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[小児科医ママが解説] おうちで健診:言葉の遅れ。"様子を見て"って言いながら、小児科医の頭の中で考えていること。


「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。

前回は、喃語(なんご)や言葉の典型的な発達について、また言葉の発達が遅れる原因などを見てきました。


今回は、言葉の遅れについて「様子を見て」と言われたけど、そんなときに小児科医が頭の中で考えていることをご紹介します。

言葉の相談をされたときに、言葉「以外の」発達を大切に見ているワケ。そんなことも伝われば幸いです。


主な参考文献はこちら。

●言葉の遅れ(小児科診療 75(5): 815-821, 2012.)
●問題点と対応-言語発達の遅れ(小児科診療 70(3): 433-438,2007.)
●Practice parameter: Screening and diagnosis of autism (Neurology August 22, 2000, vol. 55, no. 4, 468-479.)


「様子を見て」って言いながら、小児科医が頭で考えていること。
①難聴は? ②指さしは? ③次いつフォローしようか?



「言葉がなかなか出なくて・・・」「全然話さないんですけど・・・」

1歳前後や、1歳半健診などでこうした相談をしても、小児科医に「(なんだかんだ色々言ったあとに)まぁ様子を見てみましょう」と言われた親御さんは多いのではないでしょうか?

いやだから「様子を見る」って何よ。私、毎日この子の様子見てるわよ。

不安だから聞いたのに、何もできないってこと?何か検査しなくていいの?

ふーん、まだ言葉がでなくても、そんな焦らなくていいよってことか。

感じ方は親御さんそれぞれかもしれません。
が、そもそもなんで「様子を見てね」って小児科医は言うんでしょう?

1歳半で言葉が遅れている(有意語が3~5つより少ない)場合、「表出性」の発達性言語障害、つまり「周りの言っていることは、よく理解している。けど、まだ自分からは話せない」という状態が一番多いのです。

つまり、待っていれば、話すようになるじゃん、だから様子を見てれば大丈夫よ。そんなニュアンスです。


ただし、そんなこんなで「様子を見て」と親御さんに伝えながらも、必ず小児科医が考えていることが3つあります。


①難聴がないか、常に気にしています。


耳が聞こえなきゃ、言葉も理解できないし、話せない。

当たり前のことですが、赤ちゃんやお子さんの難聴を見つけるのは意外とむずかしいこと、だからこそ新生児の聴力検査や、健診ごとのチェックが大事であることは、前回の記事・また過去の記事でも触れてきました。


新生児の聴力検査をパスしていても、進行性の難聴(サイトメガロウイルス感染症など)もあるので、今も聴力は問題なし!という保証は100%は無いんでしたよね。

言葉を話さないだけではなく、親御さんが言っていることが、全然伝わっていない。コミュニケーションが取れている感じがしない。音への反応がイマイチな気がする。そんな時は、聴力の詳しい検査をオススメしています。


逆に「私の言っていることは、よく分かっている気がするんですんよね」と親御さんがおっしゃっていたり、ジェスチャーなしでの指示も理解できていたりするのであれば、通常は難聴を強く疑うことはありません。
(例:両手を出すジェスチャーは無しで、「ちょうだい」という言葉だけでも、お子さんがちゃんと親御さんにオモチャをわたす。など。)



②指さしなど、言葉「以外」の発達をチェックしています。


変な言い方ですが、言葉の発達について相談されたとき、小児科医は必ず、言葉「以外」の発達を気にしています。

言い換えれば、そもそも「周りの人が話していることを理解したい・伝えたいという気持ちが、この子に芽生えているか?」をチェックしています。

具体的には(1)「指さし」(2)「目線が合うか」といった発達です。

これらはまさに「他人とコミュニケーションを取りたい・関わりたい!」という、お子さんの社会性の発達です。

言葉を話したい、という気持ちがなければ、当然、言葉を話すようにはなりません。


(1)「指さし」は前回も触れましたが、早いと生後9ヶ月ころから、少なくとも1歳の段階で「指さし」の行動がでてきます。

絵をみて「わんわん、どれ?」と聞いたときに、ちゃんと犬の絵を指さすような「応答の指さし」

またコップがほしいときに、コップを指さす「要求の指さし」

さらに「あのわんわん、こわいね」ということを伝えたくて、犬や親御さんを交互に見ながらする「叙述の指さし」

指さしにも色々な段階がありますが、1歳の段階で全く、何らかの指さしがでない場合は、小児科医としては気になります。


(2)「目線が合うか」も、過去の記事で触れました。

お子さんは長い時間一点を見つめることはできないですし、気持ちを落ち着かせるためにあえて目をそらすこともあるんでしたね。

なのでお家で「目が合わないんです」とおっしゃっていても、診察室に入るなり、白井の顔をじーっと見たり、スタッフの顔をじーっと追っていたりして、「あぁこの子はちゃんと、人の表情に興味がありそうだな」と判断することがほとんどです。

でもやはり、言葉も全く発していなくて、親御さんからしても「やっぱり目線合わないよねうちの子・・・」とずっと思っていらして、しかも診察室に入ってきても、全然一回も目が合わない・・・

なんて場合は、小児科医的には気になりポイント
になります。


他にも、親御さんのマネをするか、「バイバイ」というと手を振ってバイバイするか、(取りたい絵本が取れないなど)助けが欲しいときに親御さんの顔を見るか・・・など、赤ちゃんといえど、社会性・コミュニケーション能力の指標になる行動はたくさんあります。

診察室の中ですべてが分かるわけではないですが、日頃お子さんを見てくださっている親御さんのお話などから、こうした行動を聞くなどして、判断させていただいています。



③次いつフォローしようか?


・・・実は、ここが小児科医的には一番ネックになっています。

というのも「このお子さん、言葉がちゃんと今後でてくるかフォローしたい!」と思っても、次に同じお子さんを、同じ小児科医が見られる状況でないケースが多いからです。

1歳半健診は集団で、保健所などで行う自治体がほとんどです。

病院やクリニックに個別に来てもらって・・・という受診と比べると余計に、小児科医が、一人ひとりのお子さんやご家族に関われる時間が少ないのが現状です。
そして、そのお子さんを、次に同じ医師がまた見る機会は、基本的にはありません。
(偶然、自分の勤めているクリニックのかかりつけのお子さんだった。とか、近所に住んでいるお子さんだったので自分のクリニックに来るようにお伝えした。とかは例外ですが。)


それを補うべく、医師の診察のあとに、保健師さんたちが個別に相談に乗ってくださっている自治体も多いです。ことばの相談、として月に何回か、定期的に相談の窓口がある自治体もありますよね。

ただし基本的には、「絶対にこの日にまた来てね」とか「この病院に行って、定期的に通院してね」とまで保健師さんが強制的に言うことはありません。
2歳くらいまで待っていれば話し出す子がほとんどだし、親御さんを不安にさせたくないという思いから、こういう行動になります。


・・・というやんごとなき事情により、医療者側も・親御さん側も、なんとなくなぁなぁになって、まぁ様子を見ていいって言ってたし、別にいっかー。
うーん、でもこのまま話さないで、次の健診は3歳かぁ。ほっといて大丈夫なの?!などとモヤモヤしちゃう。

・・・というのが一般的な風潮です。


後ほど「受診の目安」でも触れますが、理想としては、1歳半健診で様子を見てOK~と言われても、2歳くらいにまた、医療機関などで様子を見てもらうとベターです

待っていれば話すだろう、という「表出性」発達性言語障害においても、2歳以後になれば言葉が増えてくるはずだからです。


というわけで、もちろん言い訳をするわけでもないですし、
同じ「様子を見ましょう」というニュアンスでも、いかに親御さんが納得し・安心しながらお子さんを見ていけるか、というところまで気を配って伝えるのが小児科医の務めではある・・・

のですが、頭の中ではこんな事を考えていますよ~~というのが伝われば幸いです。


自閉症かどうかは、言葉の発達だけからは判断できない。


さて、言葉が遅れている・・・となると、必ずといっていいほど、親御さんの心配事にあがるのが「我が子は、自閉症なのか」という問題です。

結論。
言葉の発達だけからは、自閉症かどうかは判断できません。


「目線があう・あわない」の記事でも触れましたが、そもそも一つの行動や発達の特徴「だけ」で、自閉症と言えるような医学的な根拠のあるものはありません。

言葉の発達についても同じで、1歳半で単語が出ない、だから自閉症だ、という短絡的な考えをする小児科医はいません。


実際に1歳半健診のお子さんのうち、言葉が遅れていて、かつ自閉症の傾向があるのでは?と疑う特徴があったのは1%にも満たないというデータもあります(冒頭の参考文献など)。

逆もしかりで「1歳半の時点で有意語が5つ以上あったとしても、3歳になったら言葉が遅れてきた」というお子さんたちもいます(このうちの一部が、高機能、つまり知的な遅れのない、自閉症スペクトラム障害に該当すると言われています)。

言葉の遅れは、単語レベルでは1歳台、文章レベルでは3歳台で判断します。つまり単語レベルでは問題なかったけれども、文章レベルとなると発達が遅れてくるお子さんたちも一定数いるということですね。


ただし、3歳未満の早い段階での言葉の特徴で、自閉症スペクトラム障害を疑うきっかけになるポイントは、いくつか示されています。

【結局「言葉の遅れ」でちょっと要注意、なポイントってどんなもの?】
※参考:Neurology August 22, 2000, vol. 55, no. 4, 468-479.

●1歳になっても、喃語が出ない。指さし・バイバイなどの動作がない。
●1歳4ヶ月になっても、一語文が出ない。
●2歳になっても、二語文が出ない。

逆に上記をクリアしていても、以下の場合はややフォローが必要とされています。

●社会性やコミュニケーションの発達に、遅れや特徴がある。
例)人見知りがない。親御さんへの甘えが全くない。

●一語文は出たが、固有名詞。
例)「山手線」など。
※「まま」「ぱぱ」「わんわん」など、自分と周りの人の関係性だったり、物の総称だったり・・・が通常(定型発達)の場合の一語文です。

●二語文が出たが、アニメなどのセリフなどをそのまま反復している。

●(どんな年齢でも)一度獲得したはずの、単語や社会的・コミュニケーションスキルを、失ってしまった。

1歳半くらいまでは、まだ言葉の定着は弱く、一度出てきた単語がすぐに立ち消えになることもよくありますので、心配ないとされています。ただし1歳半をすぎてくると、通常は、一度発した言葉は定着してきて、消えることは少なくなってきます。


繰り返しますが、上記に当てはまる項目があったからといって、全員が発達に必ず異常がある。このままどんどん言語発達が遅れてくる。自閉症。そういう短絡的なものではありません。

ただし、こういうサインが一定期間みられたお子さんについては、小児科医が定期的に発達を確認できる状況だと望ましいです。
必要に応じて、言葉が遅れる原因である病気がないかの検査だったり、療育やリハビリテーションでサポートさせていただいたり、といった対応がとれるからです。


いかがでしょうか?

健診で相談しても「様子を見て」だけ言われて、なんだかモヤモヤしちゃうケース、たくさんあると思います。

もちろんすべての親御さんにここまで説明できればいいのですが、なかなか時間的にもそうはいかないので、これを機会に、小児科医の頭の中が伝われば幸いです。


次回は、言葉の相談のラスト。

「様子を見て」と言われたときにご自宅でできること・関わりかたのポイント。そしてまとめとして、受診の目安をご紹介します。

(この記事は、2023年1月28日に改訂しました。)

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