なぜリードユーザーを「認定」にする必要があるのか
本日代表を務めるCollableよりインクルーシブデザイン事業に関するプレスリリースを出させていただきました。
この2年間は障害学生のライフキャリア学習支援の取り組みが目立っていたのですが、インクルーシブデザインの取り組みも、実はますますと広がってきています。Collableは10期目ですが、山田個人は大学院生のときから実践研究の形でとりくみ、インクルーシブデザイン歴としては10年以上たちました。
10年前は東大京大周りで話題にしている人たちがいるらしい、くらいの認知度だったように思いますが、今となってはあらゆる企業がインクルーシブデザインの実践に取り組むようになりました。
障害領域で新しい提案をするときは10年かかる、と、当事者家族的経験から感じて起業したけれど、本当に10年かかったわ…と感じますね。ようやく私たちもインクルーシブデザインそのものの説明が簡素で済むようになりました。
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インクルーシブデザインという少し変わったデザインを実践するためには2つのことが最低限必要となります。
テーマに基づきワークショップのような共創的な場を用意すること。
気づきをリードする存在となる「リードユーザー」に協力していただくこと。
リードユーザーとはかんたんに説明すると、インクルーシブデザインにおいて、障害のある人など一見そのデザインテーマからかけ離れていそうな存在の方を指すのですが、お役目として「気づきをリードしてくれる存在」としてプロジェクトに関与してもらう立場の人を指します。場に問いかけ、メンバーの視点を揺さぶってくれる重要な存在です。
1だけだと創発型のワークショップをするだけですし、2だけだと障害当事者等にヒアリング等すればいいだけの話。この2つの条件があってこそインクルーシブデザインの本領発揮となります。
上記2つのことのうち、「リードユーザー」を発掘することが非常に難しいのが、インクルーシブデザイン普及の1つの壁です。
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よくある勘違いとしてあるのは、「来てほしい障害当事者であれば誰でもリードユーザーになり得る」という考え方です。非常に安易な考え方です。
たんぽぽの家が2009年に発行している『インクルーシブデザインワークショップ:障害のある人とともに学ぶユーザーリテラシー』という書籍のなかで、ジュリア・カセム先生はリードユーザーの資質として以下のように述べています。
また、ファシリテーターへの調査でも、リードユーザーに求めることとして
積極的であること
自分の意見を述べられること
という観点があげられています。
これらはつまり障害について代弁するのではなく、目の前の事象に対して「私」がどう感じ考えたのかを伝え、場の目的のために貢献する姿勢があること、がリードユーザーの条件だと言えるのではないでしょうか。
こうした人は一般企業等で日中は活発に働いている人に多いのですが、企業がインクルーシブデザインに取り組もうとするならば、どうしてもプロジェクト自体は平日に動くことが多く、リードユーザーのコーディネートだけで実はかなりの労力がかかります。(こういうところを想像していただけず、「誰かいい人いませんか?」と雑に依頼されることがどれだけ大変か理解してほしい…👼)
仮にも平日にインクルーシブデザインに取り組むにあたって、条件として合うリードユーザー役の方を連れてくるとするならば、有給休暇をとって来ていただく、ということになります。ということは、有給をとっていただいた相応の謝礼のお支払いをリードユーザーの方に対してすべきだと考えています。
それは同時に、リードユーザー役のみなさんにも誇りをもってそのプロジェクトのリードユーザーとしての「お仕事」「お役目」を全うしてほしいとも思っています。リードユーザーがいないとインクルーシブデザインは成り立たないですが、お役目を与えられたのであれば、プロジェクトの理念をメンバーと共有し、一生懸命仕事として取り組んでほしい。
この取組でリードユーザーという存在の社会価値を上げていくことをめざし、インクルーシブデザインのさらなる普及を目指します。
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これまでリードユーザー役をお願いする方は、1度場の機会をご一緒いただき、インクルーシブデザインと相性が良いなという方に次の機会もお声がけさせていただいて…という、個人の属人的な関係性の中で発掘しお願いすることが多々ありました。
※ちなみに地方ではクライアントの関係性から探していただいたり、こどもたちにお願いする場合は特別支援学校経由で募集したりする場合もあります。
ただ、こうした動きは「リードユーザーにふさわしい人」を判断する視点も暗黙知になっている状況であると同時に、属人的な関わりでパートナーシップを継続させることは、これからインクルーシブデザインの価値を広げる上で、限界があると感じました。
もちろん、一般企業で働いていない人はふさわしくないのか、という意味ではありません。現代は障害の有無に関わらず働き方が多様になっています。企業で働かないフリーランスの方などでも、私たちがアプローチできていない未来のパートナーもいるかもしれない。だからこそ、今回の制度では、Collableとして大事にしたいリードユーザーの考え方を実践してくれるパートナーをあちこちから発掘したい。Collableとして大事にしてきたそのスキルセットを多くの人に伝承できるようにしたい。そして、あちこちのプロジェクトでリードユーザーとして活躍してほしいと思っています。
同時にこれは私たちが暗黙知としていた「リードユーザー像」を言語化していくよというメッセージでもあります。リードユーザーになるためのことを学んでもらうわけなので、私たちもリードユーザーとはどういうお役目の人たちなのか、どんなスキルセット、姿勢が求められているのかを明らかにする、そういう目的の取り組みでもあります。
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そして今回このお役目を「お仕事」として、プロ意識をもってほしい背景には、この「リードユーザー」という立場をより汎用的な存在にしていきたいと考えています。
例えば企業の障害者雇用で雇用された当事者の方が、ただお仕事を与えられる存在ではなく、D&I 目線の組織開発をする上でのリードユーザーにだってなり得るはず。
そういう意味で、プレスリリースにも書かせていただいたとおり「副業の職種」として誇れるものとしてリードユーザーというお役目を世に広めていきたいのです。
今回の認定リードユーザー制度の仕組みはシンプルで、Collableの認定講座を受けていただき、条件をクリアしていただければ、今後Collableのプロジェクトに欠かせないリードユーザーパートナーとして、お力になっていただく予定です。もちろん、他社からのご協力依頼もあれば、条件さえ合えばお応えさせていただくことも考えています。
まずは視覚障害のある方をお招きしていく流れで、徐々に他の障害や、その他の属性等に広げていくことを視野に準備を進めています。
10年以上取り組んできた中で感じるのは、インクルーシブデザインの場は、単なる商品開発のための機会以上に、その場に関与する人たちすべて(開発者やデザイナー、そして障害等の当事者の方に担っていただくことの多いリードユーザー)が、学習し変容していくことこそ価値だなと感じています。
場に問いかけをするリードユーザーがいて、それによって視点が揺さぶられ、「気づき」になる。その気付きが外化されてまた、リードユーザー自身も気づく。そうした相互作用の中できづけば多様な視点を得ることはもちろん、相互理解学習が深まっていく。
これは商品開発やサービス開発の場以上に、人材・組織開発の取り組みとしても可能性を感じています。でも学びがあって当然なんです。だってワークショップやってるんだから。
ゆくゆくはすべての企業で、障害当事者が雇用されていて、彼ら彼女らが会社のリードユーザーという立場で組織を引っ張っていく。そんな未来を想像して、まずは取り組み始めていきます。
お問い合わせは下記よりお寄せください。また、インクルーシブデザインのプロジェクト自体は日々お受けしていますので、そうしたご相談もぜひお寄せいただければと思います。