人生の秋休み
背伸びしていたアイコンの写真を見るたびに疲れるようになってしまって、新しいアイコンを作りました。すべてのSNSや、メールのアイコンも変更して、ほうっとひと息つくことができました。
これまでの十数年、「オペラ歌手らしくあらねばならない」という気持ちのほうが先走りしてきたように思います。SNSのセルフブランディングとか、広報への姿勢とか、あれこれ勉強もしてきました。
顔を出して、笑顔で、堂々と。そうすれば人は惹き寄せられてきます。それを神話のように信じ込んでいました。そういう投稿をしなければ自分にはなにも価値がないのだとも信じ込み、本当の自分とはずいぶん違うのだけどなあ……と思いながらも、そういうスタイルで長年SNSの投稿を続けてきました。そのうちに、そういう自分こそが本当の自分だと思い込むようになっていました。
WEB上では当然、顔出しも然るべきと考えていました。オペラ歌手は、自分自身が楽器であり宣材であるので、それは自然の流れでした。みんなこういう投稿をしているから、わたしもそうしよう。そんな右へ倣え精神で続けてきました。
ずっと、SNSは自分の居場所だとも思ってきました。実際、SNSでの広報の仕事をしていたこともあります。世の中の情報へのアンテナの感度を常に鋭くしておかないと、不安で仕方がありませんでした。
けれど最近は、そうしたやり方に疲れてしまいました。そして、自分の顔や存在を全面に出していくことに違和感を覚えるようになりました。すこし、速度を落として、緩やかに人生を進みたくなりました。カーテンの陰からそっと、穏やかに現実を見つめたくなりました。
ここでいう「現実」というのは、オフラインの現実のこと。せっかちに流れ行くタイムラインは自分の現実ではなく、自分の作り出した幻影だということに、ようやく気づきつつあります。
いま、自分の中にあった余分なものがどんどん剥がれ落ちていくのを感じています。要らないプライド、過去への執着。要らないものがぽろぽろ剥がれていって、むきたてゆで卵のようなぷるんとした柔らかい心を取り戻しつつあります。
ずっと、自分の外見ではなく、内面を見つめてほしかった。そう願い続けていたことにも、ようやく気が付きました。これからの人生は、より深く内面に向き合っていきたいと願います。これまで嵐の海を行く航海のような内面の旅でしたが、せめてここからは穏やかに。そう願ってやみません。
しばらくは公募のことも、未来のことも横に置いておきます。まずは、自分の心を回復させていく期間にあてていきたいです。自分のための創作も楽しんでいこうと思います。
これまで長いあいだ、好きな音楽を仕事にしてきましたが、無意識のうちにそれと引き換えにしていたものも大きかったことに気がつきました。わたしは音楽の技術面ではいくらか恵まれていたのかもしれませんが、それをビジネスとして発展させていく才能は乏しかったようです。そうしたことを総合的に見て、仕事にしていけるかどうかの適性を判断したほうがよかったのかもしれません。過去を悔やんでも仕方がありませんが、「好きを仕事にする」という言葉は、様々な方面から検討しないといけないとも感じています。
いまは正直、歌うことを考えるとつらくなることもあります。けれど、演奏会の期日は決まっています。音楽へのよろこびを、もう一度取り戻したい。でも、いまは考えることもつらい。
だから、いまは考えないでいることを自分に許してあげました。そのうち、歌いたくなったら、また歌いましょう。それまでは、ほっときましょう。そんなふうに思ったら、すこし楽になりました。
きっと、「歌うこと=世間の評価を得なければならないこと」だったから、自分の中でのハードルも上がっているのでしょう。これまでは常に、自分にダメ出しばかりしてきました。もちろん、それが向上心につながることもありましたが、なにごとも過ぎたるは及ばざるがごとし。事実、こうして心身のバランスを崩してしまいました。
noteもしばらく、自分自身のリハビリのために書いていこうと思います。まとまりもなく読みづらいかもしれませんが、ゆっくりとお見守りいただければ幸いです。
いまは人生の秋休み。しばらく、のんびりを享受することを自分に許してあげようと思います。好きな「天然生活」を読んだり、好きなカフェで手帳に耽溺する時間をつくってあげたり、布団でごろごろしたり、お部屋の断捨離をしたりしながら過ごします。
のんびりするぞ!