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世界観にドボンと没入できるオススメ小説7選

おひさしぶりです。
山門文治です。
最近の更新が乏しくなっている件については、折をみてお話します。

さてさて、芸術の秋に近づいてまいりました。
この時期になると、なぜだか無性に読書がしたくなりますよね。
そんな人のために、今回は、「世界観にドボンと没入できるオススメ小説7選」を紹介します。

ぼくのガチの主観で、この本は面白いって小説を7冊紹介します。
そして、その小説のネタバレは極力避けながら、その作品をどう楽しめば、もっと楽しめるのか、どんな人におすすめかなどを説明します。

小説というのは、作家の世界観にドボンとする種類の体験であり、アートだと考えています。
このドボンは、山登りに似ています。
山登りをはじめて、最初の数時間は呼吸が整わなかったり、ペースが掴めずに疲労感が漂います。でも、あるタイミングでかちりと切り替わって、歩くのがどんどん楽しくなります。疲労感はたまっているはずなのに、なんだか楽しくなってくる。ハイキングハイというやつでしょうか。ぼくはこれを、山登りをキャッチすると呼んでいます。このキャッチする感覚が、小説にはあります。
読み始めて作者とのチューニングをあわせるまでは、読み進めるのは辛かったり、厳しかったりします。
ここで投げ出してしまう人がいるのですが、(どうしても入れない時もあるが)、ぜひほんの少し辛抱してみてください。
すると、じわりじわりとスルメの甘さのような体験が始まります。これを経験しちゃうと、読書の楽しさを覚えてしまったあなたは、もう抜け出せなくなります。
これが文学沼のおっかなさです。

「小説、むかしは読んだけど最近はな〜」
こんな人ほど効くかもしれません。

そんな没入体験ができる作品を7冊紹介します。
ただし、本記事で紹介するのは、中編〜長編です。
(短編をお探しの場合は、別の記事を書くまでお待ち下さい。)


1.『すべて真夜中の恋人たち』/川上未映子

この小説は、平たく言えば恋愛小説なのですが、
美男も美女も出てきません。出てくるのは、さえない中年男性とパッとしない34歳の女性です。小説内にも、パッとしない二人として描かれています。

この作品は、めちゃめちゃ売れているのに、絶対に映像化されることがない小説です。
なんだかフェルミ推定みたいな文章ですが、ここには意味があります。
ちゃんと説明しますね。

売れた小説が映像化されるようになりました。ドラマ化や映画化です。
その時の配役はかならず美男と美女。
ですが、この小説を美男と美女の役者で演じてしまうと、ストーリーの根幹をなす部分がぶち壊れてしまいます。
なぜなら、さえない男女と明記されており、そこを無視してしまうとストーリーすべてが成り立たなくなるからです。

しかし、この二人の恋愛を彩る描写はたおやかで、言葉は異常に優美です。
世界観がとてつもなく美しい。
なのに、主人公もヒロインもパットしない。
ぼくは、まさに、作家の維持とプライドを賭けた挑戦だと思いました。
作者の川上未映子は言いたいんです(しらんけど)。

「メディア化されることが小説のほまれじゃねぇぞ」と
「ほかの媒体に頼らずとも、言葉だけで世界観を表現してやる」と。

だからこそ、あまりにもパットしないふたりの恋愛なのに、読めちゃうんです。
そして、むしろこっちだよなって。
これくらい、地味だし、パッとしないけど、こういう恋愛をみんなしてるんだよなって晴れやかな気持ちになります。


映像メディアにはできない、心情面の深堀りが徹底されています。だから、女の子が男を好きになるまでの過程が上手に描かれているので、女心を理解するのにも優れた一冊だと思います(笑)
これ読んだら、モテるよ。とは言えるかどうかは不明ですが、ぼくは読んでから女心というものが、なんとなく自分の中で言語化できるようになった気がします。(気のせいかもね)


2.『パンとサーカス』/島田雅彦

この小説は、ぼくが人生で読んだ小説の中で一番おもしろかったです。
エンタメ性がばっちりで展開がえぐいほど、引き込まれます。
そして、調べてみると、「政治小説?なんかむずかしそう」って敬遠しちゃうかもですが、そんなことはありません。

この小説の魅力は、何と言っても展開です。
「へぇ、FBIってこうやって就職するんだ〜」みたいなリアルな追体験ができます。だけでなく、「へぇ、こうやって国家を転覆する作戦って立てるんだ〜」みたいなところまで、とことん危険な妄想が加速します。
はじめは、大学生の視点の物語なので、スラスラ物語が読めると思います。

国家の諜報部隊みたいなところに入り込んで、国家の邪魔者を排除するようなアンタッチャブルすぎる領域を覗き見するので、ハラハラドキドキです。
国家の闇とかそういうのに興味ひかれてしまう人は、絶対楽しめると思います。
右翼の大物のおじいさんが、裏で暗躍して主人公を操ったり、そこにFBIが入り込んで、めちゃくちゃになっていきます。
それもとことんリアルな妄想で、展開がとにかく面白い。
だから、600ページ近くある分厚すぎる本なのですが、スラスラ読めてしまいます。

3.『きれぎれ』/町田康

2000年の芥川賞の受賞作品です。
この本は、なんで読めてんのかわからない、なんで読めるのかわからない、でも面白いことはたしか、みたいな感じです。

意味わからないんですよね。
でも、内容はわかりやすいし、なぜか読み進めたくなるんですよ。
癖になる文体ってやつですね。

そして、読んでると、ストーリーもちゃんとあるんですよ。あるにはある。
でも、それが何を意味しているのか、はたまた何も意味してないのか。
そんな風に、脳がジャックされます。
ところどころに、刺さる言葉を忍ばせています。鋭利な言葉でぐさりと刺さってしまいます。

だから、読み終えたときには、どえらいもん読まされたなってうんざりする気持ちと同時に、いいもの読めたなという爽快感が同時に押し寄せます。

ただ、内容がグロいとか、おどろおどろしいわけではありません。
ストーリー自体は、理解できないこともないし、怖いわけでもありません。
とにかく、不思議な魅力にやられちまう中毒性のある一冊です。

音楽でたとえるなら、ゆらゆら帝国とか相対性理論みたいな不気味な中毒性です。(わからない人ごめんねw)

4.『幼年期の終わり』/アーサー・C・クラーク

この小説は、『新世紀エヴァンゲリオン』の元ネタのひとつなった(と言われている)小説です。
SF小説の金字塔で、世界中のSF好きが唸る定番の一冊。世界三大SF作家として、この作品をあげる人も大勢います。SF好きにとっては、恥ずかしくなってしまうくらいの定番中の定番です。

この作品を読むとエヴァに出てくる使徒という敵を思い出します。地球の意志みたいなものが、化物となって人類を攻撃するというのが、エヴァの使徒なのですが、そういうモチーフを感じられます。

物語は、ある日突然、都市の上空に謎の飛行物体が現れるところから始まります。そして、人類にあらゆる争いをやめるように勧告します。非常に文化レベルの高い惑星からきたその宇宙人は、地球人の抵抗など、子どもとじゃれるみたいに解決します。だから、だんだんと抵抗する者も消えて、宇宙人の思惑どおりに世界は平和になっていくというお話です。
ところが、、、みたいな、驚きの展開が始まります。

ネタバレは伏せますが、この小説のラスト。すさまじく綺麗な終わり方をします。文字だけで、あの美しい世界観を表現できるのか。こんな気分になるはずです。究極の読後感が得られます。

5.『1Q84』/村上春樹

世界観にどぼんと没入という表現で真っ先に頭に浮かぶのは、村上春樹作品です。
彼は、まず英語で執筆し、それを日本語訳するという執筆しており、言語においても日本を相対化して捉えています。

この小説は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの『1984年』とかけたタイトルになっています。

『1984年』を読むと、太平洋戦争後のイギリスにおける冷戦に対する恐怖心が伝わってきます。当時のソ連が、こういうディストピア社会をつくってしまうのではないかという想像力によって、徹底的かつ強権的な監視社会の出現を予想しています。

ですが、いざその時代を迎えてみると、強権的なディストピア社会にはなっていません。でも、Qの世界には、別の問題があって・・・
という、強権的なディストピア社会ではない方のアナザーなディストピア社会の到来を予言しています。
このあたりは、宇野常寛の『リトル・ピープルの時代』を読むとより詳しく読めます。おもしろいのでぜひ。

個人的には、安倍晋三元首相が暗殺された一連なんかは、この小説が示唆している内容を含んでおり、今読むと、背筋が凍る思いでした。
このように、現実と虚構の区別が曖昧になっているような錯覚に陥ってしまうのが、村上春樹作品最大の魅力です。
一度、村上春樹ワールドに入ってしまうと、もうその文学世界の住人になっているかのような、そんな風に世界を捉えてしまうようになるのです。

6.『金閣寺』/三島由紀夫

はっきり言って、三島は危険です。
生半可な覚悟で、読めばその魅力に惹き込まれ、帰ってこられなくなります。

三島といえば、市ヶ谷での割腹自殺で有名です。ぼくはもともとは、キワモノ右翼なイメージをもっていましたが、あの自殺にすら、なにか崇高な理念が宿っており、なにやら正しいことをしたのではないかと思えてなりません。
特に、『豊饒の海』4部作なんか読んだら、三島から帰って来られなくなりますので要注意です。

今回、紹介するのは『金閣寺』です。
ぼくは、京都の大学生だったので雪の日に大学が休校になったのをいいことに、雪化粧の金閣寺をお目にかかったことがあるのですが、あれほど美しい人工物はほかにあるのでしょうか。
それほど感動したのを覚えています。

金閣寺というと、京都にある美しいお寺でしょ?くらいのイメージかもしれませんが、1階は公家様式の寝殿造、2階は武家様式の書院造、3階は当時の中国をモチーフにした禅宗仏殿造と階ごとのコンセプトが代わります。

これは、日本という社会の様式を表してるのだといいます。
つまり、日本社会というのは、天皇制という伝統の上に、中国からの輸入物とアメリカからの輸入物の上に成り立った構造をしています。
この状態のことを、金閣寺という言葉に集約しているのです。
だから、三島が言っている金閣寺というのは、日本社会全体のことを言っています。それを燃やすって話ですからね。文学という建物の中に、日本社会を詰め込んでいます。

7.『教団X』/ 中村文則

最後に紹介するのは、『教団X』です。
とんでもない話題作なので、ぼくが名前を出さなくてもご存知だと思いますが、この小説は、とことんまで物語の世界に没頭できるつくりになっています。

ところどころで挟まれる、謎の老人の説法。それとは無関係に進む展開。エンタメ姓に特化して、読むという体験の面白さを思い出させてくれます。
なんというか、この小説は<読むという体験>なんですよね。スポーツというか、体験型の小説です。
これ以上になく、おどろおどろしい話が展開するくせに、最後にはカタルシスが待っているという設計になっています。

ただし、エロくてグロいし、人間の暗部に触れている作品なので、繊細さんには、読む前に腹にぐっと力をいれるような覚悟が必要だと思いますので、ご注意ください。

さいごに

文学という体験は、トランスポーテーションです。
そして、読者は、別の人生を疑似体験できます。

この時、自分がその人生だったら?という想像力を働かせることが、文学という体験をより豊かなものにします。

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