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2020年4月17日の『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』

パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く60職種・77人の2020年4月の日記を集めた『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』。
このnoteでは、7/9から7/24まで毎日3名ずつの日記を、「#3ヶ月前のわたしたち」として本書より抜粋します。まだまだ続くコロナとの闘い、ぜひ記憶と照らし合わせてお読みください。

【コロナ年表】四月一七日(金)
安倍首相が、三月中旬の妻・昭恵氏の大分訪問は三密が重なっていないから問題ない、と国会で弁明。また記者会見で布マスクについて問われ、朝日新聞社の通販サイトで発売している泉大津市産のマスクをあげて記者に反論。一四日からはじまった妊婦向けの配布に続き、全世帯への布マスク配布が始まる。配布直後から汚れや髪の毛などの混入がツイートされる。

製紙会社営業職

❖ T・M(仮名)/二八歳/東京都
産休・育休が明け一年ぶりに出社のタイミングで緊急事態宣言が発令。子どもを保育園に預け復職の予定が、在宅勤務(育児込み)に。

四月一七日(金)
 私の復職により異動した先輩が出社してくれた。この先輩が担当していた段ボール会社を後任するため、引継ぎを受ける。産休・育休前も段ボール会社への営業を行っていたが、エリアが全く違う。引継ぎの合間に、一万通近く溜まっていたメールを確認していく。三日前に、珍しくボスから全担当者へメールがあった。私の会社はいわゆる総合製紙メーカーで様々な紙をつくり、売っているが、ポスターやチラシなどの印刷用紙、紙袋などの包装用紙、企業向けのコピー用紙が中心の情報用紙の販売が、都市圏を中心にことごとく落ち込んでいるという。確かに、イベントが中止になれば印刷用紙は必要ない。これは緊急事態宣言以前の問題だが、東京オリンピックの延期により製紙業界で一番打撃を受けているのもこの印刷用紙で、ポスター用の紙をどんどん売りたかったはずだ。そして、外出自粛が進めば包装用紙は必要なくなるし、リモートワークが進めば情報用紙も必要なくなる。だから、このピンチを段ボール原紙と家庭紙で補おう、と。つまり、我が社の社運は、我が段ボール原紙部隊に懸かっているのだから頑張ってくれという内容だった。確かに、段ボールは生活必需品だ。外出自粛が進もうと、スーパーが開いている限り、物流が止まらない限り、物が動けば段ボールも動く。ちなみに、家庭紙とはティッシュやトイレットペーパーのこと。これは三月にニュースでも買い占めが話題になっていた。まだ少し売り上げは好調のようだ。他に、私の会社は新聞用紙、出版用紙もつくっているが、その二種は微減らしい。前任の先輩は、包装用紙に異動したため、少し暇そうに見えた。

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メディアアーティスト

❖ 藤幡正樹/六四歳/アメリカ→東京都
アメリカから帰国し空港でPCR検査を受けるも、体温が低かったためそのまま東京へ帰る。しかし、何か体調がおかしい気が……。

4月17日
 コロナウィルス感染・軽症者の声を集めるウェブサイトについて、複数の友人に相談をし始める。さっそく中山くんがテンプレートを作ってくれた。全体の概要や趣旨を書こうとするが、なんだかやる気が出ないまま一日が過ぎてゆく。
 その時に送った、軽症者の症例:
 最初期にはなんとなく身体が重く感じました、なんか悪い空気とか吸った感じ。その次が寒気でした。寒気がするとお腹の調子も悪くなるんですが、足を温めて寝ると治りました。その間隔が狭くなってきて、飛行機に乗っている時は寒気で汗ばんでました。検疫で体温測ってくれましたが35・5度だったので安心してしまいました。その後、体温を測り続けてみたんですが、寒気がするときに体温が35度台に下がります。普段は36・5ぐらい。これ常識と逆ですよね。軽い目眩や首筋から頭にかけての痛みもありました。自覚してから2週間経ちますが、ほとんど回復しているけど、まだ完全には抜けきれてないです。時々かすかになんか暗いものが戻ってきます。

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振付家

❖ 北村明子/四九歳/東京都⇄長野県
フランスで開催予定だった舞台が急遽キャンセルに。大学准教授として論文を書くも進みが悪く、生身の身体活動の偉大さを思い知る。

4月17日(金)
 身体同士が触れ合うこと、生身の身体の面白さを伝えるダンスの領域では、人と人とが接触することで感染拡大するウィルスの存在は致命的だ。ソーシャルディスタンス、Stay Home という言葉が日に日に日常化する中、SNSではそれができない国や地域の状況も写真で流れてくる。在宅勤務やStay Homeができない人々と医療現場の今についてのニュースは、何の役にも立たずにただ家にいることに罪悪感すら感じるほど厳しい。
 ダンサーたちがZoomでダンスレッスンを提供し始め、世界中の舞台がオンラインで観れる状況で、新しいことへの挑戦や思考が進むこともある。しかし、この見えないものとの共存経験は、今の事態が終息してからも恐怖の後遺症として必ず残る。身体表現を生で伝える、という領域に大きなメスが入ってしまったような感覚……これもダンスの進化につながるのだろうか。
 4月にお会いする予定だったモンゴルの人類学研究者の方から、招聘中のモンゴルとカザフスタンの方々が、コロナ禍で帰国できなくなってしまったと聞く。延びた滞在中、招聘者らと共にレクチャー付きの演奏や、写真と語りのギャラリートークなどをツイキャスでシリーズ化して放送している。今日は「帰れない二人」というタイトルの放送。長年現地に通い、その土地での生活を積み重ねられてきたお話は、身体の深部まで浸透してくる。現地の写真と音楽と共に進められる“バーチャルギャラリートーク”は、激しくもおおらかでもある中央アジアの歴史や現在の生活感を届けてくれる。身体に“移動”するダイナミズムを感じさせてくれるのだ。ご本人は登場しないので語る身体の不在にもかかわらず……。家の中に閉じこもった生活とは真逆の、モンゴルの遊牧生活のお話は夢のような現実逃。

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(すべて『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』より抜粋)



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