見出し画像

[小児科医ママが解説] "おしゃぶり"のあれこれ。いつまで使ってOK?寝るとき使ってOK?

おしゃぶり、そろそろやめたほうが良いのかな...
SIDS(乳幼児突然死症候群)の防止に効果があるって、ホント?

今回も文献や医学的な根拠をみながら、書いていきたいと思います。

 参考文献はこちら。

 ●AAP(米国小児科学会)
 "Pacifiers: Satisfying Your Baby's Needs"
https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/baby/crying-colic/Pages/Pacifiers-Satisfying-Your-Babys-Needs.aspx

SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Evidence Base for 2016 Updated Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment
https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/138/5/e20162940.full.pdf?te=1&nl=parenting&emc=edit_ptg_20190326

 ●WHO(世界保健機関) "Ten steps to successful breastfeeding"
https://www.who.int/activities/promoting-baby-friendly-hospitals/ten-steps-to-successful-breastfeeding 


寝つくときのおしゃぶりは、乳幼児突然死症候群のリスクを下げてくれる。


 寝つくときにおしゃぶりを使うことで、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクを50~90%低下させる効果があるのでは、というのが複数の研究で報告されています。
(①Pediatrics. 2003;111(5pt 2):1207–1214 ②Lancet. 2004;363(9404):185–191 ③Arch Dis Child. 2003;88(12):1058–1064 ④BMJ. 2006;332(7532):18–22 ⑤Pediatrics. 2009;123(4):1162–1170 など)  

またSIDSのリスクとして、ほかに横向きやうつぶせ寝、添い寝、柔らかいベッドで寝ている、といった因子がありますが、これらがSIDSにつながるリスクを低下させる可能性も示されています。
(Matern Child Health J.2012;16(3):609–614)。 

寝つくときにおしゃぶりを使っていても、深く寝入ると、おしゃぶりが口から落ちることはよくありますが、それでも、就寝中の間、SIDSのリスクを下げる効果は続くのは、不思議なことです。

おしゃぶりがなぜSIDS予防に効果があるのか、詳細なメカニズムは不明ですが、おしゃぶりを使うことで自律神経を良い状態に調整したり気道開通におしゃぶりが役立っている可能性が示唆されています。
(①Early Hum Dev.2004;77(1-2):99–108 ②Acta Paediatr.2007;96(10):1433–1436)

ちなみに寝つくときだけでなく、就寝中にずっとおしゃぶりを使うのも効果があるのでは、とする報告もあります。
(①Arch Dis Child. 2003;88(12):1058–1064 ②Pediatrics. 2009;123(4):1162–1170)

ただし「寝ている間ずっと、おしゃぶりを使うと良いでしょう!」とハッキリ言えるほどの質・量のデータは集まっていません。

寝つくときに普段おしゃぶりを使っているのに、たまたま使わなかったときに、逆にSIDSのリスクをあげうる可能性
も示唆されており、やはりおしゃぶりは「寝つくときだけ」がよさそうです。 


ちなみに最初に寝つくときにおしゃぶりを使っていると、お子さんの中で「おしゃぶり=寝る」という構造になっているため、次にまた睡眠が浅くなったときに、おしゃぶりがないと起きてしまう可能性が高いです。

基本的に赤ちゃんは40~60分くらいの睡眠サイクルを繰り返している・つまり40~60分のたびに眠りが浅くなりますが、そのたびにお子さんの口の中におしゃぶりがないと、子どもが頻繁に起きてしまう可能性につながる、とAAPも伝えています。

ただ実際に、寝つくときにおしゃぶりを使っていると、起きやすくなってしまうかという点は、研究でも様々な見解があり、まだ結論がついていません。
起きやすくなってしまう(J Pediatr.2000;136(6):775–779)という報告もあれば、とくに起きやすさには影響しなかったという研究もあります(①Sleep Med. 2009;10(4):464–470 ②Acta Paediatr.2014;103(12):1244–1250)。

というわけで、AAPも、寝つくときのおしゃぶりは基本推奨していますが、おしゃぶりの使い方について、いくつか注意点も提示しています。


①授乳に影響しないようにする  


とくに母乳をあげているお母さん・赤ちゃんにとって、生後まもない時間は、お互いに飲ませる・飲むの練習期間です。

口にお母さんの乳首以外のものが入ることは、WHOやUNICEFは基本は推奨していません。哺乳瓶ではなくコップでの授乳を推奨しているくらいです。
おしゃぶりも「母乳育児をしている赤ちゃんには与えない」としています。

ということで、AAPでは「母乳育児が軌道にのる・赤ちゃんが母乳を飲むのに慣れてくるまでは(一般的に3~4週間くらいはかかる)、おしゃぶりは与えない」という妥協策に至っています。

母乳を飲んでいない赤ちゃんには、とくにこの期間は気にしなくて良いとしながらも「おしゃぶりによって、授乳の時間が延びる・授乳の機会を逃すことがあってはいけない」としています。 

なお実際におしゃぶりをしていると、母乳育児に影響が出るか・出ないのか、というのはいろんな報告があります。
が、一応、信頼できる質と量の研究を複数かんがみると、「おしゃぶりをしていても、母乳育児にわるい影響はない」という結論でよいだろうというのが現状です(Arch Pediatr Adolesc Med. 2009;163(4):378–382)。 


②安全なおしゃぶり(1)くくりつけない(2)分解できないおしゃぶり(3)劣化していないか


(1)くくりつけない

子どもの首や手の周りに、おしゃぶりをくくりつけないことは、非常に大事なポイントです。
窒息など生命にかかわる事故につながる可能性があります。  

(2)分解できないおしゃぶり

おしゃぶりの中には2ピース(2つの部品)に分解できるものがあるのですが、それは使わないように注意しています。分解できない・1ピース=1部品のものを選ぶということですね。

また赤ちゃんがおしゃぶりを丸ごと飲み込んでしまわないように、最低でも直径は1.5inch=3.8cmの大きさが必要、としています。

哺乳瓶(につけたままの乳首)も、おしゃぶりとしては使わないように注意しています。赤ちゃんが強く吸うと、ボトルから乳首だけが外れて、飲み込んでしまう可能性がゼロではないからです。

(3)劣化していないか

おしゃぶりをずっと使っていると、ゴムが劣化して壊れてしまう可能性があります。中には消費期限が記載されているおしゃぶりもあります。

ゴムの張りや色が変わっていないか、毎回注意して見るように、と提唱されています。 


③生後6ヶ月までは消毒をこまめに


生後6か月までは、使う前に、熱湯で消毒したり食洗機で洗ったりするように注意しています。生後半年以内は、ワクチンもまだ十分にすすんでおらず、細菌感染に強くないからです。

実際におしゃぶりを使っていることで、腸管の感染症や、口腔内のカンジダ(カビ・真菌のひとつ)感染症が起こりやすいというデータがあります。
(①Pediatr Infect Dis J. 2000;19(5 suppl):S31–S36 ②J Oral Pathol Med. 1995;24(8):361–364 など)

食洗機での熱水洗浄&熱風乾燥は、哺乳瓶の消毒にも使える可能性があるんでしたね(記事:哺乳瓶の洗浄。食洗機はOK?消毒はいつまでやるの?)。

なお生後6か月以後でのおしゃぶりの洗い方は、石けんをつけて水で流せばOKとされています。 

・・・ちなみに「おしゃぶりって、よく無くすから、替えを買っておくように」というのもAAPが教えてくれています。親切。 


④生後6か月以後は、徐々にやめていけるとGOOD


いつまでおしゃぶりしていていいんでしょうか、というのもよくいただく質問です。

結論からいうと「生後6か月をこえてきたら、徐々にやめていけるとよいかもしれません」というところです。

これはおしゃぶりを使用していると、中耳炎が増える懸念があるからです。おしゃぶりをしていないお子さんに比べて、中耳炎になるリスクが、1.2~2倍になるのでは、という報告があります。
(①Pediatrics. 1995;96(5 pt1):884–888 ②Pediatrics.2000;106(3):483–488) 

ちなみに逆に、SIDSが多い生後6か月までの間は、中耳炎になるリスクは一般的にはかなり低いです(Pediatr Infect Dis J. 2000;19(5 suppl):S31–S36 など)。
上記をかんがみて、生後6か月まではSIDSの対策の一つとしておしゃぶりを使うが、それ以後は徐々にやめていければいいのでは、としています。 

なお歯並びへの影響については、おしゃぶりをやめると一般的には気にならなくなります(Eur J Orthodont. 1986;8(2):127–130)。

また指しゃぶりもふくめて、何かをしゃぶること自体については、3歳くらいまでは、長期的な影響は及ぼさないだろうという見解があります。(American Academy of Pediatric Dentistry, Council on Clinical Affairs. Policy statement on oral habits. Chicago, IL: American Academy of Pediatric Dentistry; 2000.


いかがでしょうか。

SIDS対策の一つとして、寝つくときにおしゃぶり使うといいよ~・・・というまま過ごしていると、親子ともども、おしゃぶりが寝つくときのクセになり、やめどきが正直むずかしい!という声もききます。  

おしゃぶりをむりやり使わないといけないわけでもないですし、おしゃぶりを使わなかったからといってSIDSのリスクが上がるわけでもありません。

使う・使わない・いつやめる、も含めて、上記の医学的な根拠を参考に、親御さんが納得して決めていただくお手伝いができれば、幸いです。 

(この記事は、2023年1月27日に改訂しました。)

いいなと思ったら応援しよう!