漫画を読むときの思考について セリフ編
【3行でわかる記事の内容】
・漫画のセリフは読者の作品に対する理解を大きく助ける
・漫画を読み慣れている人は必要最小限のセリフでおおよそ理解できる(≒キャラクターの表情や動き、背景などから読み取る)
・漫画のセリフは少ないほうが読者にとって自由である(が、自由というのは難しい)
私は漫画に対する考え方がひん曲がっているのでよくTwitterでゴタクを並べて流行り物叩きをしている。今日もとある漫画を読んでから以下のように雑なセリフを吐いた。
これに対して知人(鍵垢)(漫画オタクではない)から、
「進撃の巨人はどちらですか」という問いのリプライが届いた。
この質問に対して2分くらい考えた結果、ひとまず直感のままに「やっぱり後者じゃないですかね」という答えを返した。
しかしここで考えなくてはいけなくなった。
自分が上記のツイートをしたのは(残念ながら)だいぶ売れていない作品を読んだ直後だった――要するに、
「売れてない漫画を読むのが通!売れてる漫画を読む奴はバカ!」
このように解釈されても仕方のない発言であるということだ。
普段からこんな感じのことばっかり発言しているので、おそらく一部のフォロワーから猛烈に疎まれている可能性がある、いやその可能性は高いと思ったので、たまには自分が何を考えながら漫画を読んでいるのか、ということをある程度しっかりした言葉でまとめようと思い筆を執った。
今後このシリーズが続くほど自分が執筆意欲に優れているとは思えないが、その時が来たときのために「セリフ編」と銘打ってみた。
本題に入る。
一部の例外を除き、日本で(特に商業ベースで)発行される漫画のほとんど全てにはキャラクター、あるいは語り手の発するセリフが表現されている。物理的な音声として描かれているものはもちろん、モノローグから状況説明に至るまでの文字情報のことを、ここでは「セリフ」として扱う。
セリフが読者の作品理解に与える効果は非常に大きい。
例えば笑っているキャラクターが描かれているとして、その脇に「うれしい!」とか「楽しい!」という風なモノローグを与えると、そのキャラクターの真の感情が明確になる。
これを逆手に取ると、いくら笑った顔が描かれていようが、フキダシ内のセリフが「殺す!!!!」であったならば、そのキャラクターから他のキャラクターに対しての《明確な》殺意を表すか、とてつもない誤植のどちらかになる。
どちらにしても、笑顔という描写のみでは伝わり切らないキャラクターの感情は、普段から漫画を読んでいようがそうでなかろうが、セリフによって読者に間違いなく読者に伝わる。
一方、漫画…いや漫画に限らず、普段からドラマやアニメなどのビジュアルを用いたフィクションに触れている人はどうだろう?
例えば……目の前で悪役に両親を殺された主人公がいて、手のひらに爪が刺さり流血するほど強く拳を握シーンがあったとする。その後描かれる悲しいような、あるいは決意に満ちたような両目が映し出されたカット(コマ)に「絶対に許さない!」というセリフがあった場合、それはスマートな描写と言えるだろうか?
おそらく視聴者や読者のうちには「なんかダサいなあ」という違和感を覚える人も少なくないだろう。「両親が殺される」という出来事が大きく描かれる作品のほとんどは復讐劇なので、絶対に許さないのは言われなくてもわかっているのだ。
逆にこれがコメディ作品で、冷蔵庫に入っていた自分のプリンを妹に食べられてしまった後ならば、それはバカでかいフォントで
「絶対許さん」
と明記して然るべきである。
余談だが、漫画編集者であった頃、よく作家さんに「セリフに逃げないでください」という事を話していた。例えば成績優秀な学生キャラクターを紹介するなら「運動神経抜群!偏差値80!」と書くのではなく、走ったり跳んだりしている姿やマルだらけの答案用紙を描いて、その脇に「彼は優秀だ」と短くポンと置いた方が“漫画の表現として”良い、という風なことだ。
(念の為書いておくが、セリフで表現することは絶対悪というわけではなく、私が個人的に「いい漫画だな」と感じるポイントの一つが《絵で表現すること》であるというだけのことだ)
冒頭で「漫画を読み慣れている人」という曖昧な表現をしたが、この際失礼や傲慢を承知の上ではっきり言ってしまうと、これは「発行部数ウン千万のメガヒット作品から発行部数2000~5000部レベルの全ッ然売れてない作品まで日頃からチェックし、人の感想を踏まえつつ自分の意志でもって買って読む人」のことを指している。「漫画バカ」とも言う。
コミックアプリのランキングトップ何本かを流し読みしている人も漫画を読み慣れていることには間違いないが、「プロ野球ファン」と「プロ野球+MLB+高校~社会人野球全部のファン」くらい違う…といえばわかりやすいだろう(ホントか?)。
20年前に比べて更に娯楽が発達した2020年においては残念ながら上記の定義で言うところの「漫画を読み慣れている人」は少なくなってしまった。漫画は増えすぎてしまったからだ。
となると当然、「理解しやすい」作品は読みやすく、人気が出る傾向になる。作品はできる限り多くの読者に読まれることが一番なので、そうあることは正しい。
しかし、漫画家の多くは“漫画を読み慣れている”。
可能な限り最小限のセリフで、キャラクターの表情や動き、そしてその背景で心理描写や状況を描こうと試みる――これはすべての読者にとって親切な作品とは言えないし、正直言ってウン千万のヒットを見込める作品には成り得ない…のだが、多少ながら“漫画を読み慣れている”私からすると、無駄なセリフを削ぎ落とした作品は、読者にとって自由だ。セリフのないキャラクターの思考を読み取ることができる。少ないセリフの行間を想像で補完できる。一コマで完了される場面移動の過程を空想することができる。シンプルイズベストである。売り物としては……ベストではない(その上で面白くなかった作品もある)。
そんなシンプルな作品のどこに魅力が生まれるかというと……結局のところ、セリフに落ち着くのではないかと思う。「海賊王におれはなる!」というルフィというキャラクターの一大テーマを表すセリフから、戦争の愉しさを狂気をもって表した大佐の長台詞に至るまで、「あのシーンが好き」と謳われる作品は必ずと言ってよいほどの名台詞が登場する(無いセリフも立派な台詞であるが、魅せるためのシーンでセリフを使わないということは結構な勇気が必要なのであまり使われない気がする)。
漫画を褒めるときに「衝撃的だった」という言葉をたまに使うのだけれど、「そのセリフ」に至るまでの過程がギュッと詰まった《溜め》のある作品はインパクトが強くなるので、読んでいて気持ちがいい。
全然まとまってないけど、これでおわります。
以下チラ裏
……以上をつらつら思うままに書いてみたけれど、自分の考えていることは半分も伝わっていない気がする。
そもそも人の好みなんてバラバラに決まっているし、自分にも好きな作品があれば面白くなかった作品もあるので楽しみ方なんて人それぞれだと思うけど、最近は…なんて言えばいいのか、「作品を楽しむことを楽しんでる」人だらけな感じがして辟易している、というのが本音。「ライブのあとのビールを楽しみにする」みたいな。ブーメランだこれ。マジメにに考えすぎなのかなあ。やっぱり漫画の総合サブスク必要だよ、各社月3000円~5000円くらいまでなら余裕で出す…けど普通に考えて破綻しそうやね。
別に名台詞がない漫画が面白くないとは全く思ってないし、セリフは短けりゃいいってもんでもないし…でも冗長すぎてテンポが悪いと思う作品は確かにある。多くの漫画においてテンポはかなり優先順位が高い。
ただ自分は「セリフのないキャラクターが表情で語る」作品は面白いと感じる傾向がある。最近だと『ブルーピリオド』がその最たる例だった。顔で読ませる漫画は上手い(顔ばっかりの会話劇になっている漫画を「顔漫画」といったりするけど、それとは全く別物)。
本文中てチラッと触れた背景の件、巧拙はともかく背景がある程度描ける人はちゃんと使えれば相当な武器になる……という話をしたいけど、それはまたどこかの機会で書いたり話したりできればと思います。
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