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生きましょう 中編

 病院でも「殺してくれぇ!!」節は続き、検査を拒否して「役立たずの看護師めぇ!」と私や病院スタッフを罵り続けた。

 あー、このままじゃ、今日は何時になるか分からない…子供の晩ごはんは朝に作ったから心配ないけど…。2時間の罵声の中で、ふとオカンの自分が呟く。

 騒ぐこの老人から医療処置などの同意を得られないため、私たち2人は救急の別室に放置された。
 「殺してくれ」
 「役立たずの看護師め」
 は続く。

 なんだか段々と腹が立ってきた。
 拒否や騒動には慣れっこだが、役立たずの看護師めぇ、にはムカつく。

 「騙されたと思って、私の言う通りにしてみてください!それで役立たずかどうか、試してみて欲しいです!!!」思わず叫んでしまった。

 するとまた剣幕に驚いたのか、急におとなしくなった。
 私は畳みかけるように、死んでほしくないのでとりあえず検査受けてみてください、とまっすぐに目を見て、手を握りしめた。

 錯乱の中でも何故か目には知性の鋭い光が見えた。
 すぐに医師を呼んで検査と処置が施された。そして、前立腺肥大による閉尿で腎機能障害、高血圧症と糖尿病の指摘を受けて、しばらく入院の運びとなった。

 数日すると元気を取り戻し、病院から何度か脱走を試みて失敗したあとに、なぜか看護師長の車で自宅に送り届けられた。親切な師長さんに感謝である。

 病院からセンター宛に退院の連絡があり、私は容体を確かめるためにすぐに自宅へ向かった。
 「命の恩人よ!ありがとう!」
 まるで別人のようなスッキリした顔つきで、私を出迎えてくれた。
 生命力溢れる鋭い目つきで、あなたのおかげで命拾いしました、と満面の笑みで嬉しそうに言った。

 「自分でおしっこ出せないみたいやから、管入れたままや。病院の奴らは皆んな僕のことバカ扱いしやがった。アホに世話されるくらいやったら死んだほうがマシやから、逃げて帰ってきてん。」

後編につづく……

 

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