マネジメント 「強み」「弱み」を考える

経営者の方と話していると、よく「強み」「弱み」という言葉を耳にします。なぜこの言葉が広く使われるようになったのか、、、おそらくSWOT分析に起因するのかと思いますが、何というか、収まりの悪さというか、気持ち悪さを感じることがあります。

元を正せば、そもそもSWOT分析自体が、ほとんど適切に説明も活用もされていないということが原因なのでしょう。しかしそれ以上に、「強み」「弱み」という言葉の使い方自体に問題があるように思います。

・学生時代の失敗
僕は経営学分野に加えて、交通経済学という分野の研究をしていました。この分野では、「車のないまちづくり」や「交通権(生存権としての移動の権利)」という考え方があります。
大学院生になりたての頃、元々車やバイクが大好きだった僕は、上記のような考えに反していることから、先生から自分の好きな車の妥当性を説明しなさいと言われました。

そこで僕はこう答えました「GT-Rは最強です」と。

今考えると、あまりにもバカな答えです。2度と出られないような穴を掘って飛び込みたいくらい恥ずかしいです。(笑)

そこで先生は、僕にこう仰いました。

そもそも「車」が「強い」という表現自体、文法的におかしいのだが、、、「強い」という言葉は、比較対象があって成り立つ言葉だ。何と比較してどう強いのか説明しなさい。

僕が色々説明すると、先生はこう要約されました。

なるほど。
つまり競技(レース)というシチュエーションにおいて走行性能が高く、競技の勝ち負けにおいて「強い」という意味だね、と。

実はこの話は、交通経済学の考え方以前に、研究者を志す学生として、あまりにも国語が稚拙だったため、わざと僕の好きな話で、僕の言葉がどのように稚拙かを教えて下さったというものでした。

いやはやなんともお恥ずかしい。

・「強い」という言葉
上述の話は、とても恥ずかしい思いをしたという記憶と共に、僕の心に刻みつけられたわけですが、この先生の説明にあるように、「強い」という言葉は、比較対象があって成り立ちます。つまり「強み」とは、他の何かとの比較優位を確立できる条件ということになります。
企業の場合、常に市場競争を行っているわけですから、競争優位が確立できる事象でなければ、「強み」とは言えないことになります。

名古屋という地域はものづくりの地域です。今だにものづくりの‘神話’が色濃く残っています。
例えば、日本人は真面目で勤勉、手先が器用だから、戦後の日本は復興・発展できたという考え方もしっかり残っています。

ちなみに、、、
この考え方は、経済学の視点から考えた場合、GDP成長率を人口の増加率が上回っていたから、と論破します。

話を戻して、僕はお客様に対して、「真面目」「勤勉」「丁寧」を広告やホームページに書くことや、ましてや比較優位要因にすることは絶対に許容しません。
これらのことは、仕事をするうえで当たり前のことです。例えば反対の言葉、「不真面目」「怠ける」「雑」と書かれていたら、、、評価対象にすらなりません。
当たり前にするべきことは「強み」にはなりえませんし、比較対象ですらありません。

・定量分析と定性分析
経済分析や経営分析を行うとき、必ず「数値」を明確にします。そうでなければ、比較検討による論証ができないからです。
「真面目・勤勉」と同様に、企業の特徴を考えるとき、よほどの特異性がない限り、定性的な特徴の比較優位を証明することはできません。そうすると、必然的に定量的な条件を検討しなければならないことは、容易にご理解頂けるかと思います。
つまり、数値化によって優劣を判断することで、初めて「強み」として成立するかどうかを判断できるということになります。
またその「強み」を普遍的な特徴として説明できるかどうか、一過性でないかどうかを判断して、初めて競争優位かどうかを判断することができるのです。

・その「強み」は本物なのか
SWOT分析では、強み(Strength)の項目に、「会社の雰囲気が良い」などといった表現を目にします。確かに、組織の能力(経営資源の1つ)を考えた場合、会社の雰囲気は重要です。しかしそもそも比較できるものではありませんし、例えばただ好き勝手をしているだけの組織では、生産性の向上は望めません。
つまり、「強み」とは、明確な比較基準2基づいた「比較優位」が確立・論証できないかぎり、思い込みでしかありません。

今回記した内容は、もしかしたら屁理屈のように聞こえるかもしれません。マネジメントには、人の意思や気持も大切です。
しかし、判断基準を誤ってしまうと、その意思や気持ちが無駄になってしまいます。

僕はいつも経営のお手伝いをさせていただく方には、マネジメントは覚悟を科学で実現すると説明しています。
だからこそ、曖昧な「強み」に頼らないことが大切です。

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