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魚にして、粗だが、卑ではない
らんらららら~♪ 夜中にやってたギャンブル依存症の高齢者のドキュメンタリーを見た。
家族に見捨てられ、母と暮らしていたが、母もなくなり、独居で、半世紀くらい時の止まったような煤けたアパートの部屋に住んでいる70代の男性の話だった。
受給した年金は、全額ギャンブルの借金に返済に充てられ、そこからまた月4万、新たに借金をして、その大事な生活費を、たった数時間でまたもや、ギャンブルでスっていた。
もちろんガスも止められて、家賃も滞納している。心配した兄(80代)が、たまに食料を渡していた。お金を渡してもギャンブルに使ってしまうからだ。
最後は、そのおじいさんは、生活保護を受けて依存症更生施設に入った。
依存症は怖いなあと思う一方で、釘づけになったシーンがあった。
そのおじいさんが、ひたひたに油を浸したホットプレートで、輪切りにした魚肉ソーセージを炒めながら、茶の間でどんぶり飯を食べているシーンだった。
これもおそらく、兄が差し入れたコメとギョニソと油なのだろう。
魚肉ソーセージ。最近は、「ギョニソ」と略されているらしい。
(「ホモソ」は、一般には「ホモソーシャル」で、「女性を排した体育会系の男のわちゃわちゃ感」のことだが、信州では、丸善食品の「ホモソーセージ」のことであり、この「ホモシーセージ」「ホモ」とは、三島由紀夫の『仮面の告白』のことではなく、「魚肉のミンチの均一化」を指すそうだ。信州では丸善食品のホモソがギョニソ・トップ・シェアである。ギョニソ・トップ・シェアと書いたら、総合格闘家ノゲイラのかつて所属していたブラジリアン・トップ・チーム(旧リングス・ブラジル)を思い出した。)
しばらく食っていないが、そのギョニソを焼いているのをテレビで見て、久々に食べたくなった。
なぜだろう。ギャンブルで借金まみれになったおじいさんのギョニソ飯に、こんなに吸引力があるのは。
その話を、雑談配信でしたら、「乞食が食うカップラーメンってめっちゃ美味そうですよね。」というコメントを視聴者さんからいただいた。
そのコメントが、深く刺さった。
そして、私は、哲学的思考に身を委ねた。
拾った白樺の枝を削って、串にして、シャウエッセンを刺して、焚き火で直火焼き。これは、ソロキャンプでの出来事だ。
ここ数年、一人でキャンプする「ソロキャンプ」が流行っており、そのパイオニアである芸人のヒロシさんが、直火焼きウインナーをやっているのをテレビで見た。これはこれで、まあまあ美味しそうである。
しかし、私は、ギョニソをソロキャンプで食べても、美味しそうだとは思わないのだ。
芸人のソロキャンプの直火焼きウインナー動画は、一発芸人の隠居しぐさであり、お笑いからの逃避を茶の湯のエッセンスでごまかしながら営まれる、擬似『一期一会』である。
実は、直火焼きウインナーではなく、茶の湯的に言えば、焚き火こそが最高のもてなしである。ウインナーは、どうでもいい。
そして、乞食と書くとポリコレ上の懸念があるから、レゲエおじさんと書くが、レゲエおじさんのカップ麺は、コンクリートジャングル間のエアポケットたるの河川敷の日常であり、リストラにおびえ、ローンに縛られた、都会のサラリーマンの想像上の逃避が、隠し味だ。
だとしたら、ギャンブル依存症のクズの食うギョニソは、なぜ、あんなに美味しそうだったのか。
やはり、80代の兄がクズの弟に差し入れたというメロドラマが、最高の調味料なのか?
そうだろう。
家族愛だ。
あの輪切りのギョニソには、簡単には切っても切れない家族の縁がある。
浸した油は、涙の味がする。
きっとそうだ。
母の位牌の前で食べるギョニソ飯。
それぞれのギョニソに、それぞれのメロドラマがあるはずだ。
安易に「人間がサバイブしている飯だから美味しそうなんですよね」とかいう、インチキ社会学者の感想みたいなので、まとめてはいけない。
そんなことをつらつら考えた。
フレンチシェフが、ギョニソでポトフとかそういうのは、全然食欲をそそらない。
油まみれのギョニソに振りすぎた味塩。三切れ食えば、胃もたれしそうで、ごちそうさまである。
でも、きっとそれは家族の涙の味がしたのだ。
(ファミリーヒストリー、とここで女性のささやき声)
と、ここまで書いて満足したので、別に食べたくなくなった。
なんでやー。これ絶対に美味しいやつだー。
(おわり)
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