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[小児科医ママが解説] おうちで健診:寝返りできない...お家でできることは?寝ているときに、寝返っちゃうのはどうしたらいい?

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


前回は、寝返りの時期や受診の目安、また寝返らない原因について、見てきました。


今回は、

寝返らないときに、何か自宅でできる・したほうたいい対策はあるのか?
また、寝ているときに寝返っちゃってうつぶせになっちゃうのは、どうしたらいいのか?

そんなことを見ていきます。

今回の主な参考文献はこちら。

●「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」
阪下和美、東京医学社、2017年

●「ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)」
桃井眞里子・宮尾益知・水口雅、南山堂、2017年


前回、寝返りをしない原因として、考えられるものをご紹介しました。

【寝返らないときに、考えられる原因】

①腹ばい・うつぶせの姿勢が嫌い。
②寝そべっているだけじゃ手の届かない世界に、興味がない。
筋肉の緊張が弱いor強いために、寝返ることができない。
筋肉をうまく使いこなせない。

これにそって、何かお家でできる対策があるのか、を見ていきましょう。


①腹ばい・うつぶせの姿勢が嫌い 
→ 日中・安全な状態で「うつぶせタイム」を。


寝返ったあとの姿勢「うつぶせ」が嫌いな赤ちゃんに、無理やり寝返りさせようったって、うまくいきません。

いきなり寝返りさせるというよりは、まずは「うつぶせ」に慣れようね~というアプローチになります。

そのために日中・安全な状態での「うつぶせタイム」をとりましょう。

赤ちゃんを、うつぶせの向きに、置いてみる。
赤ちゃんもご機嫌に起きていて、親御さんもみていられる余裕がある時に。
そして、プレイマットなど安全な場所で。

親御さんがあおむけで寝る
→親御さんのお腹のうえに、赤ちゃんをうつぶせに置く
→ゆらゆらする

こんな遊びもおすすめです。

これをやったからといって、絶対に寝返りが早くできるようになります!うつぶせが嫌いじゃなくなります!というような医学的なエビデンスはありません。

だから、親御さん・赤ちゃんにムリのない範囲でやってもらえれば、大丈夫です。
親御さんも、物理的・心理的な余裕があって、かつ、赤ちゃんも嫌がらなければどうぞ、というニュアンスです。



②「寝そべっているだけじゃ手の届かない世界」に、興味がない。


「ゴロンと置かれることで、無意識に目に飛び込んでくる見えている世界以外にも、周りをもっと見てみたい!そのために体を動かすぞ!」という気持ちや心の発達があってこそ
、寝返りという行動につなっているのでは、という話を、前回書きましたね。

じゃ、どうしたら赤ちゃんが、周りの世界に興味を持ってくれるか。

これもまた、こうしたら絶対に興味を持ちます!みたいに医学的な根拠のある方法はありません。そもそも赤ちゃんの心の発達なんて、周りや大人がコントロールできるのか?という話です。

が、たとえば、

体のすぐ横・あおむけで手を伸ばせば届く場所よりも、ちょっとだけ遠い場所にお気に入りのオモチャを置く。

赤ちゃんが自然に見ている方向とは、逆の方向から話しかけてみる。
(これは向き癖対策の一つでもありましたね)。

普段の遊びのなかで、こういうことを取り入れてもいいのかもね、というのは、小児科医からも提案させてもらうことはあります。


③筋肉の緊張が弱いor強いために、寝返ることができない。
④筋肉をうまく使いこなせない。


生まれつき・体質で筋肉の緊張が弱め、というお子さんももちろんいます。
が、中には、筋肉や神経の病気がある可能性がゼロではない、ということを前回かきました。

こうした病気は○万人に1人という割合ですし、診断に至るまでの検査も、筋肉の組織をとってきたり・電気を流す検査をしたり、簡単ではありません。
なので、最初からこうした重大な病気は疑いません。

が、今後の発達なども見ながら、ちゃんとこうした病気を疑うべきときに疑おう、という姿勢で小児科医は見ています。

また1つ1つの筋肉や神経は問題ないけど、それらをタイミングよく働かせて、全身の筋肉をうまく使って一連の動作をするのが苦手。そんな体質のお子さんもいらっしゃるんでした(医学的には(発達性)協調運動障害などといいます)。

この場合は、理学療法士さんなどによる、専門的なリハビリを長期的に受けていくことで、お子さんの成長に応じた・ムリのない運動をうながせる場合があります。

これに対してできる対策としては、適切なタイミングで受診すること、です。


「寝返りできない場合は、受診を考えてね」というのは、
上記のような病気の可能性があるかを、専門家と一緒に見ていきましょう・必要な時に検査や治療にふみ切れるようにしましょう。

ということです。

寝返りできないから受診したら、すぐに検査・診断、というのはあまり通常の流れではありません。
数週間~数ヶ月とお子さんの発達と見ていきつつ、本当に検査や診断・治療が必要ないのかということを、定期的に見させてくださいね、というニュアンスです。



寝ている間に、寝返って、うつぶせになっちゃう件について


おお!寝返った!と喜びもつかの間。

今度は「寝ている間に、寝返ってしまい、うつぶせになってしまう」というお悩みもよくいただきます。

安全のために、あおむけで寝かせた・・・と思ったら、
うつぶせが大好きで、寝返っちゃう。
窒息しないか心配で、ろくに寝られません。

そんな親御さんもいると思います。

うつぶせは、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクになるのではないか、と心配される声もよく聞きます。

結論からいえば

起きている時間・安全な状態で、しっかりとうつぶせタイムをとって、うつぶせトレーニングをすること。

ほかにできるSIDS対策をとことんやること。

が、対策になります。

明確なメカニズムは不明ですが、うつぶせトレーニングをすることは、SIDSのリスクを下げてくれるという報告があります。

逆に、普段うつぶせに慣れていないお子さんが、寝ている間にたまたま寝返ってうつぶせになってしまったとき、SIDSのリスクがさらに上がってしまうんでしたね。


米国小児科学会としても「寝返り”返り”」ができるようになったら、うつぶせ寝も許容しましょう、というニュアンスでした。

が、前回も書いたとおり、逆方向にも寝返るようになるには、数ヶ月かかるお子さんもいます。その期間ずっと、親御さんが夜中じゅう起きて、うつぶせになったお子さんをあおむけに戻す・・・のは現実的ではありません。


ベッドや寝室などの環境はもちろん、ほかには家族全員の禁煙など、できるSIDS対策をとことんすることで、寝るときの寝返りを受け入れていきましょう、というのが世界的な見解です。
米国小児科学会が推奨している、SIDS対策の一覧は、過去の記事をごらんください。


ちなみに、寝返り防止のクッションや寝具などは、使わないことを推奨します。
どこまで本当に寝返りを防止するのかのエビデンスも乏しいこと。また何よりSIDSの大事な対策として「寝具の中には、毛布やブランケット・枕などもふくめて、何も入れないこと」がありましたね。

いかがでしょうか。

ゴロンゴロン寝返りしている他の子をみると、なんで寝返らないの?どうしたら寝返ってくれるの?と、あせりますよね。

でも、寝返らない原因や自宅でできること。寝返らないときに、受診をする意味。
そういったことをもう少しふみこんで知ることで、もんもんとした不安をやわらげる一助になれば嬉しいです。

そして、寝ているときに、寝返ってしまう問題。
これもまた、ひと晩中不安になり、寝不足の毎日…ではなく、正しく知って、正しくおそれて、正しく対策していきましょう。

少しでも子育ての日々が明るくなるような、お助けができれば幸いです。

(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)

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