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OCDを診る上で必要な知識③肘関節、前腕に関わる筋

●前方の筋
 肘jt前方には上腕二頭筋と上腕筋が存在する。肘jt屈筋筋力発揮における貢献は上腕筋47%、上腕二頭筋34%、腕橈骨筋19%とされ、上腕筋が最も純粋な肘jt屈筋として作用する。
上腕二頭筋
 上腕二頭筋は長頭が肩甲骨上結節、短頭が烏口突起からなり、橈骨粗面に付着し、強力な回外作用をもつ。また、一部は上腕二頭筋膜を介し、正中神経、上腕動脈を押さえながら、前腕回内筋群筋膜に付着する。
上腕筋
 浅頭と深頭に分かれ、

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その解剖学的特徴から異なる機能を有する。浅頭は上腕骨前面外側から内側にかけて起始し、一部三角筋と連結している。特に外側部は上腕筋深頭に覆いかぶさるように起始し、その間に腕橈骨筋やECRLが走行している。浅頭は腱様組織として尺粗面に付着する。浅頭は深頭より遠位に付着するため、より強い肘jt屈曲作用を有する。深頭前内側線維は上腕骨前方から内側筋間中隔に起始し、下方に走行し筋腱様組織(特に内側が腱様組織)として尺骨鈎状結節中央から内側に幅広く付着することで、肘jtの初期屈曲に作用する。深頭下外側線維は上腕外側から外側上顆上稜に幅広く起始し、前内側方向に走行し、尺骨鈎状結節中央から外側と前方関節包に付着する。深頭下外側線維は肘jt屈曲時、articularis cubitus(肘関節筋)として作用し、前方関節包を牽引することでインピンジメントの回避に寄与する。
●後方の筋
 肘jt後方には上腕三頭筋と肘筋が存在する。

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上腕三頭筋
 上腕頭筋内側頭の腱は、表層で肘頭内側端に真っ直ぐ付着する。内側頭は深層で長頭とともに深層腱の内側肥厚部に付着し、より深層では肘頭中央内側遠位に直接付着する。一方、上腕三頭筋外側頭の腱は、表層では腕橈骨筋や前腕伸筋共同腱と合流し、膝jt外側支帯のように肘筋の筋膜と尺骨外側に幅広く付着する。外側頭は深層で深層腱の外側に付着する。上腕三頭筋は尺骨外反・外旋作用を有するとされるが、肘頭への付着部の違いから、筋頭によって異なる機能を有すると考えられる。膝蓋骨に対する内側広筋・外側広筋のように、内側頭は肘頭を近位内側に引き込み、肘jtの内反と外旋に作用するのに対し、外側頭は肘頭を近位外側に引き込み、肘jtの外反と内旋に作用すると考えられる。上腕三頭筋の筋活動は肘jt屈曲110°で最大となる。長頭と外側頭の筋活動は肘jt伸展に伴い低下するが、内側頭の筋活動は維持される。また、肩jt挙上位における内側頭の筋活動は長頭や外側頭よりも高い。
肘筋
 肘筋は尺骨後外側と外側関節包に付着する。また、起始部では上腕三頭筋と結合し、腹側ではECRB背側と結合し、その間にLUCLが存在する。肘筋は肘jt伸展と後外側回旋安定性に寄与し、前腕回内位における伸展運動でその活動が高まる。肘筋が上腕骨外側に起始をもち、橈骨頭後方を走行しながら尺骨近位および後方関節包に付着するように、上腕筋深頭下外側線維も上腕外側に起始をもち、関節前面を走行し、前方関節包および尺骨近位に付着する。両筋が共同収縮することでスリング機能としての尺骨の回旋安定性に寄与する一方で、外反方向に尺骨を牽引する。
●内側の筋
 肘内側には円回内筋(PT)、橈側手根屈筋(FCR)、長掌筋、FCU、FDSが存在する。円回内筋と同じく、前腕回内に作用する方形回内筋、FDSと関係が深い深指屈筋(FDP)も記載する。

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円回内筋(PT)
 円回内筋は上腕頭と尺骨頭から起始する。上腕頭は内側上顆、FCUやFDSより近位に付着する。尺骨頭は鈎状結節前方とAOL前方の関節包に付着する。停止は橈骨中央外側に付着する。さらに、円回内筋上腕頭とFCR、長掌筋、FDSの筋間中隔は前方共同腱を作る。
方形回内筋
 起始は尺骨顆部前面に付着し、停止は橈骨下部前面に付着する。
橈側手根屈筋(FCR)
 FCRの起始は鈎状結節内側に付着し、停止は示指、中指の中手骨底掌側に付着する。
尺側手根屈筋(FCU)
 FCUは上腕頭と尺骨頭から起始する。上腕頭の起始は内側上顆、尺骨頭は鈎状結節に付着し、停止は豆状骨を介し、小指の中手骨底掌側、有鈎骨鈎に付着する。FCUとFDSの筋間中隔は後方共同腱を作り、AOL前方および後方にも付着しながら内側上顆まで付着する。
前方共同腱は後方共同腱よりも厚く、AOLの組織学的な形態やコラーゲン線維の密度が類似する。さらに、FCUとFDSの緊張力を負荷することで、外反トルク負荷時の外反角度、UCLの歪み、関節裂隙開大距離が減少することから、肘内側筋群のなかでも動的肘外反安定性の貢献度が高いと考えられる。
長掌筋
 起始は上腕骨内側上顆に付着し、停止は手掌腱膜に付着する。
浅指屈筋(FDS)
 FDSの起始は上腕頭、尺骨頭、橈骨頭から付着する。上腕頭は上腕骨内側上顆、尺骨頭は尺骨粗面、橈骨頭は橈骨近位前面に付着する。停止は示指から小指までの中節骨底掌側に付着する。
 回内屈筋群とその周囲構造の関係を観察するために、まず鉤状突起結節レベルの断面を作成すると、PT/FDS間に膜厚な腱性中隔を認める。またFDS/FCU間にも疎ではあるが同様に腱性中隔が存在する。

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次いで組織学的解析を行うと、この2つの腱性中隔はFDS、FCUの深層腱膜と連続し、上腕筋腱と結合した複合体を形成していることが判明した。回内屈筋群、上腕筋の筋成分をK除去すると、鉤状突起結節において上腕筋腱の一部がPT/FDS間の腱性中隔付着部の基部に停止していることがわかる。

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さらに腱性中隔を外側へ翻転し、内側から観察すると、PT/FDS間の腱性中隔は上腕骨内側上顆(MEC)前壁の基部から起始し鉤状突起結節前面に停止、後方へはFDSの深層腱膜に移行しながら腕尺jtを覆っていることが確認できる。さらに、FDS/FCU間の腱性中隔は、MEC後壁から起始し鉤状突起結節後面に停止、後方へはFCUの深層腱膜へと連続しながら腕尺jtを覆っていることが確認できる。以上をまとめると2つの腱性中隔、FDS、FCUの深層腱膜、上腕筋腱の内側部は結合し、分離することのできない厚みのある腱性複合体を呈し腕尺jtを連結していることがわかる。
深指屈筋(FDP)
 FDPの起始は尺骨内側面、前腕骨間膜に付着する。停止は示指から小指までの末節骨底掌側に付着する。
●外側の筋
 肘jt外側には、腕橈骨筋、ECRL、ECRB、EDC、小指伸筋、ECU、回外筋が存在する。

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腕橈骨筋
 腕橈骨筋の起始は上腕骨外側顆上稜に付着し、停止は橈骨茎状突起の基部に付着し、起始付着ではほとんどが筋成分である。
長橈側手根伸筋(ECRL)

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 ECRLの起始は上腕骨外側顆上稜に付着し、停止は示指の中手骨底背側に付着する。起始付着部ではほとんどが筋成分である。
短橈側手根伸筋(ECRB)
 ECRBの起始は上腕骨外側上顆、LCL、橈骨輪状靱帯に付着し、停止は中指の中手骨底背側に付着する。起始付着部ではほとんどが腱成分である。ECRB前方の関節包は薄く、ECRB腱と独立しているが、ECRB後方の関節包は輪状靱帯、回外筋と結合している。橈側手根伸筋、総指伸筋、小指伸筋、ECUは手jt背屈に作用するだけでなく、把握動作においても、手jtを背屈位に保ち手指屈筋群の筋張力を維持するために活動する。特に橈側手根伸筋は把握動作の初期から活動する。また、把持しながら前腕回内・回外運動する際、橈側手根伸筋は回外運動時だけでなく回内運動時にも手部を固定するために活動する。ECRB、総指伸筋、ECUは共同腱となり、LCL複合体や関節包とともに肘jtの安定性に関与する。
総指伸筋(EDC)

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 EDCは示指、中指、環指、小指で付着が異なる。示指はECRB腱後方、中指はECRB腱の後方からECRB上腕骨付着部の近位外側、環指と小指は小指伸筋とECUの腱画に付着する。総指伸筋、小指伸筋、ECUは付着部では筋成分と腱成分からなる。
小指伸筋 

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 小指伸筋の起始は上腕骨外側上顆に付着し、停止は小指に向かうEDC腱の延長部に付着する。
回外筋

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 回外筋は関節包と結合し、ECRB上腕骨付着部の後方に付着する。
引用・参考文献
坂田 淳編):肘関節理学療法マネジメント、MEDICAL VIEW、2020
青木隆明監)、林典雄執):運動療法のための機能解剖学的触診技術上肢、改訂第2版、MEDICAL VIEW、2012年
坂井建雄他)監訳:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論/運動器系第3版、医学書院、2019年、1月
青木光広:肘関節外側部の解剖学的所見―上腕骨外側上顆炎の病態に係る肘関節外側部の解剖学的所見について―、新井 猛企)::特集:上腕骨外側上顆炎の病態と治療、整形・災害外科、金原出版、Vol.63、No.13、2020年12月、P1737~1741


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