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0112|言葉の定義

言葉には「正しい使い方」と呼ばれるものが存在する。

一般的に言われるそれは「辞書的な意味合いで」ということではありつつも、そもそも、人それぞれがその言葉に抱く印象はちがっていたりする。

辞書を眺めていて、ふと、そんなことを思ったとき、とある言葉が脳裏をよぎったので備忘録として残しておこうと思う。

2020年にシーズン2が放映された、日曜劇場『半沢直樹』。

もう、何話だったか忘れてしまったけれど、東京セントラル証券から東京中央銀行に栄典した半沢が、部下に贈った言葉の冒頭。

「勝ち組」「負け組」という言葉がある。私はこの言葉が大嫌いだ。

見ての通り「勝ち組」「負け組」の話がここから始まる。

もしも、私がこの『半沢直樹』の世界線で生きるひとりの部下だったとしたら、私が想像するであろう「勝ち組」「負け組」の定義がひっくり返ることになる。

だが私が銀行からここに赴任したときによく耳にした。

銀行は「勝ち組」、俺たち子会社の社員は、プロパーの社員は「負け組」だってな。

それを聞いてもちろん反発する者もいたが、大半は「自分はそうだ」と認めてた。

だが今はどうだ。

君たちは大銀行が総力を挙げても成しえなかったことを成し遂げた。

「負け組」だと思っていた君たちがだ。

大企業にいるからいい仕事ができるわけじゃない。

どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、自分の仕事にプライドを持って日々奮闘し、達成感を得ている人のことを、本当の「勝ち組」というんじゃないかと俺は思う。

ここは若い会社だ。

君たちは40代から20代、大半は就職氷河期で苦労をした人間だ。

そうした事態を招いた馬鹿げたバブルは、自分たちのためだけに仕事をした連中が顧客不在のマネーゲームを繰り広げ、世の中を腐らせてできたものだ。

その被害を被った君たちは俺たちの世代とはまた違う見方で組織や社会を見てるはずだ。

そんな君たちは10年後、社会の真の担い手になる。

君たちの戦いは、この世界をきっとよりよくしてくれるはずだ。

どうかこれからは胸を張って、プライドを持って、お客様のために働いてほしい。

たとえ相手が銀行でも遠慮することはない。

君たち世代の逆襲を…いや、君たちの「倍返し」を、私は心から期待してる。

前提を省いてしまっているから半沢直樹を見ていない人には伝わりづらいかと思うので補足しておくと、この「東京セントラル証券」はいわゆる出向先「左遷先」と呼ばれるような場所。(半沢も東京中央銀行からの出向で部長をしている)

そんな、上から期待すらされていなくて雑務ばかり押し付けられるポジションだった会社が、半沢を筆頭に大手クライアントの粉飾を突き止め、不良債権となる恐れのあった追加融資を阻止し、銀行を救った。

そして半沢は東京中央銀行に復帰(栄典)が決まり、この言葉を東京セントラル証券の部下に残した。

もしも、この世界線で生きる社員のひとりが自分だったら。

意図せずとも、この「勝ち組」「負け組」の意味が、自分の中での定義として、半沢部長の言った通りのものに置き換わると思う。

そして東京中央銀行で大きな椅子にもたれかかる人たちとは、きっと、もっと、わかり合えなくなっていくと思う。

あえて日常で言葉を定義しているつもりなんてなくても、人それぞれが潜在的に持っている認識はあって、そういうものが、昨日のこんな感覚を生み出したりするんだな、と改めて実感。

辞書的に正しい言葉は、もちろん教養として重要ではあるけれど。それを踏まえた上での言葉の定義は、その人の価値観でもあると思う。

じょうずなまとめはなにもないけれど、言葉が刃物と言われるのは、きっと暴力的なものだけでなく、そんな価値観のズレから生まれる、わざとじゃないのにぶつかってしまう痛さもあるんだろうなと。

少なくとも、誰も傷つけない言葉を、ずっと使える人でありたい。

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