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おやすみ、ムンク。

数週間前から、喉の腫瘍で治療の余地がなく、家で療養していたムンクが6月7日の1時半に永眠しました。10歳。猫にしてはちょっと早い。

その日、いつもより早く就寝しようと布団にいく前に我が家の1Fで静かな呼吸で眠るムンクを撫でて、おやすみを伝える。もう見えてるかギリギリの状態だけど顔をあげて掠れた声でニャオと鳴く。ここ数週間、鳴くことすらできなかったムンクが2、3日力を振り絞って鳴いていた。

布団に入るもなかなか寝付けず、うっすら夢を見た。
外は雨で、今日もお散歩行けないな、なんて思ってムクリと起きた。時計を見ると1時27分。なんだかザワザワして、もしかしてムンクがそろそろ逝ってしまうのかもと思った矢先、階下でいつもの元気なムンクの鳴き声が二回ひびく。

妻を起こして急いでムンクがいる部屋にいく。電気をつけて、大丈夫?と話しかけたその時に、目から光がふわりと消えた。寝たまま動けないままのムンクが頑張って歩いて階段を上ろうとしていた。さよならの挨拶を、その声を、僕らに届けようとしてくれたのか、今でもいつものムンクの声が頭に響く。

ムンク、死んじゃった…って小学生みたいな言葉が漏れて、少し遅れて涙が溢れる。わかってはいたけど、ずっとわかんない。抱っこして撫でていた。耳のつけねとか、顎とか、首とか、背中とか、ムンクが撫でると喜ぶところを全部知っている。僕は君のお父さんだから。

よしよししながら、ムンクがうちに来た日のことを思っていた。
小さい黒猫の兄妹が大きな耳とまあるい目で僕を見ていた。あっという間に大きくなって、兄妹で大きさが全然違った。性格も。

君はいつも穏やかで、優しく、甘えん坊だった。
自分の体が大きいのを知っていて、膝の上には体半分しか乗せなかったね。膝に乗る時には必ず話しかけて来た。のっていい?って。
いいよーというと、のそのそゆっくりずしっと、今でも膝に君の重たさを感じる。あれは命の重たさだったんだって、軽くなってしまった今の君を抱きしめて思う。幸せだったかな?僕は一緒にいれて、とても、とても幸せでした。

知人が亡くなって一人ベランダで泣いていた時も、ムンクは心配して隣にいてくれた。ぺろぺろと手を舐めて、まあるい目で覗き込んだ。その眼差しに強い優しさを感じた。息子が号泣してても横に座って心配してたり、眠る子の隣で添い寝したりね。大きくて、優しい、猫でした。

早朝、妻が目を覚ました息子にムンクのことを伝えたら、涙をポロポロ流して泣いていた。あんなすぐに涙が出るんだ。それだけ君の存在が大きくて、あの涙は君が教えた優しさそのものだと思った。

火葬のために出棺して、打ち合わせを終えて、なぜか急いで帰って来た。いないのはわかってるんだけどね、心と体がちぐはぐだなと思った。当たり前にいつもいてくれた君がいない家は、君の形の穴がぽっかり空いている。いや、体のサイズ以上に大きな穴が空いてるなって、誰もいない玄関で思ったよ。

しばらくして、早々に火葬を終えた遺骨が届いた。あの体に見合わず小さい骨壷に収まった君は少し窮屈そうにも見えた。けど、「ムンク、ちっさ。笑」笑いが漏れて、もうここにはいない現実を笑って受け入れることができたよ。君は我が家にとって大切な家族で、大事な大事な息子でした。猫だしね、僕より早く逝くのはわかってたけど。先にあっちでのんびりしていてね。

帰って来て、昔の写真を見ていたら、なんだか楽しい思い出ばかりでした。
君がうちに来なかったら、この日々は、この瞬間は、この涙は、この寂しさは、この愛は、ここにはなかったのかと思うと、本当にたくさんのことを僕らに与えてくれた猫だと思いました。ありがとう、ムンク。僕らの思い出を少しここに載せておこう。

子供時の写真はこれしか残ってなかった。奥の子がムンク。

よくこうやって虚無みたいな顔して、ずっとこっちを見て来てた。

小さい息子と、ムンクは最初膝の取り合いだった。結果、ムンクが負けた。

黒猫兄妹は、こうやって息子と添い寝をしてくれていた。

娘が来た時も半分の膝はムンクの。小さい命が気になってクンクンしてた。

ながーい尻尾は、前足にくるりと巻いてるのが癖。

一緒にベランダでまったりしたり、

僕に一方的に愛でられたり、

悪いことした時は怒られる。

シャボン玉が気になったり、

息子にトミカ置かれても、じっと我慢したり、

ニャーしか言えないのに携帯突きつけられたり、

頭に葉っぱ乗っけられて変な顔撮られたり、

危うく出荷されそうになったり、

どんだけ忙しくても、穏やかな気持ちにさせてくれたり、

男だらけでゴロゴロしたね。

ココちゃんのいいお兄さんで、

一緒に寝てあげたり、遊んであげたり。

おバカなところも大好きでした。

生まれ変わったら、また猫かな?また会いたいな。膝の上に乗ってさ、またグルグル喉を鳴らしてよ。やっぱり家族がいなくなるのは、言葉にできないほど悲しい。またうちの子になってね。

本当、眠るように穏やかに息を引き取ったムンクは眠っているようで、また起き上がるんじゃないかと抱きしめた体から、少しずつ体温が逃げて、もうここにはいないんだと教えてもらった。

僕が最後にムンクに投げかけた言葉が「おやすみ、ムンク」。
10年間、愛おしい日々をありがとう。ムンク、愛している。

いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。