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モノオペラ「夜の底で」台本

登場人物…ひとりの、名前を持たない〈女〉。人生の悲嘆にくれている。

編成…ソプラノ、ヴァイオリン、ピアノ



(ヴァイオリンの高い音色。ピアノ椅子に腰掛けた〈女〉、ぽつりぽつりと歌い始める)

〈女〉:

夜の底で、私は

夜の底で、私は

夜の底で、私は──

(ピアノ、アルペジオ。しばらくヴァイオリンとの二重奏。やがて、ヴァイオリンが時計の速度でAの音を奏で始める)

〈女〉:

時計の秒針が鋭く響く

まるで私を切り刻むように

まるで私をついばむように

小鳥のように夜が私をついばみ蝕む

ナイフのように夜が私を切り刻む

そうして私は

夜の底で膝を抱えるばかり

(ヴァイオリン、呻きのように「夜の底」のテーマを奏でる。〈女〉、徐々にピアノから離れ、ヴァイオリンと対話するように歌う)

〈女〉:

自分を許せないのはなぜ

自分を慈しむことが出来ないのはなぜ

布団の中でそんな問いを繰り返す

わからない

わからないの

自分でもなぜだかわからない

(〈女〉、ピアノの椅子に腰掛ける。不協和音。ヴァイオリンの慟哭のようなソロ。そののち調が変わり、静かにピアノが奏でられ始める)

〈女〉:

指が届かなかった世界

そこにいられなかったこと

ずっと責め続けてきた

憧れと劣等感のマーブル模様で

いつも心はどろどろしてた

(ヴァイオリン、うっすらと「夜の底」のテーマを奏でる。徐々に曲調は変わっていく)

〈女〉:

抜け出したい

このマーブルの渦の中から

夜の底から抜け出したい

まったく違う選択肢

目の前にある選択肢

選ぶならいま

いまこの時

扉を開けるなら

いまこの時

(〈女〉の最後のフレーズを、ヴァイオリン高らかに繰り返す。ヴァイオリンのカデンツァ。調が変わり、「夜明け」のテーマをピアノが奏で始める)

〈女〉:

気がつくと鳥の声

カーテンからは仄かな光

夢を見ていたのかしら

(〈女〉、ピアノから離れ、舞台正面に向かう。窓を開けるマイム。その間、ヴァイオリンは静かに「夜明け」のテーマを奏で続ける)

〈女〉:

ベッドから起き上がり

カーテンを開き窓をあけると

朝の光に包まれた

(ヴァイオリン、カデンツァ)

〈女〉:

一日が始まる

今日も一日が始まる

何かを始められる気がする

(〈女〉、歌いながら静かにピアノへ向かう)

〈女〉:

ひんやりした朝の空気

動き始めた一日の気配の中

私は大きな欠伸をした

(ヴァイオリン、「夜明け」のテーマ再び。ピアノが重なり、静かに消えていく)

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