忘れられないあの瞬間を月ごとに
春風が舞い込むカフェの窓際で、彼と初めて向かい合ったのは、まるで偶然のような必然だった。彼の名前は彰人(あきと)。彼は、穏やかな表情で私を見つめながら、ゆっくりとした口調で話しかけてきた。
「このカフェ、居心地いいよね。」
私たちはそれぞれにカフェラテを手にし、会話を始めた。時間が経つにつれて、彼とのやり取りはまるで月ごとに色が変わる花のように、少しずつ変化していった。彼と過ごす日々の中で、私は彼の人柄に惹かれ、気づけば彼のことをもっと知りたいと思うようになっていた。
ある日、私たちは突然、「好きだ」という言葉の意味を考えることになった。彼は、ふとした瞬間に見せる真剣な眼差しが好きだと言い、私は彼が見せる無防備な笑顔が好きだと答えた。それからの私たちの関係は、まるでレシートを束ねるように、毎日の小さな思い出を少しずつ重ねていくようなものだった。
でも、彼との思い出を積み重ねるにつれて、私はふとした疑問を感じるようになった。たとえば、楽しかった映画デートの後、彼が何を考えていたのか、何を感じていたのか。その瞬間瞬間が、私の中で曖昧に混ざり合い、まるで一枚の紙に何度も文字を書き重ねるように、ぼやけてしまうのだ。
「ねえ、最近さ、どうして僕たち、こんなに思い出をたくさん作ってるのに、なんだか一緒にいるのが重たく感じるんだろう?」
彼がそう言ったのは、夏の終わりのことだった。私はその言葉に胸が痛み、でも彼が何を言いたいのかすぐに理解できなかった。何が重たく感じるのだろうか?彼はそれから話し続けた。「僕たちの関係って、全部が混ざり合っていて、何が楽しくて、何が大事だったのか、よくわからなくなってるんだ。」
その瞬間、私は仕事での教えを思い出した。レシートを月ごとに整理するように、思い出も整理する必要があるのかもしれない。日々の出来事が重なりすぎて、大切な瞬間を見失っているのだろう。
「彰人、私たちの思い出も月ごとに分けてみるのはどう?」
彼は不思議そうに私を見つめた。「どういうこと?」
「例えば、4月はこのカフェで話したこと、5月は映画デート、6月は...。月ごとに分けて、それぞれの瞬間に何を感じたかを一緒に振り返ってみるの。そうすれば、何が大事で、何が私たちを幸せにしてくれるのか、もっとわかると思う。」
彼はしばらく考え込んでから、ゆっくりと笑った。「面白いアイデアだね。それ、やってみよう。」
それから私たちは、思い出を「月ごと」に整理してみることにした。初めて一緒に行ったレストランの味や、その時に話した夢のこと。忙しい日々の中で、どれほど些細なことが私たちの関係を築いていたのか、少しずつ理解できるようになった。
驚いたことに、整理してみると、まるでレシートの束が軽くなるように、私たちの心も軽くなった。あの時の彼の言葉、そして私の気持ち。それぞれの瞬間を大切に分けていくことで、本当に必要なものが何か、見えてきた気がする。
私たちは、時折カフェで顔を見合わせて、「ああ、あの月はこんな感じだったね」と振り返るようになった。それは新たな思い出を作るためのステップでもあり、同時に私たちの関係をより深く理解するためのものでもあった。
季節はまた巡り、私たちの関係も少しずつ変化していく。それでも、今では、私たちの思い出は混ざり合うことなく、それぞれの色で輝いている。
私たちの愛の物語はまだ続く。そして、それはまるで「レシートを月ごとに分ける」ように、小さな積み重ねの上に成り立っているのだと思う。次の瞬間をどう迎えるのか、どんな新しいページを開くのか、それはこれからの私たち次第だ。