企業のSDGsの考え方 マーケティング5.0を読む前に
2021年1月、フィリップ・コトラー氏が、マーケティング5.0を出版しました。日本語版は、本年中には出版されるかと思います。
内容について、まだ概要しか把握していませんから、正確な内容などについては言及しませんが、マーケティング5.0では、特にSDGsについて多くの言及がなされています。
この内容は、今回初めて述べられたわけではありません。
マーケティング3.0でもエネルギーの問題についての記述はありますし、4.0では、環境問題についての実例もあげられています。しかしマーケティング5.0を、単に「SDGsを重視する」といった考え方では、その内容を理解することはできません。
そこで今回は、企業経営と経済学の視点から、この課題につて考えたいと思います。
・マーケティングX.0シリーズの読み方
マーケティング5.0について考える前に、このシリーズについてのおさらいです。
このシリーズは、最近のものとして、マーケティング4.0があります。マーケティング4.0は、インターネット、特にSNSなどの普及を背景に記されています。
そこで、これまでの、1.0からの考え方を確認します。
1.0:大量生産(企業中心)のマーケティング
2.0:豊かさ(顧客中心)のマーケティング
3.0:ソーシャルマーケティング
ソーシャルマーケティングという考え方が提唱されたのは、1971年ですから、ちょうど50年前になります。この話をすると、驚かれる方が少なくないのですが、そういう方は、決まって「ソーシャルマーケティング=SNSマーケティング」と、勘違いしているという、、、
まったくもう!
多くの皆さんが耳にしているのは、マーケティング4.0からではないでしょうか。
マーケティング4.0は、先に述べたように、インターネット普及以降の、マーケティングの在り方について記したものですが、同時に、インターネット時代だからこそ、マーケティング4.0を知ったという方も、少なくないのではないでしょうか。
そしてマーケティング5.0では、SDGsについて記されているわけですが、ここで1つ、注意して頂きたい点があります。
このシリーズでは、例えば4.0であればインターネットを、5.0であればSDGsをキーワードとした、マーケティングのトレンドやテクニックが書いてあるわけではありません。ですから、「最新の成功メソッド」のようなことを期待しても、何も書かれていないということです。
このシリーズは、時代の変化と共に、マーケティングの果たすべき役割が記されています。しかし基本的な理論や考え方は、例えばコトラーのマーケティング原理といった、基礎の書籍に記されており、さらにその基礎は、経済学や経営学の基礎理論です。
ですから、「こらからの儲る方法」などは書かれていません。
・SDGsをどう考えるのか
SDGsは、私達人類が、将来のために取り組むべき課題として、近年非常に重視されています。しかしマーケティング5.0で示唆されるような、理解には程遠く、多くの中小・零細企業企業では、コンプライアンスやCSRと同様に、守らなければならないという意識だけで、例えば、費用が出せる範囲のボランティアのような、いわば‘消極的’、受動的な取り組みで終わっているのではないでしょうか。
または、トレンドワードとして、何か関連した製品を出すことで、儲るチャンスという、間違った認識もあるでしょう。
では、どのように考えればよいのでしょうか。
・企業経営と経済学の関わり
マーケティング5.0に記されている内容とも関わりますが、SDGsを企業経営に取り入れるとき、どのようなことが考えられるのか、1つ例を挙げます。
■外部経済・外部不経済
経済学に「外部性」という考え方があります。これは、ある経済活動が、他の活動にも影響を与えるというものです。
例えばある町に、大型スーパーが出店したとします。そのスーパーを目当てに多くの人が集まりますから、周りの飲食店などの来客が増えます。
これが外部経済(正の外部性)です。
しかし、スーパーに多くの人が来店することで、交通渋滞や交通事故が増えたり、ゴミや排ガスによる環境の悪化が起こります。
これが外部不経済(負の外部性)です。
このような話をすると、経営者の方から、「そんな大きな話を聞いても関係ない」という言葉が返ってくることがありますが、果たしてそうしょうか。
外部不経済について、この例で考える場合、スーパーは、交通整理や清掃などの人員を確保する(負のコスト)ことで、ある程度の問題解決ができますが、問題自体はなくなりません。
また環境の悪化、つまり公害などについては、一般的に税金で解決することになります。とは言え、1度壊された環境を回復するには時間がかかりますし、元通りにはなりません。
・企業とSDGs
企業にとって外部不経済は、負の費用の増加だけでなく、企業の信用やブランド価値を著しく低下させます。
SDGsで大切なのは「持続可能性」です。外部不経済が発生した時点で、持続可能性が失われますから、SDGsのために何かを行うのではなく、SDGsの考え方を、外部不経済を生まないための、企業の経営基準にすれば良いのです。
実は、CSRやコンプライアンスなども同じで、これが最も簡単で、ポジティブな取り入れ方です。
年内には、マーケティング5.0日本語版が読めるかと思いますが、こうした視点を持って、接していただくことが、企業を成功に導くことになると考えます。