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2020年4月19日の『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』

パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く60職種・77人の2020年4月の日記を集めた『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』。
このnoteでは、7/9から7/24まで毎日3名ずつの日記を、「#3ヶ月前のわたしたち」として本書より抜粋します。まだまだ続くコロナとの闘い、ぜひ記憶と照らし合わせてお読みください。

漫画家

❖ 瀧波ユカリ/四〇歳/北海道
連載誌の休刊やテレビ出演中止など予定の仕事が飛ぶも、非常時こそ頼りになる夫に惚れ直す。小学四年生のはるまき(娘)は休校へ。

4月19日(日)
 政府の動きが鈍すぎて、いろんなことが進まない怒りをずっと持っていたんだけど、そのエネルギーがついに途切れてしまった。不安が増大すると怒りは萎んでしまう。そして不安になると言葉が見つからなくなる。
 朝からどんどん気持ちが暗くなっていきそうだったので、考えてみることにした。何から何まで不安だけど、つきつめて考えていくと自分や家族が感染したらどうしよう、というのが一番の不安だ。外出は極力自粛しているけど、通院や買い物などで感染する可能性もある。恐らく長期化するだろうし、半年や1年のあいだ家から一歩も出ないというのは現実的ではない。100%は防げない。だったら、感染しても軽症ですむための体力づくりをするのはどうだろう? 感染防止対策をしつつ、感染してからのことも考えておけば、少しは不安も薄らぐかもしれない。さっそく体力をつけるために、ストレッチをしてエクササイズ用のフラフープを回した。
 夕方、寝室に見慣れない段ボールを見つける。夫に聞くと「入院した時に必要なもの」だと言う。私が軽症ですむための体力づくりについて考えている間、夫はすでに入院した時のことを考えていたとは。さすが我が夫。先手先手を打ってくる。明日から総理大臣になってくれないかな。
 夜は免疫力を高めるためにお風呂に入り、足をマッサージして、マヌカハニーを入れたハーブティーを飲んだ。
 全国累計の人数がサイトによって違うことがわかった(集計した時間が違うため)。なので今日からはNHK特設サイトの人数を記入します。
 東京101人、北海道27人、うち札幌12人。全国累計10807人。

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作家・広告制作企画者

❖ 浅生鴨/四九歳/東京都
毎朝、早起きの猫社員達に起こされる。小説、広告、日常の会話……言葉に真摯に向き合いながら、“希望のある小説”の種を探す。

四月十九日(日)
 早朝からドコノコの短い文章。朝、猫が起こしに来る時間がどんどん早まっていて、以前は七時ごろだったのに、最近は五時過ぎにニャーニャー鳴いて食事を要求するから辛い。あまりにも眠くてドコノコの作業を終えたあと、しばらくぼうっとしてしまった。ふと気がついたらもう昼になっていて、何やら損した気分。「GINZA」の原稿はゲラが届いたので一カ所だけ赤を入れて戻した。短編のネタとして、謎のウイルスが世界に蔓延する話や、県境が封鎖されてパスポートが必要になる話なんかのメモが手元にあるんだけれど、現実に追いつかれてしまったから、このネタはさすがにもう使えないよなあ。いろいろなところで「今年の春はあれができなかったね、これができなかったね、来年やろうね」なんて言葉が行き来している。僕には余命がそれほど長くないと医者に言われている友人が何人かいるから、どうしても彼らのことを考えてしまう。来年の春という言葉をいったいどんな気持ちで聞いているのだろう。「今は我慢しよう。でも、この自粛期間が終わったらあれをやろうこれをやろう」とつぶやく人たちの、未来の存在を決して疑わない姿をどのように見ているのだろう。そんなことを考えだすと、なんだかそう簡単に「来年は」なんて言葉を口にできなくなる。来年のことよりも、今この瞬間をどれだけ真剣に、大切に、楽しく過ごすか。そのほうが彼らには重要だし、きっとそれは自分の余命を知らないだけで、僕だって同じことなのだと思う。夕飯はサバ。

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専業主婦

❖ 浦井裕美(仮名)/三四歳/大阪府
三歳・一歳の男児二人をワンオペ育児中。医療職で激務の夫の感染を心配しつつ、遊びたい盛りの子供たちの相手でコロナ鬱気味。

4月19日 日曜日
 いつも利用していたネットスーパーにアクセスできない! 逆に日曜日に夫に車を出してもらって買い出しに行くしかなくなった。私1人で店内へ。カゴ満杯に4個分、レジは2回並んで、車に運ぶのも私1人。本当に重くて手がもげそう。買い物の間に子供の相手をしている夫から、子供とテイクアウトしたアイスを楽しそうに食べている写真が送られてきた。

 最近、ご近所の子供たちが互いの家を行き来し始めるようになっている。自宅訪問って良いのかな? 気にしないのかな?と思っていたら、うちにもその時がやってきた! 長男と同じ歳のお友達が我が家に。
 私は開き直って受け入れて遊ばせる。息子がとても嬉しそう。一応、窓は全開にする。
 しかしその子のお母さんがすぐ迎えにきて、「うちは医療従事者で、保菌者である可能性が否定できないから連れて帰ります」と言われた。 
 その子のこれまでの行動からみて、容認しているのだとついつい思っていた。
 いや、ちょっと待って。うちの夫も医療従事者だよ……我が家は保菌者家族だと思われているのか。どちらともとれるし、当然の発言だろう。
 でももう子供も盛り上がり始めてしまっている。今から15分だけのお約束、私はマスクをして、窓をあけます。という事で落ち着いた。はぁ、疲れた。
 会いたい友達とも会えず踏ん張っているのに、なんで素性もわからない近所の人に気を使って密に関わっているんだろ。イライラする。真面目に引きこもろう。

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(すべて『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』より抜粋)


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