母の死
離れて暮らす母の死は、突然死だった。
平日のお昼頃、近所の人が救急車を呼んだ時点で電話連絡を受け、職場からひとまず自宅へ戻る。
検死結果は病死であったが、救急車から警察へ管轄が渡ってしまったため、母を返して貰う手続きに警察署へ行くことになる。
事件性が全くなかったので翌日には引き取りの許可が下りるのだが、ほぼ丸一日待った。
いつ許可が下りるか不明でも、下りればすぐに引き取らなくてはならない。
しかしそれには遺体を運ぶために葬儀社の同行が必要になる。
もちろん全てがこちらの手配。
母の死の連絡を受けた当日は、自宅で電話連絡に明け暮れることとなった。
親戚に連絡をし、警察からの電話を受け(これが聴取があったり、逐一状況報告してくれるので頻繁)、急ぎ葬儀社を探し、事情を伝える。
葬儀社は親族とネットの情報、そして地理で決めたが、恐らくどこの葬儀社でも、危なげなく対応してくれる気がする。急ぐが日時は未定、などと伝えてもどの担当者も動じなかった。
その夜は現実感のないまま、いつも通り入浴しベッドに入る。飲食は一切忘れていたが、眠ることは出来た。
翌日、電車で二時間ほどの母の住所へ向かう。途中警察からの電話を受け、行き先を警察署へ変更、葬儀社へも引き取り可能と連絡を入れる。
担当の刑事さん(刑事課が担当なのか…と妙な感心をする)から説明を受け、署名をし、母に面会(と呼ぶことも初めて知った。葬儀社でも同様)させて貰う。
安置所で会った母は眠っているだけに見えた。
未だ現実味もない。
ただようやく、母は死んでしまったと思い知る。
何やってんの、と腹も立つ。
判らない。複雑で煩雑でなんだか判らない。
まるで体育教師のような明朗快活で親切な刑事さんにたくさん気遣われる。事件ではないのに申し訳なく思う。捜査が入っているため、回収された貴重品一式をまとめて返却される。財布から紙幣だけ抜き出されていることに驚く。貴重品の線引きが今ひとつ判らない。財布自体は小銭とともに部屋に残されていた。
葬儀社も専用車で既に待機。
恐らく普段気付かないだけで、こういったことも日常茶飯事なのかもしれない。
検死担当の病院で死亡診断書の代わりに死体検案書を貰う。
貰うと書いたが5万円払った。
警察署では一切の身分証明を求められず、名乗るだけで全てが進み、辞すまでに30分くらいだったように思う。簡単になりすますことも出来るなぁと感じる。無意味だけど。
そのまま葬儀社へ向かう。
葬儀まで、保管設備のある施設で預かって貰うのが一般的らしい。
葬儀計画の概要を担当者と話し、初めてで判らないことだらけのこちらが何か聞くたびに「ですから~」と半笑いで返す担当者に苛つく。自分の業界の常識を顧客に押し付けてはいけないなと反面教師とする。しかし全体を通して不快だったのはこの人だけで、翌日の本打ち合わせ、当日の担当者もとても印象が良かった。
返却された鍵で母の部屋へ入る。
小さなアパートにたくさんの荷物。
途方に暮れる。