[小児科医ママが解説] おうちで健診 :いつまでにどんな言葉を話せば・理解できていればいいの?どうして言葉が遅れるの?
「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。
前回(ハイハイ、つかまり立ち)から10~12ヶ月健診にうつっておりますが、今回からは「ことば」についてです。
教えて!ドクターのフライヤーでは「喃語(なんご)を話す」「ダメ、おいで、だっこなどの意味が分かる」とあります。
早いお子さんだと、生後10ヶ月前後ですでに「マンマンマン・・・」などと喃語が炸裂していたり、言葉だけで親御さんとちょっとした意思疎通がとれていたりして、「え、うちの子、遅れてる?!大丈夫かな?!」などと不安になる時期ですよね。
今回はまず、言葉の典型的な発達(いつまでにどんな言葉を話せば・理解できていればいいのか)、また言葉が遅れる原因について、見ていきます。
主な参考文献はこちら。
バリエーションがめちゃくちゃ豊かな「ことばの発達」
生後2~3ヶ月ころから、赤ちゃんは「あーあー」などと音を出すことができます。
ただしまだ発する音にはバリエーションも少なく、主に母音(あーあー、おっおっ など)を使った発音が多いです。せまい定義では、こうした音の発声は「喃語」にはふくまれません。
生後6ヶ月をこえてくると、音にバリエーションがでてきます。
母音と子音をくみあわせて「まままま」「まんまんまんまん」などと反復喃語がでてきたり、「ばぶばっば」など違う音も入り混ぜながら発音したり、イントネーション(抑揚)もでてきたり・・・と変化してきます。
一般的に「喃語」というと、こうした母音と子音が組み合わさった、音の発声のことをさします。
そしてやがてお母さんを見て「ママ」と言うなど、赤ちゃんの発する音声にも「意味」がでてきて・・・という発達ですね。
一般的な言葉の発達としては、月齢や年齢ごとに、以下のようになっています。
どうでしょうか?
ただし毎回、発達の記事では書いていますが・・・
めちゃくちゃ。
個人差が。
大きいです。
「2歳になるまで、ほとんど話さなかった。3歳で幼稚園に行きだしたら、急にしゃべるようになった。」というエピソードを聞かれた方もいるかも知れません。
日々診察をさせていただいていても、言葉の理解や発語は、誰一人として同じ経過をたどらないのを、実感します。
また「1歳半で発語がなかったお子さんのうち、50%は3歳までに発語が出てきた」というデータや、「1歳半で有意語が1~4個だったお子さんも、70~80%は3歳までに単語数が増加した」というデータもあります。
(参考:言葉の遅れ(小児科診療 75(5): 815-821, 2012.)、問題点と対応-言語発達の遅れ(小児科診療 70(3): 433-438,2007.))
本当にお子さんの発達は日進月歩、小児科医でも予測がまったくできないことがたくさんあります。
・・・でもやっぱり、遅れていない?大丈夫?様子見てていいの?と気になるのが親心。
どんなときに「言葉が遅れている」と判断するのか、またその原因を見ていきましょう。
言葉が遅れる原因:「意味はわかっているけど、まだ話そうとしない」が最多。「難聴」も見逃したくない。
言葉の遅れは、世界的に・絶対的に決まっている定義はないのですが、だいたい「1歳半で、意味のある単語が、3~5つ未満」「3歳で、2語文が出ない」といったときに、遅れているなと判断されます。
ただし個人差も大きいので、単純な単語数ではなく、「言葉が本来ふえてくる、2歳後半~3歳になっても、言葉が出てこない場合に、遅れていると判断する」という考え方もあります。
いずれにせよ割合としてみると、1歳半で全く言葉が出ないお子さんは、1~2%くらいいるとされています(小児科診療 75(5): 815-821, 2012.)。
どうして言葉が遅れるのか、原因として何があるのでしょうか?
①「ことばの入力」に関する病気
当たり前のようですが、「聞こえていない」「聞こえづらい」ので、言葉が理解できない→言葉を話すのも遅れる。これは、実は大事なポイントです
新生児の聴覚検査がマストであること、またその後も健診で音の聞こえをチェックすることは大事であることは、過去の記事にも書きました。
親御さんや周りの方たちも、赤ちゃんに反応するときは無意識のうちに、(言葉だけでなく)身振り手振りのジェスチャーも使って伝えていることが多いです。
そうすると、言葉は聞こえづらい・理解できていなくても(今、お母さんが両手を出してきたな、このオモチャがほしいってこと?はい、どーぞ。でお母さんにオモチャを渡す。)という一連の意思疎通をとることは可能です。
お子さんの耳が聞こえる・聞こえていないの判断は、実は難しいんでしたよね。
なお、赤ちゃんが意思疎通したい!という思いがあれば、たとえ難聴があっても、喃語は出ます。これもまた、「えー耳聞こえているに決まってんじゃん」と思い込んでしまう原因の一つです。
個人差が大きい言葉の発達において、ある程度様子をみることは大事なのですが、「赤ちゃんの聴力は大丈夫かな?」と小児科医はいつも気にかけるようにしています。
そして必要であれば、詳しい聴力の検査を受けるように、オススメしています。
②「ことばの出力」に関する病気
上記にもかいたとおり、口や脳など、言葉を発するときに使う体の機能が、うまく働いていない病気などです。
頻度が高いわけではないので、最初からは疑いませんが、言葉以外の発達も遅れていたり、体の視察で気になることがあったりすると、詳しい画像や血液の検査などで調べていく場合があります。
③発達の遅れ・バラつき
言葉の遅れというと、皆さん思い浮かべるのは、このカテゴリーかと思います。
中でも「発達性言語障害(表出性/受容性)」はそこそこ多いです。
言葉が出ないお子さんのうち、1歳半健診では4.3%と一番多く、また小学校に入る前のお子さん全体でも22.8%いるのではないか?というデータもあります。
(参考:言葉の遅れ(小児科診療 75(5): 815-821, 2012.)、問題点と対応-言語発達の遅れ(小児科診療 70(3): 433-438,2007.))
とくに多いのは「表出性」の発達性言語障害、つまり「周りの言っていることは、よく理解している。けど、まだ自分からは話せない」という状態です。
前述した「2歳になるまで、ほとんど話さなかった。3歳で幼稚園いきだしたら、急にしゃべるようになった。」というのは医学的にいうと、これに当てはまります。
たとえば、1歳半の段階で、まだ有意語が2つ以下、あるいは全くでていない。でも、周りの言っていることはよく理解しているし、指さしも出てきている。視線も合う。ジェスチャーのない指示にも従っていて、耳も聞こえていそう。
こんなときに、「表出性」の発達性言語障害をうたがいます。
なんで言葉の意味は理解しているのに、話せるのが遅れるのか?この原因については、ハッキリわかっていません。
ただ次回の記事でもふれますが、「言葉を理解できる」という能力と「言葉を話したい!」という意欲は、必ずしも一致して同時期に発達するものでもありません。
お子さんも人それぞれ、「誰かに話したい・伝えたい」と思うまでに、少し時間がかかるお子さんがいる、そんなニュアンスで受け止めていただけたらと思います。
そんな「表出性」発達性言語障害の場合は、2~3歳になるとやがて発語・会話が出てきます。
特別なトレーニングや療育が必要というわけではないのですが、幼稚園などの集団生活がはじまると、言語発達が促されることも多いです。なお小学校に入学した後も、ほとんどは言語発達に影響がないと言われています。
ちなみに、もうひとつのタイプ、「受容性」発達性言語障害については、「周りの言っていることも、いまいち理解していないっぽい。だから話すのも遅れている」というものです。
「表出性」とくらべると、話せるようになるまでより時間がかかったり、小学校入学以後の言語能力にも影響が出たりするのでは、という見解が報告されています。
いかがでしょうか?
こんなことが伝われば幸いです。
・・・とはいえ。
「そうか、2~3歳になれば話し出すのか・・・でも、それまで家でただ見てて大丈夫なの?」というご意見は非常によくいただきます。
「様子を見て」と言われたときにご自宅でできること、「言葉ではない」ソーシャルスキルの大切さ(指さしなど)、また受診の目安について、次回は触れていきたいと思います。
(この記事は、2023年1月28日に改訂しました。)