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わが希望のサンバ

2017年11月21日しるす

父がよく弾き語りをしていたアルゼンチンの歌の題名(原題はZamba de mi esperanza)。父は学生時代に中南米音楽サークルに入っていて、私が幼い頃も仲間で集まったり一人で練習していた。幼い私はずっと、中南米の民族音楽が大嫌いだった。ただ2DKの団地住まいだったので父の生演奏から逃れられる場所もなく、自然にいろいろな歌を覚えていた。

先日、父の学生時代の友人が、実家宛てに父の練習音源を送ってきた。ライブ前にテープレコーダーに録って送ったデモを、CDに焼いてくれたらしい。母が、一人で聴きたくない(てかCDってどうやって聴くの)と言ったので、一緒にPCで聴いた。母はすぐに涙をこぼしたが、思ったよりも父の歌声が若く、また幼い私が茶々を入れる声も入っていて、私には微笑ましいものだった。

遠い国の民族音楽であっても、今はぐぐれば何でもわかる。サンバと言えばブラジルをイメージするが、アルゼンチンのサンバはWikipediaによればブラジルのカーニバルで踊るサンバとは全然違うそうだ。インターネットでは他にも、歌詞もコード進行も、先人の音源や動画も見られる。歌詞はスペイン語だけど、自動翻訳でおおかたの意味まで瞬時にわかる。でも、父の学生時代や、私の幼い頃はそうではなく、この音楽はもっと謎の音楽だったはずだ。父はどうしてこんな独特の'間'を必要とする音楽を、地球の裏側の言語で演奏しようと思ったのか?幼い私はこの音楽のなにが嫌いだったのか、土臭いリズムか、それとも父が意味のわからない言語で朗々と歌うのが嫌だったのか?

今はわからない。けれど、嫌いすぎて一度も歌ったことがない歌でも、歌詞を見れば口ずさめることに、大人になった私は驚き喜んだ。ことほどさように歌うことは楽しい。父が恥ずかしげもなく好きな音楽をやっていたおかげで、幼い私も音楽を始めることをためらわなかったし、成長するにつれ、父と音楽についていろんな話をした。音楽をやっていたから出会えた友達がたくさんいる。音楽はどんなジャンルでも楽しみ方があり、むかし嫌いだった歌も今はその特徴を理解して口ずさむことができる。いろんな音楽があると教えてくれた人たちがいるから、アルゼンチンのサンバやクエカやチャカレーラが、ただの8分の6拍子じゃないこともわかる。そしてこれからも新しい歌と出会って、古い家族や友達とも出会い直すことができる。こんな希望がほかにあるだろうか。

2018年8月17日追記: 明後日はライブです。写真は練習スタジオ風景(ドラムレスのアコースティックユニットなので、ドラムには網)。なんか分からないけど頑張ります。

#音楽 #フォルクローレ #アコースティック #日記

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