悪口でしか人とつながれない人たち【エッセイ】
──悪口というのは、使いどころ次第で、非常に便利なツールになる。
悪口には、人と人をつなぎあわせる蠱惑的な魅力がある。
「ネェ、知ってる?◯◯さんって、ホントは……」ひそひそひそ
「ええ!まじ!やばいじゃん!」
「やばいよねwwww」
こんなやりとりを経ると、そのふたりの間に、カチリとなにかがつながる音がする。
悪口による連帯だ。
どっかのYouTubeのメンタリストがいかにも好きそうなテーマである。
ぼくの中の妄想メンタリストがペラペラ語り始める。
「これ結論から言うとですね。悪口っていうのは言った方がいいんですね。
これはですね、ドイツのヤーマカド大学の研究結果によって分かってるんデスケドモ。
悪口を言い合うグループと
悪口を一切言わないグループがあった時、
それぞれのグループの各メンバーが持っている、グループへの帰属意識が、悪口がを言い合っているグループの方が高かったなんて研究があったんですね。
面白い研究で、へぇって感じデスヨネ。
つまり、多少の悪口があった方が、組織の一体感は高まるっていうってことナンデスヨネ」
もちろん、こんな研究はないのだけど、なんとなく信憑性のある仮説だ。
だって、科学がそれを証明する以前にぼくらはそれを身を持って知っているのだから。
ぼくらは悪口の恩恵をなんども受けてきている。
悪口を言うと、共通の敵を認識するメカニズムが働いて、
敵と味方の味方の側のいち員になれるのだ。
おそらく、これを読んでいるあなたにもこころあたりがあるはずだ。
悪口というのは、非常に便利なツールなのだ。
言ってる間は、みんなの注目の的になれるし、
そこから笑いが生じて、その場には心地よい一体感が出現する。
悪口は蜜の味、癖になる。
病みつきになる。
だが、当然の話だが、
このツールには、使用上のリスクもある。
悪口がコミュニケーションのデフォルトになり、悪口以外で人と距離を縮める術がわからなくなることだ。
さらに、悪口による連帯をともなわない友情が、表面的なうすっぺらいつながりに感じてしまうこともリスクとして挙げられる。
ものたりなく感じてしまうというか。
外食の濃い味付けに慣れてしまうと、家庭の料理が薄味に感じてしまうのに少し近いかもしれない。
結果として、悪口を好まない人にまで悪口を共有してしまうようになる。
本人としては、仲良くなりたいつもりでそれをしているので、悪意はあっても悪気はない。
だからその分、余計にたちが悪くなる。
行動原理としては、「あなたと仲良くなりたい」という無邪気さなのに、
他者からの評価としては、悪口をいうので「ハレーションを引き起こそうとしている」ということになってしまう。
そして、ひっそりと距離を置かれたり、
「あー、あの人悪口言うからニガテ」
とか陰で言われたりするようになったりする。
悪口がキライな人にとって、悪口を言う人はその面白さ以前に、その行為が生理的に受け付けないのだ。
ここからが厄介。
悪口という連帯でつながった仲間の間では、悪口は未だに楽しいコミュニケーションだ。
悪口仲間が集まると当然、悪口で盛り上がってしまう。
悪口をいう人たちネットワークが構築される。
すると、閉塞していく。
外部から「あいつら」という不本意な烙印を押されてしまう。
余計に浮く。
気づけば、じぶんの身の回りにいる人が、悪口を言い合いケラケラ笑い合ってる不健全な人だらけになってしまう。
でも、そこしか居場所がないから、悪口は続く。
悪口は仲良くなるためのツールであり、
仲のよさを維持するための燃料なのだ。
すると、人のイヤな部分ばかりが目につくようになってしまう。
他人の粗を探して、失敗談を根掘り葉掘りリサーチする。
あ、これネタになるかも。
これみんなにシェアしたら盛り上がるかも。
言いたい、言いたい。
「ねえ、知ってる?
マサタカが西北の17歳の家出少女を、
十三の家に連れ込んだらしいよwwwww」
悪口メンバー同士でシェアすると、やっぱり盛り上がる。
爆笑が生まれる。
鳴り止まぬ喝采。
高鳴る、ファンファーレ。
悪循環のはじまりだ。
人は鏡。
誰かの悪口で嗤う奴は、じぶんのいないところで、じぶんを嗤ってるんじゃねぇだろうかという疑心暗鬼が始まる。
そんな不健全な関係性には、信頼関係が生まれにくい。
結果として、悪口をさらに言うメンタリティが醸成されていく。
「仲良くなりたい」って無邪気な理由が出発点だったはずなのに、
気づけば、まわりからの評価は単なるイヤな奴。
こんなはずじゃなかったのに、ってね。
おねがい
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山門文治