![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/124978157/rectangle_large_type_2_7a97f579273941da9e5c9702fd7262a2.jpeg?width=1200)
代替リベンジ
なんでもかんでも「リベンジ」に結びつけるのは良くない。リベンジは過去のネガティブなことに対しての「やり返し」であり、後ろ向きの考え方だ。過去ではなく未来を見た方がいい。
そういう健全な発想でいられればいいのだろうが、人間は悔しさをなかなか忘れられないものだ。
いつまでも過去にとらわれるのは良くないかもしれないが、過去にあったネガティブなことを塗りつぶすのではなく、現在の自分が過去の自分を上回ることで、新しい未来に向かう推進力が生まれることはある。
ひとつリベンジを果たしたFCWC準々決勝
12月15日の深夜。メキシコのクラブ・レオンに勝って、2023FIFAクラブワールドカップの準決勝に進出した。
6年前の2017年FCWC準々決勝、アルジャジーラ戦にも出場した選手は西川周作だけで、あとは興梠慎三が先発とベンチの違いはあるがメンバーに入っていたという共通点があるだけ。相手も違えば、開催国も違う。
今回、FCWCへの出発前、西川周作に「2017年のリベンジだね」と声をかけると「そうですね、あの年アルジャジーラに負けたのは悔しかったです」と答えてくれたのは、相手の意図を慮る"周作イズム"がそうしたのだろう。興梠慎三に同じ質問をすると「リベンジ?」と問い返し、「あのときは初戦で負けたじゃないか」と言うと「ああ、まあね」とようやくわかってくれた。
選手にしたら、直接戦った相手にしか「リベンジ」という発想は生まれないのかもしれない。
でも僕たちのような、直接ピッチで戦うわけではなくスタンドで、あるいは(カッコつけて言えば)ペンで闘うしかない者にとって、2017年の準々決勝で敗れたことは忘れられない。試合に負けた悔しさだけでなく、その後の予定や楽しみがすべて変わってしまい、不自由な思いもし、よけいな出費もし、と散々な記憶と共に刻まれているのだ。
アルジャジーラと公式戦で当たることがあれば、間違いなく興梠の脳裏にも「リベンジ」という言葉が浮かんだだろう。だが、その可能性は「万一」という枕詞が必要なくらい低そうだ。だから今回のFCWC準々決勝は、いわば「代替リベンジ」で、海外開催のFCWCで初戦に勝つという課題をしっかり乗り越えたわけだ。リベンジ成功だ。
クラブ・レオンとは何の因縁もなかった。逆に今回の一戦で監督を解任するほどの衝撃を受けたレオンは、「URAWA」へのリベンジを誓ったかもしれない。こちらは2025年のFCWCで対戦する可能性は十分あるのだし。
次は30年前でなく16年前のリベンジ
そんな理屈で言えば、20日の夜明け前に行われる準決勝も、立派な代替リベンジマッチだ。
相手のマンチェスター・シティとは1993年の4月24日、駒場競技場で親善試合を行いレッズが敗れているが、もちろんそのリベンジではなく、2007年のFCWC準決勝、ACミラン戦のリベンジだ。
クラブから、2007年のFCWCについて何か書くように依頼を受けて、「準決勝で日本人のにわかミラニスタがいっぱいいて、腹立たしかったことしか書けないよ」と言ったら「それでいい」ということなので、書かせてもらったが、ミランそのものには何の恨みも残っていない。世界のトップクラスと自分たちの実力と人気がどれくらい離れているか、よくわかった試合だったと思っている。
よくわかって、それでおしまい、では済まない。あのとき、前年にJリーグで優勝し、アジアも獲ってクラブ史上最高の峰に到達したと思っていたが、世界最高峰にはまだ遠いことがわかり、これからは一歩ずつそこに近づく闘いだと胸に刻んだ。
ふたたびめぐってきたFCWC準決勝の機会
だが、そこに近づいているかどうか検証する機会はなかなかやってこなかった。数々のタイトルを手にしたが故なのか、"焦り"がクラブにもサポーターにもあったように思う。かつて学んだはずの「成果を得るためにはプロセスが大事」という教訓を横へ置いたかのような時期が続き、2012年からようやく腰を据えた戦術の浸透と必要な補強という、チーム強化の二本柱を続けたことで、10年ぶりに二度目のFCWC出場というチャンスを得た。しかし、そのときは準決勝への挑戦権を得られなかった。
今回は16年ぶりに欧州王者と公式戦で対戦する貴重な機会だ。僕の記憶ではトレーナーとマネジャーに2007年当時のスタッフはいるが、マチェイ監督を始めとするコーチングスタッフや選手にはいない。酒井宏樹や外国籍選手にミランやマンÇとの対戦経験があっても不思議はないが、FCWCの準決勝という舞台では初めてだ。リベンジではなくチャレンジだろう。
16年越しのリベンジ、実現させて欲しい
だが、10年、20年、30年と応援してきたサポーターにとっては、あの2007年に果たせなかった目標を達成する機会であり、それをリベンジと呼んでもいいはずだ。
今回は、サックスブルーの新しいユニフォームやマフラーを身につけた日本人はスタジアムにほとんどいまい。だが2007年よりも大きなアウェイ感が想像できる。そこで勝利するのは16年前の横浜国際競技場で勝つより、はるかに難しいかもしれない。
それでも勝って欲しい。FCWCに出場したのは、「マンCとやるため」ではなく「勝つため」のはずだし、さらに上がある。
大谷翔平選手の金言を借りるまでもなく、相手にあこがれていては勝てない。
12月20日から「2025年のFCWCでURAWAへのリベンジを果たす」ことがマンCサポーター(「Cityzens」と呼ぶらしい)の目標になる。そんな敵役になれればうれしい。
なんだかんだ言ってもリベンジの心は人を頑張らせる力がある。僕なんかいまだに高校時代に自分を殴った奴へのリベンジを忘れていないし、この仕事を始めてからの悔しい記憶がいろいろなことの推進力になっている。
そうか。30年前の親善試合もリベンジ心をかきたてる材料になるかもしれないな。
とうことで、西野努TDに気持ちを燃やしてもらうために、トップの写真を決めた。でも、見てないか。