みんなの職員室 実践者インタビュー#1
「みんなで創る みんなの職員室」活動を通じて、職員室での対話の大切さに何度も気付かさせられました。ぜひ多くの方にその大切さを知っていただきたいと思い、「みん職」を経て職員室での対話の場を実践している先生方へのインタビューシリーズを始めます。
「みんなで創る みんなの職員室」活動については、こちら▼
第1回目は、東京都公立小学校の大野大輔先生と甘中浩一先生です。
「みん職」を始めたころに参加してくれた大野先生。これまでに何度も「みん職」に参加して、たくさんの先生方と対話をされています。
大野大輔先生
東京都公立小学校教諭。教員9年目。現在の学校は2年目。研究主任「学校をひらく、社会と学びをつなぐ」をテーマに活動中。東京都小学校体育研究会副部長、edcamp NT実行委員
甘中浩一先生
東京都公立小学校教諭:教員17年目。現在の学校は10年目で主幹教諭。現在は教務を担当。誰もが幸せに働ける職員室づくりをテーマに活動中。東京都体育研究員、中央研修生
先生たちが同じ意志で動くと、育ち方が変わる
小林:今の学校の職員室では対話が多いとの事ですが、どのような活動をされていますか?
大野:元々対話を良くされている先生が5人くらいいて、その方々の影響が本当に大きくて、みんなの職員室のワークショップの後、いざ何かをやろうと思ったときにすんなりと出来るという環境にありました。活動としては大きく3つあって、一つは若手のグループで、雑談から、授業をどんな感じでやっているかという対話をしています。二つ目はベテランです。普通の職員室だと気軽に話せないようなベテランの方とも結構気軽に対話が出来るという場があります。三つ目は研究推進委員会の中での対話の場です。昨年度の対話の素地があったので、お陰様で何かやってみようとという時に協力的な方が多かったりとか、結構深いところまで対話が出来たりするので、本当にみん職の影響が大きいなと思っています。
甘中:僕は今、教務をやっているので、教務として放課後の時間、先生たちが対話が出来るような時間を設定しています。あとは教務主幹として気軽に相談しやすい存在でありたいな、と。うちの校長はすぐに話を聞いてくれる人なので、話を聞くときには何よりも優先して聞くような感じで、職員室の雰囲気づくりは心がけてやっています。
大野:補足していいですか、本当に甘中先生含めてなんですけど、たとえばこっちが相談しに行く時に絶対作業をやめてくれるんですよ。こっちを向いて、え、なに、って向き合ってくださるんです。あと、先ほどの時間を作ってくださっているという話だったんですけど、一人1台の端末が配られる時に、みんな、その準備をしたいと思っていたんです。そのときに、本来5時間授業なんですけど、ちょっと時数を減らして4時間にして準備時間を作ったりとか。それは先生向けもあるんですけど、子どもも初めの週なので、最初学校に慣れるためには4時間の方がいいだろう、と言って、いろいろとやってくださっているのも甘中先生なんですよ。本当にありがたいです。
小林:すごいですねえ。今、教務で捻出してでも対話の時間を作ろうというお話だったんですけど、対話の時間を作るのがいい、ということにはどうして気付かれたんですか?
甘中:昔は学級単位で動いていたんです。自分の学級を良くしよう、学級を良くしようと動いてたんですが、今の学校に来て、学級より学年、もしくはもっと大きな枠、高学年というような枠で先生たちで同じ意志を持って動くと、すごく育ち方が違うな、ということを実感した年度が何度もあったんです。こういう空気感が今の学校で5,6年前に一度出来ていたんですが、やっぱりそれが継続するかって言うと、たとえば去年だったらコロナでものすごい忙しくなってしまって、やることが膨大で、忙しさに負けて対話が消えていってしまったんです。それが今年、大野先生と高学年を持って、またその空気感が復活してきているんです。やっぱり、子どもたちを学級単位で育てるよりも、高学年全員でこうする、ああするって言いながらやっていった方が、教員間に同じ意志があるので高学年として育っていくというのを感じているからですね。
みんなの職員室で自分自身の在り方を見直した
小林:それは実感としてお持ちなんですね。大野先生は、みんなの職員室に何回か参加していただいて、そこからの流れで学校での活動にどうつながっているんですか?
大野:一番は、自分自身の在り方を変えようと思えたんですよね。自分とは合わないような方も職員室には絶対いるんですよ。でもそんな方とも協力するためにはもう対話しかない、自分の振る舞いがどう影響していくのかをみん職で学べたんですよ。自分がどうその人と関わるかとか、自分がどうあるか、というのを未だに模索はしているんですけど、そのおかげでいい対話が出来ているのかな、という自覚はありますね。
小林:みんなの職員室の中で大野さんはどういう所から気付きを得ましたか?
大野:何かを変えたいというA案が出てきたとした時に、変えたいっていきなり言っちゃうと、やっぱりそればどうなの、という反対勢力が出てきちゃったりとか、一人で突っ走って何やってんだ、ってなっちゃうんですけど、そのA案を実現させるためにはどうすればいいか、自分がどう振舞うかとか、どう対話をしていくか、ということを知ることが出来ました。それで、事前にたくさんの人と話したりとか、出来るだけ皆さんの意見を聞くためにアンケートを取ったりとか、甘中先生みたいに学校の立ち位置としては裁量権の多い方に事前に相談に乗ってもらうとか、そういう対話の流れとかを知れたのが、気付きとして一番大きかったと思います。
小林:いろいろな職員室の在り方を聞くことできた、ということですね。
大野:そうですね。たしか第1回目のあとに甘中先生と出会っているんですよ。甘中先生と出会って確信になったんですよ。この人はこうやってやっているから信頼もあるし、いろいろと変えてこれたんだな、と思ったので気付きと出会いがピタッとリンクした感じはありました。
小林:そのときに甘中先生、何か覚えていたりというのはありますか?
甘中:大野先生はすごいパワーがあるなと思ったんです。やりたいこともいっぱいあるし、すごい人だなあと思ったんです。本当に柔軟で、出会ったときから自分も変えてこうして行こうみたいな感じがあって、大野先生がうちの学校を結構価値付けていってくれています。うちは、みん職がどう、とか狙っているわけではなくて、まあこっちの方がいいよね、というのを実感している先生が何人かいて、まぁ何気なくやっていたんです。高学年島、中学年島、低学年島って言う感じで対話が多い学校だったのですが、それが灯のように消えそうになったりしたんですけど、やっぱり雰囲気は残っていて。流れるように普通にやってたんですけど、今の学校でやっていることを大野先生が理論立ててくれているというか、ありがたいです。
対話によって世界が拡がっていく
小林:素晴らしいですね。相乗効果ですごいと思いました。今までのお話で職員室の中では対話をすることがいいと皆さん気付いてらっしゃるということだとは思うんですけど、進めていく中で障害があったとか、そういうことは無いんですか?
甘中:まぁありますよね。僕も100%は目指していないというか、いつも3割4割は上手く行かないこととして、6割7割が上手く行ってくれればそれでありがたい、と思ってます。お互い様なので、価値観が合わない人ももちろんいるし、その時に対話が必要かな、と思います。対話が無いと、どうしても 0-100 の世界になって、こうしたかったのに出来なかった、ってなるんですけど、ちょっと対話をすることによって譲り合いながら妥協点を見いだせる。しかも普段から話していないと、その時だけじゃなくて、前回はちょっとこうだったから、今回はそっちでやってみる、とか。実際にやってみると意外と自分の知らない価値観と出会って、ああ、やってみたら上手く行くんだ、ということにも出会うので、またさらに世界が拡がっていくっていう感じがあります。皆がどう感じているかわからないですけど、そういう風な世界を職員室に作って行きたいですね。
小林:価値観って本当に大事な言葉ですね。実際、どのくらい対話をされているんですか?例えば1週間にみんなで話す時間っていうのは結構あるんですか?
甘中:大野さんと良く話すよね。高学年島はすごく話すよねぇ。
大野:さっきの課題意識に繋がるところなんですけど、すごく質の高い深い対話をしている人がいるんですよ。甘中先生とか、高学年の島とか、あと点々といらっしゃるんですが全員じゃないんですよね。質の高い深い対話が出来ている人たちと、まだまだそういうことが出来ていない方がいるので、私の課題意識はそこにあります。たとえば甘中先生と私たちで、深い対話をして、より良い教育を考えるようなことが結構できていて、私も日々楽しいんですよ。それが対話が出来ていない方とは、ある程度温度差とか教育の質のギャップだったりとか、そういうのもあります。そこをどう学校全体でアップデートしていくか、高め合っていくかっていうことが次のステップだと思っています。
対話のベースを整える
小林:研究推進のグループの中では対話は出来ているのですか?
大野:私の中では結構満足するくらい出来ていて、私が主任としてやりたい資料とかを出すと、いいじゃんいいじゃんって言ってくださる方とか、前向きな指摘をしてくださる方とか、あと個別で大野さん来てって呼んでいろいろ教えてくださる方とか、若手が先生こういうの作ったらおもしろくないですか、って提案してきたりというのがあるので、結構いい対話が出来ているな、という実感です。
甘中:それは事前の大野さんの準備が素晴らしいんです。対話が出来るベースがあるんですよね。どうします、ってまっさらな状態で意見述べてっていうと、やっぱり若手とか何言っていいかわからないってなるんですけど、ある程度道筋を作って、意見が述べやすい環境を整えて会議をやってくださっているところがあるので、そこら辺がすごいところです。たぶん若手の子たちはそれにあまり気付いていなくて、今日はいい意見言えたな、話せたな、っていうのがあるんですけど、実はベースがしっかりしてくれているので、大野さん世代が活躍してくれるのがいいな、と思ってます。僕らはあとでフォローをしたりとか、出来ることを見つけながら、補完的にやっていくといいのかな、と思っていて。それぞれの立場立場でやってくださっているので、大野さんがすごく活躍をしていて、研究は充実しているかな。
小林:ベースを作っている、というのは具体的にはどういう風に作っているのですか?
大野:資料を作っていて、一番良かったのが、先生方全員が回答してくださったんですけど、googleフォームでアンケートを取ったんです。それを一覧でまとめて、そのうえで研究推進として私がやりたいというのを示したりとか、たぶんそれがベースと呼べるかな。
小林:アンケートは皆さんが見れるんですか?誰がどう書いたか?
大野:名前は伏せました。やはり匿名で示しますって言った方が本音を書いてくださるので。
小林:それをやってみて、皆さんどうでしたか?最初は嫌ですよね。本音を書くというのも、どんな風に思われちゃうんだろうとか。
大野:実はそういう声があったんですよ。まさに本音を書いて協議会とかで取り上げられて、誰々さん、これについて教えてもらっていいですか?とかって言われませんか、というので、それは絶対ないですと言いました。あと、これまでの研究とか職場の事でもしかして否定的になっちゃうような内容なんですけど、大丈夫ですか?とも聞かれました。でも、そう言っていた方々も、研究全体会の後に声をかけてくださって、え、あれ本当に実現したんですね、嬉しいです、って言ってくれたんです。あんなことを書いて本当にそれがありになるんだ、ってちょっとびっくりしました、嬉しいです、って言ってくださったんで、結果としてはやって良かったかなと思いました。
小林:なかなか新しいことを始めようとしてもいろいろ反対があって、結局出来ないね、って言うのが学校現場では多いと聞くので、それは素晴らしいですね。
大野:合同みん職(注:複数の学校合同で行ったみんなの職員室)をやったあとに、甘中先生と話したんですよ。甘中先生が、俺ちょっと燃えてきたよ、って言ってて、何ですか、って言ったら、いやあ、俺もさこの学校に2校目としてきたときに、本当にいろいろこうやりたい事をやらしてくれて、それをどんどんやりなよ、って言ってもらえたから、俺も何かやりたいと思っている人を全面的にバックアップしていくのに燃えるわ、っておっしゃったんですよ。その言葉にちょっとぐっと来たんですよね。本当にあの合同みん職をやって良かったな、って思ってます。
小林:かっこいいですね。さっきの、ちょっとこれ本当に大丈夫なんですか、という方も声を出さなければそういう風に変化が起きなかったですよね。声を出したら変化した、っていうことで、そうしたらまた次じゃあやってみようかな、って思いますね。
大野:はい、しかもその方が昨年度まで私があまり対話が出来ていなかった人の一人なんです。どっちかというとぶつかる場面もいくつかあったというか、お互い理解し合えない部分があった人なんです。そういう意味では繋がれたな、っていうのがありました。
1年後の職員室の姿が楽しみ
小林:そうやって繋がったりすると、職場環境としては変化していっていますか?
大野:個人的な肌感覚はあるんですけれども、目に見えて高め合っているとか、そういうのはこれから必要かなと思いますけど、甘中先生どうですか?
甘中:よくよく考えたらまだ始めてから1カ月なんだな、と思って。大野さんが研究主任になったのが今年からで、同じ高学年分科会になったし、この1ヵ月で相当変わったなとは思ってます。子どもへの指導、高学年での指導とか、職員室のことも含めて、1カ月でこれだけ変化があるから、これから1年後どういう風に目に見えた形になってくるかなというのが楽しみでもあります。
小林:最後にメッセージをいただけますか?
大野:対話が大事というか、楽しいと思うんですよ。対話しなきゃって思ってはいなくて。甘中先生とか他の方もですけど、対話しているときが一番楽しくて。スタートは会話だと思うんですけど、そこから自然と授業作りの話とか、お互いが大事にしている教育観とか、あとは持っているスキルとか、出会ったときに、最高じゃん対話って、って感じたんです。単純に楽しく働くとか、幸せに働くためには必要かな、と思うので、そういう感覚で対話に繋がるといいな、と思います。
甘中:対話していくと高学年4人で話し合って、プランを立てる話になんとなくなっちゃうんです。じゃあ高学年の自覚を4月に持たせたいってどうする、っていう話をしているときに、高学年で集会やってみます、みたいな話になって、いいね、じゃあどういう集会にすればいいかね、みたいな感じになっていくんですね。そのときに、例えば集合一つにしても、あえて5年は3分遅らせていくよ、とか、そういう話し合いが出来るんです。何にも話していないとただ単に集合して、普通に始まるんですけど、6年が3分先にいてもらうと、さすが6年だね、という所からスタートすることが出来る。じゃあそうしよう、〇〇先生がこういう話をして、わざとこの先生はちょっと怒るような話をするから、じゃあ僕がちょっと火をつけます、誰かがそれをなだめるというか、頑張ってるよね、という話をするとか。それをやった後の感情を皆さんに味わってほしいな、と思ってます。この対話をして、何かを皆で高学年でやった教育の成果というか、この1ヵ月間、高学年の空気感がもう全然違うんです。6年生は5年生を滅茶苦茶意識しているし、5年生は学級目標に6年生という言葉が勝手に出てくるような感じになっていて。3階フロアに高学年がいるので、やっぱり下の学年のお手本になりたいということで、この1ヵ月間で廊下走ることが激減している感じなんですね。注意するとかではなくて、自覚というか気持ちが高まっていく、それを仕掛けているのが先生たちです。先生たちでやってみてまた振り返って話をするので、この1ヵ月間、こういうことがすごく出来ています。だから、他の先生方も、クラス単体じゃなくて、対話をしながら先生方と共有してやっていった先の成果を知っていくとハマっていくんじゃないかな、僕みたいに、と思っています。たまたま今はすごく同じ方向を向きやすい4人なので、やりやすさはあるんですけど、そうじゃないメンバーでも、やっぱり行けるところはあると思うので、そういうのを味わってほしいな、と思っています。
【インタビューを終えて】
「みんなの職員室」に何度も参加している大野先生にインタビューをお願いしたところ、みん職で対話をしてきたおかげで研究主任を楽しく充実して行えている、ということで二つ返事で応じていただくことが出来ました。
教務主幹の甘中先生と共にお話を聞かせていただきましたが、このお二人が出会ったこと、お互いに高め合って教育に携わっていることが素晴らしいと感銘しました。対話をすることで子どもたちの成長の違いを実感しているからこそ、より高みを目指すという姿勢が生まれていると思います。「みんなの職員室」はそのキッカケの一つになったのかと思いますが、こういう実践が共有されることによって、また新たな対話が溢れる職員室が生まれるキッカケになるのではないかと勇気を頂きました。
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