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OCDを診る上で必要な知識④靱帯、関節包、前腕骨間膜

尺側側副靱帯(UCL:ulnar collateral ligament)
UCLは前斜走線維(AOL)、後斜走線維(POL) 、横走線維からなる。

画像1UCLの解剖学的特徴を表1に示す。

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 AOLは内側上顆の前下方から起始し、尺骨鈎状結節から遠位に停止する。これまでAOLは尺骨鈎状結節に単独かつ直接付着すると考えられてきたが、実際には幅広く、先細り新柄広い断面積で付着するとされる。加えて、近年、円回内筋(PT)、浅指屈筋(FDS)、尺側手根屈筋(FCU)、上腕筋の共同筋膜がAOLを裏打ちする組織としてとらえられると提唱され、

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より動的な安定化機構の一役を担う組織として注目されている。特にAOLは外反ストレスに対する最も強固な静的支持機構といわれている。解剖体を用いた研究では、UCLの破断強度は約33Nmといわれている。投球動作における肘jtに対してかかる内反トルクは肩関節最大外旋直前(レイトコッキング期)に最大64Nmの力が加わるとされている、肘内側には投球動作による過度な外反ストレスに繰り返しさらされているのと同時に、これらのストレスに耐えるためには、静的支持機構であるUCLのみでは制動困難であり、回内屈筋群の筋収縮による「動的支持機構の寄与」が必須であることが示唆される。
POLはAOL付着部の後方から起始し、扇状に広がりながら横走線維の深層に停止する。POLはAOLよりひずみ(strain)が大きく、より弾性が低い組織である。

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 肘jtの屈曲伸展運動に伴うUCLの長さの変化は線維によって異なるが、なかでもAOLにはその張力が変わらないアイソメトリック線維が存在する。近年AOLはさらに前部線維と後部線維に分かれるとされ、

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肘jt35°から100°までAOL前部線維の長さは一定であり、AOL後部線維とPOLは屈曲に伴い伸張する。またAOLを前部・中部・後部に分け、その張力を検証すると、前部が伸展時に緊張し(特に最終域)、中部は常に緊張し、後部は屈曲位で緊張するとされており、アイソメトリック線維はAOL中部線維といえる。

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 AOLは外反トルクに対する主要制動機構の一つである。AOLの損傷により外反不安定性が生じ、腕尺jt後内側や腕橈jtの接触圧が増加する。一方、POLの外反トルクに対する制動機能は低いとされているが、POLは後内側方向の回旋安定性に寄与する。

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 尺側(内側)側副靱帯は、上腕骨内側上顆の下面から前面と後面にかけて付着し、尺骨の鉤状突起基部内側面および肘頭突起基部内側面に至る。内側側副靱帯は、3つの部位に分けられ、前斜走部(a)、後斜走部(b)、横走部(c)が存在する。

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 前斜走部(a)は肘関節屈曲角度によって伸張性にほとんど変化がないという報告がなされている。しかしながら、前斜走部はさらに前束と後束が区別され、Ochiらは、前斜走部後束は肘jt屈曲角度が増すにつれて伸張していく。

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ことを明らかにしている。後斜走部(b)もまた肘jtの屈曲に伴い、伸張性が増していく。
外側側副靱帯(LCL:lateral collateral ligament)複合体
 LCL複合体は輪状靱帯と橈骨側副靱帯(RCL)、外側尺側側副靱帯(LUCL)、副靱帯からなるが、個人差もある。

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輪状靱帯は橈骨頭を取り巻くように尺骨橈骨切痕の前後に付着し、近位橈尺jtの安定性に寄与する。RCLは外側上顆から起始し輪状靱帯に停止する。LUCLは外側上顆から起始し尺骨外側回外筋稜に停止する。LUCLは明瞭な靱帯ではなく、存在率も約半数という報告や、文献によってはRCLの後方枝としてみる向きもある。肘jt屈曲時にはLUCLが緊張し、RCLが緩むのに対し、肘jt伸展時はRCLが緊張し、LUCLが緩む。RCLおよびLUCLは肘jt外側の静的支持機構として、内反および後外側方向の安定性に関与する。

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加えて、LCL複合体はAOL同様、周囲筋との共同作用を有する。LCL複合体遠位に回外筋が幅広く付着するほか、RCLには尺側手根伸筋(ECU)が連結し、その走行が閉創しており、LUCLには肘筋が付着し、肘最終屈曲位にその走行が重なっていることから、これらが動的肘内反、後外方安定化機能として作用すると考えられる。
関節包
 肘jtの関節包は腕尺jt、腕橈jt、近位橈尺jtを含有している。

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前方関節包は近位では内側で鈎突窩、外側で橈骨頭窩に、遠位では内側で鈎状突起、外側で輪状靱帯に付着している。薄く透明で横走と斜走の線維が強度を上げている。後方関節包近位は肘頭窩辺縁に、遠位は滑車切痕の内外側縁に付着している。そのため関節包の容量は屈曲約80°で最大となり、25~30mLの容積となる。強度としては前方の方が後方より強靭である。

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肘jtの屈曲に伴い前方関節包は弛緩し、後方関節包は緊張する。関節包は肘jt屈曲位よりも伸展位のほうが、外反トルクや内反トルクに対する制動機能への貢献度が高い。
前腕骨間膜
 前腕骨間膜は遠位部、中間部、近位部に分類される。

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中間部は中央索と薄い補助索からなり、橈骨から尺骨に遠位に向かって走行する。近位部は近位斜走索と背側補助索からなる。近位斜走索は尺骨鈎状突起前外側から起始して橈骨粗面に停止し、背側補助斜走索は前腕背側にて尺骨遠位2/3から起始し橈骨稜に停止する。遠位部には遠位斜走索が存在し、尺骨遠位1/6から起始し橈骨尺骨切痕下方に停止する。
 前腕骨間膜は前腕の肢位によって緊張する線維を変えながら、回内外運動を制動する。中央索は他の線維より弾性が高く、補助索とともに前腕回外位で伸張し、近位斜走索と背側補助斜走索、遠位斜走索は前腕回内位で伸張する。また上腕荷重時、手jtより橈骨遠位に加わった長軸方向への力の一部は、前腕骨間膜を介して尺骨近位に伝達され、腕橈jtと腕尺jtの関節面に加わる力が分散される。

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橈骨遠位に伝達する力は前腕回内位で大きく、尺骨遠位に伝達する力は前腕回外位で大きい。
引用・参考文献
坂田 淳編):肘関節理学療法マネジメント、MEDICAL VIEW、2020
機能でみる船橋整形外科方式肩と肘のリハビリテーション、文光堂、2019年、10月
星加昭太他):特集:機能的アプローチからみる肘のスポーツ障害治療 肘関節の解剖と機能、J MIOS No96 2020、P2~11
菅谷啓之編):肩と肘のスポーツ障害診断と治療のテクニック、中外医学社、2012

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