母について

父について書いたので　
母についても

印象的な思い出は　
4歳くらいのとき
市場からの帰り道
「ちょっと待ってて！」

言うなり　自転車を停め　
あたしを　後部座席に置いたまま
汚い　どろどろのどぶ川に　
いきなり飛び込んだ

そこに浮かんでいる　
水草のような緑の植物を
とりたかったらしい　
食用らしいのだ

飛び込んだはいいが
「助けてぇぇぇ～」の声
立ち泳ぎしている母が　
誰か呼んで来い　と叫んでる

底なしの川だったらしい
子供のあたしは　
自転車に乗せられているまま　
一瞬あせった

その間に　母は
ちかくにある何かを掴めたらしく
立ち泳ぎしながら　戻ってきて
「あー　やっぱり大丈夫ー」

泥水でずぶぬれになった母が　
ゾンビみたいに
のっそりと
陸に上がってきた

なんだか
とっても　コワかったけど
あたしはそんな母が　
かわいそうになって

一番のお気に入りだった　
キャンディキャンディのＴシャツを
母に捧げようと　「これで体拭いていいよ」
と着ているシャツを指さした

母はケロリと明るく　
「生きて戻ってこれてよかったわぁ」
とＴシャツの捧げ物を辞して　
颯爽と　自転車にまたがった

村中の人が　
ドロドロの母を　ちらちら見てた
彼女は
ケラケラ笑っていた

この思い出こそが　
母をうまくあらわしている
とにかく　突然アクションをおこす
そして　何の思慮もない

その　まっすぐで　
純真で　子供そのものの母が
やっと　最近　かわいいと
おもえるようになりました