![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/106460718/rectangle_large_type_2_dc0678abbe6ad6fdbf3b8da134755b00.png?width=1200)
【無料公開】平山亜佐子『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』/「はじめに」&見どころピックアップ!
2023年6月刊行、平山亜佐子『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』より「はじめに」を公開。そして登場するおもな婦人記者や、本書の見どころをピックアップします。
徒花(あだばな)とされ軽視されてきた彼女たちの仕事を時を超えて再評価し、生きざますらも肯定する、唯一無二の近現代ノンフィクション。ぜひお楽しみください!
![](https://assets.st-note.com/img/1685001115495-ztmBLnKG8M.jpg?width=1200)
左右社
はじめに
平山亜佐子『明治大正昭和 化け込み婦人記者』より
号外に関係のない婦人記者 〈松郎〉
これは一九二八(昭和三)年の『川柳雑誌』(川柳雑誌社)に掲載された一句である。
わずか一七文字に婦人記者の置かれた立場が見事に表現されているが、真っ先に感じるのはユーモアよりも悲哀ではないだろうか。
二〇二二年度の新聞・通信社記者数における女性の割合は男性の四分の一弱(「一般社団法人 日本新聞協会」調べ)、今でもマスコミは圧倒的男性社会なのだが、戦前の婦人記者は各社片手で数えられるほど少なかった。
それまで女性の職業といえば女中奉公、子守、農業従事、産婆、髪結いなどが一般的で、明治期に入って工業化が進むと工場労働などの仕事はあったが、教養ある女性は教師か医師くらいしか選択肢がなかった。
ところが明治二〇年代ごろ、婦人記者という新たな職業が登場した。
日露戦争前後からは東京や大阪などの大都市圏の有力新聞に続々採用されていった。
これは女性読者の増加に伴い、女性向け記事が必要となったためだ。
といっても、非常に狭き門ではある。
初期は縁故採用が多く、その場合でも文才や能力によほどの自負が必要で、運よく入れたとしても男性中心の社内で常に好奇の目に晒される。なのに回ってくる仕事といえばアイロンのかけ方、シミの抜き方といった家政記事か、ファッションに関する読み物、著名人のお宅訪問ばかり。
社会部や政治部の男性たちが、世間を揺るがすスクープや他社と競争しながら一刻を争う情報合戦を行う横で、いつ掲載されてもいいようなものを書く日々……。まさに「号外に関係のない」仕事に追いやられているのが婦人記者だった。
ところが、そんな婦人記者の仕事に、邪道ながら風穴を開ける企画が誕生した。
それこそが本書のテーマである「化け込み」である。
『日本国語大辞典』によると、化け込むとは「本来の素性を隠して、すっかり別人のさまを装う。別人になりすます」こと。つまり変装してさまざまな場所に入り込み、内実を記事に書いてすっぱ抜くという手法である。
女性で最初に化け込みを行った「大阪時事新報」の下山京子はこの企画で大当たりし、新聞の売り上げを倍増させ、他紙も揃って追随する事態になる。
空前の化け込みブームがやってきたのだ。
とはいえ、変装ルポ自体は男性記者も行っている。早いところでは明治二〇年代に「日本」桜田文吾、「国民新聞」松原岩五郎、「毎日新聞」横山源之助らが日雇い労働者や香具師、屑屋などに扮して都市下層を探訪している。彼らの関心は下層社会を通して社会の不平等さを問う、いわゆるスラムルポに向けられた。
一方、婦人記者の場合は、女給や奉公人に化けてカフェーや個人の家に入り込むところに特徴があった。
これは婦人記者に問題意識がないというよりも、当時の女性の社会活動が暗黙裏に制限されていたことの証左である。
だがそのおかげで、社会の周縁にいた当時の女性たちの生活や仕事が見えてくる。また、書き手である婦人記者が置かれていた立場や考え方を知ることができる貴重な資料となっている。
何より、端っこに追いやられていた婦人記者が自らの企画で新聞の売り上げを倍増させて他紙にも及ぶブームを作り出すことができたという事実はまったく痛快なことではないか。
本書では、化け込みブームが起きた明治末期から昭和初期にかけて活躍した婦人記者とそれぞれの企画を見ていきながら、彼女たちの本音と葛藤、化け込み企画とは何だったのかを考えていければと考える。また、番外編では化け込みから見えてくる女性の職業を取り上げたい。
なお、「婦人」という表現は現在では死語となっており、女性の記者を「婦人記者」とするのはジェンダー差別と捉える向きもあるかもしれないが、本書では「婦人記者」と称された時代の女性記者を取り上げるという意図からあえて使用する。また、かつては雑誌の編集者も記者と呼ばれていたが、ここではとくに断らない限り新聞記者を指すことも付記しておく。
本書に登場するおもな婦人記者たち
化け込みを生んだ女、下山京子(大阪時事新報)
![](https://assets.st-note.com/img/1685001203558-uEAth0SAd6.png?width=1200)
【エピソード】
・初めての仕事は桂太郎の隠し子調査。
・25歳で自伝が出せるほどの濃密な人生。
【化け込み記事】
「婦人行商日記 中京の家庭」
雑貨の行商人に化け、上流階級の荒んだ生活ぶりを暴露。
「鬼が出るか蛇が出るか 記者探偵 兵庫常盤花壇」
自ら〈忌わしい罪の世界〉と呼ぶ芸妓の世界に潜入。
稀代の問題児、中平文子(中央新聞)
![](https://assets.st-note.com/img/1685011936347-ZadNbwOYAX.png?width=1200)
【エピソード】
・上司の愛人である小料理屋の女将と修羅場を演じる。
・揉め事で頬を銃弾で撃たれるも生還。モンテカルロ事件として話題に。
【化け込み記事】
「化込行脚 ヤトナの秘密と正体」
頻繁に摘発されていた雇仲居(やとな)の事務所に潜入。客として来た男性記者と素性を隠して会話する。
「化込行脚 お目見得廻り」
奇術スター・松旭斎天勝邸など著名人宅に潜入した。
闘う知性、北村兼子(大阪朝日新聞)
![](https://assets.st-note.com/img/1685001558017-H00Q85LhwN.png?width=1200)
【エピソード】
・あまりの優秀さに新聞社3社から引っ張りだこに。
・同僚の男性社員から天声人語欄で中傷される。
【化け込み記事】
「人間市塲に潜行して」
カフェーの女給に化け込むも怪しんだ学生たちに付け回される。
S・O・Sの女、小川好子(読売新聞)
![](https://assets.st-note.com/img/1685001851541-r3Zc6vsgn1.png?width=1200)
【エピソード】
・原稿をデスクのところに持っていくと真っ赤に直され「、」と「。」しか残らないほどだった。
・化け込み記事が好評になり、レヴュー化された。
【化け込み記事】
「婦人記者の変装探偵記 貞操のS・O・S」
ナンパ危険地帯に赴き、女性が遭遇する危険をレポート。
その他
海外の婦人記者ネリー・ブライによる化け込みや、男性記者によるスラムレポなど、日本における婦人記者の化け込み以前の歴史解説も充実。
充実の資料編
番外編 化け込み記事から見る職業図鑑
「化け込み記事」の取材対象に焦点を当て、当時の仕事のありようを伝える番外編。社会の変化や技術の進歩により消えてしまった職業もあれば、今も脈々と続く会社もある。
三味線弾き
電話消毒婦
女中奉公
絵画モデル
百貨店裁縫部
寄席の係員
女優養成所
職業紹介所
ダンサー
百貨店店員
![](https://assets.st-note.com/img/1685012447465-J8ZsEColq4.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1685012563445-ZUvhdc6VdX.jpg?width=1200)
こんなにある化け込み記事
現段階で調べ得た限りの化け込み記事のリスト。その数およそ170以上。
![](https://assets.st-note.com/img/1685012795668-xlmaafNjvC.jpg?width=1200)
発売日は6/12(月)、Amazon予約受付中です!
全国書店およびAmazonで6/12発売です!
どうぞ宜しくお願い致します。