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広がる「地元」

ライフワークと位置付けている地域での文化芸術活動は、今年大きな拡がりを見せました。

まずは、いま暮らす駒込での音楽活動。今年は一年、ご近所のソフィアザールさんの遠藤恵美子さんにお声がけいただき、毎月のマンスリーコンサートを持たせていただきました。

遠藤恵美子さんと「冬の旅・Ⅱ」終演後

来年は制作活動に注力することもあって、すこし開催の頻度は緩やかになりますが、ずっと取り組みたかった歌曲に腰を据えて向かい合い、地元の方々にもお聴きいただけたことは大きな喜びでした。

それから、グラスゴーコンサート。

こちらはこまごめビールプロジェクトがきっかけで生まれたコンサート。地元の仲間との輪が大きく拡がるきっかけとなりました。

都内では他に、成城のアトリエ第Q藝術さんでも朗読企画「私の一冊」で新たな試みに取り組みました。

こちらは俳人の堀田季何先生の句集「人類の午後」に楽曲を付けて、歌唱と朗読を織り交ぜて演奏した〈音読〉です。季何先生はこの「人類の午後」で文化庁の芸術選奨新人賞を受賞されました。

季何先生との出会いもまた駒込でした。地元で拡がる輪に感謝です。

「人類の午後」音読会には多くの俳人仲間がいらしてくださいました。私が俳句を始めたのも、この音読会がきっかけです。


俳句を始めて、邑書林さんの島田牙城さんにお声がけいただき、俳句同人誌「里」に句を出すようになりました。

「里」の十一月号では、句集「広島」の特集が組まれました。原爆投下から十年後に広島で刊行された句集です。

句集「広島」

50歳以下の若い俳人に、句集「広島」が届けられてそれぞれに随想を記すこととなりました。

私は悩んだ末に声楽家として継続的にできることを模索しようと、「人類の午後」と同様に句集「広島」の音読に取り組もうと決めました。

そして、先日初めて広島へ行きました。

「里」の皆様と

広島では牙城さん、黄土眠兎さん、そして広島在住の水口佳子さんをはじめ、多くの俳人仲間とお会いすることができました。

水口さんは、原爆投下当時16歳の女学生だった伊達みえ子さんにお引き合わせくださいました。伊達さんが人前で初めて語ってくださったという体験談、全身で受け止めました。

句集「広島」音読会は、広島・神戸・東京で開催いたします。広島もまた親しい街となりました。公演の詳細はまた、追ってお知らせしてまいります。来年の上半期は、この制作が中心となりそうです。


それから今年は、伊東で日本歌曲のリサイタルを開催させていただきました。

伊東でコンサートシリーズ「音の宝石箱」を毎月開催されておいでの齊藤真知子さんとのご縁で、このような機会に恵まれました。本当にありがとうございます。

実は伊東では、以前に中村直樹先生作曲の新作オペラ『シンデレラは十二時の鐘を聞かない』で、主役のシンデレラ役を演じさせていただきました。その時以来、真知子さんとはご家族ぐるみで交流させていただいております。

このリサイタルでは、伊東の詩人・木下杢太郎の詩による「むかしの仲間」をはじめ、平井康三郎作曲「日本の花」、そしてグラスゴーコンサートでも取り上げた夏目漱石原作、根本卓也さん作曲のモノオペラ「『夢十夜』より〈第一夜〉」を演奏させていただきました。

当日は、地元の伊豆新聞さんも取材にいらしてくださいました。演奏会の最後には、木下杢太郎作詩の西小学校校歌を会場の皆様とご一緒に声を合わせて歌いました。

木下杢太郎の詩を歌う前には、市内の記念館も訪れました。

木下杢太郎の生涯にふれ、伊東の自然に身を浸し、当日は杢太郎の作品の朗読もおこないました。

いつか、杢太郎の詩を歌曲にして、伊東でまた歌わせていただける日が来るようにと願います。


また、つくばの平沢官衙遺跡の秋のミニコンサートでは、筑波山と遺跡の建物の前で、筑波山を詠んだ万葉集の歌を無伴奏で歌わせていただきました。

万葉集の歌には自作の楽曲をつけました。前日に遺跡と筑波山を訪れたところ、東京で作った楽曲はしっくりこなかったので、急いで3曲作り直しました。

また、大正から昭和にかけて流行した新民謡の「筑波山唄」も歌わせていただきました。

当日はお話も交えながら、親しみやすい曲(アメージング・グレイスなど)を導入部に組み込み、徐々に筑波山唄や万葉集の歌に移行していきました。

不思議なことに、朝からずっとお天気だったのに、筑波山唄を歌い始めたら筑波山から風が吹いてきて、雲が湧いてきました。昔の雨乞いをする巫女さんはこんな気持ちだったのかしら……と、どきどきしました。

皆様とてもお喜びくださいました。歌い終わると遺跡の丘いっぱいの方々が手を大きく振って、暖かく見送ってくださいました。あの光景は忘れることができません。

こうして一年の活動を振り返ってみると、自分にとっての「地元」が広がったのを感じています。とてもありがたく、嬉しいことです。

私にとっての「地元」は、大好きな人たちが暮らす街。そして、その風土や文化をもっと知っていきたい街のように感じています。

地域創生について考えてばかりいた頃よりも、実際に動いてみて見えてくるものは遥かに大きくて面白いものでした。そして、こういう活動をこそ、日本中で広げていけたらいいなと思うようになりました。

来年は「地元」、そして大好きな人たちの輪が広がるといいなと願います。


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