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インクルーシブデザインと高齢化社会の関係

インクルーシブデザインについてレビューをしていくと、「イギリスが発祥」という話はよく言われます。

そしてインクルーシブデザインといえば障害のある人と「ともに」あるデザインというイメージも多くの人が持っています。

しかし、実はこのインクルーシブデザインの背景には、高齢化社会の問題が発端としてあることを今日は整理したいと思います。

イギリスの高齢化に関する問題とDesignAge

インクルーシブデザインの書籍の中でも非常に貴重な資料が、財団法人たんぽぽの家が2006年に発行した『インクルーシブデザインハンドブック』です。

実はこのハンドブックには、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでインクルーシブデザインの研究に取り組んでいた方々が寄稿されています。Amazonで買えないけど、ぜひ上記のサイトから買ってみてほしいです。

その中で、インクルーシブデザインについての明白な利点が3つ挙げられているのですが、そのうちの1つに「ビジネスへの好影響」として、ある意味唐突に高齢者の話が出てきます。

英国では、高齢者が社会の財産の60%を保有しているにもかかわらず、高齢者をターゲットとした製品やサービスの広告は全体の5%を占めるにすぎない。英国における障害のある人たちの購買力は、控えめに見ても400〜500億ポンド(約8兆〜10兆円)と推定されている。この2つのグループの人々を対象にするだけでも、かなりのビジネスチャンスになる。(p4より引用)

障害者マーケットについても言及されていますが、必ずと行っていいほど、「高齢者と障害者」の話がセットに出てきます。

そして、実際にイギリスでインクルーシブデザインが立ち上がっていくにあたり、初期の象徴的な研究プロジェクトが「デザインエイジ(DesignAge)」です。

1991年に、ロジャー・コールマン(Roger Coleman)先生が主導した研究プロジェクトで、ヘレンハムリン財団と共同で先進国の高齢化デザインに対するアクションリサーチをすることを目的に立ち上がったものです。このプロジェクトが、後にロイヤル・カレッジ・オブ・アートをインクルーシブデザインの拠点とさせていくことになります。

このプロジェクトが優れているのは、高齢化の問題を、当事者だけで保有せずに、若いデザイナーを巻き込む問題設定にありました。

高齢者向けのデザインは高齢者のためだけのものでなく、将来の自分を想像させ、結果的に将来的な自分のためにもなり、結果デザイナーの自己利益の問題として再定義させることで、若いデザイナーを巻き込んでいったそうです。

日本の参考事例:BABA lab

先のイギリスの問題提起は、日本にも同様に存在する課題であり、様々な領域で議論をされていますが、実際のところは高齢者がデザインに参画することも、そのデザインに大々的にアプローチすることもあまり耳にしませんよね。

実際にインクルーシブデザインをやりたい!というご相談も多くいただきますが、実は元気な高齢者もたくさんいて、そういう人たちを巻き込める領域はたくさんあるのになぁ、ということを感じています。

日本で似たような事例といえば、BABA lab(ババラボ)さんではないでしょうか。勝手に紹介しちゃいます。

しかも素敵なのは、プロダクトが高齢者に向けているだけでなく、高齢者自身のニーズを生かして、子供向けのプロダクトに反映させているところがすごい発想だなと思います。

例えばこのほほほ ほにゅうびん。

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おばあちゃんが孫にミルクをあげるという状況による課題から始まっているそうなんです。おばあちゃんがほ乳瓶のメモリを読み間違えていたことで、とても薄いミルクを孫にあげていて、その事実を後に知ったおばあちゃんが「ほ乳瓶のメモリが細かくてとても見づらかった」と申し訳なさそうに話したところからスタートしています。

哺乳瓶をストレートにリデザインしようものなら、お母さんにヒアリングをするものなのだと思うのですが、これって「哺乳瓶のデザイン」を考える上で想定されないユーザーが「おじいちゃん・おばあちゃん」なんです。

だからこそ、おじいちゃん・おばあちゃん目線で哺乳瓶の課題を見出し、プロダクトにできた優れた事例なんですよね。

ちなみにリサーチの経緯も非常に丁寧です…

かつ、おじいちゃん・おばあちゃんが孫に貢献するという文脈でデザインがなされているのも素敵で、高齢者の人だけが困っていることだけでなく、赤ちゃんにも良い効果がある。1つのデザインでその周りの人にも幸せが訪れる、という流れが素敵だなと思います。

デザイン性にすぐれながらも、巻き込み方が上手な事例はほかに聞かない気もします。

高齢者巻き込みプロジェクトは可能性がありすぎる

イギリスの事例の話にもどると、DesignAgeによって、イギリスは高齢者のためのデザイネットワークがその後できたり、産学共同のプログラムも立ち上がったりと、高齢者✕デザインによって、多様性を活かす社会のデザインを進めていくブーストを作っている印象があります。

日本は地球上でこれだけ課題先進国で、特に高齢化の問題については深刻さがあるにも関わらず、そこを活かす視点がまだまだつくりきれてないなと思います。

人生100年時代で、ますます年齢関係なく活躍できる機会を作るということを考えて、企業内で長く働いてもらう、みたいな視点ばかりが議論されている気がします。

でも、例えばこういう事例を参考に、地域にデザイン拠点ができていくといいのでは、なんて思います。むしろ社協とかが、企業と組んでやる意義がある視点のように思います。

これからますます自分の得意分野をもった、スペシャリストな高齢者が増えていくなかで、まだまだ力のあり余った元気な方々がどんどん増えていくはずで、その人達の行き場がない未来がやってくる。

かといって、その人の強みが生かされないまま、安月給で働いてもらう人員みたいに会社に迎え入れるのも違うよな、と思ったときに、地域でこういう高齢者も巻き込むデザイン拠点事例をつくるのはありなのでは、なんて思ったりしています。(この辺は最近大企業さんが多くやっているリビングラボとかが近いんですかね?)

インクルーシブデザイン興味あるな、とか、マイノリティを生かした事例を生み出したいなとか思ったら、まず地域のおじいちゃんおばあちゃんをどう巻き込んだら面白いか?という発想から始めてもよいのではと思います。

最後に、BABA labさんは直接知らないので、ぜひいろいろ教えてもらいたいですし、日本もBABA labさん以外によい事例はあるのかな。あったら教えてほしいです!

以上、インクルーシブデザインレビューでした。

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山田小百合
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