濃密すぎるドライブ(フランス恋物語㉙)
2日連続
5月の初めの土曜日、私は書店員・ジョゼフと初めてのデートをした。
ナンパで知り合った彼からあまり誠実さは感じられなかったが、ワインバーでキスをされてからは、ついラブラブモードで過ごしてしまった。
私の考えでは、うちには上げないでキスだけして、この日限りで終わらせようと思っていた。
しかし彼は、翌日も一緒に出かけようと私を誘った。
「明日、友達の引っ越しで大きな車を借りるんだけど、引っ越し作業の後シャンティイにドライブするから、レイコも一緒に行かない?」
特に断る理由もなかったので、その申し出を受けることにした。
こうして、私たちは思いがけず2日連続会うことになったのである。
アランとギョーム
翌日の日曜日の昼。
ジョゼフは予定通り13時に私のアパルトマン前に迎えに来た。
まずは地下鉄に乗って、今日引っ越しをするという彼の友人・アランのうちに向かう。
昨日会った時は夜で、アルコールも入り特別な雰囲気だったから、あんなにイチャイチャしていたけど、今日ジョゼフはどういう風に接してくるんだろう?
彼の出方を見ていると、私の手を繋いで、昨日と変わらないラブラブモードで来た。
昨日初めてキスしたばかりなのに、私たちは昔からの恋人のように、目を合わせて微笑み合う。
さすがに明るい時間帯に道端でキスはしなかったが、地下鉄のエレベーターなどで二人きりになれば、昨日の続きのようにどちらからともなく唇を重ねた。
ブラッド・ピット似の彼と、とろけるようなキスをする・・・。
一度許された快楽を、私は手放せずにいた。
地下鉄を15分ほど乗ると、アランのアパルトマンに着いた。
「Bonjour!」
その家の主・アランは、優しい笑顔がチャーミングな男性だ。
そこにはもう一人の友人・ギョームも来ていたが、彼は眼鏡をかけていかにも大人しそうな印象を受けた。
3人が会うのは久しぶりらしく、その再会を喜び合っている。
ジョゼフの話では、元々同じ書店員仲間で、二人は転職してそれぞれ別の所で働いているとのことだった。
昨日ジョゼフは29歳と言っていたが、3人とも同年代の20代後半に見えた。
ジョゼフは部屋に入る直前までは私と手を繋いでいたが、みんなの前ではただの友人のような態度に変わった。
「そりゃそうだよね。私たち別に付き合っているわけでもないし。」
トゥール時代の自分とジュンイチくんとのことを思い出し、そういった事情が理解できる私は、特に不満を持つこともなかった。
通されたリビングを見渡すと、うず高く積まれたたくさんの段ボールが目に入る。
今から荷物をみんなで新居に運び出すのかな?と思っていたら、もう運び出しは終わって、後は荷解きをするだけだという。
「せっかく大きな車を借りてきたから、みんなでドライブしたかったんだ。
引っ越しの片付けは自分でするから、早く出かけようよ。」
爽やかな笑顔で、アランが私たちに呼びかけた。
Le fourgon
「ここだよ。さぁ乗って!」
アパルトマンを出ると、先に出ていたアランが入り口前に車を付けて待ってくれていた。
そのワゴン車は引っ越し用に借りただけあり車内スペースが広めで、後ろには荷物を置くための広いスペースが設けられていた。
荷物を運び出した後のその場所は、荷物保護用に毛布が敷かれたままだ。
さて、私たちはどういう配置で乗るんだろう!?
様子を見ていると、ギョームは助手席に、私とジョゼフは荷物スペースに乗り込む・・・という形になるらしい。
私とジョゼフが荷物スペースに乗り込むと、ギョームが後ろのドアを閉めてくれた。
・・・よく考えれば、車の荷物スペースに乗って移動するのは初めてだ。
しばらくして、4人を乗せたワゴン車は走り出した。
スリル
パリからシャンティイの距離は約50kmで、車なら1時間くらいで着くという。
「友達も同乗しているし、もうジョゼフはちょっかいをかけてこないだろう」
・・・そう思っていた私の予想は外れた。
車が走り出すとジョゼフは恋人モードに戻り、私の体を抱き寄せ濃厚なキスを始めた。
私はそっと視線を前方席に移す。
二人は前を向いて、普通に談笑しているのが見えた。
「あの二人もいい大人だし、たとえ気付いたとしてもいちいち私たちのことを騒ぎ立てないだろう」
ジョゼフとのキスが官能的すぎて、私の中の良識やモラルは完全に麻痺していた。
・・・気が付くと、私たちは毛布の上で抱き合っていた。
まるでベッドの上のように絡み合い、熱いキスを繰り返している。
友人たちと同じ車にいながら、見付からないようこっそりイチャイチャする・・・。
このスリルは二人の興奮度をさらに上げ、私たちは貪るようにお互いの唇を求め合った。
・・・私は盛り上がりすぎてキス以上にエスカレートしないか心配だったが、状況が状況だけにジョゼフもそれ以上は進まなかった。
ジョゼフはどうなのか知らないが、このシチュエーションだけで私は十分過ぎるほどの快楽を味わった。
今まで経験したことのない刺激的な体験に、ドライブの1時間がとても短く感じられた・・・。
羞恥
「シャンテイイに着いたよ。」
アランの声で、私たちは睦み合うのをやめた。
お互い乱れた髪などを直し、平静モードに切り替える。
1時間も車内でずっとあんなことをしていたら、さすがに前の二人も気付いているだろう。
・・・さっきまで自分たちのしていた破廉恥な行為が、急に恥ずかしく思えてきた。
窓の外を見ると、車が駐車場に入っているのがわかる。
「せっかく連れてきてもらったんだから、シャンティイ観光楽しまないと。」
さっきまで自分が纏っていたイヤらしい空気を振り払うように、私は窓から空を見つめて大きく深呼吸をした。
シャンティ観光で私はあることに気付き、この後大きく進路変更することになる・・・。