[小児科医ママが解説] "おしゃぶり"のあれこれ。いつまで使ってOK?寝るとき使ってOK?
おしゃぶり、そろそろやめたほうが良いのかな...
SIDS(乳幼児突然死症候群)の防止に効果があるって、ホント?
今回も文献や医学的な根拠をみながら、書いていきたいと思います。
参考文献はこちら。
寝つくときのおしゃぶりは、乳幼児突然死症候群のリスクを下げてくれる。
寝つくときにおしゃぶりを使うことで、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクを50~90%低下させる効果があるのでは、というのが複数の研究で報告されています。
(①Pediatrics. 2003;111(5pt 2):1207–1214 ②Lancet. 2004;363(9404):185–191 ③Arch Dis Child. 2003;88(12):1058–1064 ④BMJ. 2006;332(7532):18–22 ⑤Pediatrics. 2009;123(4):1162–1170 など)
またSIDSのリスクとして、ほかに横向きやうつぶせ寝、添い寝、柔らかいベッドで寝ている、といった因子がありますが、これらがSIDSにつながるリスクを低下させる可能性も示されています。
(Matern Child Health J.2012;16(3):609–614)。
寝つくときにおしゃぶりを使っていても、深く寝入ると、おしゃぶりが口から落ちることはよくありますが、それでも、就寝中の間、SIDSのリスクを下げる効果は続くのは、不思議なことです。
おしゃぶりがなぜSIDS予防に効果があるのか、詳細なメカニズムは不明ですが、おしゃぶりを使うことで自律神経を良い状態に調整したり、気道開通におしゃぶりが役立っている可能性が示唆されています。
(①Early Hum Dev.2004;77(1-2):99–108 ②Acta Paediatr.2007;96(10):1433–1436)
ちなみに寝つくときだけでなく、就寝中にずっとおしゃぶりを使うのも効果があるのでは、とする報告もあります。
(①Arch Dis Child. 2003;88(12):1058–1064 ②Pediatrics. 2009;123(4):1162–1170)
ただし「寝ている間ずっと、おしゃぶりを使うと良いでしょう!」とハッキリ言えるほどの質・量のデータは集まっていません。
寝つくときに普段おしゃぶりを使っているのに、たまたま使わなかったときに、逆にSIDSのリスクをあげうる可能性も示唆されており、やはりおしゃぶりは「寝つくときだけ」がよさそうです。
ちなみに最初に寝つくときにおしゃぶりを使っていると、お子さんの中で「おしゃぶり=寝る」という構造になっているため、次にまた睡眠が浅くなったときに、おしゃぶりがないと起きてしまう可能性が高いです。
基本的に赤ちゃんは40~60分くらいの睡眠サイクルを繰り返している・つまり40~60分のたびに眠りが浅くなりますが、そのたびにお子さんの口の中におしゃぶりがないと、子どもが頻繁に起きてしまう可能性につながる、とAAPも伝えています。
ただ実際に、寝つくときにおしゃぶりを使っていると、起きやすくなってしまうかという点は、研究でも様々な見解があり、まだ結論がついていません。
起きやすくなってしまう(J Pediatr.2000;136(6):775–779)という報告もあれば、とくに起きやすさには影響しなかったという研究もあります(①Sleep Med. 2009;10(4):464–470 ②Acta Paediatr.2014;103(12):1244–1250)。
というわけで、AAPも、寝つくときのおしゃぶりは基本推奨していますが、おしゃぶりの使い方について、いくつか注意点も提示しています。
①授乳に影響しないようにする
とくに母乳をあげているお母さん・赤ちゃんにとって、生後まもない時間は、お互いに飲ませる・飲むの練習期間です。
口にお母さんの乳首以外のものが入ることは、WHOやUNICEFは基本は推奨していません。哺乳瓶ではなくコップでの授乳を推奨しているくらいです。
おしゃぶりも「母乳育児をしている赤ちゃんには与えない」としています。
ということで、AAPでは「母乳育児が軌道にのる・赤ちゃんが母乳を飲むのに慣れてくるまでは(一般的に3~4週間くらいはかかる)、おしゃぶりは与えない」という妥協策に至っています。
母乳を飲んでいない赤ちゃんには、とくにこの期間は気にしなくて良いとしながらも「おしゃぶりによって、授乳の時間が延びる・授乳の機会を逃すことがあってはいけない」としています。
なお実際におしゃぶりをしていると、母乳育児に影響が出るか・出ないのか、というのはいろんな報告があります。
が、一応、信頼できる質と量の研究を複数かんがみると、「おしゃぶりをしていても、母乳育児にわるい影響はない」という結論でよいだろうというのが現状です(Arch Pediatr Adolesc Med. 2009;163(4):378–382)。
②安全なおしゃぶり(1)くくりつけない(2)分解できないおしゃぶり(3)劣化していないか
(1)くくりつけない
子どもの首や手の周りに、おしゃぶりをくくりつけないことは、非常に大事なポイントです。
窒息など生命にかかわる事故につながる可能性があります。
(2)分解できないおしゃぶり
おしゃぶりの中には2ピース(2つの部品)に分解できるものがあるのですが、それは使わないように注意しています。分解できない・1ピース=1部品のものを選ぶということですね。
また赤ちゃんがおしゃぶりを丸ごと飲み込んでしまわないように、最低でも直径は1.5inch=3.8cmの大きさが必要、としています。
哺乳瓶(につけたままの乳首)も、おしゃぶりとしては使わないように注意しています。赤ちゃんが強く吸うと、ボトルから乳首だけが外れて、飲み込んでしまう可能性がゼロではないからです。
(3)劣化していないか
おしゃぶりをずっと使っていると、ゴムが劣化して壊れてしまう可能性があります。中には消費期限が記載されているおしゃぶりもあります。
ゴムの張りや色が変わっていないか、毎回注意して見るように、と提唱されています。
③生後6ヶ月までは消毒をこまめに
生後6か月までは、使う前に、熱湯で消毒したり食洗機で洗ったりするように注意しています。生後半年以内は、ワクチンもまだ十分にすすんでおらず、細菌感染に強くないからです。
実際におしゃぶりを使っていることで、腸管の感染症や、口腔内のカンジダ(カビ・真菌のひとつ)感染症が起こりやすいというデータがあります。
(①Pediatr Infect Dis J. 2000;19(5 suppl):S31–S36 ②J Oral Pathol Med. 1995;24(8):361–364 など)
食洗機での熱水洗浄&熱風乾燥は、哺乳瓶の消毒にも使える可能性があるんでしたね(記事:哺乳瓶の洗浄。食洗機はOK?消毒はいつまでやるの?)。
なお生後6か月以後でのおしゃぶりの洗い方は、石けんをつけて水で流せばOKとされています。
・・・ちなみに「おしゃぶりって、よく無くすから、替えを買っておくように」というのもAAPが教えてくれています。親切。
④生後6か月以後は、徐々にやめていけるとGOOD
いつまでおしゃぶりしていていいんでしょうか、というのもよくいただく質問です。
結論からいうと「生後6か月をこえてきたら、徐々にやめていけるとよいかもしれません」というところです。
これはおしゃぶりを使用していると、中耳炎が増える懸念があるからです。おしゃぶりをしていないお子さんに比べて、中耳炎になるリスクが、1.2~2倍になるのでは、という報告があります。
(①Pediatrics. 1995;96(5 pt1):884–888 ②Pediatrics.2000;106(3):483–488)
ちなみに逆に、SIDSが多い生後6か月までの間は、中耳炎になるリスクは一般的にはかなり低いです(Pediatr Infect Dis J. 2000;19(5 suppl):S31–S36 など)。
上記をかんがみて、生後6か月まではSIDSの対策の一つとしておしゃぶりを使うが、それ以後は徐々にやめていければいいのでは、としています。
なお歯並びへの影響については、おしゃぶりをやめると一般的には気にならなくなります(Eur J Orthodont. 1986;8(2):127–130)。
また指しゃぶりもふくめて、何かをしゃぶること自体については、3歳くらいまでは、長期的な影響は及ぼさないだろうという見解があります。(American Academy of Pediatric Dentistry, Council on Clinical Affairs. Policy statement on oral habits. Chicago, IL: American Academy of Pediatric Dentistry; 2000. )
いかがでしょうか。
SIDS対策の一つとして、寝つくときにおしゃぶり使うといいよ~・・・というまま過ごしていると、親子ともども、おしゃぶりが寝つくときのクセになり、やめどきが正直むずかしい!という声もききます。
おしゃぶりをむりやり使わないといけないわけでもないですし、おしゃぶりを使わなかったからといってSIDSのリスクが上がるわけでもありません。
使う・使わない・いつやめる、も含めて、上記の医学的な根拠を参考に、親御さんが納得して決めていただくお手伝いができれば、幸いです。
(この記事は、2023年1月27日に改訂しました。)