妄想リクエスト「推し」(ボツメール)
もう今年も残り２ヶ月。
今年も何も起きないままここまで来てしまった。
唯一楽しみにしていた年末のアイドルフェスも、今年は推しが突然のグループの卒業そして引退で、生きる気力すら失いかけていた。
ある日バイト先の町中華店に、地味な格好だが店には似つかわしくない可愛らしい一人の女性が訪れた。
その女性は自分のオーラを消すようにか細い声で「注文いいですか？」と私を呼んだ。
あれ？この声はまさか推し？？
いやいや、こんな所に推しが来るわけがない。
もう一度「注文いいですか？」と呼ぶ女性。今回は少し声が大きくなった。
聞き間違いではない、確実に推しの声。
私は注文をうかがいに行くとき、推しのキャッチフレーズ「にらめっこしましょ、はい、微笑んだあなたの負け」が口から出そうになった。
いや、正確には「にらめっこ」の「にら」で言葉が止まった。
そう、もし本当に押しだった場合、推しはもう一般なのだ。
口から出てしまった「にら」を誤魔化すかのように私は「にら饅頭オススメしてますよ。良かったらどうぞ。」と言った。
一瞬ビクッとした女性は「バレたか？」と苦笑いをしていた。
会計の時、女性は私にスマホの画面を見せてきた。
画面には『握手会以来ですね、お元気そうでなによりです。にら饅頭美味しかったです。ごちそうさまでした。』と書かれていた。
やっぱり推しだったのか。そして私の事を覚えていてくれたんだ。
嬉しくなり声が出そうになるのをグッと押さえた。
推しは私に会釈をして店を出ていった。
その夜私は推しを想い、推しが歌う曲をエンドレスに聞き夢の世界に落ちていた。
夢の中でステージ上の推しを応援してる自分。華やかなステージ衣装に身を包んで満面の笑顔をプレゼントしてくれる推しに歓喜なのか哀しみなのか涙が溢れ、自分の声援の声で目が覚めた。
カーテンを開けると外はまだ暗いが、町の灯が心を暖かくしてくれた。
推しの彼女もこの世界のとこかで頑張ってるんだろうと思うと、この歌が頭の中に流れてきた。
リクエスト
アーティスト名・サンボマスター
曲名・孤独とランデブー