も読みました。あの、それで思ったんですけど、優美先輩、もしかして… この『イマージュ』の作者も女性なんですか?」
 「ええ、そういわれているわ」
 優美の返答に麻乃が小さく溜息を吐いたのを聞いてから、優美は予定していたとおり『イマージュ』に関する付加情報を語り始めた。
 「私も見たことはないのだけれど、この『イマージュ』は映画にもなっているの。それもほぼ原作通りの内容で」
 急に顔を持ち上げた麻乃の両目は大きく見開かれていた。驚きを表した顔つきになりながらも、麻乃の黒い瞳がいつものように好奇心に満ち溢れているのを見て優美は言葉を続けた。
 「薔薇園のシーンも原作のままに再現されているようね。昔『イマージュ』の映画が公開されたときは、薔薇園での放尿シーンは話題になったそうよ」
 しんと静まっている狭い部室の中に、麻乃がつばを飲み込む音が響いた。
 麻乃は、思わず喉を鳴らしてしまったことがよほど恥ずかしかったようで、「す、すみません…」と言いながらうろたえると真っ赤に染まっていた顔を横に向けた。それでも、優美から聞かされた話に対する好奇心はおさまらなかったようで、優美から顔を逸らしたまま「そ、それは… 本当にしていたんでしょうか…」と、呟くように聞いてきた。
 その口調と態度から麻乃が興奮しているのを確信した優美は、麻乃を挑発してみたくなり、わざと刺激的な言葉を投げかけてみようと思った。
 「ええ、『イマージュ』の映画が公開されたときは、女優さんが本当にオシッコをしていることが話題になったみたいなの。女優さんなら作品の内容によってはヌードになることもあるけれど、いくら演技といっても人前でオシッコをするのは相当に恥ずかしいでしょうね… 撮影のときはもちろん、映画が公開されればたくさんの人にオシッコをする姿を見られてしまうのですから…」
 優美自身も自ら口にしている言葉で顔と身体が熱くなっていくのを感じた。きっと自分の頬も赤く染まっているのだろうと思いながら麻乃に目を向けると、彼女も上気して染まった顔を持ち上げて優美を見つめていた。二人は何も言葉を交わさずにしばらくの間、赤く染まっている互いの顔を見つめ合っていた。
 麻乃の表情は言葉を交わす以上に彼女の思いを伝えていたが、優美は次の言葉を口にできずに戸惑っていた。すると、麻乃はその空気に耐えられなくなったのか、唐突に自分の鞄から一冊のノートを取り出して、机の上に置かれていたイマージュの文庫本と共に優美の前に差し出した。麻乃の顔は湯気が立ち上がりそうな程に真っ赤になっており、身体に帯びている熱が伝わってきそうだった。
 「あ、あのっ… 私、また… 物語を書いてみたんです… それで、これも優美先輩に読んでもらいたくて、それで、できれば感想が欲しくて… お、お願いします!」
 黙ったままで優美が文庫本とノートを受けとると、麻乃は急に何かを思い出したような素振りで慌ただしく椅子から立ち上がった。
 「こ、これから友達と約束があるので… お先に失礼します!」
 勢いよく頭を下げながらそれだけを告げると、麻乃はスカートを翻して、逃げるように部室から出ていってしまった。
 何も言えずに無言のまま麻乃の背を見送った優美は、差し出されたノートの表紙に描かれているデフォルメされた猫のキャラクターに目を落とした。麻乃がどのような物語を書いてきたのだろうかと思うと優美の心は騒めいた。
 優美は昂ぶっている心を静めるために、一度大きく深呼吸して息を整えてから、微かに震えている手でノートを開き、麻乃が書いてきた新たな物語を読み始めた。

 物語を読み進めていった優美がページを捲ると、数行先からは何も書かれていなかった。念のためもう一ページだけ捲ってみたが、そこには横書きの罫線しかなく物語は途中で終わっているのだとわかった。
 優美は、結末の書かれていない物語を読んで欲しいと言った麻乃の心情を推察した。そして、おそらく彼女は意図して最後まで書き上げなかったのだろうと思った。
 麻乃が書いた新たな物語を読み始める前から、たぶん性的な内容ではないかとは予想していた。しかし、優美が読んだばかりの物語は、性的な要素が含まれた小説ではなく、官能小説と言い表した方が適切に思える内容だった。淫らなストーリーは、読みながら身体が火照ってしまうのが抑えられなくなる程に刺激的だった。
 物語は、部活動の課題として書かれた作品と同様に二人の女子中学生の物語だった。
 舞台は全寮制女子校の中等部。主人公の少女は寮で同室になった先輩に惹きつけられる。先輩への憧憬は恋情へと変わっていき、やがて少女は先輩に対して性的な感情を抱くようになる。その経過が主人公の一人称で語られていた。
 主人公の少女は、幼い頃から同性に対する性的な関心と被虐的な性的願望を持っていた。そのため、先輩を恋い慕う気持ちより肉欲の方が強くなっていき、先輩から淫らに苛まれるのを想像しながら自分を慰めるようになってしまう。その課程を記した描写はとても淫らで、特に少女がオナニーをしているときの心情や、オナニーをしながら口にする言葉は淫猥で変態的だった。
 ある日、少女は先輩が外出するのを見計らって先輩の下着を使ってオナニーをする。そこへ忘れ物をした先輩が部屋に戻ってきて、少女の異常な行為が見つかってしまう場面で物語は終わっていた。
 優美を興奮に導いた理由は物語の筋以外にもあった。
 主人公の少女は名前が書かれておらずMとなっており、先輩の名前はYとされていた。その書き方は『O嬢の物語』を真似たのかも知れないが、MとYのアルファベットから察すれば、登場人物のモデルが優美と麻乃自身であるのは明らかだった。
 優美は、その物語を読んで欲しいと言ったときの麻乃の表情を思い浮かべながら彼女の心中を推し量ってみたが、そこから導かれる結論は一つしかないように思えた。
(麻乃さんの書いたこの物語… 彼女の願望と受けとっても良いのかしら…)
 急激に鼓動が早まると共に、物語を読んで火照っていた優美の身体が激しく疼いた。
(我慢できそうにないわ…)
 部室の扉は鍵を掛けられなかったが、優美は体の奥から湧き起こる性的な欲求に抗えなくなっていた。
 優美はプリーツスカートの裾の下から右手を中へと潜らせると、下着の上から熱を帯びている部分に触れてみた。その場所は、既に下着の上からでもはっきりとわかるほど湿っていた。
 「あぁ…」
 学校の中だというのに、普段は部員が集っている部室だというのに、淫らな声が抑えられないほど興奮が高まっていた優美は、スカートの裾を口に咥えて清楚な白い下着を着けている下半身を露わにした。優美は下着の中にそっと手を入れると、濡れて敏感になっている柔らかな部位に中指を這わせながら、テーブルの上で開いたままになっている麻乃のノートへ目を向けた。開かれていたページには、Y先輩から責められる想像をしながらオナニーに耽るMの様子が描写されていた。


 「いやらしいことをしていた罰なのに、そんなに感じていたら罰にならないでしょう? Mったら、本当に変態なのね… いやらしいマゾなのね…」
 私の頭の中にY先輩の甘美な叱咤が響き渡りました。Y先輩に蔑まれて惨めなのに、恥ずかしいのに、先輩に罵られるほど私の淫らな感情は強まって、ひどく濡れてしまっている性器をこする指の動きが早まりました。
 「はぁっ、はい… Mは、先輩のおっしゃるとおり、いやらしい変態の女の子です…  変態のマゾなんです… いやらしいことをしていた罰として先輩の目の前でオナニーをさせられているのに… 興奮して感じてしまういやらしい女子中学生です… ああっ、せ、先輩… もっと厳しく叱ってください、変態の私に、もっと厳しい罰を与えてください… 先輩… Y先輩… お願いです、私を踏みつけてください… 私にオシッコをかけてください! ああっ…」


 淫らな文章からは、物語を書いていたときの麻乃の興奮が伝わってくるように思えた。
 「麻乃さん… 私も… 私だって、麻乃さんのことがずっと気になっているのよ… それに、私だって、麻乃さんといやらしいことをしたい気持ちでいっぱいになっているのよ…」
 咥えていたスカートの端を落とした口から漏れ出てしまった独り言に更に興奮を高められた優美は、スカートを床に落としてからスカーフを外してセーラー服を脱ぎ始めた。いつ誰が訪れて来るとも知れない部室ではあったが、この時間になれば誰も来ないのは経験的にわかっていた。優美は震えている手を背に回し、ホックを外して白いブラジャーを腕から抜き取ると、次いでショーツも脱ぎ捨てて靴下と上履き以外は何も身に纏っていない姿になった。優美が部室でその姿になるのは今日が初めてではなかった。
 (もし、麻乃さんも変態なら… きっと、私の、この性癖もわかってくれるはずだわ…)
 誰にも言えずに、ずっと秘めてきた自分の露出性癖と淫らな思いを、麻乃なら理解してくれるかも知れないと思うと、優美の身体は更に火照りを増した。今までに経験がないほどに昂ぶった優美の股間からは、溢れ出たものが雫となって糸を引きながら床へと落ちていった。
 学校の中で、普段は文芸部の部員と共に部活動をしている部室で全裸になっているのだと思うと優美の興奮は膨らむ一方だった。優美は、私は変態なのだから、露出狂なのだからと思いながら、すっかり敏感になっていた場所に右手を持っていき、親指と中指を使って慰め始めた。親指で敏感になっている前の突起を、中指で淫らな蜜を溢れさせる源を刺激する触り方は優美のお気に入りの方法だった。その一方で、空いている左手では自分の体を届く範囲でなで回した。裸の体をなで回していると、公共の場所で裸になっている自分をより実感できるのだった。
 「あぁ… 私… 学校の中なのに… 部室なのに… 裸になっているのね… 裸になって、いやらしいことを… オナニーをしているのね…」
 狭い部室の中には、抑え気味に発せられている優美の喘ぎ声と、足の付け根の間から発する淫らな水音だけが響いていた。麻乃のノートを見つめながらオナニーをしていると、まるで麻乃の目の前でしているように思えた。
 「ああ… 麻乃さん… 麻乃さん、麻乃さん!」
 放課後の誰もいない部室で生まれたままの姿になり、麻乃の名を呼びながら激しく身悶えをしていた優美は、やがて、ひとしきり大きく身体を震わせて絶頂へと上りつめていった。

六、
 放課後になるといつも麻乃は逸早く部室にやってくる。しかし、新たな物語を書いたノートを優美に渡した翌日は珍しく同級生の部員と一緒に部室に現れた。
 この日の活動中、麻乃は優美と目を合わせようとはしなかった。麻乃の態度は明らかに優美を強く意識してだと察せられたが、優美の方は普段通りの態度をとるように努めた
 部活動が終えた後に優美が少し居残ると告げると部員達は帰っていった。その中には麻乃も含まれていた。自分が居残ると言えば麻乃も残るだろうと思っていた優美は意外に感じたが、きっと、淫らな告白にも等しい物語を自分に読ませてしまったのがよほど恥ずかしいのだろうと思った。
 期待に膨らんでいた気持ちがしぼんでしまい、今日は私も帰ろうと思って優美が部室を出ると、部室の前を通る廊下の壁に背を凭せかけている麻乃の姿が目に入った。
 優美が部室から出てきたのはわかっているはずなのに、麻乃は優美の方へは顔を向けずにうつむいたままだった。しかし、その目の端が優美の様子を窺っているのを見ると、優美はゆっくりとした足取りで麻乃へ近づいていった。
 麻乃の前で足を止めると、彼女は顔を少しだけ持ち上げて小さく口を開いたが、そこからはいつもの明るい声は流れ出てこなかった。麻乃の態度は、何かを言おうとしながらも、葛藤する思いに妨げられて何も言えないでいるように見えた。だらりと垂直に落とした両腕の先で握りしめられている小さな拳と艶めいた赤い唇の端が震えていた。
 あのノートを優美に渡した後、様々な思いに囚われて煩悶したのかも知れない、昨晩は眠れぬ夜を過ごしたのかも知れないと思うと、優美は一刻も早く麻乃の不安を取り除いてやりたくなった。
 「麻乃さん、この後時間があるかしら?」
 「は、はいっ! 大丈夫です!」
 優しげにかけた優美の声に大仰に反応して、麻乃はバネ仕掛けの人形のようにぴょこんと顔を持ち上げると勢いよく返事をした。目を潤ませて頬を染めている麻乃の表情を見ると、優美は彼女が何かしらの期待をしているように思えた。
 「それなら、これから私の家に来てくれるかしら? 麻乃さんの書いた物語のことで聞きたいことがあるの。でも、学校ではちょっと話しにくいでしょう?」
 優美は意図的に麻乃の耳元に唇を寄せて囁いた。優美が顔を近づけると、麻乃の身体から立ち上る甘い香りが急に濃くなって、触れてはいなくとも彼女の体温が一気に上昇したのがわかった。
 「はい… わかりました…」
 麻乃は声と身体を震わせながら、優美に向けている視線を外さずに肯いた。

 学年ごとに分かれている下駄箱を経て優美が校門の所へ着くと既に麻乃が待っていた。部活動が終了する時間はだいぶ過ぎていたので校門の付近を歩いている生徒はいなかった。校門の内側に立っていた麻乃の前に着いた優美が無言で肯くと、二人は肩を並べて校門から出て、互い何も言わずに歩き始めた。
 麻乃と横並びになって道の端を歩いていた優美は、時折自分の方へ顔を向けては何か言いたそうにしている麻乃の様子に気づいてはいたが、自分からは声をかけずに黙ったまま歩を進めていった。夏至が近づいてくる季節でもあり、部活帰りとはいえ辺りはまだ十分に明るかった。
 学校の東側は昔からの区割りが残っている閑静な地区で、古くから町に住んでいる人達の家が多い場所だった。優美の家はその一角にあり、学校からは歩いて十分程度の場所だった。
 戦前から町に住んでいる舞鶴家も広い敷地を持っており、その周囲は石積みの塀で囲まれている。土地の中央に建っている母屋は一見古めかしい日本家屋の平屋であったが、その内部は現代の生活に不便がないようにリフォームされていた。
 終始うつむき加減で歩いていた麻乃だったが、優美の家の前に着いて門扉の内に足を踏み入れると持ち前の好奇心が騒ぎ出したようだった。彼女は舞鶴家の広い庭や、平屋ながら重厚な母屋を見ると目を輝かせ始めた。
 「立派な家ですね… 優美先輩、今日は、先輩のご両親とかは…」
 優美のすぐ後ろで母屋へと向かう踏み石を歩いていた麻乃がようやく声をかけてきた。その声色からは、麻乃が緊張しているのがうかがえた。
 「今の時間は誰もいないわ。この家は祖父が建てたのだけれど、祖父も祖母もだいぶ前に亡くなっているから今は親子三人で暮らしているの。それに、父も母も仕事の関係でいつも帰りが遅いので普段の日は夕食も一人でとる方が多いわ。だから気兼ねしなくていいわよ」
 麻乃が抱いている不安を察して彼女の緊張を解いてあげようとした言葉だったが、麻乃の方は優美の話を聞くと少し気まずそうな顔つきになった。
 「あの… 優美先輩は、いつも夕ご飯を一人で食べているんですか? 寂しくなったりしないんですか?」
 恐る恐る聞いてきた麻乃の言葉から彼女が気遣いをしていると知って、優美は心が暖かくなるのを感じてふと笑みを浮かべた。
 「別に寂しくはないわ。静かに読書ができるのなら、それは私にとっては最高の環境だもの」
 「孤高って感じですね… 優美先輩らしくてすてきです…」
 優美が少しだけ冗談めいた口調で答えると、麻乃は表情を明るくして胸の前で手を組み、やはり少しおどけた感じで受け答えた。二人の間に続いていた緊張を打ち解かす笑いが広がった。
 玄関の前に着くと優美は鍵を外して重厚な引き戸を開き、麻乃を家の中へと招き入れた。上がり框の先に延びる広く長い廊下を見て麻乃は呆然としていたが、優美に促されると靴を脱いだ。
 「大きな家ですね…」
 高い天井を見ながら感心した声を漏らす麻乃を従えて廊下の奥まで歩いていった優美は、廊下の先に更に続いている人がようやくすれ違える幅しかない細い廊下を指し示して、私の部屋はこの先にあると教えた。
 「私の部屋は元々は離れだったの。その離れを私の部屋にしてもらったのだけど、そのときに庭を歩かないで母屋と往き来ができるようにこの廊下も作られたの」
 「少し変わった感じがしますけどすてきな家ですね… なんか、ミステリーの舞台になりそうな雰囲気があります…」
 「それはいいかもしれないわね。足を踏み入れた人は二度とは出られないといった物語の舞台にしてみようかしら」
 「えっ、それは私もこの家から出られなくなっちゃうってことですか?」
 身体が触れあうほどに身を寄せて、笑いながら会話を交わしている間に優美の部屋に着いた二人は、元離れの入り口になる引き戸の前で足を止めた。優美は横に立つ麻乃に一度目を向けてから木製の戸を開いた。
 「わぁ…」
 麻乃は部屋の入り口に立ったまま部屋の中を見渡すと感嘆の声を上げた。
 十畳程の広さがある優美の部屋は床も壁も板張りになっている。入り口の向かい側にある大きなガラス戸の外には地面を芝生に覆われた小さな庭が見えており、庭の周囲は常緑樹の庭木が生い茂っている。部屋の中からは敷地を囲っている塀は見えないので、優美の部屋は窓の外に広がる光景と相まって、山中にある別荘の一室を思わせる造りになっているのだった。
 部屋の中に置かれているベッドや机、鏡台や衣装ダンスといった調度品は木製のシンプルなもので、その落ち着いた様相は子供部屋らしからぬ雰囲気をたたえている。部屋を入って右手の壁には作り付けの大きな書棚があり、麻乃はその書棚に興味を惹かれた様子だった。
 「遠慮せずに入って」
 優美は先に部屋に入ると、庭に面した窓際に置かれている小さなテーブルセットを指さした。
 「お茶の用意をしてくるので、あそこに座って待っていてくれるかしら」
 優美の言葉に肯き返したものの麻乃はどこか上の空で、好奇心に満ちた目を部屋のあちこちに走らせていた。優美はそんな麻乃の背を見ながら、この部屋に年の近い子を招いたのは久しぶりだわと思って心がときめくのを感じていた。
 十分程たった後にティーポットとティーカップを乗せたトレイを手にして優美が部屋に戻ると、麻乃はまだ書棚の前に立っており、並べられている本の背表紙を熱心に見つめていた。
 「あまり見られると恥ずかしいわ」
 優美が部屋に戻ってきたのに気づいていなかった麻乃は、声をかけられると身体をビクッと震わせてから、恐る恐る優美の方へ顔を向けた。
 「すみませんでした… つい、夢中になってしまって…」
 いけないことをして叱られた子供のように、麻乃は申し訳なさそうな顔つきになって頭を下げた。
 「そうですよね… 私も自分の本棚を見られるのは恥ずかしいです。なんか、読んでいる本を知られると、心の中をのぞき込まれているような気持ちになりますから… でも、優美先輩の蔵書を見ていたらつい夢中になってしまって…」
 麻乃が抱いているのは純粋な好奇心で他意はないとわかっていた。優美自身も訪れた先で書棚を見かけると並べられている本に見入ってしまうからだった。
 「蔵書って程ではないわ。でも、本がたくさん並んでいると興味を持ってしまう気持ちは私にもよくわかるわ。それに、麻乃さんになら見られてもいいのよ」
 「本当ですか? うれしいです!」
 満面に笑みを浮かべて再び頭を下げる麻乃を見ていると優美は心が和んだが、麻乃を家につれてきた目的を思い出して気持ちを入れ替えた。
 優美は丸いガラスの天板がはめ込まれた籐のテーブル上に手にしていたトレイを置くと、テーブルとセットになっている椅子に腰を下ろして麻乃に向かい側の椅子に座るよう促した。
 麻乃が椅子に腰を下ろすのを待ってから、優美はティーカップに紅茶を注いで差し出した。緊張気味の表情で差し出されたカップを手にした麻乃は、カップを口元に近づけると、立ち上る芳香にうっとりした表情を浮かべた。
 「この紅茶、とても良い香りがしますね」
 「アールグレイという紅茶なの。ベルガモットという柑橘類で香り付けされているのよ。ベルガモットには鎮静作用があるようで気持ちを落ち着かせてくれるの」
 麻乃はティーカップを手にしたまま、感心しているような、尊敬しているような眼差しを優美に向けていた。
 「優美先輩の名前や立ち振る舞いから私が思い浮かべていたのは日本風のイメージで、たとえれば雪原で優雅に踊る丹頂の姿だったんです。でも、この部屋やこの紅茶からイメージする先輩は西洋風な感じです。あえて鳥にたとえるなら白鳥でしょうか…」
 真剣な面持ちで優美を賛美する言葉にこそばゆさを感じたが、同時にうれしさも込み上げてきて、優美は思わず柔和な笑みを浮かべてしまった。
 「ありがとう。お世辞だとしても、優秀でかわいらしい麻乃さんから言われるととてもうれしいわ」
 「いえ… お世辞なんかじゃないです…」
 優秀でかわいらしいと言われて動揺したのか、麻乃は恥ずかしそうな表情をして優美から目を逸らした。
(やはり、この子は魅力的だわ…)
 優美は、頬を染めて照れている麻乃を見つめながらあらためてそう思うと、予てから計画していた行動を始めた。
 「麻乃さん、私を見て」
 口調を一転させて優美が堅い声色を発すると、麻乃はそれに呼応するように真剣な面持ちを優美に向けた。優美は紅茶を一口飲んで喉を湿すと、麻乃の目をじっと見つめてから唇を開いた。
 「麻乃さん、私は本当の麻乃さんが知りたいの」
 優美の言った『本当の麻乃』が何を指しているのかすぐに察したようで、麻乃の顔は首元から耳元まで一気に赤く染まり黒目勝ちの目を泳がせた。
 落ち着かない様子を見せている麻乃を見つめながら静かに立ち上がった優美は、彼女を後目にしてシンプルなデザインの学習机の上に置いてあった麻乃のノートを取りにいった。ノートを手にして戻ってきた優美は再び籐の椅子に腰を下ろすと、テーブルの天板にノートを置いて麻乃に顔を向けた。
「麻乃さんの書いた新しい物語を読んだわ。今日は、この物語について教えて欲しいの」
 麻乃は真っ赤に染まった顔を少し庭の方へ向けて沈黙していた。制服のスカートの上で握りしめられている彼女の拳が震えているのを見て、優美は何も言わずに麻乃の答えを待った。
 「わかりました…」
 沈黙を破ってようやく麻乃が返事をすると、優美はノートを手にとって開き、麻乃の目の前でページを繰っていった。
 「この物語は未完のままで終わっているみたいだけれど、何か意図があるのかしら?」
 問いかけられた麻乃は再び黙り込んでしまった。優美は身体を震わせている麻乃を見つめながら、きっと彼女は心の中で様々な思いを巡らせているのだろうと察して答えを待った。やがて、唾を飲み込む音が聞こえると、麻乃は優美から視線を逸らせたまま静かに話し始めた。
 「実は… その物語は、書く前から結末は決まっていました。ごく単純な ハッピーエンドの結末でした。でも、書いているうちに、現実と妄想が入り乱れてしまったんです… 現実なら、ハッピーエンドにはならないのかもしれない… 私の願望だけで都合のよい物語にしてしまったら何かが欠けてしまうかもしれないと思ったんです…」
 そこまで話すと麻乃は唇をギュッと結んで、優美の顔色を窺うように上目遣いの視線を向けてきた。そして、黙って麻乃を見つめている優美が先の言葉を促しているのを察すると言葉を続けた。
 「私は、結末を二つ考えつきました… それで… その二つの結末のうち、どちらの結末が良いのか… 優美先輩に決めて欲しいと思ったんです…」
 判決を待つ被告人のような表情をして、上目遣いに自分を見つめている麻乃からは不安と緊張がひしひしと伝わってきた。優美は麻乃の言葉を聞いて騒き始めた心を落ち着かせようとして、また紅茶を少しだけ飲んでから静かに肯いた。
 二人の間にわずかな沈黙が落ちた。短い間合いの後、優美を真似たのか、ティーカップに口を付けた麻乃は紅茶を一気に飲み干すと、顔を優美に向けて堰が切られたように話し始めた。
 「結末の一つは、恥ずかしいことをしているのを見られたMが先輩から拒絶されてしまうという内容です。この結末では、MはY先輩から変態と蔑まれて、避けられるようになって、失意のうちに転校していきます。それでもMはY先輩が忘れられずに自虐的に自分を慰め続けて、やがて廃人のようになってしまいます。そしてもう一つの結末は… Y先輩がMを… 性癖も含めて全て受け入れてくれて結ばれる話です。当然ですけど、こちらのハッピーエンドが最初に考えた案でした… でも、あまりにもご都合主義に思えて…」
 麻乃はそこまで一気に話すと、一度大きく深呼吸をしてから先を続けた。 「おそらく… 優美先輩はもうわかっていると思いますけど、この物語に出てくるMのモデルは私です… そして、Mが思いを寄せるY先輩のモデルは優美先輩です… 私も、Mのように… 毎晩、先輩のことを思いながら慰めているんです… そこに書いてある物語は、私の願望と妄想から生まれた物語です、そして、優美先輩への告白でもあるんです… だからこそ、結末は優美先輩に決めて欲しいんです… 優美先輩の気持ちがわかってこそ物語は完結するんです」
 話している途中はしっかりと優美の目を見つめていた麻乃だったが、話を終えると恥ずかしさがこみ上げてきたのか、またしても顔を伏せて黙り込んでしまった。
 麻乃の両肩と膝の上で組み合わされた手が小刻みに震えているのを見ながら、優美は静かに立ち上がると麻乃の座っている椅子の傍らまで歩を進めた。
 優美が麻乃に顔を寄せようとして上半身を屈めると、三つ編みにした髪の先が麻乃の頬に触れて、麻乃は弾かれたように身体を大きく震わせた。
 震えている麻乃の手に自分の右手を伸ばした優美は、スカートの上で組まれていた彼女の手を包み込むようにして自分の手のひらを覆い被せた。優美の手には麻乃の震えと体温が伝わってきた。
 「震えているのね… それに、熱くなっているわ…」
 麻乃が顔を持ち上げるのを待ってから優美は彼女の目をじっと見つめた。麻乃の黒い瞳の中には不安と期待の双方が湛えられているように思えた。優美は、麻乃のためにも、自分のためにも、勇気を出して思いを伝えてくれた麻乃の気持ちに応えなければならないと思った。
 「私の選ぶ結末は決まっているわ…」
 優美は麻乃に顔を寄せて囁くと、麻乃の唇に自分の唇を静かに重ねた。柔らかな麻乃の唇に自分の唇が触れた途端、優美は懐かしい衝撃が三度心と体を貫いていくのを感じた。
 突然の口づけに驚いたのか、麻乃は目を大きく見開いて身体を固くした。だが、すぐに力を抜いて目を閉じると優美にその身を任せてきた。麻乃の身体から甘酸っぱい香りが立ち上ってくるのと同時に、閉じられている彼女の両まぶたの縁から涙が溢れ出て頬を伝い落ちていった。
 長くも短くも感じられた甘い時を経て優美が唇を離すと、二人の唇の間に一瞬だけ唾液の橋が架かってすぐに崩れ落ちた。その様子を見ながら二人の耳朶は真っ赤に染まっていった。
 二人は、目を潤ませながら少しの間だけ互いを見つめ合っていたが、やがて今度は麻乃の方から優美に抱きついてきた。
 「せ、先輩… 優美先輩… うれしいです…」
 肩を震わせながら胸の中で泣きじゃくる麻乃を愛しく思いながら、優美は彼女の背中に手を回して強く抱きしめてやった。優美も、ようやく麻乃と思いを通じ合わせられた喜びから、熱く火照っていた身体を震わせた。

 一刻の後、優美と麻乃はベッドの端に並んで腰かけながら身を寄せ合っていた。優美は麻乃の身体から伝わってくる火照りと甘酸っぱい香りを感じながら麻乃の言葉に耳を傾けていた。
 「優美先輩に読んでもらった物語に出てくるMみたいに… 私はいつも、淫らなことばかり考えてしまうんです… 自分が変だって思うこともよくあります… だから、私のいやらしい面を優美先輩が知ってしまったら、きっと嫌われてしまうだろうって思っていました。でも、『O嬢の物語』を知っていて、『イマージュ』のような本を貸してくれた優美先輩なら、変な私を理解してもらえるかも知れないとも思いました。そんなことばかり考えていたら、だんだん、いてもたってもいられなくなってしまったんです…」
 麻乃は、優美が無言で肯くのを見てから話しを続けた。
 「私、初めて会ったときから、優美先輩に惹かれていました。入部届を提出しにいった日に先輩とお話ししましたよね。あの日から先輩のことが気になっていたんです。そして文芸部の活動で優美先輩といろんなお話しをするようになって、私の心の中では優美先輩の存在がどんどん大きくなっていきました… だから、優美先輩と仲良くなれて本当にうれしかったんです… でも、先輩を思いながらいやらしいことばかりしてしまう私は、先輩に仲良くしてもらえる資格なんてないかもしれないなんて、そんなふうにも思って悩んだりもしました… でも… それでも… 私は先輩が… 優美先輩が大好きで大好きで… その気持ちだけは変わらないというか、いっそう強くなっていって… だから、それなら… いっそのこと、自分のことも、自分の思いも… 先輩に全部話してしまおう、その上で先輩に判断してもらおうと思ったんです… 最初は普通の手紙を書こうとしました。でも、上手く書けなくて物語の形にしたんです… あの物語の中に書かれているMの思いは優美先輩に対する私の思いですし、Mのしていることは優美先輩を思いながら私がしていることなんです…」
 話しを続ける麻乃の言葉からは、自分の気持ちを余すことなく優美に伝えたいと思っているのが如実に伝わってきた。いつしか優美は、麻乃の右手の指に自分の左手の指を絡めていた。
 真情を吐露している麻乃の手が熱を帯びて汗ばんできているのを感じながら、優美も自分の思いの全てを彼女に伝えなければいけないと思った。
 「私にとっても、麻乃さんは初めて会ったときから気になる存在だったのよ。麻乃さんと初めてお話ししたとき、とても楽しかったから… 誰かと会話をするのがあれ程楽しく感じられたのは初めてだったわ。私ね、麻乃さんの名前を知ったとき、なぜか心がざわめいたの。あのときは何故そんな気持ちになったのかわからなかったのだけれど、今ならはっきりわかるわ。私と麻乃さんの出会いは予め決められていたのだと… 運命だったのだと…」
 優美は、指を絡め合っている麻乃の手の力が強くなってくるのを感じながら言葉を続けた。
 「だから私はあなたに強い関心を向けていたの。部活動の中で書かれた麻乃さんの小説を読んでからは、あなたに対する興味がよりいっそう深まったわ。あの小説を読んだとき、麻乃さんはもしかしたら私と同じような思いを胸に抱えているのではないかしらと思ったから。そして、麻乃さんといろいろなお話しをしているうちに、私の抱いている思いは間違いではないと思えるようになって、麻乃さんの本心を確かめたくなって、『イマージュ』のような本を貸してみようと思ったの」
 優美の手を握る麻乃の手の力は、指に痛みを感じるほどに強まっていた。しかしその痛みは優美にとっては心地の良いものだった。
 「優美先輩が胸に抱えている思いって… どんな思いなんでしょうか…」
 声を震わせながら問う麻乃に向かって、優美は唇の両端を少しだけ持ち上げてから意味ありげに肯いた。
 「私が胸に抱えている思いというのは… いえ、思いではなくて、別の言い方をした方が適切かもしれないわね…」
 優美と麻乃の視線が絡み合った。麻乃の瞳は優美の答えに何かを渇望しているように震えていた。
 「私は心の中に淫らな獣を飼っているの… そして、それは麻乃さんも同じなのでしょう?」
 麻乃の身体が大きく震えだし、歯の根まで合わなくなってしまったのか、わずかに開いている小さな口の奥からは上下の歯がぶつかり合う硬質な音が響いてきた。
 「せ、せ、先輩… ゆ、優美先輩… 私… 私、うれしすぎて… 頭が変になってしまいそうです… 心も、体も… どうにかなってしまいそうです…」
 優美は激しく震えている麻乃の麻乃の右手を自分の胸元へと導き、絡めていた指をほどいて彼女の手のひらを自分の左胸へと押し当てた。
 麻乃は、優美の心臓が激しく脈打っているのを知ると、心を乱しているのは自分だけじゃないとわかったようで身体の震えが少しだけおさまった。
 「ほら、震えているのは麻乃さんだけじゃないでしょう? 私だって、麻乃さんと出会えたことがうれしくて、麻乃さんと気持ちが通じ合えたのがうれしくて、こんなに昂ぶっているのよ」
 息を乱しながら肯いた麻乃は、何も言わずに優美の次の言葉を待っていた。
 「麻乃さん、私もあなたが大好きなの。私はあなたの全てを受け入れる。どんなことでも受け入れる自信があるわ。だから、あなたも私の全てを受け入れて欲しいの」
 右手で麻乃の柔らかく熱い頬に触れながら自分の思いをはっきりと伝えた優美は、目を閉じて優美を受け入れる準備をした麻乃に二度目の口づけをした。
 それはお互いの全てを吸い取ろうとするような、息が続く限りの長いキスだった。キスを終えて唇を外したとき、優美の心は幸せで満ち足りていた。
 「キスって… こんなに気持ちのよいものだったんですね…」
 「私も同じ思いだわ… 思っていたとおり、本で読んだ知識だけではこの感覚はわからないわね。癖になってしまいそうだわ…」
 「わ、私もです… でも、癖になってもいいから、優美先輩とたくさんキスしたいです… もっと、もっと激しくしてみたいです!」
 恥ずかしい願望を口にしながらも、どことなく照れくさそうに頬を染めている麻乃を見て、優美は彼女を愛しく思う気持ちが深まっているのを実感した。
 「それは私も同じ気持ちだわ。でも、その楽しみ方は後にとっておきましょう。その前に、私は麻乃さんとしてみたいことがあるのだけれど…」
 優美が麻乃の願いを一旦はぐらかせたのには理由があった。麻乃の方は優美の思惑を知らずに、既に心も身体も優美に服するつもりになっているようだった。
 「私、優美先輩がしたいことなら、どんなことにだって協力します!」
 即座にそう答えた麻乃の目を凝視しながら、優美は大きく口角を持ち上げて淫らな笑みを浮かべた。
 「ありがとう。それなら遠慮はいらないわね。ねえ、麻乃さん。麻乃さんの書いたこの物語の続きを、これから私たちで演じてみない?」
 優美の要求を聞いた麻乃は目を大きく見開いて何かを言おうとしたが、わずかに開いた小さな口からは何の言葉も出てこなかった。ただ、「ゴクッ」という唾を飲み込む音だけが優美の耳に響いてきた。

七、
 (そろそろいいかしら…)
 母屋のリビングで読書をしながら待機していた優美は、読んでいた本を閉じると革張りのソファから腰を上げた。未だに制服を着たままだった優美は、休日の外出を装うのなら、それなりの服に着替えておけば良かったかしらと思いながら自分の部屋へと向かって行った。
 麻乃の書いた物語の続きを演じるために、二人は優美の部屋を寮の相部屋に見立てることにした。そして、優美は物語の中に書かれていたY先輩の外出を再現するために、麻乃だけを部屋に残して二十分程自分の部屋から離れていたのだった。
 優美は元離れの自分の部屋へと向かう細い廊下を歩きながら、麻乃は一人でどんな淫らな行為をしているのだろうと考えて胸をときめかせた。
 麻乃の書いた物語の中では、Y先輩を慕うMという少女は、先輩がいないときを見計らって先輩の衣装ダンスを開き、収納されている下着を取り出して欲情していた。そして、Y先輩の下着に顔を埋めながらオナニーをしている最中に、忘れ物をして戻ってきた先輩に痴態を目撃されてしまうのだった。
 物語を忠実に再現している麻乃を想像すると、優美は苦しさを覚えるほど身体が火照るのを感じたが、Y先輩という登場人物になりきるためには騒いでいる心を平静に保たなければならないと思った。しかし、あの物語の続きを演じたとしたら、自分と麻乃はいったいどのような行為に及んでしまうのだろうかと考えると心を静めるのは容易ではなかった。
 部屋の入り口まで来た優美はそこで足を止めると、大きく深呼吸をして息を整えてから、逸る気持ちを抑え込んで部屋の扉にそっと耳を当ててみた。
 扉の向こう側からは、(せ、先輩…)と呟く優美のくぐもった声が聞こえてきた。優美は、自分の下着に顔を埋めながら自らの下着に手を入れて悶えている麻乃を思い浮かべながら勢いよく部屋の戸を開いた。
 「えっ…」
 物語の内容から麻乃がしていそうな行為はある程度予想していたが、部屋の中の光景を見た優美は驚きのあまり言葉を失ってしまった。
 部屋の中は衣装ダンスから取り出された優美の下着が床一面に並べられていた。その半数を占めているショーツに至っては、優美の陰部が当たっていたせいで染みが付いてしまった部分が見えるような形で広げられていた。
 並べられた下着の傍らで膝立ちになっている麻乃はその身に何も着けていなかった。彼女は並べられている優美の下着を前にしてそれらを見下ろしながら、手にしている白い布地に顔を埋め、腰をくねらせながらオナニーをしていたのだった。
 想像を超えた、あまりにも異常な光景を目の当たりにして、優美は部屋の入り口に佇んだまま呆然としてしまった。また、恥ずかしい染みが付いている下着を全て見られてしまったのだと思うと激しい羞恥が襲ってきて、物語の登場人物を演じようとしていた優美の心は現実の世界に引き戻された。
 しかし、部屋の入り口に立った優美に顔を向けた麻乃の表情の変化は、彼女が未だに物語の役になりきっているのを示していた。恍惚としていた表情から目を見開いた驚愕の表情へと移り変わっていく様は、未完だった物語の最後のシーンそのままだった。
 自分の方から持ちかけた提案なのだから、私も彼女と同じように、あの物語の世界に入り込まなければいけないと思い直した優美は、気を取り直して部屋に入ると震える足で麻乃の所へと向かっていった。そして、立ち膝の姿勢で固まったまま身体を震わせている麻乃の傍らに立つと、腕を組んで彼女を見下ろした。
 「麻乃さん、これはいったいどういうことなのかしら?」
 半分は演技で、半分は本気で、優美が厳しい口調で問い質すと、麻乃は身体を優美に向けてひれ伏すように頭を下げて両手を床についた。
 「せ、先輩… も、申し訳ありません…」
 声と身体を震わせながら土下座で謝罪をする麻乃の背中を見ていると、とても演技とは思えず優美の興奮は否応なく高まった。そして、その興奮は優美の心の中に嗜虐的な欲望を生み出したのだった。優美は、自分の中にはこのような感情もあったのだと知って驚いたが、麻乃が望んでいるのならこの欲望を彼女にぶつけてみたいと思った。
 「麻乃さん、こちらに来て私の前で正座をしなさい」
 土下座をしている麻乃の後ろを通り過ぎながら静かな口調で命令を下した優美は、窓際に置いてあるテーブルセットの所へ行って籐の椅子に腰を下ろした。ゆっくりと立ち上がった裸の麻乃は、フラフラとした足どりで優美の前まで歩いてくると、不安そうな顔つきをしたまま板の間に正座をした。優美は麻乃の目の前で足を組むと、惨めな姿を晒している彼女の裸身をしげしげと眺め回した。
 制服を着ているとスリムに見えていた麻乃の身体は、裸になると思っていたより女性的な丸みを帯びていた。小振りではあるが胸やお尻の発育は優美より勝っているようだった。その一方で、陰毛はほとんど生えていなかった。優美はそんな麻乃の身体を見つめながら身体が火照っていくのを感じた。
 「申し訳ありませんじゃすまないでしょう? これはどういうことなのかしら、ちゃんと説明してもらえるのかしら?」
 優美は、部屋の床に並べられている自分の下着を指さしながら、意識的に軽蔑した目つきを麻乃に向けた。青ざめた顔をしながら麻乃は身体を小刻みに震わせていたが、優美が厳しい声色でもう一度答えを促すとボソボソと小さな声で説明を始めた。
 「わ、私… 優美先輩が好きです… 大好きなんです… この寮で同室になったときからずっと先輩に惹かれていて、好きで好きでたまらなくなってしまって、いつの間にか先輩といやらしいことをする想像をしながら、オナニーをするようになってしまったんです…」
 演技に被せて自分の思いを告白しているうちに気持ちが高揚してきたのか、麻乃の声は次第に大きくなっていき、言葉も明瞭になっていった。
 「最近は、先輩の持ち物、先輩の触れた物、先輩の着ていた服にも惹かれるようになってしまったんです… だから… 先輩が脱いだ服の匂いをこっそりと嗅いでは興奮して、オナニーをするようにもなっていました… だから、今日、先輩が出かけるのを知ったときから、先輩が出かけて部屋に一人になったら、先輩の下着を見てみよう、先輩の下着を使ってオナニーをしようと思っていました… それで、先輩のタンスを開けてしまったのですけど、ここに入っている下着は、全部先輩が身に着けたものなんだ… 先輩の汗や、先輩の身体から染み出たものを吸い取った下着なんだって思ったら… 一枚だけじゃ物足りなくて… 先輩の下着を全部見て見たくなってしまって、このように並べてしまったんです…」
 麻乃の声が興奮を帯びていくのがわかった。演技を装いながらも告白している内容は全て本当の気持ちなのだろうとも思った。
 優美は、麻乃の言葉を聞いているうちに下腹部が火照って疼き始めていた。冷厳さを保つためにはその火照りを少しでも冷やさなければと思い、スカートの中に風を通すために足を組み替えた。
 「麻乃さんはとんでもない変態だったのね… 好意を持ってくれるのはうれしいけれど… 同性に対していやらしい欲望を抱くばかりかこんな淫らなことを実行してしまうのだから… かなりの異常者だわ…」
 「せ、先輩…」
 「これほど異常な変質者とずっと同室だったなんて、驚いてしまったわ… 気持ち悪いわ…」
 繰り返される蔑みの言葉に被虐心が反応してしまったのか、麻乃は見るからに激しく息を乱し始めた。
 正座をしたままで、右手をお腹に、左手を太ももに当てて、身をよじらせながら切なそうに喘いでいる麻乃を見ていると、優美は彼女が何を望んでいるのかわかったように思えた。
 「触りたいのかしら? 私の目の前で?」
 わざと意地悪そうな笑みと口調で優美が聞いてやると、麻乃は潤んだ目を優美に向けて小さく肯いた。ハアハアとはしたなさを感じさせる麻乃の息づかいは更に激しさを増していた。
 「なぜそんな恥ずかしいことをしたいのかしら? 理由をはっきりといってもらわないとわからないわ。それに、どうしても触りたいのならちゃんとお願いしてみなさい」
 自分の作り出した物語の世界に入り込んで酔いしれているのか、ビクビクと身体を震わせている麻乃の身体と、半開きにされているだらしない唇は彼女の激しい興奮を表していた。
 「優美先輩の目の前でオナニーをしたいのは、私がいやらしい変態だからです… 先輩の下着を見て… 先輩のお尻や性器に密着していた下着の匂いを嗅いで、いやらしい興奮をしてしまう異常者だからです… せ、先輩… 優美先輩… お願いです、変態の私に恥ずかしい罰を与えてください… 先輩の目の前でオナニーをするように命じてください… お願いします…」
 恥ずかしい言葉を大声で言いながら取り乱している麻乃の姿を見ていると優美の嗜虐心は更に高まった。優美はもっと麻乃を辱めてやりたい思いながら、自らの身体の疼きもいっそう強まっているのを感じてまた足を組み替えた。
 「そうね… 普通の人なら、私の目の前で自分を慰めなさいと言われたら恥ずかしくて罰になるのでしょうけど… 変態の麻乃さんにとっては罰にならないかもしれないわね。むしろ、しばらく自慰を禁止にした方が罰になるかもしれないわね」
 「えっ… そ、それだけは許してください… 私… 私は、一日でもオナニーしなかったら、身体がおかしくなってしまいます…」
 即座に額を床に押し付けて懇願する麻乃を見て、その言葉は彼女の本音だとわかった。また、麻乃も自分と同じように毎日自分を慰めているのだと知って耐えきれないほどに興奮が高まった。優美はこれ以上麻乃を焦らしているよりも、自分も快楽を得るための行為に身を委ねたくなっていた。
 「そう… 麻乃さん、それなら私の目の前でしてもいいわよ。でも、これはあくまでも罰なのだから、麻乃さんがどれほどいやらしい変態なのか、どれほど異常な女の子なのか、しっかりと説明しながらするのよ」
 優美の言葉を聞き終えると、麻乃は「わかりました…」と言いながらふらふらと立ち上がった。相変わらず膝頭を激しく震わせていたが、彼女の表情は喜びと興奮で満ちていた。
 立ち上がった麻乃は、薄紅色に染まって震えている身体で気を付けの姿勢をとると窺うような眼差しを優美に向けた。そして、優美が肯いたのを見てから左手で小ぶりな胸をつかみ、右手を股間へと持っていった。
 麻乃は左手で胸をゆっくりと揉みながら右手の中指の先で敏感な部分を刺激し始めた。麻乃のその部分は既に激しく濡れていたようで、彼女が指を動かすとすぐに淫らな水音が辺りに響いた。麻乃は最初こそ控えめな喘ぎ声を出しながら身悶えしていたが、手や指の動きが激しくなっていくにつれて、身体をいやらしくくねらせながら淫らな言葉を口にし始めた。
 「あ、あっ、あっ… わ、私… 先輩の前でオナニーしてるんですね… あぁっ、優美先輩に、オナニーを見られてるんですね… あぁっ… ずっと、ずっと、こうして優美先輩の目の前でオナニーをしたかったんです… 優美先輩を思いながらオナニーしているところを優美先輩に見て欲しかったんです… あぁ… 麻乃は、いやらしい変態です、オナニーを見られて興奮する変態です… はぁっ… き、気持ちよくて… 気持ち良すぎて、おかしくなってしまいそうです…」
 露出性癖を持つ優美は、麻乃の言葉が自分の願望を代弁しているように思えた。心の中で望み続けていた人前でのオナニーを麻乃がしているのを見て、優美は思わず羨望の眼差しを向けていた。
 自分がしてみたかったことを麻乃が先んじてしているのを見つめる一方で、優美の中で先程芽生えたばかりの嗜虐心がこの子をもっと淫らにさせたいと思わせた。
 「何でそんなに気持ちよくなっているのかしら… これでは罰にならないわね… そうだわ、麻乃さんは、そのいやらしい音を立てているところ… 弄っているところを普段なんと呼んでいるのかしら?」
 敏感な部位を刺激していた麻乃の指の動きが止まり、優美に向けている顔がうろたえる様子を見せた。身体の動きを止めた麻乃は、一拍を開けてから泳ぐ目線を逸らして恥ずかしそうに呟いた。
 「せ、性器です…」
 声を落として震えながら答えた麻乃の返事を聞いて、優美は責めどころを見つけたと思って口角を持ち上げた。
 「違うでしょう? 変態のあなたなら、一人のときはあなたに相応しい呼び方をしているのでしょう?」
 麻乃は優美の求めている言葉を察したのか、薄紅色だった耳朶を真っ赤に染めていった。
 「そ、それは… その言葉を、こ、心の中で言ったことはありますけど… 口にしたことはありません…」
 麻乃の態度を見て、それは事実なのだろうと優美は確信した。
 「それなら、その恥ずかしい言葉を口にしてもらえば罰になりそうね… 麻乃さん、その言葉を使って自分のいやらしさを言いあらわしてみなさい」
 十分に恥ずかしい行為をしていたのに麻乃の顔には戸惑いの表情が浮かんだ。真っ赤になっている顔の額には汗さえ浮かび上がっていたが、やがて観念したのか目をつぶってその言葉を口にした。
 「お、おまんこ… おまんこです… 麻乃は、先輩のおまんこが付いた下着の匂いを嗅いで、興奮して、おまんこをグチャグチャにする変態です… 先輩のおまんこを舐める想像をしながら自分のおまんこを弄る異常者です… せ、先輩… こんなに… こんなに、私のおまんこ… 濡れているんです、グチャグチャになっているんです… 見て… 見てください… 麻乃のおまんこ、いやらしいおまんこを見てください…」
 恥ずかしい告白を始めたときには身体の脇で握られていた拳を解き、両手を太ももの内側にかけて開いた麻乃は、太ももの奥にある濡れた部分を優美に見せつけてから再びオナニーを始めた。
 普段見せている理知的な表情は欠片もなく、淫らな興奮をむき出しにしてオナニーに悶え狂っている麻乃は、濡れて光った部分を触りながら足を大きく開き、その付け根の間にある淫らな赤い肉まで開いて優美に見せていた。優美自身も、自覚できるほど濡れている自分のその部分に指を持っていきたかったが、物語の中の先輩を演じ続けなければいけないと思ってその思いを押し殺した。
 「麻乃さん、あなたはまだ女子中学生なのよ。それなのに、そんなに変態になってしまってこの先どうするつもりなのかしら? いくら何でも、そこまで変態な子と同室でいるのは耐えられないわ。もう私だけの胸の内に留めておくのは無理だから、同室の麻乃さんは異常な変態だと先生にしっかり報告します。そして、麻乃さんのご両親にも伝えてもらうわ。それから、学校の生徒全員にも報告する必要がありそうね。絹機麻乃という二年生の子は、女の子の下着を悪戯して興奮するような変態だから関わらないようにしなさいって」
 演技とも本気ともとれる口調で、優美から厳しい言葉を浴びせかけられた麻乃は両目を大きく見開いてだらしなく開けた口の端をわななかせていた。優美の言葉に大きなショックを受けているのは明らかだったが、響き続けている水音から、濡れている股間を弄り続ける指の動きを止めるつもりがないのは明らかだった。
 涙と汗と唾液でグチャグチャになっている麻乃の顔から、それらの雫が床にこぼれ落ちていった。股間からも淫らな雫を垂らして悶え狂っている麻乃の身体からは、淫らさを感じさせる甘酸っぱい濃厚な香りが漂ってきた。
 「そ、そんな… そんなこと… あっ、あっ! そんなことされたら、みんなに… ばれちゃう… 私が変態だって、ばれちゃいます… へ、変態だって… 変態、変態です… もうダメぇ… そんなこと言われたら… もう我慢できない… あっ、あっ、おまんこ熱い… おまんこ、おまんこ感じる… はぁっ… い、いっちゃいそうです… せ、先輩… 優美先輩… 私のおまんこ… おまんこ、いっちゃいます… 優美先輩の前でいっちゃいます… はぁっ!」
 言葉による責めに激しく興奮したのか、麻乃は右手中指の指先で敏感な突起を擦りながら左手をお尻の方から回して股間へと持っていくと、左右両手の指を使って淫らな蜜を溢れさせている淫裂を刺激していた。リズミカルに腰を前後に振りながら淫らな水音を響かせている麻乃の顔は歓喜の表情に満ちていた。
 「やだ… やだっ… い、いっちゃう… おまんこいっちゃいます… やだ、もっと、もっと… 気持ち良くなりたいのに… もっともっと気持ち良くなっていたいのに… もっと、先輩に、優美先輩にいやらしいオナニーを見て欲しいのに… おまんこ、気持ち良すぎて… 我慢できない… あっ、だ、だめっ… あっ、はっ、ひっ… い、イクッ… イッちゃう、優美先輩の前でイッちゃう… ああっ! イ… イグゥ!」
 絶頂へと上り詰めていきながら、お腹の奥から絞り出すような声で叫んだ麻乃の声はとても中学生の少女が発したものとは思えなかった。麻乃は何度か腰を大きく前後に振ると口角を下げながら歯を食いしばった表情をして爪先立ちになり、ビクビクと激しく身体を震わせた。
 (麻乃さんが絶頂に達しているわ… 私の目の前で… この表情、なんていやらしいのかしら、なんて魅力的なのかしら…)
 まるで麻乃が得ている快楽が伝播してくるように思えて優美の身体も震え始めた。
 やがて麻乃は身体の動きをゆっくりと止めると、エクスタシーを得たままの姿で数秒間立ち尽くしていたが、だらしなく開かれた口から「はあっ」と小さな声を漏らすと、足の力が抜け落ちたかのようにヘナヘナと崩折れて膝から床の上に落ちていった。
 「ああ… いっ… いっちゃいました… 私… いっちゃったんですね… 優美先輩の目の前で…」
 願いを叶えた達成感からなのか、性的な快楽を満たした悦びからなのか、優美を見上げている麻乃はとても満ち足りた微笑みを浮かべていた。優美の目には麻乃の微笑みがとても美しく見えた。
 興奮が限界まで達しているのは優美も同じだった。優美は麻乃のオナニーを見ながら自分も股間に指を持っていきたいと何度も思ったのだが、麻乃が浸りきっている世界観を壊したくない一心でずっと耐えていたのだった。
 床に座り込んだままで未だに激しく息を乱している麻乃を見つめながら立ち上がった優美は、自分の足も震えているのに気づいた。その震える足を一歩前に踏み出した優美は、床に両手をついて身体を脈打たせている麻乃の目の前に立った。様々な願望はあったが、優美はあくまでも麻乃の書いた物語の世界の中で欲望を遂げるべきだと思っていた
 「麻乃さん、あなたの自慰が… オナニーがあまりにもいやらしいから、私の下着の中が大変なことになってしまっているの… だから、もう一つの罰を与えるわ… 罰として、私の… あそこを… お、おまんこを、あなたの舌できれいにしてもらえるかしら…」
 生まれて初めて口にした卑猥な四文字言葉に恥ずかしさと興奮を覚えて優美の表情は淫らに歪んだ。絶頂後の呆けた表情で優美を見上げていた麻乃は、その命令を聞いた途端に優美の穿いているプリーツスカートを捲り上げて獣のように右の太ももにむしゃぶりついてきた。
 優美が、汗で湿っていた太ももの上を這い回る生暖かい舌の感触に身をよじらせると、麻乃は優美の制服のスカートに頭を潜り込ませてきた。やがて蠢く彼女の舌は優美の足の根元へと到達した。
 誰にも見せたことがない秘めた部分に顔を埋められているだけでも恥ずかしいのに、麻乃は躊躇なくその部分の香りを嗅ぐようにして鼻先を押し付けてくると、間を置かずに下着の上から舌を這わせてきた。
 羞恥心から生まれてくる激しい興奮と身体の疼きから思わず切ない吐息を漏らした優美は、自分の指で触るときとは違う感触に身を委ねた。足の震えと共に快楽が全身へと広がっていくのを感じた優美は、制服のスカートの上から麻乃の頭をつかむと、自分の股間へ強く押し付けながら淫らな喘ぎ声を漏らし始めた。
 「ああ… 麻乃さん… もっと、強く…」

八、
 いつの間にか窓の外に見える空は赤く染まっており、部屋の中は薄暗くなっていた。
 優美の下着が散乱している床の上で、優美と麻乃は一糸纏わぬ姿で手をつなぎ、仰向けで寝そべっていた。
 満ち足りた気分の中で優美が傍らの麻乃へと目を向けると、彼女も時を同じくして優美に顔を向けてきた。
 「優美先輩、今日のことを、あの物語の続きとして書いていいですか?」
 「ええ、もちろん書いて欲しいわ。私たちがしたことを全て…」
 麻乃は手をつないだまま身体を起こして優美に這い寄ると、そのまま身体を覆い被せてきてキスをせがんだ。今日初めて経験したキスなのに、もう何度したのかを覚えていないほど回数を重ねてしまったのだと思いながら、優美は麻乃の唇を受け入れた。わずかの間にすっかりキスが上達してしまった二人は、自分の唇で相手の唇を刺激し合いながら裸の身体を抱きしめ合い、何度目ともわからない高みへ上り詰めていった。裸で抱き合うことによって感じられる人肌の温かさと心地よさも今日初めて知ったばかりだった。
 この日、麻乃の書いた物語に沿って心も身体も許しあった二人は、互いの身体を余すことなく舐め合ったり、重ね合ったりすることで数え切れないほどの絶頂を迎えた。
 物語の再現を終えても淫らな行為は続き、何度繰り返しても二人の興奮と欲望は少しも衰えなかった。そのためか、二人の身体は軽い刺激でも絶頂に達してしまうほど敏感になっており、キスだけでも上りつめてしまうようになっていたのだった。
 「そういえば、物語のもう一つの結末だと、麻乃さんは廃人のようになってしまうと言っていたわよね。いったいどのような感じになってしまうのかしら?」
 今し方味わった絶頂の余韻に身を浸しながら優美が思っていた疑問をふと口にすると、麻乃は優美の上から身体をどかして再び優美の傍らに仰向けで寝転んだ。
 「MはY先輩のことを思うあまりにおかしくなってしまって、最後はY先輩の卒業式の日に痴漢をしてしまうんです… 裸の上にコートだけを着て、Y先輩の帰りを待ち伏せてコートの前を開いてしまうんです… 当然Y先輩は驚くんですけれど、一緒にいた先輩の友達が警察を呼んで捕まっちゃうという内容でした」
 それを聞いた優美は、小学生だったときに見た男性が露出している写真を思い出した。
 「ちょっと待っていて」
 そう言いながらやにわに立ち上がって机に向かっていった優美は、学習机の一番下の引き出しを開けて、かつて雑木林だった場所で見つけた本から切りとってきた一ページを取り出して麻乃に見せた。
 「これは私が小学生だったとき、ある場所に捨てられていた本から切りとってきた写真なの」
 そのページを持ち帰ったのは野外露出をしている女性の写真が目当てだったが、その裏側には男性が露出行為をしている写真が載っていた。
 「あ… そうです。Mはこんな感じで痴漢をするんです… でも、こんな写真を持っているなんて… やっぱり、先輩は普通に男の人の方が好きですか?」
 麻乃は手渡された男性の露出写真を見ると目を丸くしていたが、どことなく不安が入り混じっているような視線を優美に向けてきた。
 「全く興味がないといえば嘘になるけれど、どちらかというと私は女の子の方が好きだわ。この写真もこの男性の写真に惹かれたわけではなくて、その裏に載っている写真に興味を持ったからなの」
 手元の紙片を裏返した麻乃は、女性が野外で淫らな姿を晒している写真を見ると、「ふう」と小さく息を漏らしてしばらくの間写真を見つめていた。
 「優美先輩… もしかしたらとは思っていたんですけど、優美先輩って、こういうのが好きなんですか…?」
 「ええ。性に関することにはいろいろと興味があるのだけれど、私が最初に目覚めた性癖は露出だったわ…」
 優美は露出行為に興奮を覚えるようになったきっかけから、自分の性癖を自覚するまでの経緯をかいつまんで話してから、麻乃に手渡した写真について話し始めた。
 「その写真が載っていたのは『性愛・変態の研究【絵画・写真集】』という本で、普通の性行為からアブノーマルな性行為を写真や絵を使って解説している本だったの。できれば切りとらずに本を持ち帰りたかったのだけれど、とても厚い本だったから興味のあるページだけを切りとってきたの」
 優美の説明を聞いた麻乃は話しの続きを待ち望んでいるようだったが、語り始めれば長くなってしまいそうだったので、詳細な経緯を打ち明ける機会は別に設けるので待っていて欲しいと彼女に伝えた。
 「こうして写真で見ると、痴漢っていかにいやらしいかって良くわかりますね…」
 再び男性の露出写真に目を落とした麻乃の言葉を聞きながら、優美は先程麻乃から聞いた物語の続きを頭の中に思い浮かべていた。優美は男性の淫らな姿を麻乃の姿に置き換えて心が昂ぶった。
 「麻乃さんがおかしくなってしまう結末の中では、麻乃さんはこのようなことをするのでしょう? 私、こんなことをしている麻乃さんを見てみたいわ。コートを着る時期になったらしてもらえるかしら?」
 「せ、先輩… はい… 先輩が望むなら…」
 互いに裸を晒し合っているのに、恥ずかしそうに答える麻乃を見ていると優美の頭の中には様々な妄想が思い浮かんでくるのだった。
 「麻乃さん、私も麻乃さんがおかしくなってしまった後の話を思いついたのだけれど、聞いてくれるかしら?」
 肯いた麻乃が優美の方へ身体を傾けると、優美は思いついたばかりの物語の続きを語り出した。
 「転校してしまったMは、先輩への思いを募らせながら一方では先輩を逆恨みするようになるの。そして、復讐をするために先輩を観察し始めて、先輩はMとは違う女の子に心を寄せているのを知るの。嫉妬に狂ったMはその女の子の名前を使った手紙を書いて先輩を呼び出して、先輩が思いを寄せている女の子に何もされたくないのなら私の言うことを聞きなさいと脅して、いやらしい悪戯をしてしまうの。Y先輩は最初こそ嫌がっていたけど次第に感じてしまって、最後は先輩の方から求めてしまうの。そして、淫らな喜びに目覚めてしまったY先輩は、Mに謝罪することになるの。Y先輩は心を寄せていた女の子の下着を盗ませられて、その下着を使ってオナニーをしながらMに謝罪をするの。今なら、Mの気持ちが良くわかります、私も変態だったんですっていいながら… もちろん、Mは先輩のことを許してあげるのだけど、許してあげるのだから私の言うとおりにしてくださいといって、Mは先輩が盗んできた下着を先輩の顔に被せるの。ちょうど、下着の汚れている部分が口の所に当たるように…。そして、Mは先輩がかぶっている下着の上からキスをして、下着越しに舌を絡めてくるの…」
 優美の話を聞いているうちに興奮してしまったのか、麻乃は優美の傍らでオナニーを始めていた。
 「ゆ、優美先輩… そのお話し、い、いやらしいです… 変態的です… そのお話しも、私が書いていいですか… いつか、先輩と再現するために…」
 「ええ、是非とも書いて欲しいわ… でも、原案は舞鶴優美と書いておいてね。そうすれば、麻乃さんと私で作った物語だとわかるから。でも、その物語を再現するのなら、私は下着泥棒になっちゃうわね… 今度、練習のために麻乃さんの下着を盗んでいいかしら?」
 答えた優美の方も、自分の言葉に興奮して敏感になりきっている股間に指を這わせ始めていた。
 「はい、お願いします… あ、優美先輩、今度、私の家にも来てください… 私の部屋はこんなに広くないですけど… 私が毎日優美先輩を思いながらいやらしいことをしている部屋を見て欲しいです… それに、私の下着を盗んで、私の下着でオナニーをしている優美先輩も見てみたいです… そんな先輩を見ながら私もオナニーしたいです…」
 言葉を重ねるごとに二人の息づかいは荒くなっていき、二人の股間から奏でられる淫らな水音と共に部屋の中に響いていった。
 「麻乃さん… ぜひうかがわせてもらうわ… でも、こんなことを話していたら、今すぐにでも麻乃さんの汚れた下着を使ってオナニーしてしまいたくなってしまったわ… 麻乃さんが今日一日穿いていた下着を使ってオナニーをしていいかしら?」
 オナニーをしながら口にした優美の願いを聞くと、麻乃は身体を起こしてまた優美の身体に覆い被さってきた。そして優美の頭を両腕の間に挟むようにして床に手をつくと、オナニーを続けている優美の腕に自分の股間を押し付けてきた。
 「せ、先輩… そういえば、まだ優美先輩が今日穿いていた洗濯物じゃない優美先輩の下着でオナニーしてません… 私も一緒に、先輩が今日穿いていた… 先輩の匂いが染みこんでいる下着でオナニーをしたいです…」
 「そうね、それなら… こういうのはどうかしら? お互いに相手の下着をかぶり合ってキスをしながらオナニーをするの… 下着の匂いや、下着越しに伝わってくるつばが混じり合ってとても興奮しそうでしょう? 考えるだけでも身体が火照ってしまうわ…」
 「せ、先輩… そんなこと、そんなこと… 先輩の… 優美先輩のおまんこが付いていた下着を舐めながらキスするなんて… 変態です… そんな変態なこと… したいです… すごくしたいです… ああっ、だめっ… 優美先輩、我慢できない… いっ、イッちゃう…」
 「麻乃さん… 麻乃さん… わ、私も… 私も早く舐めたいわ… 麻乃さんのおまんこで汚れた下着を… ああっ、私も我慢できないわ… いくわっ!」
 何度目とも知れない絶頂を迎えて二人の身体は大きく脈打った。達した後の麻乃は腕の力が抜けてしまったようで、優美の身体に自分の身体を重ねてきた。汗に濡れて火照っている麻乃の胸からは激しい鼓動が伝わってきた。
 「優美先輩… 今度は… 下着をかぶり合って… 早くしたいです…」
 「麻乃さん、私も… 同じ気持ちよ…」
 長年にわたって心の奥に秘めていた思いを分かち合える相手を見つけた二人は、絶頂に達したばかりなのに、心の方は既にこれから行おうとしている淫戯に向けて思いを馳せているのだった。

九、
 優美の家で麻乃の物語を再現した日を境にして、精神的にも肉体的にも強く結ばれた二人はできる限り一緒にいるようになった。
 その親密さを目の当たりにした文芸部員の中には優美と麻乃の関係性を訝る者も出てきたが、二人を取り巻く周囲の人達は、概ね学業が優秀な先輩と後輩が仲良くしているととらえていた。
 麻乃は部活動の帰りに頻繁に優美の家を訪れるようになった。優美もまたかなりの頻度で麻乃の家を訪れるようになり、必然的に二人はそれぞれの両親とも顔見知りになった。
 優美と麻乃は学校の中や家族の前では典型的な優等生だったので、どちらの親も娘が良い先輩や後輩に巡り会えたと喜んでいた。しかし、優美と麻乃は周囲からの信頼とは裏腹に背徳的な欲望に溺れていた。二人はどちらの家を訪れても淫らな行為に耽るのを忘れず、ときには相手の家族がいたとしても目を盗んで淫らな行為に及んだ。
 優美と麻乃の互いを思う愛情は紛れもなく本物で、肉体を求め合ってしまうのもその思いの強さ故ではあったが、彼女たちが繰り広げる性的な行為は、愛情に加えて長年にわたって心の中に巣くってきた淫らな欲望と願望を満たすための行為でもあった。そのためか、二人の睦みごとは回数を重ねるごとに異常性をエスカレートさせていった。
 
 初めての体験で得られた強烈な興奮と快楽を再び得るために、順番に淫らな物語を書いて二人で演じていきましょうと提案したのは優美の方だった。当然のように麻乃もその提案に賛同した。物語を書き始めるに当たっての話し合いを重ねた後に、最初の物語を書いたのは優美だった。
 優美が書いた最初の物語は、露出性癖に溺れる少女を主人公とした話だった。
 密かに一人で露出行為を行うことに興奮を覚えていた中学三年生の少女は、所属する文芸部の部室でオナニーをしているところを後輩の少女に見つかってしまう。先輩に興味を持った後輩の少女は、誰にも言わないので先輩のことをもっと教えてくださいと迫り、先輩の少女は迷ったあげくに自分の性癖を語り始める。当然ながら、主人公の少女は優美の分身だった。
 この物語の中で優美は自分の露出性癖をつまびらかに記した。露出性癖に目覚めたきっかけからその後に実行してきた露出行為を全て綴り、今まで誰にも言えなかった淫らな願望までも告白した。
 文芸部の部室や特別教室棟での露出オナニー、真夜中に裸で庭に出ていってのオナニー、主人公の少女が語るそれらの告白を読む度に、麻乃は「本当のことなんですよね?」と優美に確認した。更に、引っ越してきた後輩の家が建っている場所が雑木林だった頃に、そこに捨てられていた成人向けの雑誌を見に行き、淫らな写真が載ったページを切りとってきた告白を読むと麻乃は大きな吐息を漏らした。
 先日、優美が麻乃に見せた淫らな写真の出所を知った麻乃は、「私と優美先輩の間には、やはり特別な絆があるのだと思います」と言って感慨深げな表情を浮かべた。
 淫らな物語の主人公は自分の性癖と露出体験を告白しているうちに興奮してしまう。そして、後輩の少女が自分の性癖に関心を寄せているのを知ると、私の露出オナニーを見て欲しいと土下座して頼み、特別教室棟の塔屋で全裸オナニーを見せることになるのだった。
 それは、読んでいた麻乃が制服の上から体を触り始めてしまうほどいやらしい内容の物語だった。
 麻乃は物語を読み終えるとすぐに物語を再現してみたいと言い出した。自分の書いた淫らな物語を目の前で読まれて気持ちが昂ぶっていた優美も異存はなかった。二人は主人公の告白の部分だけを端折って、主人公の少女が露出オナニーを見て欲しいと土下座をするシーンから再現を始めた。
 立ち上がった麻乃の前で土下座をして、「私のいやらしい露出オナニーを見て下さい」と言っただけで優美は絶頂に達してしまった。その後、二人は特別教室棟の塔屋へと向かった。
 制服を着ている麻乃の目の前で自分だけが一糸纏わぬ姿になり、一方的にオナニーを見てもらう感覚に優美は激しい興奮を覚えた。既に麻乃とは何度も身体を重ね合わせて絶頂に達する姿さえ見せ合っているのに、人前でのオナニーは二人でするのとは別種の甘美な快楽を優美にもたらした。羞恥心と興奮の入り混じる中で、優美は自分が求めていたのはこの感覚だと実感して激しく乱れた。
 既に優美の心情をよく理解していた麻乃は、目の前で露出オナニーをしながら悶え狂っている優美に向かって「先輩、露出狂って、どんな人を指すんですか?」と質問を投げかけてきた。
 優美もまた麻乃の質問の意味をすぐに察して、切りとった成人向けの本に書かれていた説明を元に「露出狂は、屋外や公共の場所… たとえば、学校の中で、人知れずおまんこや裸を晒して興奮する異常者です… そんな場所で裸になって、興奮して… オナニーまでしてしまう変態のことです…」と答え、自分の口にした言葉に陶酔して絶頂を迎えたのだった。
 物語の再現は優美がエクスタシーを迎えた場面で終わるはずだったが、オナニーを人前で晒す念願を達した優美は、快楽の余韻から更なる激しい露出への欲望が沸き起こってしまった。
 優美は裸のままで階段を降りていきたいと言い出し、麻乃に周囲を見張っていてほしいと頭を下げた。麻乃は優美の願いを聞くと一瞬だけ驚きの表情を浮かべたが、すぐに口角を持ち上げて首を縦に振ると、塔屋への登り口周辺を見張るために一足先に階段を降りて行った。
 不安とスリルと淫らな興奮の中で、心臓が早鐘のように鳴るのを感じながら優美が塔屋の小部屋で待機していると、踊り場の所で折れ曲がった階段の先から、「先輩、廊下には誰もいないから大丈夫です」と麻乃の声が聞こえてきた。優美は震えている足を踏み出してゆっくりと階段を下り始めた。踊り場を過ぎたところで進む方向を変えてから更に階段を降りていくと、鎖が張られている塔屋の登り口に立っていた麻乃の先には廊下の端が覗いていた。
 塔屋の中も紛れもなく校舎の中ではあったが、広い廊下の一端が見えてくると、私は学校の校舎内で露出行為をしているんだと実感が高まってきて、優美の右手は知らず知らずのうちに股間へと伸びていった。
 全身をガクガクと震わせながらも、優美は右手の指先で濡れている部分を刺激しながら階段を一段ずつ降りていった。そんな優美の姿を見ていて耐えきれなくなったのか、服こそ脱ぎはしなかったが麻乃もスカートのファスナーを下ろして手を中に入れ、小刻みに腰を動かしながら息を乱していた。
 階段を降りきって特別教室棟の廊下を見渡した優美は、その廊下を歩いている生徒達を思い浮かべた。普段は生徒達が行き交っている場所で淫らな姿を晒していると思うと興奮は高まる一方だった。優美の股間から溢れ出していたものが糸を引きながら落ちていき、静かな廊下に水音を立てた。
 その音がスタートの合図に聞こえた優美は、淫らな蜜の源を弄る指の動きを激しくして、フラフラとした足取りで廊下を歩み始めた。
 「皆さん… 舞鶴優美は、学校の廊下で裸になって、オナニーをしながら歩いています… 皆さんの目の前に、淫らな姿を晒しています… 優美はいやらしい露出狂です… お願いです、私がいやらしくおまんこを弄るのを見ていてください…」
 声が大きくならないように抑制しながら淫らな言葉をこぼすと、頭の中には思い浮かべていた生徒達の驚愕の声や罵声が聞こえるような気がした。優美はできるだけこの興奮と快楽が続いて欲しいと思ったが、興奮のあまり限界はすぐに訪れた。
 優美は特別教室棟の廊下を見渡しながら絶頂に達した。いつの間にか辺りを見張る役を担っていた麻乃が優美のすぐ横に立っており、彼女も優美の痴態を見ながら絶頂に達していた。こうして優美の書いた最初の物語は終幕を迎えたのだった。

 次に麻乃が書いた物語はフェティシズムの性癖を持つ少女の物語だった。物語の冒頭には、優美の物語に習ったのか、主人公の少女がフェティシズムの性癖に目覚めたきっかけから今までにしてきた変態行為の数々が綴られていた。
 主人公の少女は小学生のときに、自分の下着の汚れが気になって匂いを嗅いでしまう。下着の汚れからは汗やオシッコの匂いと共に何とも言えない独特の香りがした。また、人に見せてはいけない恥ずかしい場所に密着していた下着の匂いを嗅ぐと、いけないことをしているように思えて胸がドキドキした。やがて少女は自分以外の女の子の下着も同じような匂いがするのだろうかと考えるようになり、匂いに対する興味と関心は性的な好奇心と結びついていった。
 少女は機会があれば身近な女子の服の匂いを嗅いでみるようになった。そして小学六年生のときに行われた修学旅行では、夜中に同室の友達のバッグから使用済みの下着が入れられた袋を持ちだしてトイレの中で観察した。ビニール袋に入れられていた洗濯を待つ友達の下着は、まるでお漏らしでもしたような濃厚なオシッコの匂いが染みついていた。その匂いに激しく興奮を覚えた少女はその下着に顔を埋めながらオナニーをした。この経験が元になって少女はオシッコにも強い関心を寄せるようになった。
 フェティシズムの性癖を膨らませながら中学生になった少女は、入部した文芸部で一学年上の先輩に惹かれた。少女は先輩の衣類や履物の匂いをこっそりと嗅いで欲望を満たすようになるが、それだけでは満足できなくなった。少女は先輩がオシッコをしているところを見てみたい、匂いを嗅いでみたいという欲望が抑えきれなくなってトイレを覗いてしまい、運悪く先輩に見つかってしまうのだった。
 先輩の家につれていかれた少女は、なぜトイレを覗いていたのかと問い詰められて自分の性癖を全て告白した。先輩は以前から少女の態度を不審に思っていたと言った。少女は罰としてオシッコを見られる恥ずかしさを自分でも味わってみなさいと言われて、庭につれ出されて放尿を強要されるのだった。
 物語を読んだ優美は、以前貸した『イマージュ』の中に出てくる放尿シーンに麻乃が強い関心を寄せていたのを思いだして、彼女が抱いているオシッコへの思い入れを理解した。
 麻乃が優美の放尿を覗くシーンの再現は体育館のトイレで行われた。体育館のトイレは全ての便器が和式で、麻乃の話によると個室を仕切る壁の下側の隙間が他のトイレより広くなっているとのことだった。優美は、麻乃がそのトイレで本当に覗きをしているのではないかと思って聞いて見ると、麻乃は否定をせずに頬を染めてうつむくだけだった。
 優美はトイレの個室に入ると、普段一人でしているときと同じように下着を下ろしてしゃがみ込んだ。放尿を覗かれると思うと人前でオナニーをするのとは別の恥ずかしさと興奮を覚えたが、今回は麻乃の物語なのだからと自分を縛めて露出の欲望を抑え込んだ。
 優美が放尿を始めると、機を同じくして隣の個室との間を仕切る壁の下から手鏡が差し込まれて二人の物語は始まった。
 トイレを覗かれているのに気づいた先輩が少女を叱責し、なぜ覗きをしたのかを問い詰めるために家につれていく場面までは物語を忠実に再現したが、優美は麻乃を問い詰めているときに、なぜ体育館のトイレが覗きに適していると知っていたのかしらと、物語にはなかった質問を加えたのだった。
 優美が思っていたとおり、麻乃は以前から体育館のトイレでクラスメイトの放尿を覗き見ていたと告白した。この後、優美の意向で後輩の少女が放尿をさせられる場所は庭から部屋の中に変更された。優美は浴室から洗面器を持ってくると、その中にオシッコをしなさいと麻乃に命じた。
 麻乃は優美に見られながら優美の部屋で放尿をする背徳感に興奮したようで激しく取り乱した。一方の優美も、麻乃が自分の部屋で放尿をしている異様な状況に全身がしびれるほどの興奮を覚えた。
 二人の物語は麻乃の書いた筋から外れていき、興奮した優美は麻乃の放尿を見ながらオナニーを始めると麻乃に唇を重ねた。そして、優美は放尿する麻乃とキスをしながらするオナニーに感じて、麻乃は優美にキスされながらの放尿に感じて、一緒に絶頂を迎えたのだった。
 このときも二人の淫戯はここでは終わらなかった。麻乃はいつもお風呂場で自分のオシッコを浴びたり飲んだりしながら、優美にオシッコで汚される想像をしてオナニーをしていると告白した。麻乃の告白に優美が強い関心を示すと、麻乃は猫が水を飲むようにして、洗面器に溜まった自分のオシッコに舌を付けながらオナニーをして見せた。麻乃の異常な飲尿オナニーを見ながら再び激しく興奮した優美は、麻乃の求めに応じて彼女を淫らな言葉で罵倒しながら尻を激しく叩いてやった。
 麻乃を激しく責めながらオナニーをする優美と、飲尿と容赦なく尻を叩かれる痛みに快楽を感じていた麻乃が絶頂に達して、二つ目の物語も幕を閉じた。

 三つ目の物語は、優美が最初に書いた物語の続きだった。
 主人公の露出狂の少女は、学校の特別教室棟で行われた主人公の露出行為を見たのを契機として、自らも露出行為に目覚めてしまった後輩から家が留守になる日に招かれる。そして後輩の家の中で一緒に露出行為を行う話しだった。
 この物語は大筋だけが書かれており、再現するときに行う事柄は成り行きに任せることにした。
 物語の再現は実際に麻乃の家が留守になった休日に行われた。
 当日、優美は全裸の上に前開きのワンピース一枚だけを纏った姿で麻乃の家を訪れ、麻乃が玄関の扉を開いた直後にワンピースを開いて見せたのだった。コートを着る時期になったら麻乃にしてもらう約束をしていた行為だったが、『性愛・変態の研究』に掲載されていた写真に多大な影響を受けた優美も以前からしてみたいと思っていたのだった。
 普段の優美からは考えられない大胆な行動を目の当たりにした麻乃は目を丸くして驚いていたが、すぐに優美の気持ちを察して優美の行動に応じてきた。
 「そんなにいやらしい姿を見られたいんですか? 先輩は露出狂だから仕方ありませんけど… でも、そんないやらしい格好で外を歩いてきた罰として、今日は服を着て家に入るのは禁止します。だから、家に入る前に裸になってくださいね」
 かつて雑木林だった場所は閑静な住宅地になっていた。整然とした区画の中に建ち並ぶ家は何れも敷地が広くて高めの生け垣に囲われており、周囲の道からは敷地の中が見えにくくなっていた。住宅地の一番奥の角地に建っている麻乃の家も例外ではなく、大きな庇がある玄関先は隣家の二階からも死角になっていたが、簡素な門の先は住宅街の中を通る道なので、万が一誰かが通り掛かれば優美の痴態を目撃されてしまう危険性があった。
 しかし、露出行為の興奮は見つかってしまう危険性に比例して高まるのを知っていた優美は、危ないと自覚しながらも麻乃の命令に従って白昼の屋外に生まれたままの姿を晒してしまったのだった。
 いつ誰が来るとも知れない白昼の屋外で全裸になった優美はそれだけで軽い絶頂に達してしまった。自分の家の玄関先で全裸になって達する優美を見ていた麻乃も激しく興奮してしまい、その場でいきなり服を脱ぎ始めて優美と同じように全裸になってしまった。近所の人が麻乃の家を訪れてくる可能性を考えれば、明らかに麻乃の抱えるリスクの方が大きかった。
 「私が露出に目覚めてしまったのは、先輩のせいです… 優美先輩が露出の興奮と快感を私に教えたから… 優美先輩がそんないやらしい格好で家に来るから… こんなに興奮しちゃったんです… それに… まさか、本当に、こんな所で素っ裸になっちゃうなんて… 素っ裸になっただけでイッちゃうなんて… 優美先輩、変態すぎます… ああっ、私も優美先輩みたいになりたいです、もっと変態になりたいです…」
 麻乃は自分の言葉に昂ぶったのかその場でオナニーを始めてしまった。麻乃の痴態を目の当たりにした優美もその場で一緒にオナニーをしたくなってしまったが、さすがにこれ以上玄関先に止まっているのは危険だと思い、「まだイッていません」と言いながらいやがる麻乃の手をとって家の中に入ったのだった。
 玄関の中に入った二人は、扉の鍵を掛けないままで向かい合うと一緒にオナニーを始めた。優美と麻乃は、溢れ出ていたものが太ももを伝わり落ちていくほどに激しく濡れていた部分を弄る姿を見せ合った。このときは麻乃がどうしてもと言うので、玄関の扉を大きく開けて一緒に絶頂を迎えた。
 その後二人は一日中を裸で過ごし、家の中の至る場所で淫らな行為に耽った。二階のベランダに出て陽が降り注ぐ下で相互オナニーをしたり、身体を絡み合わせて陰部を舐め合ったりもした。ベランダは腰高の壁に囲まれているので周囲からは見えなくなっていたが、身を起こせば隣家のベランダから見えてしまう場所で全裸になって変態行為に耽る興奮は格別だった。二人はトイレですら扉を開け放したままで入り放尿する姿を互いに見せ合った。
 夕刻になって優美が帰る時間になると、麻乃は優美と同じように裸の上にワンピースのみを着けた姿になって玄関先まで見送りに出てきた。そして、優美がさよならの挨拶と共に麻乃にキスをすると、「時期は少し早いですけど、私のも見てください」と言ってワンピースの前を開き、裸体を晒した。 その淫らな姿に自分のした行為を重ね合わせて昂ぶった優美もまた、麻乃に向かってワンピースの前を開いた。それを引き金として身を寄せ合った二人は、激しくキスを交わしながら玄関の前だというのに指でいかせあってしまった。その行為に耽っていたときの優美は、もう誰かに見られてしまってもかまわないと思っていた。麻乃の家の玄関先で一緒に絶頂に達したとき、二人のワンピースは足元に落ちていた。

十、
 優美と麻乃は、どちらも自分の書く物語の中では被虐的な性向を見せる傾向が強かったが、二人とも書かれた物語の内容によってはサディスティックな行為もしっかりと演じて役になりきるように務めた。
 そして、今日は麻乃が書いた四つ目の物語を演じる日だった。部活動を終えた後、二人は人気のなくなった特別教室棟の塔屋を訪れていた。
 優美は、麻乃が書いてきた物語の内容にとある懸念があったため、始める前にこの物語を本当に再現しても良いのか麻乃に確認したのだが、彼女の答えは最初からわかっていた。
 麻乃の物語は、優美が二度目に書いた物語と同様に彼女が最初に書いた物語の続きだった。
 従来から持っていたフェティシズムの性癖に加えて、お尻を叩かれたことから被虐の快楽に目覚めてしまった後輩の少女は、制服を着たまま先輩のオシッコを浴びたい、オシッコをかけられながらオナニーしたいと懇願するのだった。相変わらず異常なストーリーだったが、オシッコに強い関心を持っている麻乃らしい内容だった。
 物語を読んだ優美は、とても変態的で魅力的だと思ったが、これを再現すればある問題が生じると思った。物語のとおりに麻乃が制服を着たままで優美のオシッコを浴びたら、白い夏用の制服は、たとえすぐに洗ったとしても生地に黄ばみが残ってしまう可能性があった。しかし麻乃の方は優美の指摘を聞くと却って恍惚とした表情を浮かべたのだった。
 「優美先輩のオシッコに染まった制服を毎日着られるんですね… そんなすてきなことができるのなら、思い切り黄ばんで欲しいです… ああ… そんな制服を着て登校したら、学校の中でも、通学路でも… いつでも優美先輩のオシッコを感じて、どこでもオナニーをしてしまいそうです…」
 漆黒の瞳を潤ませながら身体を震わせる麻乃を見た優美は、私たちはもう引き返すことができない領域に足を踏み込んでしまっているのだと実感した。優美は、麻乃の書いた物語に従って彼女の願望を叶えよう、私も彼女と一緒に堕ちるところまで堕ちようと決心した。
 麻乃が物語の冒頭を朗読した後、二人は目と目を合わせて肯き合うと、麻乃はしんと静まっている塔屋の床に正座をした。曇りガラスから差し込む陽光に照らされたリノリウムの床に座った彼女の周りには、プリーツスカートの裾が紺色の花弁のように開いていた。
 麻乃は優美を見上げて物語の中のセリフを口にし始めた。
 「先輩… お願いします。ここで私にオシッコをかけてください… 私、先輩のオシッコを浴びながら… 先輩のオシッコで制服ごとビショビショになりながらオナニーをしたいんです… こんなに変態でごめんなさい… でも、先輩なら… こんな私の気持ち、わかってくれますよね…」
 演技ではあっても、その言葉は麻乃の本心だとわかっていた優美は、胸の鼓動が一気に激しくなってくるのを抑え込もうとして静かに物語のセリフを継いだ。
 「ええ、わかっているわ。麻乃さんは人前でオシッコをしたり、自分のオシッコを飲みながらオナニーをして快感を覚えてしまう変態だと。でも、私はそんな変態の麻乃さんに興味を持ってしまったの。さあ麻乃さん、制服の胸当てを外して襟を開いて」
 優美から下された命令に従って、麻乃は夏用の白いセーラー服の胸当てに手を持っていくとホックを片側だけ外してセーラー服の胸元を開いた。麻乃が制服の下に着けていた清楚な白いブラジャーが目に入った優美は、麻乃の汗を吸った柔らかなブラジャーは良い匂いがするのだろうと思った。優美は自分も麻乃に影響を受けており、フェティシズムの性癖が強まっているのを自覚した。
 優美は穿いているスカートの裾をつまんでゆっくりと持ち上げた。そして、麻乃が着けてきて欲しいと言った白い下着を顕わにすると、床に広がっている麻乃のスカートを踏まないように気を付けながら足を進めた。
 麻乃に寄っていきながら優美が少しずつ両脚を開いていくと、麻乃は優美が近づいて来やすいようにスカートの裾を引いた。更に麻乃に近寄った優美は、床の上に正座をしている麻乃の左肩に跨がるように腰を突き出すと、身体をやや左側に傾けて顕わにした下着の股間辺りが丁度麻乃の胸元にくるような姿勢をとった。
 顔を左に向けている麻乃の視線は優美の下着に注がれていた。かつてないほどの興奮を覚えて、下着に隠されている部分が濡れてしまっているのを自覚していた優美は、麻乃が優美の股間を見つめながら息を乱しているのは、きっと溢れ出ているもののせいで下着に染みができているからなのだろうと思った。露出狂であるが故に麻乃の視線だけでも絶頂に達してしまうかもしれないと思った優美は、気を取り直して物語の先を演じた。
 「麻乃さん、私の方はずっと我慢していたから、すぐに出そうだわ… だから… もう始めていいわよ…」
 「あ、ありがとうございます…」
 上気している顔で小さく肯いた麻乃は、左手でスカートのファスナーを下ろすと開いた隙間から手をスカートの中へ忍ばせてモゾモゾと腰を動かし始めた。麻乃のオナニーは何度も見ている優美だったが、制服を着たままでスカートの中に手を入れて、こっそりと陰部を刺激しながら喘いでいる麻乃の姿を見ていると、裸でその行為に耽る麻乃より淫靡に思えた。
 「麻乃さん… もっと乱れて… いやらしいことをいって」
 「はい… わかりました… ああっ… これから優美先輩にオシッコをかけてもらえるんですね… 学校の中で… 制服を着たままで… 優美先輩のオシッコに塗れながらオナニーできるんですね…」
 喘ぎながら身体を震わせている麻乃の息が優美の太ももにかかり、その度に麻乃の吐息の熱さが感じられた。また、頭を震わせている麻乃の髪の毛が太ももに触れると、こそばゆさと共に何とも言えぬ不思議な心地よさを感じた。それらの刺激から気持ちが昂ぶっていった優美が、股間を覆っている布を横にずらして薄い陰毛に包まれた濡れて光る部分を顕わにすると、麻乃はひときわ喘ぎを強めてハアハアと大きく息を乱して優美の秘所をうっとりした眼差しで見つめながら舌なめずりを始めた。
 その部分を麻乃に見せたのは初めてではなく舌で愛撫されたことすらあるのに、状況が変われば新たな羞恥心や興奮を感じられるのだと優美は知った。このとき優美の尿意は限界に達しており、腰が小刻みに震え始めた。
 「麻乃さん… で、出ちゃうわ…」
 尿意は我慢の限界に達していても、いざとなると中々出てこないもどかしさを感じながら吐息を漏らしていた優美は、「あぁ…」と切なさを感じさせる言葉の後に放尿を始めた。優美の股間から溢れ出てきた黄金色の液体は雫となって、麻乃が着ている制服のポケットの辺りに落ちていった。次第に優美の体内から湧き出る熱い液体は勢いを増していき、シュルシュルと音を立てながら麻乃が開いている制服の胸元へと注がれていった。麻乃は身体をビクビクと震わせながら恍惚の表情を浮かべており、その口元からは興奮と感激の言葉が漏れ出した。
 「ああっ… 先輩… 優美先輩のオシッコ… 熱い… 熱くて… いい匂いです… すてき…」
 優美のオシッコは麻乃の制服を内側から黄色く染めていった。そして、制服の内側を伝い落ちていったものと、麻乃の身体を伝い落ちてスカートのウェスト部分を乗り越えていったものが、正座をしている麻乃の制服スカートの上に小さな水溜まりを作ってから布地の中に染みこんでいった。染みこみきれなかったオシッコはプリーツのヒダを通って床へと流れ落ちていきながらスカート全体を濡らしていった。
 「ああっ… せ、先輩… 優美先輩にオシッコをかけられながらオナニーできるなんて… ああっ… うれしいです、うれしくて、興奮して、頭がおかしくなってしまいそうです…」
 「麻乃さん、オシッコをかけて欲しいと思ってしまう時点で十分に頭がおかしいのよ… そんなことを望むのは本物の変態だけ… 本物の異常者だけなのよ…」
 自分で書いた倒錯的なセリフを口にしている麻乃の声も、覚え込んだ物語のセリフを再現する優美の声も、自分達が繰り広げている異常な行為への背徳感と、淫らな言葉を口にする興奮で震えていた。
 「せ、先輩… 優美先輩… もっと、もっと私をずぶ濡れにしてください… 変態の、変態の私を… 優美先輩のオシッコで… オシッコまみれにしてください!」
 激しい興奮からトーンを高めた麻乃の声が静かな塔屋の中に響き渡った。きっとこの声は階段の下まで響いているだろうと思いながらも、それが気にならないほどに昂ぶっていた優美は、この興奮と快感が続くのならどうなってしまっても良いとさえ思っていた。
 淫らな懇願をした麻乃は、膝から下の脚をハの字に開いてお尻を直接床に付けると、身体を弓なりに反らしてその身体を支えるような姿勢になって背後で両手を床に下ろした。
 優美は少しだけ麻乃から身体を引くと、物語の筋書に従って未だに続いているオシッコが麻乃の額付近に落ちていくように調整した。麻乃の額から髪の毛を伝っていったオシッコが床に落ち始めていったときには、元々黒い麻乃の髪は濡れたおかげで更に黒さを増していた。
 オシッコを浴びながら痙攣するように身体を波立たせている麻乃を見下ろしていた優美は、ずっと我慢していたおかげで未だに続いている放物線の先を麻乃の額から顔の中心方向へと動かしていった。そして、その落下点が麻乃の口へと達すると、それを待ち構えてかわいらしい口を精一杯に開いていた彼女の口中にゴボゴボと音を立てながら吸い込まれていった。
 麻乃の口内に優美のオシッコが溜まっていくと、麻乃は喉を脈打たせながら優美のオシッコを一所懸命に飲み下していたが、やがて飲む速度が追いつかなくなったのか、オシッコはまるで泉のように口元から溢れ出していった。
 その淫猥さに目を奪われてしまった優美が興奮のために熱を帯びて膨らんでしまっていた自分の突起に指を持っていこうとしたとき、麻乃が突然身体を起こして、まだ放尿を続けていた優美の股間に顔を埋めてきたのだった。
 「あっ… 麻乃さんっ… ま、まだ出ているのに… あぁっ…」
 物語の筋から外れた突然の行動に優美は戸惑い、そろそろ終わりそうだった排尿が止まってしまった。しかし、優美のお尻を両手でつかんで引き寄せた麻乃が、優美が触ろうとしていた敏感な突起に舌を這わせ始めると、優美は下半身をビクビクと震わせながら断続的に放尿を再開した。
 「麻乃さんっ… 麻乃さん… そんなに吸わないで… そんなことされたら… わ、私… もうっ…」
 いつの間にか優美は、自分のオシッコでしっとりと濡れてしまっている麻乃の髪に両手の指を差し込んで、愛おしそうに梳かしながら麻乃の頭を引き寄せていた。
 麻乃がオシッコの水溜りの中で身体をよじらせる度に起きる水音と、麻乃が優美の陰部を舐める淫らな水音が静かな塔屋の中に響いていた。その音を頭の片隅で聞きながら快楽に身を委ねていた優美は、絞り出すようにしてオシッコを出し終えるのと同時に激しい絶頂感がこみ上げて来るのを感じた。
 その一方では、麻乃が口内に溜まっていた優美の最後のオシッコを飲み込む喉の音を立てていた。全てを飲み込み終えたとき、麻乃は優美の臀部をつかんでいた両手の力を強めて大きく身体を震わせ始めた。
 優美は、麻乃が自分のオシッコを飲みながら絶頂に達したのだと知り、自らも身体の奥底から沸き上がってきた快感に身を委ねた。

 放課後の人気のなくなった特別教室棟の塔屋で、二人の少女は息を乱しながら床に広がっているオシッコでできた水溜まりの中に座り込んでいた。
自分で作った水溜まりの中にお尻を下ろしていた優美が絶頂の余韻をかみしめながら麻乃に顔を向けると、麻乃も同時に優美に目を向けてきて二人の視線が絡み合った。
 「優美先輩… また物語の筋から外れてしまってごめんなさい… でも、先輩のオシッコを飲めて幸せです、だって、優美先輩のオシッコを浴びたい、飲みたいってずっと思っていたんですから…」
 優美は、濡れた髪の毛の先からオシッコを滴らせている麻乃の潤んだ瞳を見て狂わしい程の愛おしさを覚えた。優美は床にたまっているオシッコの水音を立てながら身体を寄せていくと、麻乃の唇に自分の唇を重ねた。
 「せ、先輩… ちょっと待ってください…」
 麻乃は優美の突然の行動に驚いたのか、優美の両肩をつかんで身体を引き離した。
 「私… オシッコ塗れですよ… それに、オシッコを飲んじゃってますし…」
 つい先程まで異常な行為に夢中になっていたというのに、恥ずかしそうに戸惑っている麻乃を見ると優美は微笑ましさを覚えた。
 「私の方も、このとおりオシッコ塗れよ… それに、こうしてオシッコの中に座り込んでしまっているのだから、もう、そんなことを気にしなくていいでしょう… それより… 私… 私のオシッコをあんなに美味しそうに飲んでくれた麻乃さんの、私のオシッコを飲みながらいってしまった麻乃さんの唇が欲しいの… 麻乃さん、私にも物語のストーリーを付け加えさせて…」
 優美の言葉を聞いてまた身体を震わせ始めた麻乃は、顔を耳朶の先まで赤くしてとてもうれしそうに微笑むと、両手でつかんでいた優美の両肩を強く引き寄せて今度は麻乃の方から優美に唇を重ねてきた。優美はそんな麻乃の背中に両腕を回すと、麻乃の制服を濡らしている自分のオシッコが自分の制服に染み込み伝わってくる程に強く抱きしめ返した。
 麻乃の口の中を舌で愛撫しながら、そこにいつもとは違う匂いと味を感じた優美は、麻乃が自分のオシッコを飲んだことをあらためて実感した。また、麻乃の唾液に交じっている自分のオシッコに口を付けている背徳感も優美の淫らな興奮を高めた。
 優美は絡め合う舌をときおり離して、オシッコに濡れている麻乃の髪の毛を口に咥えたり、オシッコに塗れている麻乃の顔を舐め回したりした。その度に麻乃の方は優美の舌を追い求めてきてまた舌を絡め合った。やがて二人は、オシッコの味がする激しいキスだけで二回目の絶頂を迎えたのだった。
 抱きしめ合いながら高みに上りつめた二人は、絶頂に達した後も互いに舌をむさぼり合うのを止めず、溢れ出た二人の唾液は絡まりながら制服の上に零れ落ちていった。
 長いキスを終えてようやく二人は唇を離したが、優美の心の昂ぶりは一向に静まらなかった。優美の胸の中は、もっとこの異常な行為を続けていたい、もっと快楽を貪っていたいという感情に支配されたままだった。
 「麻乃さん… 私もオシッコが好きになってしまったみたいだわ… だから、今度は、私の身体にもかけて欲しいの… 麻乃さんの熱いものを…」
 沸き起こる欲望を抑えきれずに優美が自分の思いを吐露すると、麻乃も同じ気持ちを抱いていたようですぐに大きく肯いた。
 優美は、塔屋の床に広がって既に冷えていた水溜まりの中に仰向けに身を横たえると、何かを祈るときのように胸の上で手を組んだ。
 その頭上では、優美のオシッコに濡れた制服の裾を口に咥えた麻乃が、下着を下ろして優美の願いを聞き届けるための準備を始めていた。

十一、
 「何とか無事に帰ってこられたわね…」
学校を出て優美の家に着いた優美と麻乃は、玄関を入ったところでようやく肩の力を抜いた。
 二人はジャージの長袖体操着にブルマーしか身に着けておらず、たとえ十数分程度だとしても、学校の敷地外を歩くにはかなり恥ずかしい格好をしていた。しかも、それらの衣服の下には下着も着けておらず、靴下さえ履いていないのだった。
 制服を着たままでオシッコを浴びる予定だった麻乃と、おそらく自分の制服も汚れてしまうだろうと察していた優美は、着替えとしてジャージの上下を用意して物語の再現に臨んだ。下着の替えを用意しておかなかったのは、物語の再現を終えて下校するときには、裸の上にジャージだけ着て帰りましょうと優美が提案したからだった。
 麻乃の物語を演じた特別教室棟の塔屋の中にある小さい部屋は、優美と麻乃のオシッコで床一面が水浸しとなってしまい、予め用意しておいた雑巾で拭き取るだけでは埒が明かなかった。
 二人は学校に置いてあった夏用の半袖体操着も使って床のオシッコを拭き取り、最後はジャージのズボンで床の乾拭きをした。
 ジャージの上着を床の拭き取りに用いなかったのは、下着を着けずに生地の薄い夏用体操着だけを着て校外に出るのは心許無かったからだった。
 階段室の後片付けを終えた優美と麻乃は、トイレでバケツに搾り取ったオシッコを流した後、トイレットペーパーを使って身体を拭いて洗面台で髪の毛を洗った。それでも身体に付いたオシッコの匂いはとれずに気になったが、何時までも学校にいるわけにもいかないので、髪の毛が乾くのを待たずに裸の上にジャージの上着とブルマーだけを身に着けて帰宅するために校門へと向かった。
 誰にも会わずに学校から出られるように願っていた二人だったが、校門まであと少しというところで折悪しく部活を終えて帰ろうとしていた優美のクラスメイトと出くわしてしまった。
案の定、優美のクラスメイトは二人の格好を見ると首をかしげて、なんでそんな格好をしているのかと尋ねてきた。
優美は緊張して脚が震えたが、できるだけ平静さを装って、部室の清掃をして制服を汚してしまったと答えた。しかし、身体から立ちこめているオシッコの匂いが気になっていたので、できるだけクラスメイトには近づかないようにして、校門を通り過ぎると麻乃と二人で逃げるように走って帰ってきたのだった。
 幸い校門を出てから家に到着するまでの間は誰にも会わなかったが、身体中からオシッコの匂いをさせながらブルマー姿で屋外を歩くのは思っていた以上の恥ずかしさだった。
 「校門の所で会ったのは石原さんという子なの。普段あまり言葉を交わす人じゃないから何も聞いてくることはないと思うけれど… もしかしたら、私たちの匂いには気づいたかもしれないわね…」
 一息ついてから玄関の上がり框に並んで腰をかけ、優美がそう言いながら傍らの麻乃に顔を向けると彼女は頬を赤く染めてうつむいていた。
 「もし… その石原さんて方に何か聞かれたら… 私がオシッコを漏らしてしまったので、その後始末をしたってことにしてください…」
 優美は自分を気遣う麻乃の言葉をうれしく思い、麻乃の肩を抱いて身体を引き寄せた。麻乃の身体からは、オシッコが乾いたときの香ばしい匂いがして優美の心は再び騒めきだした。
 「麻乃さんばかりに責任を押しつけるなんてできないわ… それなら、入ったトイレが故障していたので、他のトイレに向かっている途中に一緒に漏らしてしまったことにした方がいいわ…」
「先輩…」
 麻乃は優美の優しい言葉に感激したようで、潤ませた目を優美に向けると自分の心境を語り始めた。
 「先輩… 校門の所で先輩のクラスの人に会ったとき、私… とても恥ずかしくなりました。私と先輩の恥ずかしい秘密を知られてしまうかもと思うと、胸が苦しくなりました。でも… そんな気持ちの裏側では興奮していたんです… 秘密を知られてしまったら… 私が変態だと知られてしまったらって思うと怖いのに、不安なのに、あそこが… お、おまんこが熱くなってしまったんです…」
 赤裸々な心情を告白しながら自分を見つめている麻乃の黒い瞳の奥に、優美は自分の姿が映っているように思えた。そして、この子は私と同じ魂を持って生まれた本物の変態少女なのだとあらためて思い、麻乃と出会えたことを心の底からうれしく思った。
 「麻乃さん… 私だって同じよ… 私も、石原さんと話しながら麻乃さんと同じことを考えていたの… 私たちの秘密を知られてはいけないと思いながら、一方では、自分の秘密を全てさらけだしてしまいたい思いが込み上げてきて、体が火照っていたの」
 「先輩…」
 麻乃が優美の身体に両手を回して強く抱きついてきた。
 「今も身体の火照りはおさまっていないわ。いえ、むしろ火照りは強くなっているの… きっと、こんな格好で外を歩いてきたせいもあるのだと思うわ。だって、私は変態の露出狂だから…」
 「優美先輩、私だって… 私だって変態です… だから、オシッコのことも、露出のことも、もっともっと知りたいです… もっともっと体験したいです… 私、優美先輩とならどんなことだってできます…」
 激情をほとばしらせている麻乃の身体を強く抱きしめ返した優美は、自分の額を麻乃の額に押し付けた。
 「それなら、今度石原さんと会ったときは、私たちがなんでこんな格好をしていたのか一緒に告白してしまいましょうか? 特別教室棟の塔屋でオシッコをかけあってオシッコに塗れながら抱き合ったことも、私たちが変態だってことも…」
 「優美先輩の命令なら… 優美先輩と一緒なら…」
 優美は麻乃の答えを最後まで聞くことなく、彼女の唇を自らの唇で塞いだ。熱を帯びている麻乃の身体からは、オシッコと汗の匂いが入り交じった甘酸っぱい香りが立ち上っていた。

十二、
 「優美先輩の家のお風呂って、広くて気持ちいいですよね」
一緒に入浴を終えた優美と麻乃は、優美の部屋に置かれている籐の椅子に下着姿のままで腰かけていた。
 「麻乃さんには、私の下着じゃ小さいでしょう?」
 麻乃が身に着けているワイヤーの入っていないブラジャーとシンプルなデザインのショーツはどちらも白で、何れも優美が普段身に着けている下着だった。それらの下着が優美より少し発育の良い麻乃の身体に合っていないのは一目瞭然だった。
 「はい… 確かに私がいつも着ている下着とはサイズが違いますけど… 先輩の下着に締め付けられるていると思うと、気持ちいいです… 刺激的で興奮してしまいます…」
 麻乃が優美に向けて両脚を開いて見せると、ショーツが食い込んで縦の筋を作っている部分にうっすらと濡れ染みができているのがわかった。
 元々変態性癖を持っていた麻乃は、優美と性的な行為を重ねるようになってからその性癖をエスカレートさせていた。
 優美は麻乃の身体を見つめながら、お風呂場での出来事を回想した。
 
 オシッコに塗れた下着や制服等の衣類を洗濯機に入れようとすると、麻乃は「全部洗ってしまうのはもったいないです」と言いだした。そして、麻乃の希望に従って下着のみは洗わずに交換して手元に残したのだった。
 自分たちのオシッコが染み込んでいる優美の下着を手に入れた麻乃は次の物語の構想を語り始めた。麻乃は、今度書く物語の中には、オシッコを身体にかけ合った少女達が下着を交換して乾かし、香ばしい芳香を放つようになった下着の匂いを嗅ぎながら一緒にオナニーをするシーンを入れます、この下着はその物語を再現するときに使いますと言った。
 優美は麻乃の変態的な発想に感心しながら、その場面を再現している自分たちを思い浮かべてときめいてしまう自分もまた変態なのだと自覚させられて強烈な興奮を覚えたのだった。
 「とても変態的だわ。麻乃さんらしい異常な発想だわ。本当にオシッコが好きなのね」
 「先輩… ごめんなさい、こんなに変態で…」
 「いいのよ。それに麻乃さんの気持ちは私にもわかるわ。今だって、身体中からそんなにすてきな匂いをさせているのだから、すぐにシャワーを浴びるのはもったいないと思っているの。ねえ、麻乃さん。身体を洗う前に麻乃さんの全身を舐めさせて欲しいの… 髪の毛から足の指の先まで全てを…」
 興奮から自然に口に出てしまった優美の言葉に麻乃は喜びながら賛意を示すと、制服や体操着も洗う前にもう一度使いたいですと言い出した。二人はオシッコに塗れた制服や体操着を交換してその匂いを嗅ぎながら一緒にオナニーをした。その後二人は浴室の中で、飽くまで互いの身体に舌を這わせ合い、身体中を舐めきる間に何度も絶頂に達したのだった。
 先程まで浴室でしていた行為を思い出しながら再び身体が火照ってきた優美は、淫猥な期待を湛えた視線を向けている麻乃を見つめたまま立ち上がると、歩を進めて麻乃の座っている椅子の傍らに立った。そして、麻乃の手をとって彼女も立ち上がらせると、その手を自分の股間へと導いた。
 「優美先輩も… 濡れています…」
 そう言いながら体を寄せてきた麻乃の胸が優美の胸に重なって、優美に導かれた麻乃の指先が優美の敏感な部分を下着の上から刺激し始めた。
 「麻乃さん…」
 身体の奥から沸き上がってくる激しい興奮と、麻乃の指の刺激から得られる快感に腰をくねらせ始めた優美は、麻乃の腰に手を回して彼女の耳元に口を寄せた。
 「私の次の物語はね… また露出狂の二人の女の子の物語になるわ。文芸部に所属するその二人は、校内でいやらしいことをするために部室で裸になってから塔屋へと向かうの。でも、裸で廊下を歩いているうちに興奮して、廊下でも淫らなことを始めてしまうの… そして、下着を着けずに下校しながら、人気のない道でスカートを捲っておまんこを見せ合うの。それから、先輩の家にお泊まりに着た後輩は夜中に家を抜け出して、夜の通学路でもいやらしい露出を行うの。この物語を再現したら誰かに見つかってしまうかもしれないから… 覚悟しておいてね」
 優美は次に自分が書こうとしている物語の大筋を語りながら、自分の言葉に興奮して息を乱した。
 「はい… わかりました… でも、優美先輩と一緒なら、見つかってしまってもいいです… 変態だって知られてしまってもいいです… 優美先輩… 早くその物語を読みたいです、再現したいです…」
 「それなら、すぐに物語を書き始めるわ… でも、その前にこの昂ぶりを静めましょう…」
 優美は麻乃の首筋に軽くキスをすると、その手をとって庭へと誘った。麻乃は優美の腕に絡みついたまま黙って付き従い、躊躇なく下着だけの姿を庭に晒した。二人は脚を震わせながらも、これから行おうとしていることと、この先に行おうとしていることに思いを馳せて胸を高鳴らせていた。
 まだ明るい空の下で、優美と麻乃は下着も脱ぎ捨てて未熟な裸身を晒すと、生まれたままの姿を重ね合わせた。

エピローグ
 夏休みを前にして日差しがいっそう強くなり、少し歩いただけでも汗をかいてしまう季節が訪れていた。
 由来を知らなければわからないほどにしか制服は黄ばんでいなかったが、汗の匂いが制服から立ち上ると、それがオシッコの匂いに思えて優美の心は騒めくのだった。
 麻乃も同じ思いを抱いているのか、ただ暑いだけなのかは判別がつきかねたが、傍らを歩いている彼女の頬には赤みが差していた。
 夏休みを直前にしたこの日、部活動を終えた二人は一緒に優美の家へと向かっていた。
 淫らな行為にのめり込んでも学業はおろそかにしないようにと決めた二人は最大限の準備をして期末テストに臨んだ。その結果、優美は同学年の優秀な二人と同点ではあったが初めて学年一位となり、麻乃は相変わらず全教科満点で一位となって優美を驚かせたのだった。
 しかし、その一方では行う変態行為がエスカレートしていった。期末テストの準備期間からテストが終えるまでの間は淫らな行為を控えたので、テスト結果が発表された後に優美の書いた五番目の物語を再現したときは、二人はいつもより激しく乱れてしまったのだった。
 優美の両親が泊まりがけで出かけた日に、麻乃を泊まらせて再現した物語は誰かに覗き見られてしまったようで、二人が露出行為に耽った優美の家の近くを通る人気の少ない路地には『変質者に注意』と書かれた看板が設置されてしまった。
 「あのとき、誰かに見られてる感じはしてたんですけど… まさか、あんな看板が立てられるとは思ってなかったです…」
 優美は麻乃の言葉に肯いた。
 「あの日はマスクをしていて正解だったわね… 麻乃さんの意見に従っていて良かったわ…」
 「だって… 優美先輩が興奮しすぎて、素っ裸のままで外に出ていこうって言うから… いくらなんでも危ないと思ったんです、優美先輩って変態すぎます…」
 自分の事を棚に上げる麻乃をかわいく思いながら、優美は路上だというのにいきなり麻乃のスカートのファスナーを下ろして中に手を入れた。先日優美の物語を再現した日から、二人は一緒に下校するときには下着を脱いでしまうようになっていた。
 「せ、先輩… あっ…」
 麻乃のスカートに差し込んだ手を出すと、優美は手の指先を麻乃の目の前に差し出して口角を持ち上げた。
 「変態なのは麻乃さんだって同じでしょう? その証拠に、ほら、こんなに濡れているじゃないの。見られてしまったときのことを思いだして興奮していたのでしょう?」
 優美が中指に付いていたものを親指で糸を引かせると、麻乃は顔を耳まで赤く染めた。しかし、恥ずかしそうにしているのに、優美が指を突き出すと指先を口に咥えて舌を這わせ始めるのだった。
 「麻乃さん… こんなことをしていると、今すぐここで裸になって、オナニーをしたくなってしまうわね…」
 「先輩… 私もです… 優美先輩がするのなら、私もします… いえ、私の方からさせてください… 私がここで素っ裸になってオナニーするのを見てください…」
 淫らな表情ですっかり息を乱している麻乃に向けて、優美は淫靡な笑みを返した。
 「麻乃さんたら、すっかり露出狂になっちゃったのね。でも冗談よ。いくらなんでも昼間からここでするなんて危険すぎるでしょう? でも、麻乃さんがどうしてもしたいのなら止めはしないけれど…」
 「優美先輩って、マゾなのか、サドなのかわからなくなってきました…」
 戸惑っているような、楽しんでいるような麻乃の言葉を聞きながら、二人は『変質者に注意』と書かれた看板が置かれている路地へと向かっていった。
 「私、思うのだけれど… あの看板の変質者と書かれた脇に『絹機麻乃』とちゃんと名前を書いておいた方がいいと思っているの…」
 「先輩、それなら一緒に『舞鶴優美』って書かなくちゃ不公平ですよ… だって、変質者なのは先輩だって同じなんですから…」
 最初は戯れの言葉だったのに、優美の目つきが真剣なものに変わった。
 「麻乃さん、きっと見た人は悪戯だと思うから、いっそのこと本当に名前を書いておきましょうか?」
 「はい… 書きたいです。なんかゾクゾクしてきちゃいました…」
 二人は手を取り合いながら路地の角を曲がった。すると、『変質者に注意』と書かれている看板の前には、ランドセルを背負った少女が佇んでいた。
 小学校の高学年と思しき少女は、看板に書かれている文字をじっと見つめていた。その表情に嫌悪感は見られず、むしろそこに書かれている文字に興味を惹かれているように見えた。
「 麻乃さん、私が書く次の物語の中には三人目の登場人物を… 小学生の女の子を登場させていいかしら?」
 優美の手を強く握りしめていた麻乃が肯くと、二人は共に足を踏み出していった。

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