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小説「スープ食堂パーチェの冒険」プロローグ(全4話)


 悲しくなったときは、いつもスープをつくってきた。

 かぼちゃのポタージュ、ミネストローネ、はまぐりのクラムチャウダー。季節ごとの具材にあわせて、仕込みをして、手を動かし続ける。

 私はそんなふうにして、人生の嵐を乗り越えてきた。

 野菜を細かく、細かく刻む。バターで炒める。あくを取りながら、弱火で煮込む。牛乳を加える。

 そうして、出来上がったスープをひとり、はふはふ言いながら食べる。冬の真夜中のこともあれば、秋の早朝のこともある。

 私はそんなふうにして、人生の嵐を乗り越えてきた。


 そんな私に、まさか。スープ食堂を開いてほしいという話が舞い込むなんて。


 驚き、目を丸くする私のふくらはぎに、飼い猫のトムは頭を擦りつける。

「嬢ちゃん、やってごらんよ。心が動き始めているんだろう」

 トムは私の心を見透かしたように、ニャーンと鳴く。

 私は逡巡しながら、高宮さんからのメッセージを眺め続けた。





(つづく)




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