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#01 この大陸を空から見るとき [管啓次郎]

 北アメリカ大陸を飛行機から見るのは楽しい。最高の映画だ、まったく飽きない。特におもしろいのは、原初のありのままの土地に人間の活動の痕跡が刻まれていくところ。人は住み、産業をもちこみ、土地を改変し、環境を激変させる。
 典型的には農業か。北アメリカ大陸の内陸部はひどく乾燥した高原が多い。そこを流れるわずかな河川と深い井戸でくみあげる地下水によって、あっけにとられるような大規模農業がいとなまれる。しかしそのすぐ傍らには、ヒトの営みなど意に介さない荒野がいまもひろがる。
 1972年、13歳のときにはじめてアメリカ大陸をまのあたりにし、強い衝撃をうけた。それ以後の自分のさまざまな考えの原点だといえるかもしれない。それ以後おりにふれて考えてきたのは、結局「われわれ人間はこの地球で何をしているのだろう」ということだったのではないか。
 COVID-19による自己幽閉の日々のあと、ひさしぶりに太平洋岸北西部の土地にふれてきた。救われる、救われない。希望だ、絶望だ。これからもヒトがこの地上で生きていこうと思うなら、考えなくてはならない課題はゴロゴロ転がっている。まず、きみの人生にとっての、地学的・地理学的発見を聞かせてくれ。きみが何を考えているかは、土地の経験とけっして切り離せないはずだから。

管啓次郎(すが・けいじろう)
明治大学理工学部教授(批評理論)、理工学研究科「場所、芸術、意識」プログラム担当。詩人、比較文学研究。特に文学・人類学・地理学・生態学などが重なる部分に関心をもつ。近著に『エレメンタル』(左右社)、『本と貝殻』『一週間、その他の小さな旅』(いずれもコトニ社)がある。

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